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【HIDDEN WORLD】  作者: Meafuls CAT Studio@猫のような生き物
【旅の始まり〜出会い編】
4/25

第2話 一人旅

 始まりは、辺境の地より──。



 木造りの質素な室内に、朝を知らせる日の光が差し込んだ。


 ガラス窓から差し込まれる(よう)の光は、少し(いろ)()せた白い布団に(くる)まっている人物を起こそうと、サンサンと光を振りかける。

 その暖かな日の光に心地良さを覚える反面、ずっと閉じられていた(まぶた)越しの目に痛いほどの(まばゆ)い光が覆い、その光から逃れようと何度か寝返りをうつが、日の光は布団の上から優しく包み込んでくるため、逃れる(すべ)はない。


 そのうち、彼は諦めたかのように目を覚ました。


「ん……もう朝か……。」


 寝起き特有の弱々しい声で呟き、ベッドから体を起こすのは、紺色の髪の青年。

 それと共に眩しそうに(まぶた)を起こし、覗いた瞳は独特な黄色(おうしょく)を放ってはいるが、まだ眠気が取れていないのか、その色合いに反し目が死んでいる。


 青年はそのまま(おぼろ)げに立ち上がると、部屋内にある二つの扉のうち、正面の扉を挟んで横にあった扉へと足を運んだ。




 (しばら)く──数分の後、先程の扉が今度は内側から開かれると、その顔からすっかり眠気を消した青年の姿があった。

 扉の先は、清潔を保つための洗面所やお風呂場。寝起きの顔にパシャリと水をかけるだけで、微睡(まどろみ)を帯びたの脳は一気に覚醒する。


 脳が起きたことにより、その黄色(おうしょく)の瞳も生き返ったようだが、その輝きに反し、青年は無にも思えるほど、非常に落ち着いた表情をしていた。

 あまり感情が顔に出ないタイプなのか、(はた)から見たら、冷静、クール、などといった印象も受けるかもしれない。


 だが、逆を言えば、新鮮さや溌剌(はつらつ)さがない。顔はまだ割と若いほうだが、良くも悪くも若者っぽさがなく、どこか素っ気ない雰囲気を(かも)し出していた。


「…………。」


 ひとりなので当たり前、と思う者も居るかもしれないが、特に言葉も発しない。


 そのまま青年は、丸机に置いてあった小さな巾着袋を手に取り、流れるようにベッドの横へ立て掛けられていた中刀程度の剣を左腰に(たずさ)えると、今度は正面の扉へと向かった。




 個室部屋の扉が開く。青年は部屋を後にすると、宿()の階段を下りていった。


 因みに、彼の服装は、紺色や黒色を基調とした少々暗めの色合いの、太もも辺りまで丈のある短いロングコートのような上着に、灰色の無地の長ズボン。特に着飾りもしておらず、防具やマントも着けていない軽装だが、動きやすさと環境の変化にも対応できそうな、まさに旅をするのにもってこいといった服装だ。

 左腰には先程(たずさ)えた、鞘に仕舞われた剣が提げられている。




 階段を下り切ると、カウンター越しの若女将と目が合った。


「昨夜はよく眠れましたか? ()()様。」


 目が合うなり、若女将が笑顔で接客してくれる。


 言い忘れていたが、この世界の人名はほとんどが横文字である。だから、彼──”糸神(いとがみ) 七瀬(ななせ)”も、この世界では”ナナ”と名乗ることにしていた。


「はい。おかげ様で。」


 若女将の接客に対して、こちらもそれなりの対応を取る。


「それは良かったです!」


 すると、若女将は再びニッコリと営業スマイルを見せてくれる。


 しかし、その後は互いに顔を(そむ)けるかのように、若女将はカウンターの正面を向き直し、ナナも小さな共有スペースといった場所へ足を運んだ。

 そして、ふと、自由にお取りくださいと言わんばかりに置いてあった新聞を手に取る。


 ──この世界にも新聞はあるもんだ。


「…………。」


 適当に新聞へ目を通すが、正直、内容なんてほとんど見ていない。元々、新聞を読むことなんてなかった人生だ。もし野宿にでもなったとき用の、焚き火の燃料程度にしか思っていない。


