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ロードテール  作者: ooi
五章 門前雀羅
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プロローグ 未来に願いを、過去に怨嗟を、なら、今には何を……?

前回のあらすじ

・大和町駅前での戦いの少し前

 杉田 昴は、野球が好きだった。

 小さいころから野球選手になりたくて、地域の野球グループに所属したり、中学高校でも野球の新学校と呼ばれる場所に通い、そして、自分自身にも自信があった。


__二人に出会うまでは。


 高校に入って、野球部に所属し、二人の先輩に出会った。

 一人は、木原。カリスマ性と明るい性格で、部員全員を引っ張る、リーダーだった。実力もあり、打率は部内で常にトップを走っていた。

 もう一人は、卯月。実力もさることながら、戦略を組むことの上手い知将ともいえるような存在で、木原同様カリスマ性があった。


 その二人のうち、杉田は、卯月を心底尊敬していた。

 当然、実力はある。しかし、実力以上の努力と、勉強をしていることに気が付いたその時、彼の見え方は一変した。


 杉田はもともと、野球の理論はともかく、それ以外は必要ないと思っていた。歴史を学んだところでスイングがうまくなるわけでもなく、数学を真面目にしたところで部活動に割ける時間が減るだけ。そう思っていた。


 しかし、その考えは、卯月によって壊された。

 栄養学でのからだ作りは理論から整っているため効率が良く、他校のデータを分析して弱点を割り出せば、今まで格上と思えていた強豪校と競り合えるようになった。


 そして、杉田が心底驚いたのは、あまりにも地味と言えるその行動を、本当に楽しそうにやるところだった。

 裏方の作業も、練習も、勉強も。卯月はとにかく楽しそうにしていた。そして、勉強があまり得意でなかった部員たちに、わざわざ勉強会を開いたりと、野球部のために様々なことをしてくれた。


 だからこそ、杉田は、卯月を尊敬していた。


 __あの、事故が起きたときも。




 杉田を庇った卯月が、絶叫する。

 庇われていた杉田は、卯月の足がどうなっているかがありありと見えていた。エル字金具に押しつぶされ、おかしな方向に曲がったシューズ。出血し、じわりじわりと赤が滲むユニフォーム。


__何で……! 何でセンパイが……!


 気が狂いそうだった。

 助け出されたその後、そのまま救急車に運ばれていき、そして、数日後、顧問の先生から、あまりにも衝撃的な言葉を言われた。


「……卯月は、もう、歩けないかもしれない」


 その言葉を聞いたとき、杉田は、無言で涙を流していた。


 オレのせいで。オレがすぐに逃げなかったから。センパイは、野球人生を断たれた。


 軽傷の杉田は、その日にはもう退院し、卯月はしばらく入院が続いた。でも、心のどこかで思っていた。卯月は、センパイはきっと、野球部に復帰してくれると。……当然、そんなことはなかった。


 入院している卯月のお見舞いに行き、そして、杉田はまるですべてに絶望したような瞳の卯月を見て、何かが壊れる音を聞いた。

 何だったかは分からない。理想的だった卯月の先輩像が崩れたのかもしれない。あの瞳を見て、あまりにも儚い将来に絶望したのかもしれない。ただ、これだけは、確かだった。


__オレのせいで、センパイは、壊れた


 それを理解した瞬間、杉田の心はへし折れた。

 部員を引っ張る、卯月センパイがあんな風になるはずがない。あんな風になったのは、何のせいか。オレのせいだ。オレが、センパイの声を聞き逃して、足を止めてしまったから。


 罪悪感に押し殺され、杉田は一週間、引きこもりになった。一週間で済んだのは、車いすで卯月が杉田を外に引っ張り出したからに他ならない。

 リハビリ中の卯月が、杉田を引き出すために家に来た時、杉田はただひたすらに情けない思いにとらわれた。立ち直れたわけではない。ただ、自分がこんなことをしていても、センパイはどうにもならないと思いなおしたのだ。


 だからこそ、卯月が見れなかった、甲子園の舞台を見せるために。彼は、部活動を再開した。

 奇跡的な回復力で杖なしで歩けるようになった卯月が、最初に野球をしたメンバーの中に、杉田もいた。そして、卯月の、嬉しそうな、しかし、確かに違和感を覚えたその表情を見たのも、彼だけだった。


