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ロードテール  作者: ooi
四章 門外漢
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21話 槍と絵画世界と接戦と

前回のあらすじ

・卯月君前線に出る

・大谷&飯田が撤退

 絵画世界に撤退した大谷と飯田は、先に来ていた創剣を見て目を丸くする。


「飯田と言ったか。貴様、俺様の背中に刺さっている矢を抜いてくれぬか?」

「……あっ、はい……えっ、何で生きているんだ?」


 背もたれのない椅子に座っている創剣。

 鎧すらも貫通し、背中から胸にかけて突き刺さった矢に、飯田は困惑を隠せない。そして、それを気にも留めずに絵画世界に避難できたゴブリンたちに説明と指示をしている創剣に、もはや理解すらできなかった。


 飯田の肩を借り、体を引きずるようにして歩く大谷は、咳き込みながらも口を開く。


「……七武器に、人間の常識、当てはまらない」

「小鬼、怪我人には先ほど渡した桶の水を使え__そうさな。俺様も正直、ここまでの深手を負うとは思っておらんかった。存外、この世界の人間も良くやるものだな」


 肩をすくめて言う創剣は、飯田に背中を見せると、さっさと矢を抜けと横暴な視線で訴える。

 飯田は少し悩んだ後、矢に手をかけ、思い切って引き抜く。ぐちゃりと生々しい感触にうめき声を上げながら、飯田は血の付いた矢を地面に捨てた。


 矢が抜けた創剣は、軽く体を動かすと、虚空から短剣を取り出し、飯田の肩に寄りかかっていた大谷の首根っこをつかみ上げると、小さく詠唱する。


「【完全回復】……ふむ、これでよかろう、拳の弟子」

「俺は、弟子じゃない……ありがとう、創剣様」


 全回復した体に、完全に元通りになった腕を見て、大谷は言う。流石に魔力不足まではどうにもできなかったのか、ふらふらと描かれた椅子に座り込み、深く息を吐く。


 飯田はあたりを見回して、口を開いた。


「これ、凄いですね。この屋敷、全部絵ですか?」


 大谷たちがたどり着いたのは、広々とした宮殿のような場所。そこは一面大理石でできており、壁にはタペストリーが、床には真っ赤な絨毯が敷かれている。今大谷たちがいるのは、エントランスホールらしく、入り口のドアが大きな鏡に置き換わっていた。


 虚空の倉庫からボトルのワインを取り出しつつ、創剣は言う。


「無論だ。絵画世界だからな。ああ、食事はとらぬ方がいいぞ。正体を知っていると、絵の具の味しかせぬ」

「何か食ったのか」


 呆れる飯田に、創剣は肩をすくめる。

 そして、倉庫から取り出したワイングラスにワインを注ぎながら、思い出したようにそばに飾ってあった鏡を指さす。


「あの阿呆はもう次の戦場に移動した。が、貴様らは行くだけ無駄であろう。おとなしく見ているがいい」

「……創剣様は、行かないのか?」


 魔力不足でふらつく頭を抱えながら質問する大谷に、創剣は短く答える。


「俺様は行かぬ。加減を知っている造斧ならまだしも、何の配慮もなく形槍と戦えば、それこそ大和町が地図からなくなりかねん」

「……結構揺れていたけど、あれでも配慮していたの?」

「当たり前だろうが阿呆。本気を出すならそもそも結界など張らぬわ」


 あっさりと言う創剣。

 一応、形槍は本契約(ひもつき)であるらしいが、結局戦うとなると法による制限がない以上、事実上どれだけ地形を変えるような戦いもできるということになる。卯月の法を順守しなければならない創剣は不利でしかないのだ。


 鏡の奥に映るのは、浅井の魔法によって隔絶された駅前のロータリーの様子。鏡はどうやら、駅前にある美容室の鏡であるらしい。

 創剣は行儀悪く足を組むと、鏡を見物する。


「貴様らも見ておくといい。あやつはどうしようもない阿呆だが、確かに平凡たる英雄よ」

「……平凡な英雄って、矛盾してないですか?」

「黙れ阿呆」


 口を挟む飯田に創剣は短く言う。

 創剣と二人は、鏡ごしに戦いを見守る。





 絵画世界越しに結界を超えた卯月が見たのは、魔法と銃を交互に使い、廃棄物を処理していく浅井とメフィストフェレス。退屈そうにその場に座り込んでいる形槍、そして、あふれ出る黒の波を前に大鎌を振り回して戦うローブの男。