 軽く目を通した後、適当に新聞を袋へ仕舞った。


「それじゃ。」


 若女将と宿に対して軽く会釈をし、そのまま建物を後にする。


「ありがとうございました! またお越しください!」


 宿を出るのと同時に、背後からそんな声で送られた。




 外に出ると、(まばゆ)い日の光が目を覆った。


 ここは、颯爽と広がる平原にぽつんと(たたず)む小さな村。木造りの家々が並び、周りに広がる剥き出しの野原は、まさに田舎という言葉がよく似合う。

 しかし、小さいながらも宿屋や武器屋といった店も充実し、中々住み心地の良さそうな村だ。


「さて……どこに行こうか。」


 ナナはそんな村並みを横目に歩き始める。

 歩いている過程で、パン屋や薬屋が目に入ったが、食料や傷薬は足りている。


 特に寄る所もないし、このまま村を出ようか──そう思った時、不意に、荒々しい声が村中に響いた。


「おいおい、そんなに金を持って……。俺たちにも少し分けてくれよぉ〜!」


 村ののんびりとした雰囲気に相反した、柄の悪い男の声。

 それと共に、その声に反論したかのような弱々しい声も聞こえてくる。


「こ、これは……! 今月貯めた、全財産なんです……!」


 そう返すのは、気弱そうな女性の声。

 しかし、そんな振り絞ったかのような、か細い声を押し潰すように、もうひとりの男も声を荒げた。


「だからっ!! 少し分けてくれって言ってるだけじゃんかぁ〜?」


 周りの目を気にすることなく、(むし)ろ、部外者は近寄るなと言いたげに、わざとらしく大声を飛ばす男たち。

 その状況を見るに、文明社会でいう不良二人が、一人の女性から喝上げをしようとしている、といったような構図だろうか。


 ──だが、正直、面倒事はごめんだ。


 ──ああいうのには、関わらないのが一番いい。


「はぁ……。」


 しかし、頭ではそう思いつつも、その思いに反し溜め息をひとつ吐くと、ナナの足取りは柄の悪い声を響かせていた男たちのもとへと進んでいった。


「……あの。白昼堂々と喝上げは、いかがなものかと。」


 二人の男の背へ向けて、声をかける。

 すると、その声に反応した二人の男は、威圧的な返事と共にナナへ振り返ってきた。


 二人共、ナナより身長が高いため、それだけでも威圧感は十分にある。しかし、ナナも一応、平均値少しはあるため、決して身長が低いほうではないのだが、無駄に育った彼らの前では、そのスペックも(いろ)()せてしまう。


 男二人がナナを見下ろし、睨みを利かせた。


「ああん? なんだテメェは。」


「ガキに用はねぇんだよ。引っ込んでろ!」


 それぞれ言いたい放題言い、ナナを威圧をする。


 それに対してナナは、自分とあまり変わらない年齢層相手に「ガキ」と言われ、少しカチンときたが、ここは冷静に抑えた。


「……とにかく、色々迷惑なのでやめてもらえますか……?」


 なんだか物凄く雑にそう言った。口喧嘩とか面倒くさいのだ。正義の味方でもあるまいし、特に気の利いた言葉も思いつかない。


 威圧しても身を退こうとしないナナに、男のひとりが面倒くさそうに口を開く。


「チッ……うるせぇガキだな。なら、代わりにお前の荷物を貰ってやるよ。しけてそうだがな。」


 ──また「ガキ」と言われたが……まぁ、いいや。


 男のひとりがナナへ手を伸ばしてくる。


 だが、正直なことをいうと、実力行使できてくれたほうが楽だったりする。この手のやつは、相場大した実力は持っていない。それなりの実力があれば、こんな姑息な真似をしなくても十分に生きていける。




