第1話 隠された世界
世界は終わり──始まる。
見渡す限りの草原。
広がり生い茂る森林。
聳え連なる山脈。
多種多様な動植物たち。
それは、近代的な文明社会とは相反した、自然に溢れた世界──。
…………………………
俺の名前は”糸神 七瀬”。10年前のあの災害で、家族や友人を失ってから、特段、パッとしない日々を送っている。
なぜ自分は生きていて……そして、あれからどうやって生き延びたのか……今となっては正直、覚えていない。
今は、とある小さな村で宿を取って休んでいるが、文明社会で生きていて、村なんてものには一生、縁がないと思っていた。
もちろん、10年経った今となっては、もう慣れたものだが……。
さて、今日はもう夜も遅い。特にやることもないので、眠くなるまで、自分の思考を整理するためにも、この世界の現状でもおさらいしておくか。
あの10年前の災害が起きてから、俺たちの世界に齎した影響は大きく分けて”三つ”ある。
まず一つは、”異世界”の存在。
俺たちが生きていた文明社会というのは、この世界──”魔法世界”から切り離され、”魔法”という存在を忘れさせられていた世界らしいんだ。魔法は空想上のものだと、長い年月をかけて刷り込まれていた。
では、なぜ今まで誰も、魔法世界の存在に気がつかなかったのか……。
文明社会と魔法世界の境に当たる部分に、”魔法壁”なる物が張られていたらしいんだ。
壁といっても、その本質は、文明社会を包み込むようにドーム状に張られていた、触れることのできない霧のようなもの。
仮に魔法壁へ入ったとしても、内側から外側へ出ることはできず、同じような景色と濃霧で迷わせた挙げ句、また元の場所へ戻されるらしい。
つまり、魔法壁から出ることもできなければ、外の世界の存在に気がつくことすらできないということだ。
正直、今でも理屈は分からない。だが、魔法とはそういうものなのだろう。
なぜ、そんなことをしていたのかまでは分からないが、まるで俺たちの世界を封印していたように思えてしまう。
だが──10年前のあの災害と共に魔法壁が壊されたことによって、魔法世界が露わとなった。
そして、魔法世界に存在していた”魔力”が流れ込み、人間が本来持つ潜在能力が戻った……らしいんだ。魔法が使える身体になったのはもちろんのこと、肉体的にも進化したらしい。
上手く説明することは難しいが、要は、人間という生物の基礎能力上限が上がったということだろう。
因みに、俺たちが認識していた文明社会というのは、この魔法世界の一大陸の、一地域に過ぎない。魔法世界の住人たちも気がつかないような、辺境の地にあったというから驚きだ。
更に驚くことに、あの災害を齎したのはこの魔法世界の人間らしい。そんな強大な力を持つ人間が居るなんて、文字どおり世界は広い。
そして、二つ目が、”暮らしの変化”だ。
文明社会が崩壊したことによって、文明社会の文明のほとんどがこの魔法世界に消えた。要は、文明社会丸ごと、異世界に取り込まれたわけだ。
普通に魔法が存在する世界──。
“魔物”が存在する世界──。
“ギルド”や”クラン”といった個人組織や、”世界王政”や”防衛機関”といった社会組織。魔物を討伐する仕事や、未開の地を開拓する仕事。魔法を研究する仕事など、職も魔法世界基準となった。
通貨も魔法世界の通貨に変わり、文明社会の政権も魔法世界の政権に下ったとか。
世界が広がった分、自由度は増えたが、その分、約束された絶対安息がなくなった。魔法が使えるんだから、自分の力でなんとかしろってことだろう。
だがそれでも、文明社会の暮らしを捨てられない人は大勢居た。だから、そんな人たちのために、かつて文明社会で一番大都会だった場所に、文明社会のような発展した都市が造られているという話だ。
だけど、今は上部だけの政権しかないらしいが……。
最後に、三つ目が、”魔物”の存在。
さっきも少し言ったかもしれないが、この魔法世界には”魔物”と呼ばれている生物が数多く存在している。10年前に文明社会の街を焼き払った炎の怪物たちも、この魔物の分類に含まれるそうだ。
魔物というのは、体内に魔力を多く持った、全生物の上位種とされている。
その特徴としては、”単純に体が巨大”、”普通の動植物にはない特徴がある”、”人間同様に魔法を使う”、などが挙げられるが、個体の種類が多過ぎるため、完璧な共通点は存在しないといわれている。
ただ、ひとつ言えるのは、魔物は魔法を扱えるこの世界の人間たちよりも、基礎能力が高いということ。潜在的に強くなった文明人とはいえ、魔物はそれを凌駕する強さ。
ましてや、いきなり魔物だなんて生き物に出会した文明人と比べ、生まれた時から魔物が居る世界で育ってきた魔法世界の住人たちとでは、気の持ちようも違う。
しかし、特別、魔物の恐怖に支配されているわけではない。人間も魔物も動物も、この世界では等しく、同じ生命として存在している。
そんな魔法世界──ときには狂った異世界と呼ばれるこの世界を、文明社会に生きていた者たちは皆、こう呼ぶ。
────隠された世界──秘められた世界を意味する──”HIDDEN WORLD”──と。
…………………………
「はぁ……。」
寝る前に忙しく思考を張り巡らせてしまったせいか、思わず溜め息を吐いてしまう。
家族も友人も居らず、特に目的もない人生……。
今は、同じ村や町を転々としながら、魔物討伐など依頼を熟し、生計を立てているだけの人生だ。
──果たして、そこに”意味”はあるのだろうか。
「…………。」
寝る前に色々と考え過ぎてしまった。そろそろ眠るとしよう。
……………
紺色の髪を枕に置き、黄色の瞳を閉じ、眠りにつく。
………to be continued………
───hidden world story───
これが、”HIDDEN WORLD”──。




