17話 局地戦と言うべきかチームワークが取れなかったと言うべきか(1)
前回のあらすじ
・創剣と造斧が出会う
・それぞれの戦いがばらばらな場所になり始めた
商店街の入り口からかなり離れた場所に強制転移させられた浅井と執事。
浅井は、結界をはるために多量の魔力を使ったため、ふらつく頭を押さえ、創剣から下賜してもらった宝剣を胸に抱く。じわじわと魔力が回復していくのを感じながら、今回の作戦用のスマホに手を伸ばした。
チャットアプリを見てみれば、卯月からの安否確認と戦闘開始のチャットが描きこまれていた。
「……不味いわね、さっさと門の前に戻るわよ!」
「かしこまりました、お嬢様」
魔力不足を短剣で無理やり回復させ、浅井はテレポートの術式を組み立てる。そして、動揺している自衛隊たちをよそに、門の手前まで即時の移動を行った。
結界の中は既に混乱状況であった。
突然見たこともない場所に現れることとなったゴブリンは困惑し、襲い掛かってくるスライムやコボルトに対抗するため、必死にもがいている。遠くに逃げようとしても結界が邪魔し、外に逃げることは叶わない。
そんな彼らに、逃げ道を示す者たちがいた。
『ハイハイ、コッチ、鏡二入ッテ!』
「うわっ、かじるなかじるな!」
「ちょっとまって、ひ弱な画家を何で戦場に投げ込もうと思ったのか、小一時間詰問してもいい?!」
笛を持った少年の声が高らかに響き、貴族や画家が安全地帯である絵画世界の入り口に案内する。その中には、創剣によく似た『森の王』もいた。
『森の王』は、装飾の多い剣で容赦なく廃棄物を切り殺していく。相模によって描かれた絵画ということもあり、見栄えはもちろん、その実力はなかなかのものだった。
画家の喉笛をかみ切ろうとしていたコボルトを両断し、『森の王』は油断なく前を見る。
「ごめん、王様! 助かった!」
「……構わぬ。貴様らと俺様の共存こそ、我が母君直々の願いだ」
「うわ出たマザコン」
「切り殺すぞ」
額に青筋を浮かべた『森の王』の言葉に、画家はわざとらしく悲鳴を上げ、手元のスケッチブックに筆を走らせる。
赤とオレンジの絵の具をぶちまけるようにして描き上げたその絵。画家はその紙をスケッチブックから切り離すと大声で警告する。
「でっかい炎行くぞ!」
『ゲッ……!』
慌てて逃げる笛を吹く少年。ゴブリンたちや絵画の住人たちがいなくなったのを確認してから、画家はその絵画を横なぎにふるう。次の瞬間、スケッチブックの紙面から、真っ赤な炎が噴き出してきた。
描かれた炎に巻き込まれた廃棄物たちは、絶叫を上げながらもだえ苦しむ。
「うぁっつぅ?!」
手元にまで火が舞い上がって来たのか、画家は紙を放り捨てながら悲鳴を上げる。なんとも恰好が付かない。
執事は冷静にその様を観察しながら、近くに飛んできた火の粉に触れる。手の上に舞い落ちた火の粉。絵画だと分かっていれば、何ら熱を感じることはなかった。
しかし、現に廃棄物たちは体を炭化させながらもだえ苦しんでいる。
「……多分、絵とわからない場合にのみ、効果があるのじゃないのかしら?」
描かれた炎に手をかざしながら言う浅井。画家の描いた絵は、それなりにリアルな炎に見えはするものの、しかして絵画であることは十分に理解できていたため、炎が浅井の腕を焼くことはなかった。
魔法と合わせて使うと便利そうだと思いながらも、浅井は拳銃で空に飛び立ったワイバーンの比翼を撃ち抜いた。重力によって地面に叩きつけられたワイバーンは、短く絶叫を上げると、そのまま首を妙な方向に曲げ命を失った。
応援の存在に気が付いた絵画たちは、手を振る。
『浅井チャン! 大丈夫カイ?』
「結界をはるのに少し魔力を使ったくらい。そっちに損傷は?」
『使オウト思ッテイタ鏡ガ一ツ壊サレタダケ!』
「わかったわ。匠拳のお弟子さんがまだ到着していないけれども、作戦を決行するわ」
『リョーカイ!』
高らかに返事をした笛を吹く少年に、浅井は軽く一礼すると、チャットに文字を書きこみ、そのまま拳銃に指をかける。
「行くわよ、メフィストフェレス」
「かしこまりました、お嬢様」
傘を構え、口元に不敵な笑みを浮かべる執事。勝利は、目前__
かのように、見えていた。
「そら、ショートカットってな」
燃えるような赤髪。輝く槍。自身に溢れるその瞳は、ピンク色だった。
その男の隣に控えているのは、黒色のローブと大きな鎌を持った男。彼は不機嫌そうに口を開くと、隣の男に言う。
「無駄口をたたくな、形槍__どうやら、先客がいたみたいだな?」
「あー、久しぶり、アザイちゃん」