 ──だから、()()()()()()が楽なのだ。




「ほらよぉ……!」


 男の手がナナの荷物へ迫る。


 だが、その瞬間──突如、バシッ、という音と共に、男の手が弾かれた。


「…………!」


 それに一瞬、困惑の表情を浮かべる男だが、すぐに何が起きたのか理解する。


「──んテメェ……!」


 弾かれた手を軽く抑えながら、先程よりも強くナナへ睨みを飛ばした。

 そう。男の手を弾いたのはナナだった。ナナの右手には、鞘を被った状態の剣が握られていた。


「やろうってのか……!」


 ナナの宣戦布告とも取れる対応に、男たちも実力行使の構えを見せ始める。

 怒りの表情で気合いを入れる男たちを見て、ナナも剣入りの鞘を軽く構えた。


「おらぁ!!」


 少しの間を置いた後、男のひとりが拳を構え、勢いよく殴りかかってくる。ナナへ向けた、一直線の右ストレートだ。


「…………。」


 だが、ナナは勢いよく向かってくる男の右ストレートを冷静な目で捉えると、左へ体を()らし軽く避ける。

 そして、即座に隙だらけとなった男の顔へ目掛けて、剣入りの鞘を振った。


「ぐあ……!」


 バチッ──とビンタされたかのような気持ちのいい音が鳴り、男は鞘に(はた)かれ怯む。

 その隙に続けて、ナナが男の腹へ蹴りを入れる。


「か──!」


 それにより、男はまるで吐きそうに大口を開けながら、腹を抑え倒れ込んだ。

 もうひとりの男が驚愕と怒りに声を上げる。


「な……! テメェよくも!」


 そんな男へ向けて、ナナは指し示すかのように剣入りの鞘を向ける。


 かかってこいと言わんばかりに──。


「なめやがって……!」


 ナナの挑発を受けた男は、眉をピクつかせながら低くそう呟くと、懐から一本のナイフを取り出した。

 男の護身用なのか、狩りなどに使う用にしては小さ過ぎるが、人を刺し殺すには十分過ぎるほどの刃渡りを持っている。


 小さくも精錬された刃は、銀の輝きを(もっ)て生命を狙う、”狂気”となる。

 その狂気に当てられたかのように、男は額に脂汗をかき、襲われていた女性も思わず息を呑むようにして、(つか)の間の闘争を見詰めていた。


「──くたばれ!!」


 男が叫びを散らし、銀の狂気を構え、突っ込んでくる。


 そして、ナナへ目掛け、ナイフを勢いよく突き出した──。


「…………。」


 しかし──ナナはそれを右斜めへ体を沈めることにより避けると、男の左脇腹を位置取る。


「…………!」


 男は避けられたことと、同時に懐へ入られたことに驚きの表情を浮かべながら、咄嗟(とっさ)にナナを見下ろそうとするが──その直後、ナナはまるで男の脇腹を斬るかのように、鞘の腹で殴りを入れた。


「ぐは……!」


 これにより、この男も腹を抑え倒れ込む。


 そんな、まるで食中(しょくあた)りでもしたかのように地面で悶絶している男二人を、ナナの黄色(おうしょく)の瞳が見下ろした。


「……ひとつだけ言っておくが、俺はこれでも一応、成人してるからな。」


 そして、「ガキ」と言われたことに対する()さ晴らしとして、そう言い放つ。


 対して男たちは、まだ腹の痛みが(ぬぐ)えていないといったふうにノロノロと立ち上がると──。


「くそ……! 覚えてろよ……!」


 よく聞く捨て台詞を吐き捨て、逃げ去った。


 それを確認したナナは、剣入りの鞘を左腰へ差し戻し、男たちに喝上げされていた女性が安堵(あんど)と安心のもとナナに近づく。


「あ、あの……! 助けていただき……! ありがとうございます!」


 女性はナナへ礼を述べると、深々と頭を下げた。


 対してナナは──。


「いえ、あいつらの声が鬱陶(うっとう)しかっただけですから、お気になさらず。」


 起伏のない声でそれに返す。


 せっかくの長閑(のどか)な村を堪能していたなか、朝っぱらから騒音ともいえる恫喝(どうかつ)の声を聞かされ、鬱陶(うっとう)しいと思ったのは嘘ではない。だが、面と向かった感謝に照れを感じたのも本当である。だから、(はた)から見たら少し素っ気ない対応とも見えるだろう。


「では、俺はこれで。」


 (きびす)を返し、女性へ別れの言葉をかける。


「本当に……! ありがとうございました!」


 対して女性は、去りゆくナナの背を(さら)なるお礼の言葉で見送った。


 後、村の出口まで辿り着いたナナは──。


「慣れないことをするもんじゃないなぁ……。」


 慣れない()()()にそう呟きながら、村を後にするのであった。






…………………………






“森林”

 