__えっと、何? 協力できているのかこれ?


 卯月は困惑しながらも足を踏み出そうとしたとの時。


「んぁっ?!」

「……?!」


 困惑しているのか、間抜けな声を上げながら槍を投げた形槍。反射的に金属バットで撃ち落とし、そのはずみに大きな音をたてた卯月。

 赤色の瞳の形槍は、困惑したように卯月を見て、口を開く。


「……え? いつ来た?」

「……。」


 卯月は頭を抱える。何が起きたかはわからないが、とにかく、彼は敵であるらしい。ロータリーのアスファルトの道路をたやすく貫いた槍を横目に、卯月はバットを構えた。


 そんな卯月に、浅井は言う。


「大丈夫です、トップバッターさん! 彼は門に近づきさえしなければ、攻撃しません! しないはずです!」

「確定ではないのか」

「残念ながら、確定ではないです」


 浅井はそう言いながらも魔法を多重展開し、空に飛びあがったワイバーンを地面に叩き落としては拳銃でとどめを刺す。

 正直、遠距離の攻撃手段に乏しい卯月には、どうしようもない戦況だった。卯月は、少し悩んだ後、足元に突き刺さった槍を見て、考えを変える。


「……」

「……お? やっと仕事か?」


 足を一歩前に踏み出した卯月に、形槍は口元に笑みを浮かべる。七武器特有の、人間以上の存在を目の当たりにしたような気迫を一身に感じつつ、卯月は足を止めずに歩き、突き刺さった槍を抜くと、持ち手を形槍に向ける。


「……浅井、先に行ってくれ」

「……?! ダメです、トップバッターさん!」


 ぎょっとした表情で卯月を見る浅井に、卯月は気にせず立ち上がった形槍に銀の槍を返す。形槍は、少し意外そうに言う。


「何だ、お前さん、話せたのか」

「声と音を出すと、魔道具の効果が切れるからな。効率の問題だ」

「へぇ、うちの主と妙に似てるな。合理性だの、論理性だの、モラルだの。結局、そんなのあくまで建前に過ぎねぇのに」


 銀の槍の柄を手に取った形槍は、ちらりと門の方へと移動する浅井を見逃しながら、退屈そうに言う。どうやら、卯月の足止めをすることで、浅井の移動に目こぼしをしているらしい。


 軽薄ながらも剣呑な気配を漂わせる形槍の言葉。

 卯月は足を止めずに前へと進みながら、言う。


「……お前が何を言いたいのかは知らない。だけどまあ、これだけは言えそうだ。__俺の彼女に近づけたい男ではないな」

「えっ、マジで? お前さん、彼女いるの? 紹介してくれない?」

「くたばれクズ」

「あー、それよく言われる」


 形槍の言葉が終わるとほぼ同時に、二人の得物ぶつかり合い、火花が散る。


「誰がクズだ!」

「てめえだクズ野郎! お前の女癖の悪さは創剣から聞いてんだよ!」


 交差した槍の穂先と、金属バット。当然、性能の差で金属バットがえぐれ、削れるが、気にすることなく卯月は槍との競り合いに持ち込んだ。どうせバットはそのうち直るのだ。


 数度の打ち合いの後、形槍は卯月の腹部を狙って槍を突き出す。身をよじって急所からは逸らすが、流石に回避しきることができず、わき腹を穂先が薄く切り裂く。


「ぐっ……!」


 小さく悲鳴を上げながらも、卯月は形槍に肉薄し、そのまま顎下から拳を突き上げる。


「がっ……!」


 顎下からのアッパーがクリティカルヒットした形槍は、うめき声をあげて距離をとる。パッと見た限り、卯月と形槍の実力には、さほど差が無いように見えていた。


 それもそうだ。形槍の純粋な戦闘力は、あくまでも一般的な人間の平均少し上程度しかないのだから。体も、勝手に怪我の治る創剣や、そもそも皮膚やら何やらが固すぎて傷つけることすらできない匠拳とは異なり、耐久地は比較的人間に近い。

