10話 合流にここまで運要素が必要なことってある?
前回のあらすじ
・ぱとろーる
商店街の大通りから路地裏に逃げた二人は、さっさと追手の目をくらまし、建物と建物の間の奇妙に開いたスペースで落ち合う。
ご機嫌斜めらしい創剣は、盛大に舌打ちをした後、卯月に防音効果のある剣のストラップを投げ渡し、口を開く。
「ええい、貴様、もしや剣聖のやつが来ることがわかって逃げたな?!」
「いや、ここ、大和町だぞ? 木原の家だってあるのだから、出動命令が下されて真っ先に来るのって、剣聖と木原だろ」
「ぬぅ……」
卯月の反論に、道理だと判断したのか、剣聖は小さくうなった後、恨みがましく卯月を睨みつけ、そして、あきらめたように深くため息をついた。
聞いたこともない名前の会社のチラシの張り付けられた壁面に背中をよりかけ、創剣は卯月に向かって言う。
「おかしな者はいなかったらしいな?」
「ああ、まあな。今から大和町に来て、宿でもとるとなると、それだけで自衛隊に目を付けられることになるだろうし」
そう考えると、浅井は大和町に隠れ家があってよかったな、とつぶやく卯月に、創剣は退屈そうにため息をつく。
「喫茶店は土曜から休業と来た。本屋は注目が集まりすぎて行けぬし、貴様の通う大学の図書館はそもそも休校中だ」
「あー、そういや、そうだったな。相模の美大は?」
「まだ行ってはいないが、望み薄だろう。駅からさほど離れておらぬ場所にある学び舎は、基本出入り禁止になっているらしいからな」
退屈極まりない、という態度を隠しもしない創剣。そんなに暇なら、グラディウスを使って県外にでも移動すればいいが、していないということは、つまり、そう言うことだ。創剣は、自分で口にするよりもはるかに、この町を気に入っているのだ。
無意識のうちの創剣の態度に、卯月は少しの驚きとかすかな喜びを感じつつ、バットをバットケースにしまいながら創剣に言う。
「とりあえず、俺は着替えてからバイトに行く。そっちも、気を付けてくれ。……剣聖いるし」
「貴様に言われんでも気を付けるわ、阿呆」
そう言った創剣に、卯月は剣のキーホルダーを投げ返し、軽く手を振る。創剣はそんな卯月の行動を無視し、背を向けて路地の奥へと向かう。
__その直前。
卯月の携帯電話が、突然なりだした。
設定で召喚士として仕事をしているときには、基本的に電話がかかってこないように設定をしている。それでも、つながる人間は数名居る。
具体的には、バイト先と、創剣の携帯、そして、浅井である。
この時間にかかってくるのは珍しいと、卯月は携帯に出る。
「もしもし」
『……! 卯月さん、今どこにいますか?!』
焦ったような浅井の声。そして、背後からうっすらとスマホのマイクに入り込む破壊音と罵声。その音に、卯月の全身に緊張が走る。
「創剣!」
「わかっておる!」
短く返答した創剣の手には、グラディウスが握られている。
それを確認した卯月は、逆に相模に問いかける。
「今どこだ! こっちには創剣がいる!」
『隠れ家です! 待ち伏せされてました、自由派です!』
「……!」
浅井の言葉を聞いた創剣は、無言で卯月の襟首をひっつかむと、グラディウスを起動する。
だがしかし、卯月はそれ以上にただただ顔を真っ青にするしかなかった。
何故なら、大和町の隠れ家には、卵の孵化機があるからだ。
路地裏から消える二人。その二人には既に余裕などなかった。
「……。」
学校で授業を受けている真っ最中に呼び出された少年、ノアは、怒りにひきつる表情をそのままに、無能こと上司の後ろをついて長ったらしい廊下を歩いていた。
当然、不機嫌極まりないノアは上司に話しかけることもなく、上司の浅井光樹も彼に話しかけることはない。ただ、二人を案内している秘書が、酷く気まずそうであった。
たどり着いたのは、見覚えのある金属扉。ここは、もしかしなくとも、造斧がいるはずのあの部屋である。
そのままその扉をノックしようとする秘書を止め、ノアは言う。
「待ってください、造斧様との面会なら、せめて正装に着替えさせてからにしてください。僕、死にたくないのですが」
「うるせえ、黙って従えクソガキ」
ノアに言い返す光樹。額に青筋を浮かべるノアをとりなすように、秘書が言う。
「造斧様が、とにかく呼び出しを最優先し、服装は気にしなくても良いとのことですので、そのままでも大丈夫です」
