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9/9

9.割と見えますね

 



 入学式の日。

 私は親戚の家に帰った。

 おじさんとおばさんは凄く優しい人たちで、自分たちに子供が居ないからと、凄く優しく接してくれる。

 学校からの連絡を受けて、心配したおばさんが途中まで迎えに来てくれたくらいだ。


 打ち付けた頭の事を心配してくれて、その日私はおばさんと布団を並べて寝たんだ。

 何かあったらすぐに気付けるようにだって。

 実の母とでも隣で眠った事なんて、小学生になった以降は記憶になくて、気恥ずかしかったけれど、なんだかとっても安心できた。


 朝、おばさんの作ってくれた朝ごはんを食べて、学校へ向かう。

 気は重かったけれど、この優しいひとたちに心配掛けちゃいけないなって。


 初日は大失敗だったけど、今日から頑張ろう。

 そう思いながら登校したのに、校門には忘れなれない人が立っていた。

 その人は、私を見るなり駆け寄って来て、膝を折る。

 王子様がお姫様にするみたいに、そうして満面の笑みで言うんだ。


「おはよう。ボクのおひめさま」


 ――お先真っ暗だ。


 遠巻きに話題にされているのが耳に入る。

 ざわざわと雑音が耳に響いて、頭が痛い。


「ちょっと来て……!」


 その人――マホちゃんの手を掴んで、校舎裏まで引き連れて行く。常識が欠如しているのか、無視しているのかは知らないけれど、巻き込むのはいい加減にして頂きたい……!


「勇ちゃんは強引ですね」

「マホちゃんには負けますね」

「そういえば、お渡しするものがあったんです」

「え、無視? 話聞いてくださいね?」


 マホちゃんはごそごそと、鞄を漁る。

 絶対ロクなもん出てこないじゃんって身構えていたら「はい」とマホちゃんが手を差し出した。


 私は、手を出さなかった。


 受け取ったら最後、返せやしないのだろうと思ったからだ。

 そうして突っ立っていると、マホちゃんは「困ったさんですね」なんて目を細めてみせる。

 ブーメラン、頭に刺さってますが?


「ほら、無いと困るのは勇ちゃんですよ」


 マホちゃんはもう片方の手を出して、そこに中身を落としてみせる。

 しゃらりと、鈴が鳴る。

 ピンクの鈴だ。百均で売っているような、安っちい鈴の音。

 私が鍵を無くすかもしれないと、お母さんがつけてくれたままのそれ。

 うん、つまり、私の家の鍵が、マホちゃんの手の中にある。


「え……っ、え……!?」

「昨日、落としていたのを拾ったんです」

「嘘だよね!? 私かばんに入れてたよね?!」

「かばんの中に落ちていました」

「素直だね!? つまり、盗ったんだね……!!」


 やべえヤツじゃん……!!

 え、待って、有り得ない……!!

 マホちゃんの手から鍵を奪い取って、穴が開くほど見つめたけれど、何処からどう見ても私の家の鍵だ。

 家に帰らなかったし、おばさんと一緒にマンションに入ったから一度も鍵を使わなかった。だからって、気付かないなんて……。


 というか――、


「合鍵、……作ったりしてないよね?」


 甘南ナニガシであれば、まず間違い無く作る。

 アイツは作る。でも、マホちゃんはどうだろう。鞄から鍵を取っている時点で大分アウトではあるけれど、そこまでの暴挙に出るとは思えない。


「ボク、そんな事をするように見えますか?」

「割と見えますね」

「割と見えますか」

「はい」

「鍵を持っていれば、学校へ探しに戻って来るかと思って。そうすればもう少しお話が出来ますね」


 マホちゃんは、綺麗に笑った。

 目を細めて、白い頬を朱色に染めて、とっても嬉しそうに。

 疑って悪かったのかもしれないと思わせる程の破壊力はあったけれど、人の鍵を盗るのは悪い事だ。騙されるな、私。


「普通の話なら、するけど」

「普通の話ですか?」

「世間話とか」

「世間話……、そうですね。例えば、ボクの国で今朝新しい魔法が生み出されたらしいです。鶏を――」

「あ、やっぱり普通の話もしません」


 ダメだこの子。

 溜息を吐くと、マホちゃんは「ふふふ」と笑った。


「冗談です。そうですね、例えば、昨日買ったコンビニの新商品のスイーツが美味しかった話とか」


 え、何その急に女の子っぽい話……!

 ほんとにマホちゃんの口から出た言葉……!?

 びっくりしてマホちゃんをまじまじと眺めていると、また「ふふ」と笑う。


「勇ちゃんの好みの会話がわかってきましたよ」

「あ……、うん。そういう話なら、話す」

「それじゃあ、これは休み時間に話しましょう。教室に行かなければ、遅刻扱いにされてしまいますね」


 マホちゃんは、ちょっと、大分、変わっているけれど、甘南ナニガシよりも実害は無いのかもしれない。

 普通の友達として振る舞って欲しいと懇願すれば、聞いてくれる気さえしてきた。


 呆気に取られたまま、先を歩く彼女――じゃない。彼だっけ? の後ろを追って、私は歩く。

 二度と鍵を盗られたりしないように、スカートのポケットに、それをしまいながら。




お読み頂きありがとうございます!

二日目はマホちゃんのターンからスタート!!

少し期間が開きましたが、ブクマが増えたり、評価を頂いたり、感想を頂いたり。嬉しくてにこにこしてしまいます。ゆっくりペースですが投稿していきますので、どうぞよろしくお願いします(_ _*))

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