 しかし、それでも形槍は創剣同様不死身であり、そして、人知を超えた力を持っている。


__一撃とられた……!


 ジワリと赤のにじむ脇腹に、卯月は表情を歪める。

 形槍の能力は、創剣に聞いていた。彼の能力は、本来たった一つ。しかし、その対策はできていた。


「……?」


 卯月の血の付いた穂先を見て、首をかしげる形槍。

 そんな彼に、卯月は言う。


「能力は、創剣に聞いた。だから、対策は立てさせてもらった!」

「えー? 俺の能力、対策とかとれそうなことあるか?」


 首をかしげる形槍。だがしかし、すぐに「ま、いいか」とつぶやくと、槍をふるう。卯月はその槍をバットで防ぎ、カウンターを狙う。


 形槍の能力は、創剣や匠拳のように、直接人を殺すことができるようなものではない。むしろ、造斧の能力の対偶と言ってもいいような能力である。


「【バイタリティ】、【ヘイスト】……トップバッター様、ワタクシが援護いたしましょう」

「助かった、メフィストフェレス!」


 強化魔法をその身に受け、体力と速度を上げた卯月は、そのまま形槍に攻勢を続ける。形槍は、小さく舌打ちをすると、その瞳の色を変化させた。


 瞳の色は、氷のような青色。日令の効果でうっすらと赤が交じっているが、しかしてその瞳は、卯月も良く見覚えがあった。


魔術付与(エンチャント)【魔力撃】」


 突然、過剰魔力の発光が銀の槍を包み込んだかと思えば、一撃一撃が強烈な重さを帯びる。


「うぐ……!」


 甲高い金属音とともにバットを取り落とした卯月は、首を狙って突き出された槍を地面を転がって避け、直撃だけは絶対にしないようにする。魔力撃など、魔法に対して何の耐性も持っていない卯月が食らえば、体がばらばらになるだけでは済まないのだ。


「……その能力、創剣のものだな……!」

「ああ、まあ、そうだな。なんだかんだ言って、同じバフでも匠拳の練技を使うよりも創剣の魔術付与を借りるほうがコスパいいんだよ。魔力を回すのが槍だけで済むからな__お前さんの過去が見れなかったのは気がかりだがな」


 あっさりと言う形槍。

 形槍の能力は、『槍で攻撃したものの過去を見ることができる』というものである。事実上、過去の追体験ができるということで、七武器の過去を知る形槍はほかの六人の能力の疑似再現ができるのだ。

 ただし、創剣曰くほかの七武器の能力を再現しているときには、同時に別の能力を再現することはできないらしい。そして、形槍本来の能力も行使することができないということだった。


 正直、卯月自身は自分の過去を知られるわけにはいかない。自由派に己の正体がバレれば、どうなるかは想像に難くない。


 威力が重くなった一撃一撃をできるだけ回避と受け流しでこらえながら、卯月は足を踏み込み、次の一撃を狙う。

 死ぬ気はない。勝てる見込みも多分ない。ただ、浅井の道を、守りたかった。


「っ悪いが、俺はお前の主とやらの願いは知らない。どうせなら、あの子の願いを、望みを叶えるために命張りたいんでな!」

「っへえ?! そうかよ! 正義の味方気取りか?!」


 ついに、魔力のこもった一撃に耐えきることのできなかった金属バットが爆ぜる。薄く頬を切り裂いた風圧に、冷や汗をかきながら、卯月はバットを放り捨てて形槍の腹に拳をたたき込む。

 剣聖のように鎧をまとっていない彼の腹部は、筋肉の分厚い装甲こそあったものの、効果は十分にあったらしい。小さくうめき声を上げる形槍に、卯月は追撃を加えようと体勢を整える。