 やがて、卯月は大学に合格し、そして、黒の門が開いた。

 トップバッターと言う存在を見たとき、杉田はまず、卯月のことを思い出した。もちろん、見た目が似ていたということではない。ただ、連想でそう思ったのだ。


「無理すんなよ。俺ももう無理はしない」


 あの言葉を聞いて、杉田はただ困惑した。

 単純に、怪我しない程度に頑張れ、と言う激励にも聞こえた。だが、杉田には、それだけには聞こえなかった。


 杉田は知っていた。卯月が、諦めるという行動をたやすくとる人間ではないと。無理はしない、ということは、諦めるということではないということを。

 そして、察した。卯月には、まだ未練があることを。


 それを理解した時、杉田は、かすかな罪悪感とともに、確かな歓喜を覚えた。

 センパイはまだ、一緒に野球をやってくれる。一緒にいれるのだ、と。


 そうだ。間違っているのは、あんな事故が起きて、卯月が怪我するという運命のほうだ。間違っているのは、過去だ。


 そう考えるようになったのには、もちろん、現実逃避の意味合いもあっただろう。しかし、一番の要因は、『黒の門を壊した人間は、何でも願いを叶えることができる』という都市伝説だった。


 召喚士になれば願いの権利を手に入れることができるが、しかし、杉田はなれるとは思っていなかった。何せ、召喚士の人数は世界人口と比べれば圧倒的に少なく、割合として一パーセントにも満たされていないからだ。

 不可能を祈るよりは、実現できる方法、つまるところ、門の破壊の方に目を向けたのは、ある意味必然ともいえた。


 過去を書き換えるために。

 卯月が怪我をする過去をなくすために。


 杉田は願いを叶えるために、血のにじむような努力と、鍛錬と、勉強をした。その過程で、廃棄物の討伐の仕方を身につけ、戦略の立て方を学び、そして、【自由派】との接触に成功した。


 存外落胆したのは、自由派の人間が、どうしようもないことに願いを使っていたことだった。例えば、トップであるマサの側近、ユキは、カードの借金の返済のために願いの権利を使っていた。周囲の人間も似たり寄ったりで、金か女か名誉のどれかである。


 あまりにつまらない。あまりに幼稚。

 願いを叶えた暁にはさっさとこんな組織を抜けようと思い、廃棄物処理と鍛錬に明け暮れていたある日、杉田の前に、天使が現れた。


「はじめまして、ボクはアザエル。君、人間なのにそれなりに廃棄物処理をしているから、召喚士にしてあげるよ!」


 あの言葉を言われたときの喜びは、かつてないものがあった。

 これで、卯月センパイを救える。過去を変えられる。


 そう思って召喚術式を起動し、形槍を呼び出してしまったときの絶望。


「……男?! えっ?! 男じゃん!!」


 彼自身の願いは、自分のタイプの女と出会うことである。つまり、召喚する人間がそのタイプの女だろうと思っていた形槍は、当然パニックになって、杉田を攻撃してきたのだ。

 召喚した武器で何とか対応したのだが、大鎌など扱ったことも無い杉田は、あっという間に窮地に追い込まれた。

 卯月の過去を変えるまでは、死ぬわけにはいかない。死にたくない。


 そうして、杉田は、願いを行使して形槍を己のパートナーにした。




 形槍は、それなりに話が分かる人間だった。

 時々意味不明なことを言ったりするものの、彼曰く未来などどうでもいいらしく、今をそれなりに好き勝手にできればいいとのこと。


 莫大な力を持ちながら、その責任を一ミリたりとも負おうとはしないその態度に、杉田は多少の反発と、そして、圧倒的な実力を前に、どこか納得をするしかなかった。


「なあ、主。お前さんの願いって、何なんだ?」

「……それは、オレがお前を抑えるために願いを使ったことへの嫌味か?」


 かつて使っていた百均の包丁を改造して作った槍よりも、武器として性能のいい大鎌になれるため、形槍を連れて何度目かの廃棄物討伐に繰り出したその夜。

 野郎の下につくこととなり不貞腐れていた形槍が、ふとワーウルフの首を撥ね飛ばした杉田に聞いた。


 杉田の言葉に、形槍は小さく肩をすくめると言う。


「いや、そうじゃあないさ。お前さん、門を壊したいだのなんだの言っていただろう? 俺はアンタが自分の利益を求めぬ英雄には見えねえからな」

「なんだ、そのことか。……ちょっと過去を変えるだけだ」

「過去ぉ?」


 鎌についた血をぬぐいながら、杉田は言う。

 眉を顰める形槍に、彼は淡々と鎌を磨き上げ、ローブを深くかぶりなおす。


「どうせお前のことだ。オレの過去は見たのだろう?」

「ん? 見てねぇけど?」


 銀の槍を首の後ろに回し、あっさりと言う形槍。杉田は表情をひきつらせた。


「……はぁっ、何で?! お前の能力って、過去を見る能力だよな?!」

「何でって……俺は別に、野郎の過去なんて一ミリも興味が無いからな。あと、別の能力使っている間は過去を見れるわけじゃあないし。

 でもまあ、おおよそ予想はできるぜ? あのバカどもみたいに適当なことに願いを使わないあたり、それなりの理由があるんだろ? __まあ、俺にとっちゃどうでもいいけどな」


