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真知子の青春  作者: ロッドユール
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つき添い

「遠足楽しかった?」

 榊さんが笑顔で私に訊く。

「はい、とても・・」

 最近の診察はほぼ、世間話だった。

「・・・」

 榊さんはやさしく、別に問題はなかったが、私は正直こんなことに何の意味があるのだろうと思っていた。

「じゃあ、今日はこれで」

「はい」

 今日の診察もあっけなく終わった。ものの十分ほどだった。今日はこれでもまだ長い方だった。

 私は立ち上がった。

「うううっ」

 その時、太腿とふくらはぎに激痛が走る。

「どうしたの?」

 看護婦さんが声をかける。

「筋肉痛」

 私は激しい筋肉痛に見舞われていた。昨日の遠足のダメージが強烈に私を襲う。

「情けないわね。若いのに」

 そんな私に、若い看護婦さんが、笑いながら言う。

「・・・」

 しかし、そう言われても、こんなとこに毎日いたら、運動不足は避けられない。私はその言葉に不満だった。運動不足にさせているのはあなたたちだった。


「私でもなれそう」

 私は共有スペースに帰り、ソファに座る美由香の隣りにどかりと座ると呟いた。

「何に?」

 美由香が私を見る。

「精神科のお医者さん」

「ああ、やっとお前も気づいたか」

 そう言って、美由香は読んでいた雑誌に再び目を戻す。

「うん」

 あんな楽な仕事なら、結構いいかも。私は真剣に思った。


「あんたもう少し食べな」

 夕食時、いつものように配膳カウンターで皿の乗ったお盆を持って並んでいると、そう言って、坂本さんが私のお皿にもう一つ大ぶりの唐揚げを乗せてくれる。

「あっ、ありがとうございます」

 食堂の調理係の坂本さんは、いつも気さくに私たち患者に話しかけてくれる。

「もう少し太らなきゃな」

「はい・・」

「でも、大分顔色よくなったじゃない」

「はい」

 坂本さんの明るさに私も自然と笑みがもれる。

 坂本さんは患者たちの間でも人気があった。いつも明るく気さくで、私たち患者のことを何かと心配してくれる。時には、仕事が終わっているのに、そのまま残って私たちの話を聞いてくれたりする。医者や看護師よりも、よっぽど、私たちと話をしてくれていた。

「あたしはちょっと太り過ぎだけどな」

 そう言って、坂本さんは豪快に笑った。坂本さんは確かに太っているが一般的なおばちゃん体形で、特別に太ってるというわけでもない。

 私はもう普通の食事量で食事ができるようになっていた。そして、体重も大分戻って来ていた。毎日体重計に乗らされるのは辛かったが、確実に体重は増えて来ていた。体形も以前のガリガリに痩せていた頃に比べたら、大分肉もつき普通に戻って来ていた。精神的にも安定してきていて、過度な食欲は感じなかった。

「あっ、あたしにももう一個サービスしてよ」

 隣りで美由香が言った。

「はいよ」

 坂本さんは、その丸い顔をほころばせながら喜んで気前よく美由香の皿にも唐揚げを一つ乗せてくれる。

「サンキュー」

「ああ、私もぉ~」

 すると今度はその隣りの真紀も駄々をこねる子どもみたいに言った。

「はいよ」

 坂本さんはそんな真紀にも、笑いながら唐揚げを差し出す。

「やった~」 

 真紀は素直に喜ぶ。そんな真紀を、坂本さんは自分の娘でもあるかのように微笑ましく見つめる。母性の強い人なのだろう。その表情は本当の母親のようにうれしそうだった。


「真紀ちゃん時間よ」

 いつもの午前中ののどかで暇な時間、真紀と二人で共有スペースのソファでボケっとしてたら、看護婦さんが真紀を呼びに来た。私は隣りに座る真紀を見る。どこに行くのだろう。私はまったく何も聞いていなかった。

「さっ、行きましょう?」

 看護婦さんが真紀を促す。

「どうしたの?」

 しかし、なぜか真紀は怯えた表情をしている。

「一緒に行って」

 真紀が私の顔を見る。

「えっ」

 私は驚く。そんな私に、真紀は体を摺り寄せ手を握って来る。私は、看護婦さんの顔を見た。

 看護婦さんは困った顔をしていた。

「一緒に来て」

 真紀はもう一度言った。

「・・・」

 私はどうしていいのか困る。その場には美由香も玲子さんもいなかった。私はもう一度看護婦さんを見た。看護婦さんは、しょうがないわねといった表情でうなずいた。

「・・・」

 私はどこへ行くのか分からないまま、真紀につき添い看護婦さんの後ろについて、廊下を歩いていく。真紀はやはり、怯えたようにうつむき、私の左手を腕ごと握り締め、私に全身を預けながら歩いていく。

「・・・」

 これほど真紀を怯えさせるものとは一体なんなのだろうか・・。私も、なんだか不安を感じた。

 看護婦さんに導かれて辿り着いたのは集会所だった。以前私がカウンセリングを受けたところだった。中に入ると、予想以上の人がいて私は驚く。長方形に並べられたテーブルの前の椅子に、医師、看護師、それから、病院の事務スタッフらしい人、それから、よく分からない病院側の人たち、そして、その向かいの席に、一般の人と思われる人が二人座っていた。

「誰だろう・・」

 私はその二人に目が行った。肉体労働者のような日に焼けた坊主に近い短髪の初老に近い見た目の年配の男性に、それと同じくらいか、ちょっと年下くらいの白髪交じりの長い髪をした女性。この女性はうつむき加減で、表情がさえないところを見ると、病院の患者にも見える。まるで幽霊のように、顔は青白く痩せ、正に病人のように生気がない。

「真紀ちゃん、ここに座って」

 ここまで私たちを連れて来た看護婦が、真紀を入り口近くの長方形の一番辺の短い側の席に促す。その二人を横から眺めるような位置の席だった。自然と私もその隣りに座ることになった。

「・・・」

 あらためて席に着き、なんだか少し物々しい雰囲気に私はビビる。これから 一体何が始まるのか、私一人だけ全然分かっていなかった。


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