「そうですか。だから僕は、体育の授業中にいきなり大人の人たちに手を引っ張られて、この場に来ることになったんですね。__ふざけてますか?」
同級生や、校舎からの野次馬の視線を思い出し、軽く殺意を抱く体操服姿のノア。召喚士という立場上、廃棄物が現れれば授業の途中でも仕事をしなければならないノアは、事情を知らない、分らない同級生たちには不良のように見られていた。
もちろん、ノアも、造斧の機嫌を損ねることがどれだけ危険なのかは十分理解していた。だとしても、体育の最中にいきなり大人たちに声をかけられ、ろくな説明もなく車に連れてこられた彼は、少なからず怒りしか抱けない。
上司と至極当然な怒りを抱く少年の板挟みにあった秘書は、ただその不運と理不尽を嘆くことしかできなかった。
秘書は、造斧の部屋の扉をノックし、口を開く。
「浅井 ノア様と浅井 光樹様をお呼びしました!」
「……よかろう、入れ」
扉の奥から聞こえてくる声。そして、ひとりでに扉が開く。
部屋にいるのは、玉座に座った造斧ただ一人。彼一人のために、大型会議室丸一室を部屋にするためのリフォーム工事が行われた。当然、予算は税金から支払われている。
可もなく不可もなく、と言った機嫌の造斧は、ちらりと秘書に目線をうつすと、一言。
「……何故、そこな子供はみすぼらしい格好を?」
「……申し訳ありません、造斧様。浅井ノア様は、つい先ほどまで学校にいまして、着替える間もなく御前に参ることとなりました」
恭しい態度で答える秘書。左手が緊張のせいか小さく震えているのが見えていた。
造斧が可もなく不可もなくな機嫌、ということは、現状、どこに地雷が埋まっているかわからない地雷原を素足で歩かされているようなものだ。もちろん、制限時間付きで。
地面の様子をじっくり観察し、しかし、さっさと足を踏み出さねば、造斧の機嫌を損ね、良くて怒鳴られ、悪ければ首と胴体が永遠に分かれることになってしまう。
秘書の返答に、造斧は特に引っ掛かることはなく、「そうか」と短く言った後、本題を離し始めた。
「__さて、我が言いたいことは一つ。此度の戦い、七武器がぶつかることになる」
「……? 造斧様と、創剣様が戦うことになるということでしょうか?」
「……まあ、非常に不本意なことに、そうであろうな。その結果、現在の避難指示では足りず、134人の無辜の民と、23人の自由派、そして、342人の軍人が死ぬ。町は荒れ果て、門の破壊ができたとて元の人口に戻るまでには12年の歳月を要することになるだろう」
「……?!」
驚く秘書に、黒の瞳をちらりと二人にうつす造斧。
浅井光樹は当然、「何言ってんだコイツ」という表情を隠しもしていない。不敬と切り捨ててしまうのが一番楽ではあるが、造斧からしてみても、子供の目の前で大人を殺すほど落ちぶれてはいなかった。
それに対し、ノアの表情は読みにくい。だがしかし、思考放棄している様子もなく、驚き困惑するばかりの秘書よりもきちんと物事を考えているのが見て取れた。
造斧は言う。
「我としても、無辜の民が無意味に死ぬのは気分が悪い。よって、被害を抑えるためにも此度の戦いには参戦せぬ。話はそれだけだ」
「……!」
表情をさっと青くする秘書。自衛隊の最高戦力が不参加となると、今まで立ててきた作戦が根底から覆る。浅井光樹はようやく事態を理解し、目を丸くして驚く。
だがしかし、ノアはふと、疑問に覚えた。
__待て、話がこれだけなら、何故僕は呼ばれた……?
一応の責任者である光樹を、造斧に殺されないようにするため? 一度顔を合わせたことがあるからこその気まぐれ?
__違う、そんな意味の解らないことをするはずがない。
ノアは、必死に思考を回す。何故だ? 何故? どうして僕が必要だった?
そこまで考えたところで、ノアは思い出す。食堂で聞いた、【七武器】に関わる与太話を。
__七武器は、人知を超えた能力を、一人一つずつ持ち合わせている。そして、剣聖から提供された情報によると、造斧の能力は『未来予知』……。
だが、本当にそうなのか? いや、確かにそうであるはずだ。だが、それに、欠点はないのか?
知りたくない未来を知る? 知った未来を変えることもできるのに?
限界がある? 自衛隊の特殊部隊の暗殺を何度も回避し、返り討ちにしておきながら?
