優しい家族
家に帰ってきたルディは自分の部屋でベッドに横になり、天井を見上げる。
こうなってしまった以上、お父様とお母様には早いうちに説明しておかないと。縁談を結んでくださったお父様にはきちんと謝らないといけませんね…。
コンコンと音がしたので、入室を許可すると専属メイドのミサが入ってきた。
「お嬢様、夕飯の用意ができました。あ!また制服のままベッドに横になってー!だめじゃないですか、部屋着に着替えてください」
「ふふっ、ごめんさない、支度お願いしてもよろしいかしら?」
「もちろんです。こちらにいらしてください」
ドレッサーの前に座るとハーフアップにした髪の毛を下ろし、櫛で梳かし始める。すると、静かな私に違和感を抱いたのかミサが話しかけてくる。
「お嬢様、元気がないように窺えるのですが、どうかしました?」
「ちょっとね…。お父様とお母様に報告しなければいけないことがあって…緊張しててね」
「あら、そうなんですね。大丈夫ですよ、お二人ともお嬢様には甘いのですから、何があっても味方になってくれるはずです。もちろん私もですよ?」
「うん…ありがとう。少し元気が出たわ」
「良かったです。では、室内用のドレスに着替えて夕飯へ向かいましょう」
髪を下ろし、室内用のドレスに着替え、2人が待つダイニングルームへと向かう。ノックをするとすぐに返事が返ってきた。
「失礼します」
「おお、ルディ。待ってたぞ」
「遅くなり申し訳ありません。お父様、お母様」
「いいのよ、ほら早く席について。食事にしましょう」
席に座るとすぐに料理が運ばれてくる。ルディはどのタイミングで婚約破棄について切り出そうか悩んでいた。すると…
「ルディ、どうした?何か言いたいことでもあるのか?」
「…なんでそれを…?」
お父様が急に私に聞いてきた。
「すぐに分かるわよ。あなたは昔から言いたい事があると左手を握りしめて俯くんですもの」
「え…そんなこと…」
左手に目線を向けると、たしかに握りしめていました。…やっぱり親は子供のことを知り尽くしていますのね。
「お父様、お母様。今から私が言うことにお怒りになるかと思います。しかし、どうか最後までお聞きください」
そう前置きをすると、リザード様の逢引きを目撃したこと、婚約解消を企んでいることを告げた。
「なんてやつだ!!ルディがいながらよその女にうつつをぬかしているだと!」
「あなた、今すぐ抗議文を送りましょう。即刻婚約解消するべきよ」
「お父様、お母様落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか!」
想像の何十倍もお怒りになる2人を見てどうにか宥めるルディ。そして、私が婚約破棄をしようとしていることも告げる。
「私もこれ以上にない怒りを覚えております。しかし、このまま婚約破棄するだけでは慰謝料を払って終わりになってしまいます。私は彼を…断罪したいのです!」
ルディの強い光の灯った目に2人は黙り込む。そして、お父様が口を開いた。
「でも、どうやるつもりなんだ?断罪など、決して簡単なことではないぞ?」
「サリーと作戦を考えております。それは…」
今日の帰り道に考えた作戦を話す。
「なるほどな…。うむ、それなら…」
「でも、ルディちゃん。その録音にもしも…変な音声が入っていたら…」
「覚悟は出来ております。それに、決定的な証拠になるのではないでしょうか」
「それはそうだけど…」
しばらくお父様が目を瞑り、考え込んでいた。…そして何かを決意したようにゆっくりと目を開ける。
「わかった。お前の好きなようにしなさい」
「あなた!!」
「心配なのは分かるが、証拠が手に入るならルディが不利な立場に立つことはない。それに、ルディ自身がそれを望んでいる」
「ですが…」
「大丈夫さ、なんて言ったって私達の娘じゃないか。信じてみよう」
「…ありがとうございます」
お父様からの温かい言葉に泣きそうになる。お母様が心配してくださっていて申し訳ない気持ちでいっぱいですが、もう私の決意は固い。
「それでは、私の方では慰謝料をふんだんに取れるように準備しておこう」
「よろしくお願い致します」
「もちろんだ、お前も頑張れよ」
「はい!」
元気よく返事をすると、3人は引き続き食事を楽しんだ。