間一髪の恐怖の瞬間
それから数ヵ月が過ぎ ――――
私達は、隣人同士という事が分かり、お互い呼び捨てし合うようになる中、祐斗からの出入りが多くなっていた。
ある日の朝 ――――
「ん……」
目を覚ます私の隣で寝ている後ろ姿の人影に気付く。
「えっ!? きゃああっ!」
「ん……うわぁぁっ!」
ドサッ
床に転ぶ人影。
「ってー」
「ゆ、祐斗ぉぉっ!? な、何してんの?」
「悪い……昨日……酔っ払ってたからな」
「合コン?」
「合コン」
「結局、参加したんだ。盛り上げ役として、キスとかしてきたんだ」
「キスとかって……Hしてないから、その発言はおかしいよ怜華」
バサッ
祐斗に布団を投げるように被せる。
「うわっ! 急に何?」
「洋服着て!」
祐斗は、パンツ1枚の姿。
私は目のやり場がなく布団を投げるように被せた。
「なあ、怜華」
「何?」
「出かけない?」
「えっ?」
「暇でしょう?」
「……それは……」
「じゃあ決定! 後で迎えに来る。嘉山 祐斗シャワー浴びてきまーす♪」
「………………」
そして ―――
「怜華ちゃーん、準備出来た?」
「うん」
私は部屋を出る。
スッと眼鏡を外される。
トクン
胸の奥が小さくノックした。
「祐斗?」
「眼鏡はいらない」
「えっ?」
「見えない訳じゃない事、知ってるし。俺も一緒だから怖い事ないと思うよ。それともかけとく?」
ドキン……
瞳の奥から見つめる優しい眼差しの祐斗に私の胸が小さくトキメく中、ざわつく。
「祐斗……」
「何?」
「祐斗は……どうしてそんなに優しいの?」
「えっ?」
「どうしてだろう? 私……祐斗に対しては疑問に思う事ばかりで……」
「疑問?」
「……私……男の人って苦手というか……怖いイメージしかないから……でも……祐斗は……初めて会った時から……何か違ったから……」
「……怜華……それは多分……俺が初めて会った時に怜華の異変に気付いたからだと思う」
「えっ?」
「俺が酔ってキスしようとした時、怜華がビビってる感じが分かったから」
「………………」
「この子まだ若いのに何かあったんだろうなぁ~って……それに……眼鏡の下の怜華は美人だから容姿を隠す理由あるんじゃないかって……」
「………………」
「さあ、出かけよう」
「うん……ねえ祐斗」
「何?」
「合コンの時、眼鏡拾うように頼んだ後、私の事……同席していた人から守ってくれた?」
「えっ?」
「あっ、いや……守ってくれたっていうか……私、顔伏せてたけどうまく理由付けて私を隠すようにしてくれた様な気がしたから」
「独り占めしたかったから」
「えっ!?」
「という、そんな理由もあるけど、眼鏡で小細工していたから隠す方が良いと思って」
≪やっぱり、そうだったんだ≫
とにかく私は出かけた。
ある日の夜 ―――
仕事から帰宅し疲れて、そのまま眠っている時、事件は起きた。
体に重みを感じ目を覚ます。
「ん……」
ビクッ
私の目の前に飛び込んだ人影があった。
「きゃ……」
口を塞がれた。
「んー、んー」
そして、耳元で言われる。
「静かにしな!」
ビクッ
体が強張る。
過去の出来事がフラッシュバックするように私は身動きが取れないでいた。
「玄関が少し開いていたからさぁ~」
「……………………」
スーツのブラウスのボタンが外されていく。
「気持ち良さそうに寝ているし……そそる格好してるから我慢出来なくて」
上半身が下着をしてるものの露になる。
「顔もスタイルも申し分ないし、良い身体してるし男が黙っている訳ないよなぁ~」
≪や、やだ……怖い……誰か……≫
怖くて逃げれない私は、されるがまま。
スカートの中に大きい手が伸び、ゆっくりと手が入っていく。
ピンポーン
部屋のインターホンが鳴った。
ビクッと驚く中、相手が一瞬怯んだ。
「怜華ーー、いるーー?」
≪祐斗……≫
私は抵抗し何とか玄関に向かう。
「祐斗ーーっ! 助け…………きゃあっ!」
グイッ ドサッ
もう少しの所で腕を掴まれ押し倒された。
「や、いやああっ! 離してっ! 辞め……」
ドンドンドン……
「怜華っ!? おいっ!! 怜華っ!!」
抵抗する私の足が偶然にも股間に当たり、私は鍵を開けた。
「怜華っ!」
「祐斗っ!」
その隙に犯人が逃げ出す。
「不法侵入者ぁぁぁ! 捕まえろぉぉっ!」
祐斗は、同じ階の住人に聞こえる声で叫んだ。
パサッ
私に洋服を羽織らせる。
「中に入ってな」
「………………」
頷くのに精一杯だった。
そんな中、一斉に同じ階のドアが開いたのか、階の廊下に何人かの揉み合いになる様な声が響いている中、少ししたら静かになった。
遠くからパトカーのサイレン音が聞こえて来る。
「………………」
そして、パトカーはマンションの前に止まり、犯人を乗せ、パトカーのサイレンは遠く鳴って行くのが分かった。
「怜華」
私は、ドアをゆっくり開け、ドアの隙間から顔をのぞかせる
「大丈夫?」
私は震える手をゆっくりと伸ばす。
祐斗は私の部屋に入り抱きしめる。
ビクッ
体が強張る。
「何もしないから」
「ゅ…う…と…ぉ………った……怖……かった……」
私は小さな子供みたいに泣き涙が次々に溢れてきた。
ぎゅうっっと抱きしめる祐斗。
「怜華、傍にいてやるから」
次の日 ―――――
私は小さな子供の様に恐怖と泣き疲れから祐斗に傍に見守られながらいつの間にか眠っていた。
目を覚ます私の目の前で、布団に顔を伏せて寝ている人影。
「えっ? 祐斗……? まさか……ずっと……傍に……?」
「ん……」
目を覚ます祐斗。
「………………」
「おはよう、怜華。大丈夫?」
「おはよう……うん……祐斗……ずっと傍にいてくれてたの?」
「あれだけ怯えてる姿見たら帰れないって」
「……祐斗……ありがとう……ごめん……」
スッと私の片頬に触れる祐斗。
トクン
胸の奥が小さくノックする。
「……祐……」
祐斗はキスをした。
ドキン
私の胸が大きく跳ねる。
「元気になる魔法。またな」
私の頭をポンとすると祐斗は私の部屋を後に出て行き始める。
「……祐……斗……」
「何?」
「………………」
私の両頬を優しく包み込む様に触れ優しい眼差しで見つめる祐斗。
ドキン
胸が大きく跳ねる。
私の心がざわつく様な、胸の奥に異変が起き始めていた。
「大丈夫。犯人は捕まったから」
「……うん……」
「……怜華……鍵だけはきちんと掛けときな。また、後で来る。傍にいてあげるから」
私は頷いた。