19.リジーとルド
見に来て下さりありがとうございます
ベルドリオに向かい笑顔で挨拶しようとしてそれは失敗した
「ごきげん……よ……う」
涙がぽつりぽつりと落ちる
笑顔を作れずにいるリーゼロッテをベルドリオは思わず抱きしめた
「無事で、よかった」
その言葉にリーゼロッテは我慢できなくなり泣き出す
泣きながら辛いと零してしまう
「もう、私は、『ぼく』にもどれな……い。もう二度と、ぼくは」
その言葉にベルドリオは抱きしめる力を強くした
「守ってやれなくてすまなかった。リジー」
リジーと呼ばれリーゼロッテはビクッとする
「ベルドリオ様、ご心配を、おかけ……」
「強がらなくていい、罵っていい、ここには二人しかいないのだから、リジーのままでいいんだ」
その言葉にリーゼロッテは赤子のように泣き出した
数分後リーゼロッテはベルドリオに指南を頼んだ
動きは鈍いが令嬢ならこんなものだろうと思う
ただ見習い時代を知っているベルドリオからすればリーゼロッテのもどかしさもわかる気がした
だから手を抜かなかった
「っ、ありがとうございました」
悔しそうなつらそうな表情を浮かべ木刀が地面に落ちる
「本当にもうもどれない、ですね。知ってたはずなのに、こんなふうに実感するなんて」
儚く笑うリーゼロッテにベルドリオは怒鳴るように声を上げた
「お前は! 立派にレディーを守った。それは騎士として誇っていい!」
そこまで言うと優しくほほ笑みかける
「だから、そんなふうに言うな。俺の自慢の一番弟子だよ」
せっかく治まった涙が溢れ出す
騎士としてと言われ、喜んでしまった
騙してたのに弟子と言ってくれる
もうそれだけで充分だった
「ありがとう、ございます。ベルドリオ様。それとあの、先程から私のこと『リジー』と?」
ベルドリオはハッとして口を押えた
「わりぃ、その、リーゼロッテならリジーっていうのもいいかと思って、考えてたらこんなことあって、つい」
慌てる様子が可愛く見えてリーゼロッテは微笑んだ
「ベルドリオ様ならいいです、リジーとお呼びください。元々の愛称はリジーだったんですよ」
「そう、なのか?」
「3歳の頃にリジーと呼んでくれていた両親が他界し、リジーと呼ばれる度に泣くようになった私に祖母がリズと呼ぶようになって」
「ご両親の……」
「でもベルドリオ様なら特別に許します」
そう言って懐かしむように微笑むリーゼロッテは美しくゴホンとベルドリオは咳払いをするとそれならと言葉を続けた
「ルドでいい。兄貴達や王族の人間が俺をリオと呼ぶが、母さんだけはルドと呼んでいた」
「母君、ですか?」
「三年前に病気で帰らぬ人となった」
「!? そんな大事な呼び名を!」
「リジーもだろ? だから特別な?」
その言葉の後ふたり顔を見合せて笑顔になる
もう舞踏会の時のようなダンスもできないだろう
馬術もたしなむ程度に出来れば上出来だ
剣術だってもう望めない
それなのにリーゼロッテは不思議と穏やかに受け入れられた
泣いたおかげか、否、ベルドリオのおかげだろう
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