12.犯人
見に来て下さりありがとうございます
「えっとリーゼロッテ嬢だよな?」
引きずり込まれた路地で相手の顔も見えぬまま問われ頷くのがいいのか誤魔化すのがいいのか分からず微動だにせずにいると犯人は言葉を続けた
「協力してくんねーか……って、これじゃ喋れねーか、騒がねーで聞いてくれ」
拘束をゆるゆるととかれ口元から手離れたが相手が武器を所持している可能性は高く、リーゼロッテは静かに離れた
そして顔をあげた瞬間に犯人は怪訝そうにこちらを見る
しかしそれはリーゼロッテも同じであった
銀髪に整った顔立ち、切れ目はきつそうに見えるが実は優しいのを知ってる
そう知っている
彼はリーゼロッテの男装時代の師匠であったのだから
ただそれでも疑問はある
リーゼロッテは認知阻害の魔法具で女と分からなくしていたし、髪も伸びた上に日焼けは綺麗に消え色白になってきている
リズがリーゼロッテだと気がつくわけが無い
テオバルト……リズの騎士見習い時代の心残りが現れたのである
動揺を悟られないようにリーゼロッテは表情を少しもださず問いかけることにした
「どなたでしょうか? それに協力とは一体何でしょうか?」
テオバルトに謝りたいと思っていたがもうそれも叶わないのだと自嘲する
おくびもそれを表面にはだしはしないが、心が軋んだ
「……え? リズ、お前がリーゼロッテ嬢……?」
ぽかんと口を開けそう呟いた
リーゼロッテにもわけが分からない
彼はリーゼロッテをリズだと認識しているのだ
「何を仰ってるのですか?」
「いやリーゼロッテ嬢といきなり消えやがったリズを同一だとは思わねーだろ」
テオバルトは調子を取り戻したように言う
もうそれはリズかという問いかけでもない
本人だと認識してのことだ
「なんのことでしょうか?」
とぼけてみるとテオバルトは大きく息をはいた
「まっ、お前が女だっつーのは知ってたけど、まさか公爵家かよ。大変だったな」
その大きな手でリーゼロッテを撫でる
その手が不器用ながら優しくてリーゼロッテは動きをとめた
(女だと、しっていた……? 知っていて手解きしてくれていたというの? なぜ?)
聞きたいのに喉に何かが詰まったように声が出ない
視界が滲んで自分はどうしたのかと手を目元に持ってこようとするとそれをテオバルトに止められた
「ばか、擦るな。赤くなんぞ」
そう言って王国のシンボルが刺繍されたハンカチで優しく目元を拭ってくれる
一瞬視界がひらけたように思ったがすぐに滲む
(これはなに? 私は……僕は……)
戸惑うリーゼロッテにテオバルトは優しかった
その優しさはどういうものかリーゼロッテには分からない
ただ軋み続けてきたリーゼロッテの心が回復していくそんな錯覚を覚えた
きっと泣く場所を探していたのだ
そう自覚するともう止まらなかった
ボタボタと涙が溢れる
テオバルトは拭うのを辞めてそっと抱きしめてくれた
「辛かったんだな……誰も見てねーから思う存分泣けよ」
しがみつくと声を押し殺して泣いた
ただ辛かっただけの涙とは違う
悲しかった、辛かった、何より怖かったのだ
リーゼロッテになったらリズの全てが壊れるようで、すごく怖かった
だから見ないふりをして心に蓋をした
そんな蓋をあっさり持ち上げた犯人にリーゼロッテは縋るように泣き出した
読んでくださってありがとうございました




