作戦会議
席に戻ると、ルディは今後の作戦を立てるためにあれこれと思案し始めた。
まずは証拠を押さえなければいけないわ。1番良いのは魔法石を使って映像を残すことだけど…。あまり近づき過ぎるとバレてしまうわよね。手紙のやりとりはしてないと思いますし、仮にしてたとしても入手することは不可能だわ。
さまざまな案を考えては打ち消し、どうしようかと悩んでいると、幼馴染のサリー・ハングレッド侯爵令嬢から声がかかる。いつの間にか授業が終わっていたみたいだ。
ハングレッド侯爵家と我がクランベルク侯爵家は代々仲が良く、屋敷同士も近いため姉妹のように育った。そのため、誰よりも固い絆で結ばれている。
「悩んでるみたいだけど、どうしたの。眉間に皺寄せてルディらしくないよ」
「サリー…」
サリーを巻き込むのは心が痛いわ。でも、もう自分だけでは良い作戦が思い浮かばないのも事実。
サリーは私が唯一心を許している人物だから、信頼できるし…。少しだけ頼ってもいいかな…。
「サリー、実はね…」
帰り道、ルディはお昼にあった出来事を簡単に説明した。
「はぁ?!リザード様浮気してたの?!」
「サリー!声大きい!!」
慌ててサリーの口を塞ぐ。
「ごめんごめん。で、これからどうする気?」
「婚約破棄して差し上げるつもりよ」
「いいね、協力するよ」
なんの躊躇いもなく力を貸してくれると言ったサリーを見て、本当に良い友人を持ったなと泣きそうになる。
「でも、そのために彼が逃げられないような物的証拠が欲しいのよ」
「うーん、映像に残せればいいんだけど…」
「顔が見えるくらい近づいたらバレてしまうわ」
「相手は子爵令嬢なんだっけ?」
「そうよ、隣のクラスのニーナ・ラスカルト子爵令嬢」
そこまで言うと、サリーは黙り込んだ。
「ニーナ…ラスカルト…ラスカルト子爵…。あ!」
「どうしたの?」
「たしか私の家で働いてくれているメイド長の娘さんがラスカルト子爵家でメイド見習いをしてるはず」
「そんな都合のいいことあるの?!」
「びっくりだね」
偶然の奇跡に2人は顔を見合わせた。
「それで、その子に何をさせる気なの?」
「魔法石を使うんだよ」
「流石に映像は無理なんじゃ…」
「ちがうちがう。映像じゃなくて、録音に使うんだよ」
「え?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、サリーは作戦の内容を細かく説明し始めた。
「まず、メイド長を通して娘さんに魔法石をニーナ様の部屋に隠しておくように頼むの。たしかにルディの言うように映像としては残らない。でも、音声は聞こえる。で、次の日に学園に出かけた隙を見て回収 してもらって私たちで確認するってわけ。2人の会話の内容、それにもし体の関係があるならそれも…。ルディは聞くのが辛いと思うけど、決定的な証拠になるでしょ」
サリーの頭の回転の早さに脱帽する。
「たしかに、それなら…。サリー天才!」
「いやー、それほどでも…あるかな?」
2人は冗談を言いながら笑いあった。
「じゃあ、早速今日メイド長に話しておくから、明日の夜にでも仕掛けてもらうね」
「本当にありがとう」
「いいって。そのかわり今度美味しいタルト奢ってよ?」
「ふふ。この間いい店見つけたから今度一緒に行きましょ」
「やったね!」
先にサリーの家に着き、2人は別れた。
1人になると嫌でもリザード様のことを思い出してしまう。昨日まで疑うことのなかった彼の笑顔、エスコートしてくれる彼の姿。何もかもがただ単純に嬉しかった。
「なんでこうなっちゃったんだろう…」
帰り道、ルディはボソッと空に向かってつぶやいた。