軽薄という言葉をそのまま人型にしたような形槍に対し、黒色のローブの男はひりつくような殺気と冷たいまなざしが印象的であった。
ひらひらと手を振る形槍に舌打ちをしながら、執事は警戒を強める。黒色の大鎌を持った男ならともかく、形槍なら浅井と執事両方を瞬殺できるだけの実力があるのだ。
警戒する二人に対し、形槍は大笑いしながら『森の王』を指さして大爆笑する。
「マジか! 創剣? 創剣じゃねえよな? 誰?」
「……やかましいな。何だこいつは」
不愉快そうに眉を顰める『森の王』。もちろん、彼自身は相模によって生み出された絵画であるため、形槍とは初対面である。
形槍はゲラゲラと笑いながら、『森の王』に言う。
「えー、誰ー? お前さん、俺の知り合いに超似ているんだけど?」
「……貴様の知り合い……俺様のモデルは、【創剣】のルシファーという方だが?」
困惑したように口を開く『森の王』。
形槍は呼吸困難寸前まで笑い転げながら、口を開く。
「あ、なるほど、絵か。あいつ絵のモデルもやってのかよ、ウケる」
「言っておくが、俺様は母君に描いていただいた守護者だ。創剣と俺様を同一視しないでくれ」
「隣ならんだら見分けつかない自信あるわ。あー、笑った笑った」
「……絵が現実世界で動いていることに関しては、何も言わないのかお前」
黒ローブの男は、頭を抱えて形槍に言う。
形槍は肩をすくめると、「絵が動く板だってあるのだから、絵が立体になって動いていたっておかしくないだろ」と言うと、槍の柄を握る。
「で? お前さんは門を壊しに行かなくていいのか?」
「壊すに決まっているだろ。__日令を行使する。形槍、俺以外を門に近づかせるな」
行使された日令。
それに従い、形槍の紫の瞳が、赤く色づく。不敵な笑顔を浮かべた形槍は、軽く槍を手元で回すと、ニッと笑い言う。
「へいへい。なぁに、俺は存外、お前さんの過去と願いを気に入っている。協力はしてやるよ」
「……七武器が、本契約……?!」
驚く浅井。表情を引きつらせる執事。
命令の都合上、廃棄物から己を守ることはないだろうが、ローブの男は武器を持っている。歩き方からしても、それなりに戦えそうである。
「分が悪いですねェ……お嬢様、ワタクシに月令を」
「……いえ、まずは__」
拳銃を構え、容赦なく発砲する浅井。
反射的に大鎌で身を守るローブの男。しかし、魔力によって射出された鉛玉は、ローブの男のそばにいたスライムの魔石を撃ち抜いた。
困惑するローブの男は、やがて眼を丸くして、周囲を確認する。
しかし、それよりも先に、浅井の魔術が展開される。
「__廃棄物処理よ。敵を打ち払うは光の矢、【エネルギーボルト】!」
正確な魔力制御によって、あやまたず放たれた光の束は、空中で散開し、廃棄物のみを射抜いていく。
丁度、ローブの男を襲おうとしていたワイバーンの頭がはじけ飛び、そのまま男の方へと落ちていく。
「__チィッ!」
ローブの男は、盛大に舌打ちをしてから、空から落ちてきたワイバーンを鎌で両断する。血煙と鼻を突く匂いがあたりにまき散らされ、男は苦々しく眉をしかめた。
大鎌はかなりの切れ味であるらしい。ローブの男を観察していた執事は、浅井に向かって言う。
「お嬢様、あちらの方の鎌の付与は三つ、【復活】【重量無視】【魔力強化】でございます。あのローブも魔道具ですが、いくつ付与がなされているかまでは分かりませんでした。ですが、【防汚】は確実でしょう」
「……血が付いていないものね。魔力強化は鎌そのものを強化するモノかしら?」
「見たところ、所有者と鎌どちらにも効果があるようです」
「わかったわ。前衛は頼むわよ?」
「ワタクシ、得意なのは基本的に後衛か後ろから裏切ることですけどね」
肩をすくめて言う執事に、浅井は小さくため息をついて、黒色から生まれだしたコボルトの頭蓋に鉛玉をたたき込んだ。
門のそばに近づけるな、と言う命令を受けている形槍は、遠距離の攻撃手段で一歩たりとも門に近づかない二人に対し、攻撃できない。
「お前さん! 命令解除したほうが良くないか?!」
「構わない! オレも多少は廃棄物を討伐している! このまま門を壊せばどうあがいてもオレが貢献度一位だ!」
「んなこと言ったって、俺が何もできないんだよ!」
「__っ、悪いが、今は合理性を重要視してくれ!」
ローブの男はそう怒鳴ると、黒から現れたワイバーンの首を、大鎌で撥ね飛ばす。体の動かし方から、凄まじい鍛錬を積んできたことがよくわかった。
__強いな……
枯草を薙ぎ払うがごとく廃棄物を倒していくローブの男。浅井は油断なく拳銃を構えながら、そびえたつ黒の門を睨みつける。
戦いは、各地で始まっていた。