 村を出ると、すぐに鬱蒼(うっそう)と樹木が生い茂る森林地帯が見えてきた。なので、ナナは特に迷うことなく、その森林地帯へと足を踏み入れた。

 なぜ()()()()()()なのかというと、もう何度も行き来している場所だからである。




 日の光が差す明るい森林地帯を、ナナはサクサク歩んでいく。


 因みにだが、この森林地帯にも、もちろん”魔物”は潜んでいる。この自然界には魔物が居ない区域など存在しないとされているくらいだ。

 その中でも、この辺り一帯は危険な魔物が少ないとされ、比較的安全とされてはいるが、魔物は魔物。気を配ることに越したことはない。


 しかし、今は特に魔物の気配は感じない。時折り、虫や鳥の(さえず)りが聞こえてくるくらいだろうか。


 自然の成す調和の音と、緑の放つ新鮮な空気──。


 都会では決して味わえないといった癒しの緑に包まれ、思わず顔が緩むナナだが、(むし)ろ、都会の空気を忘れていると実感する。




 その後、特に何事もなく歩んでいるうちに、太陽は真上を位置取っていた。


「もう昼か……。」


 自身の腹が昼食を求めていることを感じ、ナナは手頃な休憩場所を探す。




 (さら)に歩くこと数分──。


 少し森が開けてきたため、樹木が少なくなる。

 そんななか、ナナは丁度、座ってくれと言わんばかりの平らさを保っている、日のもとに照らされた岩を見つけた。


「ここで休憩にするか。」


 それを見てナナは呟き、ここを休憩場所と決める。

 そして、岩に腰掛けると共に懐から巾着袋を取り出すと、その袋から紙に包まれた何かを取り出した。


 包んでいる紙は包装用の包装紙。丁寧に包装紙を開いていくと、中から少し不格好なサンドイッチが姿を現す。

 ナナはそれを見て、特に目を輝かせることもなく、(あら)わとなったサンドイッチを手に取った。


「いただきます。」


 そして、具材を挟み少し膨らみを持ったフワフワのパンに(かぶ)りつく。


 ──うん。美味(うま)い。


 適当な具材をパンに挟んだだけの物が、なんでこんなに美味(うま)いのか。


「……うん。」


 咀嚼(そしゃく)しながら思わず頷く。


 もちろん、店の物のほうが手が込んでいて、より美味しいとは思うが、手作りのほうが安上がりなのだ。

 何より、サンドイッチは誰でも手軽に作れる安心設計。適当な具材をパンに挟むだけで、自分のオリジナルサンドイッチが完成する。


 素材の味がなんちゃらかんちゃら。外で食べるとピクニック気分。具材次第で味も変えられる。野菜とかもたくさん摂れて、なんか身体(からだ)にも良さそう。

 こう考えると、なんだか不規則な一人旅にピッタリな食べ物だ。




「…………。」


 カサカサという包装紙の音と咀嚼音(そしゃくおん)だけが耳に残るなか、いつの間にか包装紙の中身が(から)になっていた。


「ごちそうさま。」


 それを確認したナナは、口の中の物を飲み込むのを最後に、食に対する感謝の言葉を呟く。

 そして、残った包装紙を丸め、適当に袋へ仕舞った。


「……さて。」


 ひと息吐きながら、椅子代わりにしていた岩から立ち上がる。


 だが、その時──不意に、ナナの顔つきが変わった。

 立ち上がると同時に動きを止め、木々が生い茂る森の中へゆっくりと目を凝らし始める。


 妙に暗がりに感じてしまう森の中──耳を澄ませば、パキパキと枝や草を踏み締める音が近づいてきているのが分かる。

 その音からして、人間や動物ではない。もっと()()()生き物だ。


「…………。」


 警戒に眉をひそめるナナのもとへ、その音はどんどんと近づいてくる。


 そうして──木々の間より、四足歩行の巨大な影が見えたかと思えば、草を()き分けながらノソノソと迫ってくる、巨大なトカゲのような”魔物”が姿を現した。


『シュルルルル……。』


 トカゲの魔物はナナを発見するなり、蛇のような鳴き声で威嚇する。


「”グリーンリザード”か。」


 それを見たナナは、トカゲの魔物の体色に注目して呟いた。




“グリーンリザード”

 名前のとおり、干した青草のような、少し暗い青緑色の体を持つ、巨大なトカゲのような風貌の魔物。全身が青草色に染まっているため、それに反した舌や眼の赤色がよく目立っている。この辺りで最も多く存在している魔物の一種であり、よく討伐対象になっている。




 四足歩行で体は平たいため、その高さはあまりないように見えるが、顔周りだけでも二メートル──立ち上がり尻尾まで含めれば、全長、十メートルはある巨大な魔物だ。


 対してナナは──。


「一匹なら、まだ楽か。」


 その巨体に怯む様子もなく呟くと、左腰に差していた鞘から──両刃を(もっ)て輝きを放つ白銀の刃を引き抜き、グリーンリザードなる魔物へ向けて、その剣を構えた。




………to be continued………




───hidden world story───

 ナナはひとり、旅をする。

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