22話 終戦と正体と
前回のあらすじ
・絵画世界で観戦中の創剣たち
・卯月が形槍に不意打ち
形槍を抑える卯月。
その間に、浅井とメフィストフェレスはローブの男の方へと駆け寄っていた。
群がる廃棄物を処理しながら、浅井はロータリーをかける。
そして、ゆっくりと黒を吐き出し終えたのか、締まりゆく黒の門に立つローブの男に追いついた。
「……邪魔をするな。オレには、叶えなきゃいけない願いがある」
「……悪いけど、私も譲れはしない」
まるで死神の鎌のような大鎌を構える男に、浅井も拳銃を向ける。双方引く気はかけらもない。
浅井の目と、男の死んだ目がかち合う。
「お嬢様、周りの廃棄物どもはお任せくださいませ!」
「頼むわ、私の執事」
浅井はそう言うと、魔術を展開する。執事は不敵に微笑むと、黒色の傘を構え、とびかかってきたワーウルフを蹴散らす。
浅井は男の足を狙って拳銃の引き金を引く。
当然のように男は鎌を盾にして銃撃を防ぎ、逆にカウンターで浅井に切りかかる。
振りかぶられた鎌。浅井は男から距離をとってその一撃を避けた。
大鎌はアスファルトをたやすく破壊し、道路に大きな亀裂を作り出す。薄く発光したところから、魔力撃の効果が出ていることを把握した。
「【エネルギーボルト】!」
「っ!」
反射的に魔術を行使した浅井。男は身を逸らしてその魔法を回避し、そして、追尾していることに気が付くと、魔法を鎌で切り払う。
光の粒子に変わってかき消える魔術。浅井は小さく舌打ちをすると、攻撃の手と足を止めずに拳銃に手をかける。
しかし、近距離で拳銃を使おうにも、上手くいくはずがなく。
一発目を空へ打ち上げてしまい、二発目は男に回避される。そして、三発目を撃とうとしたときには既に肉薄されており、横なぎに振り抜かれた鎌の回避に徹するほかなかった。
__対人戦は、やっぱり、正面から戦うものじゃあないわね……!
絶望的な体格差に歯噛みをしつつ、浅井は冷静に男を観察する。
身長はそれなりに高い。おおよそ卯月と変わらないかもしれない。あれだけ大きな鎌を振り回せているあたり、見た目以上に筋肉質なのかもしれない。形槍の言葉から、彼がパートナーではなく人間であることは判明している。
おおよそ彼は、卯月と同じように、頻繁に廃棄物と戦ってきたのだろう。振るう鎌に迷いはなく、そして、自傷するような振り方を決してしていない。
剣よりも間合いがとりにくく、拳のように素直な動きをせず、銃のように対策ができるものではなく、そして、傘よりも刃がある分危険度が高く。浅井が今まで対策し、訓練をして来たものと大きく異なる武器に、彼女はとにかく警戒の糸を張り詰め続けることしかできない。
短く息を吐きながら、浅井は拳銃の引き金を引く。狙いは、足。とにかく、接近だけは防がなくては行けなかった。
当然のように回避する男。そして、刃の付いていない鎌の背を前に突き出し、浅井の頭を突き飛ばす。
「……!」
「お嬢様!!」
無防備に攻撃を受け、ふらつく浅井。
追撃しようとする男に、メフィストフェレスは傘を投げる。
大きく後方に跳躍し、回避する男。ちょうど男の居た場所に、黒の傘は突き刺さった。
「【アースヒール】……大丈夫よ、メフィストフェレス!」
距離が取れたことで、頭部の治癒を終えた浅井。執事はそれを目線だけで確認すると、駆け寄って傘を引き抜き、浅井の前衛に立つ。
「梅雨払いはそろそろこれくらいでよいでしょう。お嬢様は門の破壊を」
「……頼むわ、執事__【テレポート】!」
「?!」
ローブの男はひきつった顔で門の目前まで移動した浅井を見る。魔法で男を追い抜いたのだ。
当然、駆け寄り、止めようとする男。しかし、それは執事によって阻止される。
振り下ろされた傘を大鎌で受け止める。鈍い音が響き、執事はニタリとした表情を浮かべて言う。
「お嬢様には手出しさせませんとも」
「チィッ!」
舌打ちをするローブの男。そうこうしている間に、浅井は足を踏み出し……
そして、左太ももに、銀色が貫通した。
「……あっ」
思わず声を上げる浅井。
そして、彼女はその場に倒れた。
