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4.そしてそれが貴方です





「ボク、」


 ――ボク?

 一体何のことだろうと暫くぼんやり考えて、自分の事かと思い至る。

 一人称として、使っているんだろう。

 ボクっこって、漫画の中だけの存在だと思っていた。

 けれど、背の低い、髪の短いその子が言うなら、なんだかこれ以上にないくらいぴったりな一人称な気もする。

 長い前髪のせいで全体がはっきりと見えるわけじゃないけれど、その子はとても整った顔をしていて、漫画の中から出てきましたと言われても頷いてしまうかもしれない。



「転生者なんです」



 ――いや、今のやっぱ無しで……!!

 無理無理キツい。何この子、甘南ユズリのお友達?!


 立ち上がって逃げようとした私の手を、その子はがっしりと握る。

 逃がさないとばかりに、真っ黒な瞳がきらりと光った気がした。


「逃げないで、聞いてください。後生ですから……」


 前半部分は食い付かんばかりの勢いだったのに、後半にかけては、目を潤ませて懇願するみたいに……。

 なんだか頭に垂れ下がった犬耳の幻覚が見えてしまって、手を振り解くのに躊躇してしまう。



「ボク、北都真帆(ほくとまほ)って言います。魔法の国から、来ました」



 マホだから魔法だなんて、そんな安直な……。

 物凄い勢いで心の距離が離れていくことに、北都真帆は気付いていないのか、気にしていないのか……。

 うん、多分後者だと思う。


 可哀想に、今にも涙が溢れてしまいそうなくらいに目を潤ませて、北都真帆は言葉を続ける。


「可笑しな事を言っているのは、わかっています」

「あ、わかってるんだ」

「わかってるんです」


 わかってるみたいです。

 思わず口を出してしまったけれど、可笑しいと分かっているのであれば、甘南ナニガシよりもよっぽどマシだ。

 つまりこれは、一緒に遊ぶ子この指とーまれー的なやつなのかもしれない。

 ナニガシはそれが過剰だったけれど、目の前の、マホちゃん? はまだ良識を心得ている。


「ボクの生まれ育った国は、魔法を扱う国です」

「あ、設定語り始まるんですね」

「始まります。ご清聴ください」

「わかりました」


 聞いた後に断ればいいんじゃないかな。

 強引にチューしてきたりしなさそうなので、私は取り敢えず、マホちゃんに倣って正座をする。

 廊下にいつまでも寝そべっているなんて良くないし。


 彼女の偉い所は、私が立ち上がろうとすると、手を離してくれる気遣いがある事だろう。

 立ち上がり、正座した私の手を改めて、小さな手で握ってきたので、このシーンは手を繋がないといけないんだなって事だけ理解出来た。


「ボクはその王国の王子として育ちました。ボクの国は生まれた時の性別に囚われない国なので、成人した時に性別を選べるんです」


 ああ、だから『ボク』なんですね。

 中々時代に配慮された設定で驚いてしまったけれど、つまり、彼女は彼で、男の子らしい。

 実際の性別は女の子だろうけれど、彼女――じゃなくて、彼がそう言うのであれば、それを尊重するべきなのかもしれない。


「ボクの国には、ずっと昔から敵対している国があります。その国は魔法を持たない国なのですが、スキルという特殊な力を授かって生まれる人が多くいます」

「なるほど」

「スキルは魔法のようなものなのですが、自然の摂理を超越します。原理を無視して炎を出したり」

「凄いですね」

「凄いんです」


 うんうんと頷いて見せる彼の表情は真剣そのものだった。

 私は変に聞き始めてしまったものだから、途中で中断させるのも悪い気がして、耳を傾ける。

 そろそろ、足痛くなってきたんだけど、いつこの話終わるんだろう。


「特別、勇者と呼ばれる者が強く力を発揮します。何でも出来ちゃうんです」

「何でも出来ちゃうんですね」

「そうです。そしてそれが貴方です」


 


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