 とげとげしい言い方をする形槍。

 杉田が不在の間に自由派の拠点にいる女に手を出されても癪だったため、無理やり狩りに連れ出したのだ。戦う予定もないのに外に連れ出され、しかも一緒にいるのは野郎となれば、女好きな形槍の機嫌が悪くなるのは仕方がないことだった。


 杉田は肩をすくめると、死体から魔石を抜き取り、そして、ワーウルフの犬歯を抜く。なんでも、自由派の連中ではワーウルフやワイバーンなどの牙でアクセサリーを作って身につけるのが流行であるらしい。

 正直、所属と召喚士であることを当時にばらすだけで一切得も何もなさそうな行為ではあるが、材料となる牙や鱗はそれなりの値段で買い取ってもらえるため、杉田はありがたくその流行に乗っかっていた。


 なお、彼が金策に走る理由として、上納金の確保という理由がある。

 ただでさえ、形槍と言う星5のパートナーを得ている彼は、重用と同時に嫉妬の視線も得ていた。一応、彼等に身元は割れてしまっているため、抜けるにしても叩きのめすにしても、リスクが高い。そのため、上納金で誰よりも金を納めることで、その文句をかき消していた。


 さて、形槍の言葉に、杉田は特に何も反応を返さない。

 そのかわり、彼の持っている槍に手の甲を当て、そのまま引いた。


「げっ?!」


 驚く形槍。杉田の手の甲からは薄く一本、赤の線が引かれて、その線はやがてどろりとこぼれ始めた。

 杉田はさっさと手当てをしながら、形槍に言う。


「説明するのも面倒だ。これで大体わかるだろ」

「……お前さん、正気か? 俺の見る過去は、槍で穿った者のすべてだぞ?」


 紫の目を丸くし、形槍はひきつった表情で聞く。しかし、杉田はあっさりと言った。


「オレは過去に何ら恥じるようなことはしていない。……センパイの未来が消された、あの事故を除いてな」


 堂々たる態度の、彼。

 形槍は、茫然とするしかなかった。


 七武器の友人たち以外に、進んで過去を見られたがるものなどいなかったのだ。ヒトは誰しも隠したい過去を持つものである。形槍の能力は、その過去を暴き、そして、そこから学ぶ(ぬすむ)ものだ。

 つまり、自分にオリジナリティはなく、あくまで他人の(かこ)を模倣する存在。それが、形槍であった。そうであると、自覚していた。


 茫然としている形槍に、杉田は首をかしげる。


「……もしかして、見えていなかったか?」

「いや、見えていた。……ちなみに、センパイに対して俺にするのと全く違う口調なのは?」

「……? 何でお前に敬語を使わないといけないんだ?」

「うっわ、腹立つぅ! ってか、アレがお前の敬語かよ!」


 形槍はそう言うと、腹を抱えて笑い出す。

 馬鹿馬鹿しくなってきたのだ。無駄に彼を警戒していたことも、無駄に自分に嫌悪感を抱いていたのも。


 ほかの七武器が、うらやましかった。

 何せ、彼等の能力は、己のように模倣ではなく【オリジナル】なのだ。あくまで猿真似しかできない己が、彼等と比べて劣っているように見えていたのだ。


 だからこそ、国はつくらなかった。そして、世界を目的もなく放浪することを選んだ。人は、寿命のない己とは異なり、百年もたてば世代交代する。だからこそ、忘却によって己の実力のなさが露呈しないよう、劣等感から逃げるよう、彼はあてもなく、居着くところもなく、旅をしていたのだ。


 だが、彼は違った。

 己に恥じることはないと、過去をさらけ出した。あまりにもあっさりと、特に必要もない場面であるにも拘らず。

 ついでに、今のタイプの女性像に、後輩をしている彼が当てはまったところも笑いのツボの一つであった。


 過呼吸になる寸前まで大笑いし、形槍は言う。


「__まあ、協力してやらんことも無いな。その代わり、お前の姉さんを紹介してくれるか?」

「……! 誰がお前みたいな下半身野郎に身内を紹介するか!」

「下半身野郎だと?! メンヘラ後輩野郎だけには言われたくないっての!」

「誰がメンヘラだ、タダ飯食らい!」


 姉の存在がこの男にバレたのだけは、過去を明かした欠点だったかもしれない。杉田はそう思いながらも、鍛錬を重ね、そして、門を破壊したあの日にたどり着く。


 ただ、彼は、過去を変えるために。

 尊敬する、卯月(センパイ)を救うために。願いを、欲していた。



 そして、その力(願いの権利)は、手に入った。

杉田(すぎた) (すばる)


年齢:17歳 性別:男

身体特徴:ワンコじみた笑顔が可愛い後輩

特技:野球、戦闘

趣味:なし

備考:【形槍】のマモンの主。己の願いのためには、基本的に手段は択ばない。気に入らない人間には辛辣





誰も知らない秘密:実のところ、乙女ゲームならバットエンド多数確定のえげつないヤンデレ気質

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