空気が、凍り付く。
卯月によって左わき腹を殴打されながらも、槍を投擲した形槍。彼は瞳の色を銀に変えてから卯月の腹部に掌底。卯月は、小さくうめき声を上げながら形槍と距離をとることになる。
慌てて槍を抜こうとするが、痛みと出血のパニックで、上手く手が動かせない。それ以前に、抜こうとしても力が足りない。
「くっそ、主ィ! 女の子は傷つけたくないって言っただろうが!」
「……本当に悪い、形槍!」
卯月と戦闘しながら怒鳴る形槍に謝罪をし、門の方へと駆け出すローブの男。執事は既に魔術を完成させ、浅井のもとにテレポートしていた。
「お嬢様……!」
「っああああああああああ!」
脂汗を額に浮かべ、苦悶の表情を浮かべる浅井。ワンテンポ遅れてやってきた激痛に、浅井は足を抑えて絶叫する。
肉を貫通しただけではない。骨をへし折り、脚を貫通したのだ。神経も寸断されているであろうことは簡単に想像できた。
痛みで揺らぐ思考に、浅井はろくに魔術を組むことができない。
悪魔は表情をひきつらせる。このままだと、彼女は出血多量で死ぬ。執事は慌てて浅井に聞く。
「口を閉じてください!」
「……!」
涙を流すことすらできず、浅井は服の端に食らいつき、覚悟を決める。
執事は、浅井の足をしっかりとつかんで、槍を引き抜く。血で濡れた銀の槍が地面に高い金属音を立てて転がり、同時に血が噴き出す。
「【アースヒール】、お嬢様、気をしっかり保って!」
「………!」
埋まる傷口。しかし、失った血液までは戻らないのか、浅井の顔色は悪く、瞳の焦点も合ってはいなかった。アースヒールは神に祈らなくていいが、しかし、即自的な癒しをあたえることはできないのだ。
皮膚が波打ち、ゆっくりともとに戻っていく足。当然、傷は神経に達しているため、激痛はそのままである。
服の端を噛みしめ、ただひたすら脚が治るのを待つ。
その間に、ローブの男は門へと歩み寄ると、黒の扉に手を付ける。
そして、そっと笑みを浮かべると、言う。
「__これで、センパイを助けられる……」
「とっとと壊せ、主さんよ!」
「わかっている、形槍。オレは、この門を壊したい!」
ローブの男の宣言とともに、突然、黒の門の気迫が消える。そして、まばゆい光が黒の門を包み込んだかと思うと、黒の塵に変わり、崩れ落ちる。
黒の塵もやがて空気に溶け込み、完全に黒の門が消えるころには、もはや駅前のロータリーにあんな門があったとは思えないように、きれいさっぱり元通りになった。
破壊された門に、浅井は執事に抱えられながら、激しく咳き込む。血液が足りず、寒気すらも感じていた。
形槍は瞳の色をピンクに変え、短く呪文を詠唱すると、手元に銀の槍を呼び戻す。そして、ローブの男に聞く。
「で、どうする?」
「……センパイのところに、このまま行こう。それで、過去をやり直す」
「……?」
ふと、卯月は彼の声に聞き覚えを感じた。
センパイ、の呼び方。低いと言い切れないその声。
突然、突風が吹いた。
驚く卯月たち。空を見上げれば、自衛隊所属の召喚士がまるでプテラノドンのようなパートナーに騎乗して、ロータリーに侵入していた。あのパートナーの羽ばたきが、この突風を生んだらしい。
浅井の結界は、槍が足に刺さったところで切れてしまっていたのだ。
突風にあおられ、ローブの男のフードが取れる。
卯月は、思わず目を丸くした。
男は、恍惚とした表情を浮かべ、独り言を吐く。
「大丈夫っス、センパイ。オレが、センパイの過去を、書き換えるッスから」
__何で……!
そこにいたのは、
「センパイは、あんな事故で未来を失う必要なんてなかったっス。間違っているのは、今だ……!」
その瞳に狂気を宿し、しかし、確かな決意と安堵の含まれた表情を浮かべるその男。彼は、彼の名は__
「杉田 昴……!!」
卯月は絞り出すような声で言う。
そこにいたのは、大鎌を持ち、ローブを纏った野球部の元後輩、杉田 昴だった。
【終戦_戦闘結果】
貢献度一位:杉田 昴 (パートナー 【形槍】のマモン)
貢献度二位:浅井 冬美 (パートナー メフィストフェレス)
以下 大差なし