 しかし、瞳の色が黒に変わったかと思うと、まるで見切っていたかのように卯月の回し蹴りを躱し、そして、片足の状態になった卯月の足を槍の柄で払う。


「うっ……!」


 地面に手を突き、側転気味に体を宙返りさせ、形槍から距離をとる。


 早い話をしてしまえば、形槍はほかの七武器に対し、圧倒的に有利であり、かつ不利であった。

 人知を超えた能力は使えども、その能力が持ち主を超えることはなく、過去をなぞることしかできない形槍には、せいぜい組み合わせと使い方をいじる程度の自由しかない。


 ひりつく足。破壊された武器に、魔法の支援はあるとはいえ、基本的にはこちらへ来る廃棄物たちを退治しているメフィストフェレスからの援護は期待できない。


 卯月は、奥歯を噛みしめてから、形槍に言い返す。


「俺みたいなやつが、正義の味方なわけないだろうが! 正義ってのは、ルールに従って初めて名乗れる存在だ! 法を破っている俺に、正義はない!」

「……ハァ?! だったら何で、てめえは他人の願い何て助けようとしているんだよ!」


 怒鳴る形槍の瞳の色が、銀色、つまり、匠拳の色に変わる。

 動きに魔力の強化が加わり、速度と威力が累乗に変化する。己の死を錯覚しながら、卯月は槍の穂先を両手でつかんだ。


「?!」


 困惑する形槍。

 卯月の手のひらから、だらりと血がこぼれる。余剰魔力に手が焼かれ、酷い痛みを感じながら、卯月は形槍の目を睨む。


「俺は、俺の大切な物を守るだけだ。それ以外は知らない」

「……!」


 槍の主導権を取り返そうと力を籠める形槍。しかし、卯月と目が合い、一瞬体を硬直させてしまう。


「……傲慢だな。だが、その強欲、嫌いではない」

「……お前に好かれても普通に困るけどな」

「そう言うことじゃねえよ!!」


 力任せに槍を卯月から取り返し、そして、槍を振るう形槍。大振りになったそれをぎりぎりで避けた卯月は、直りかけのバットを()()()()、そして、その横っ面を殴打する。

 しかし、()()()()()()()()形槍は、その一撃を片手で受け止め、そして、死に体になった卯月の腹に槍を突き立てる。


 ぐちゃっ


 水が零れ落ちるような、鈍い音が響く。

 そして、卯月の鈍い悲鳴が響く。


 わき腹を貫通した、銀の槍。急所だけは避けたが、正直痛みでそれどころではない。

 形槍は、深くため息をつくと、卯月の腕をつかみ、槍を抜きはらう。

 地面に崩れ落ちた卯月。脇腹を両手で押さえども、あふれる赤はただ地面を濡らしていく。


「__悪いが、俺は今の主を応援したいんでな。アンタに恨みはかけらもないが、邪魔するなら死んでいてくれ」


 形槍はそう言うと、瞳の色をもとの紫に戻す。

 あれだけ威圧的だった魔力も引き、崩れ落ち、小さく痙攣する卯月だけが地面に残る。


「痛みは与えん。一撃で死なせてやる」


 槍を片手に、そう言う形槍。

 そして、宣言通り槍が振りかぶられ、地面にうずくまっていた卯月の心臓をあやまたず一撃で穿つ。

 あふれる赤。小さく上げられた断末魔。


 しかし、その形槍の表情は、次の瞬間凍り付いた。



「___この記憶……?!」






「くたばれ、クソ野郎!」

「がぁっ?!!」


 次の瞬間、無防備な状態の後頭部を直りかけの金属バットで殴られた形槍は、そのまま地面に転がる。そして、表情を引きつらせて言う。


「__アレは、絵か!」

「正解だ、形槍! 浅井の状態は鏡経由で見ていたからな! 画家に俺そっくりな絵を描いてもらった! 過去が読めなかったのは当たり前だ、だって、ついさっき描かれた絵だからな!」


 地面で痙攣している卯月を流し見ながら、本物の卯月は、後頭部から薄く出血している形槍を警戒する。

 薄影のお守りの効果で身を隠しながら、絵の卯月が戦っているところを見守り、そして、大きくできた隙を見計らい、彼を攻撃したのだ。

 当然、メフィストフェレスはとっくの昔に前線に出ている。


 卯月の姿をした絵画に持たせたのは、金属バットのみ。そして、メフィストフェレスがこっそりと本物に見えるように幻覚を魔法で重ね合わせ、絵画を本物の卯月のように戦わせていたのだ。


「なるほど、妙に無謀な動きをすると思ったが、よもやデコイだったとは……!」

「言っておくが、俺はあそこまで自殺志願者じゃない。大切なもののために命を投げ出すのはまあ仕方ないとしても、その大切なものすら守れないような戦い方をするつもりはかけらもないからな」


 卯月はそう言いながら、その場で足を止める。

 戦いの決着は、もはや目前であった。

【現在の戦況】

・飯田&大谷&創剣:絵画世界にてゴブリンたちの支援をしつつ、浅井たちの戦いを見守る

・卯月:画家に絵を描いてもらい、背後から形槍を奇襲

・浅井&メフィストフェレス:門破壊に王手

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