一番最初に戦闘を始めていた卯月は、パートナーたちを無視し、召喚士を中心に狙いを定め、戦闘を続行していた。
軽率に自衛隊に向けて発砲しようとしていた、赤色に髪を染めた男の腕をバットで叩き落し、腹に蹴りを入れる。
鈍い悲鳴を上げた赤髪の男は、拳銃を地面に落とし、その場にうずくまる。転がり落ちた拳銃を金属バットで叩き壊し、戦闘不能に追い込む。そして、次の標的を探す。
薄影のお守りと、乱戦の混乱で多少の音を立てても、卯月の存在を気が付くものが少ない。もしくは、気が付いても気にする暇がない場合も多い。
そもそも、自由派の方のパートナーは自衛隊を蹂躙するために前衛に出てしまっているため、自分自身を守るためにパートナーを盾にするという判断と行為ができないのだ。
構えられた狙撃銃をバットでへし折り、側頭部を殴打しながら、卯月は歩く。走りはしない。できるだけ持久と耐久を持たせたかったのだ。
単独行動している卯月は、応援が期待できない。応援を呼ぶことができないわけではないが、作戦の内容的に今回はほぼ不可能である。
視線と殺気が来ていないことを確認してから、卯月は連絡用のスマホを確認する。相変わらず創剣からの連絡は来ていないが、浅井からゴブリンたちの避難が順調に進んでいる旨と、戦闘開始の連絡が入っていた。大谷と飯田は移動中である以上、連絡しても返答してくることはおそらくないだろう。
__しかし、七武器か。できれば応援に行きたい……
そう思った卯月だったが、日本刀の振り下ろしをバットで防ぐ過程で、その思考は中断せざるを得なくなった。
日本刀を持った男は、ギッと卯月を睨むと怒鳴る。
「裏切りか、トップバッター! マサにはもう連絡したぞ!」
「……?」
首を傾げそうになる卯月。そもそも彼自身、自由派に所属しているつもりはない。
卯月は思い出しそうにはないが、実のところ、卯月、いや、トップバッターは自由派に所属していると思われている。理由は簡単、自由派のネット配信の際に、ユキを名乗る女性がトップバッターの契約者を名乗ったからである。
そのあたりをきっちりと覚えていなかった彼は、よもや自分が自由派に味方だと思われているとは考えもしていなかった。
ともかく、卯月は目の前の男に対し眉をしかめるほかない。現状は乱戦である。にもかかわらず、この男は日本刀を縦横無尽にふるっているのだ。
周囲の人間が悲鳴を上げて男から離れる。当然だ。おそらく魔道具であろう
あの日本刀に切られては、命を失いかねない。
卯月はバットを構え、男の次の手を伺う。下手に前に出れば、適当にふるっている刀に当たりかねないからだ。
「死ね、裏切り者!」
その場から一歩も動かない卯月に業を煮やしたのか、男は不用意に前に足を踏み出した。当然、すり足や戦闘に適した足運びであるわけがない。
__素人だな……
重いはずの日本刀を振るえていることから警戒していた卯月だったが、あまりにずさんな足運びにそう判断する。そもそも、不意打ちで刺突ではなく斬撃を選んだあたりでなんとなく予想はできていた。
日本刀を大きく振りかぶり、奇声を上げる男の、あまりに無防備な腹部をバットで突く。
「ぐぶぅ?!」
得物のリーチは当然日本刀の方がある。しかし、あまりにも大きく振りかぶりすぎたせいで、そのリーチを殺してしまっていたのだ。
腹部を押し込まれるようにして突かれた男は、醜い悲鳴を上げてアスファルトの上に膝をついた。
卯月はバットを適当に放り投げると、高い金属音とともに地面に転がる日本刀を拾い上げ、刀を振りかぶる。
「ひっ……?!」
悲鳴を上げ、真っ青な表情で手を前に出す男。
卯月はそんな彼を気にすることなく、日本刀でアスファルトの地面を切り付けた。
武器を破壊しようにも、鉄でできているであろう日本刀は破壊しにくい。だからこそ、卯月は日本刀の刃と先端の部分を地面にこすりつけることで使用不可能にしようとしたのだ。
しかし、そんな卯月の思いとは裏腹に、じわじわと回復していく切れ味。バット同様、復活のエンチャントでもしてあったのだろう。諦めた卯月は、先端が大きくかけ、深いヒビが入り込んだところで日本刀を地面に投げ捨てた。
__妙に軽い日本刀だったが……そういう魔術付与がされているのか?
卯月は心の中でそんなことを考えながら、恐怖で震えている女性の拳銃を奪い取り、金属バットで破壊した。
戦いはまだ、始まったばかりである。
【現在の戦況】
・浅井&メフィストフェレス:形槍とローブの男と対峙
・絵画の住人たち:創剣に指示されて現在ゴブリンの避難誘導中
・卯月:自由派と乱戦
・創剣:造斧と対峙
・大谷&飯田:移動中




