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真知子の青春  作者: ロッドユール
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美容整形とパンク

 ――「死にたい」という誘惑の波の上を私はたゆたい、流されるままに身を委ねてきた。死にたいという思いを私はいつも胸の奥に抱え生きていた。「死にたい」「死にたい」「死にたい」。今もそれを強く思う。死。それだけが私の救いだったから――


 和香子さんはすごくきれいな人だった。女の私が、思わず見惚れてしまうほどに、彫像のように彫りの深い整った顔をしていた。

「これ全部整形だから」

 そんな私に気づいた和香子さんが言った。

「えっ、そうなんですか」

 私は驚く。

「うん」

「・・・」

 そうだったのか・・。言われてみればありえないくらいの顔の整い方と、目鼻の造形をしている。

「もう何回したかな。歯とかもしたしな」

 思い出すように和香子さんが言う。和香子さんは歯並びもよく、色もありえないくらい白く輝いていた。

「自分でもやめたいんだけどね。お金かかるしさ。人生すべてそこに捧げますみたいになっちゃってるからさ。稼いだお金全部突っ込んじゃってるし」

 私も美容整形が高いことは知っている。

「でも、すっごくきれいです」

 私は言った。整形でも何でもやっぱり和香子さんはすごくきれいだった。

「う~ん、でもさ、美しさなんて結局ただの錯覚なのよ」

 和香子さんは、食堂のテーブルに右手で頬杖をつき、ため息を吐くように言った。

「だから、マジマジとあらためて自分の顔見てると、何がきれいなのか分からなくなるのよね。きれいって何?みたいな」

 和香子さんは、私の言葉に喜ぶ風も全然なく、冷静にそんなことを言う。

「でも、分からなくなるから、それを確かな形でまた掴みたくなるのよね。何かあるような気がするのよ。確かな美しさが・・。多分ないんだけど」

「・・・」

「まったく、人間って複雑だわ」

 また、和香子さんはため息を吐くように言う。

「頭では分かっているのよ。全部。そういうこと。冷静な私は、それを全部知っているのよ。でも、もう一人の、どうしようもない私がそれを許さないのよ。何なのかしらね」

 和香子さんは一人首を傾げる。

「鏡で自分の顔見ていると、もうあれもこれも直したくなるのよ。だから、もう自分の顔見ないようにしてるんだけど、でも、ついつい見ちゃうのよ。そしたら、やっぱりあれもこれも気になって、もう、また自分の顔を何時間も見ちゃってさ。ここも直したい、あそこも直したいって、完全に病気よね」

 和香子さんは自嘲気味に言った。

「私、めっちゃブスでさ。自分でもやばいなってくらいブスだったのよ。マジでブス過ぎていじめとかされてたからね。デブだったし」

 和香子さんはそう言って私を見た。

「・・・」

 私も、見た目でいつも主要な女子のグループからは疎外されていた。

「それがさ、高校卒業して、ちょっとダイエットして、目元を整形したら、めっちゃ周りの反応が変わるわけよ。びっくりするくらい。全然違うわけ。男子だけじゃなくて、女子たちもめっちゃ変わるの。滅茶苦茶フレンドリーになるし、接し方が滅茶苦茶やさしいのよ。今までの私は何なのってくらい、まるで世界が変わったみたいに、みんなの反応が違うわけ。それでもう病みつき」

 和香子さんは目を輝かせる。

「今まで恥ずかしくて全然してなったオシャレなんかしてさ、街に出れば、みんな羨望の眼差しで私を見るし、もう有頂天よ。もう、なんかすっごい快感なのよ。もうなんか、脳内麻薬がドバドバ出てる感じ。アドレナリンとかドーパミンとか。みんな私を見て見てって感じ。この美しい私を見てって。今まで自分に自信がなくて、卑屈に猫背で歩いていた自分が嘘みたいに性格も明るく積極的になったわ」

「へぇ~」

 私もなんだか羨ましくなった。私もきれいになれば自分が変われる気がしていた。

「でも、すぐに病んだわ」

「えっ、なんでですか」

 私は驚く。

「人なんて結局、見た目しか見てないんだなって気づいちゃってさ。じゃあ、今度は私って何?ってなっちゃって。逆になんか人生虚しくなっちゃってさ。鬱よ」

「そうだったんですか・・」

 私はきれいになれば、幸せになれると思っていた。人から好かれるし、愛してもらえる。やさしくもしてもらえる。実際、そういう人たちや状況を私はたくさん見てきた。

「結局、ブスでも病むし、きれいになっても病むし、どっちみち病むんだなって。最近はなんかそんな自分に笑っちゃうわ」

 そう言って、和香子さんは笑った。

「・・・」

 私はそんな和香子さんを見つめる。

「整形だけはしちゃだめよ。ほんとドツボにはまるから」

 最後に和香子さんは私にそう言って去って行った。

「・・・」

 そういえば玲子さんも死んでしまった。

「幸せって・・」

 私もなんだか幸せがなんなのか分からなくなってきた。


 赤坂さんは、腕や肩、胸や首とあらゆるところにタトゥの入った豪快な人だった。顔もいたるところに、唇や鼻など耳以外にもピアスがたくさんついているパンクな人だった。髪もピンク色で、モヒカンだった。でも、名前はもも子と、とてもかわいい名前をしていた。

「私さ、こう見えて子どもの頃は、マジメで大人しい子だったんだよ」

「えっ、そうなんですか」

 私は驚く。その面影すらがない。

「中学の時に、保健室登校していた同級生がいたの」

「はい・・」

 赤坂さんは、遠くを見つめるように突然語り出した。私は、そんな赤坂さんを見る。

「その子が、ある日、放課後のクラスルームの時に突然教室に入って来たんだよね。そしたら、教室中シーンってなって、ほんとに水を打ったみたいに静まり返ってさ、その子をみんな見るわけ。でも、その子は笑ってた。あれ?とか言っておどけた感じで、笑ってた。あれ?あれ?とか言って。その後、担任の先生と何かちょっと話をして帰って行った。なんだ元気じゃんてその時私は思った」

「・・・」

「何で普通に教室来ないんだろうって思った。普通に来ればいいじゃんて思った」

「・・・」

「でも、私も高校の時不登校になっちゃってさ。クラスになんかいずらくなっちゃって。でも、たまに登校するわけ。でさ、ある日遅れて行ったの。そしたら、丁度クラスルームの時でさ。私が教室に入ったら、教室中がシーンて静まり返ったの。あの時みたいに・・」

「・・・」

「みんな私を見てた」

「・・・」

「静まりかえった教室で時がとまったみたいに私を見てた」

「・・・」

「その時、私も笑ってた。何でもないみたいに、へらへら笑ってた。ほんとはすごく傷ついていたのに、私は一人へらへらへらへら笑っていた・・」

 赤坂さんは泣いていた。

「・・・」

「私、バカみたいに笑ってたの。あの子と同じように。私は平気だよって、全然平気だよって」

「・・・」

「平気な奴なんていないよね」

 ポロポロポロポロ大粒の涙を赤坂さんは目から落とした。

「いじめられて平気な奴なんていないよね」

「・・・」

「その時から、私はマジメに生きるのやめようって思ったんだ」

「・・・」 

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