5.暗転
「あの……」
「発言は挙手制でお願いします」
「え……っ」
挙手制もなにも、私の手、めっちゃ掴んでるじゃん……!
何とかマホちゃんの手から抜け出そうと押して引いてを繰り返すけれど、まったくもって手が抜けない。
「んっ……ぐぐぐぐぐ……!」
「反対意見はありませんね」
「ありますね! 挙手が出来ませんね!」
「挙手出来ないのであれば、発言権はありませんね」
「ありますね……! 何この子……!」
その小さいお手手の何処にそんな力が秘められているんだ……!
やたらめったら手を振り回してみても、絡められた手はまるで離れない。
おまけに、思い切り力を入れてくるもんだから、ちょっと痛い。
「ふ……っ、これがボクの魔法の力です」
「違うよね?! どう見ても物理だよね?!」
「物理攻撃力の強化魔法をかけたのです」
「どんな言い訳?! 絶対に違うし……!!」
私は髪を振り乱して逃れようとしているのに、本当に、どういうことか、手は離れない。
魔法では絶対に無いのに、マホちゃんは得意げに口の端をにいと上げて笑ってみせる。
ただただ、ムカつく。
私は何とか立ち上がり全力で腕を引いたけれど、それでもマホちゃんはビクともしない。
いや、引き摺ることくらい出来ない?!
地面との接着面どうなってんの?
「どうですか、これも魔法の力です」
「何の魔法?!」
「重量増加の魔法です」
「つま先でめっちゃ頑張って耐えてるとかじゃないの……?!」
マジで相手にするんじゃなかった……!!
何故天使だなんて思ってしまったんだろう。
あの時の私の頬を引っ叩いて目を覚せと胸倉を掴み上げてやりたい。
北都真帆は間違いなく、甘南ユズリの仲間だ。
「ねえ、西邑勇さん」
飛びっきりの、甘い声。
その声につられてマホちゃんの顔を見ると、彼は、それはそれは幸せそうな顔で私を見ていた。
うっとりとした表情で、若干頬を赤く染めて。
「ボクの、お嫁さんになってください」
それから、私の手をぐいと引き寄せ、恭しく唇を落とす。
ロマンティックな雰囲気を醸し出しているけれど、その被害者である私は尻を大きく突き出して、さながらエビのポーズである。
「いやいやいやいや……!! 私の格好見て?! そんな感じ?!」
「ボクのあげられるもの、全てをあげます。力も、お金も、愛も」
「え……っ、聞いて……?」
「世界でいちばん幸せな、お姫さまにしてあげます」
「聞いてくれーーーーーー!!!!」
「お返事は、イエスでお願いします」
「丁重にお断りしますーーーー!!」
とりあえず大きな音を立てよう。
そうすれば誰か助けに来てくれるかもしれない。
バタバタバタと足を鳴らして地面を蹴り蹴りしてみるけれど、手は離れないし、人は来ないし、疲れてきた。
「もう、やだああああああああ!!!!」
腹に力を入れた魂の叫びは、マホちゃんに通じたらしい。
「あ……」
「え……」
唐突に、手の拘束が解かれる。
私は全力で後ろに力を入れていた。
びょんと持ち上がった身体を支える術なんて無くて、目の前がぐらりと揺れる。
こういう時って、本当に景色がゆっくり見えるんだ。
感心する私を他所に、マホちゃんの声が聞こえる。
「甘南、ユズリ……」
えらく真剣な声だった。
それは良い。どうでも、良い。
魂の叫びは、どうやら伝わった訳ではなかったらしい。
私の身体はゆっくりゆっくり流れるように後ろへ倒れ……というよりは、尻をしたたか打ち付け、そのまま頭がぐらりと後ろへ揺れる。
――暗転。