そして、次に、創剣の姿を思い出す。剣聖が、創剣の能力を熟知していたため、彼の能力はよく知っている。『剣に能力を付与する能力』だ。
__【造斧】……何のための斧だ……? 何で未来予知に斧が必要なんだ?
そこまで考えたところで、ノアは、ようやく理解しきった。
「さて、我の話は終わりであるが故__」
「発言の、許可をいただけますか?」
造斧の言葉を遮ったノアに、秘書はひきつった表情を浮かべる。この危機を理解しきれていない浅井光樹は、帰れるというのにも関わらず口を挟んだノアに、ムッとした表情を浮かべる。
当の造斧は、足を組んで不敵に笑うと、言う。
「……よかろう。つまらぬ内容なら、相応の罰を与えられるものだと思え」
黒真珠のようなその瞳に、かすかな愉悦と迫力をにじませ言う造斧。どんな廃棄物と対峙した時よりもはるかに重い重圧に、ノアはつばを飲み下す。
そして、ノアは、口を開く。
「……造斧様の見る、未来についてです」
「!」
揺れる黒真珠。ピクリと動いた眉。
初めて、造斧の動揺を見た。
少しの驚きの後、造斧は一瞬真顔になり、そして、腹を抱えて笑い出す。
「ックハハハハハハ! よかろう、そこの二人は下がれ。小童……ノアと言ったか。貴様は残れ」
頬杖をついていた体を起こし、右手でドアを指さし、二人に退室を命令する。困惑した表情で部屋を出ていく浅井光樹。おいて行かれるノアに少しだけ同情の視線をよこした秘書。
ノアは、ただ無言で二人が退出するのを待ち、そして、口を開こうとする。その直前。
「待て」
短くノアに対し静止の声をかける造斧。彼は、玉座に立てかけるようにして置いていた斧に手を伸ばし、斧の柄で床を軽く突き短く詠唱する。
「【ロストノイズ】__好きに話すがいい」
「……ありがとうございます、造斧様」
ノアはぺこりと頭を下げ、礼を言った後、覚悟を決めて口を開く。
「僕は、造斧様の能力について、『未来予知』だと伺っていました。ですが、これは、部分的には正しいものの、全面的に正しいわけではない、ですよね?」
ノアの言葉に、造斧はニッと笑うと言う。
「ああ、当然そうだとも。我にも、可能なことと不可能なことがある」
試すようにノアに視線を投げかける造斧。その造斧の視線に答えるように、ノアは言葉を続ける。
「もし、貴方様が全ての未来を変えることができるなら、『無辜の民』を守るために『戦いに参加しない』という判断をとることはないと思ったのです。だって、『その結果、現在の避難指示では足りず』に、死傷者が増えたのでしょう? だったら、避難指示を増やせばいいじゃないですか」
「何、我が創剣と戦えば、場合によっては国一つの面積が焦土と化すこともあろう?」
「『無辜の民』の安全を気にするなら、造斧様はおそらくそのようなことをしないと愚考します」
ニタニタと笑みを浮かべる造斧の言葉に、ノアは短く言い返す。
造斧は、創剣同様王である。
当然、造斧自身も王としての自覚を持っており、そして、自分自身の能力からも、子供の未来というものは大切に思えていた。造斧が見た未来には、『無辜の民』……小学校が戦いの余波で崩れ、たくさんの子供が死ぬというものもあった。
ノアは、さらに言葉を続ける。
「造斧様の、『戦いに参加しない』という判断、それも、無辜の民が死ぬ人数が少ないだけで、ゼロではない、ということですよね?」
「もちろんだとも。自衛隊ごときでは七武器どうしの戦いにはこらえきれず、戦線は崩壊。廃棄物が街に流れ込み、避難できなかった者が死ぬ」
あっさりとそう答える造斧。
あまりにもためらわず、重みも全くなく人の死を予言した造斧に、ノアは目を丸くする。
驚くノアに、造斧は目を細め、言う。
「何、我が今まで見れていた未来の最良選択肢は、『我が戦いに参加しない』ことである。だがしかし、ついさっき変わった。__なぜなのか、小童、貴様が当ててみれば、完全無欠の選択肢を行使してやろう」
「……。」
ニタリと笑う造斧。口をつぐむノア。
造斧は、面白くて仕方がなかった。
同じ世界に存在していた剣聖ですらも正しく理解できていなかった、自分自身の能力。それを、あっさりと見抜いたノア。彼なら、分ったはずだ。造斧の、『本当の能力』を。いや、彼は、分っている。造斧は既に、この未来を見ていた。
一瞬、何を求めているのだがわからなかったノアだが、少し考えて、そして、口を開く。
「造斧様の能力は……『斧を使うことで未来を変えられる能力』ではないのでしょうか?」
「……ハハハハハハハハ! よくぞその答えにたどり着いた、ノアよ!」
高笑いする造斧。そう、造斧が変えられる未来は、斧を使える範囲でしかないのだ。
造斧は、種明かしをするように口を開く。
「貴様を今日、ここに呼び出した理由は一つ。『無辜の民』の死なぬ未来を造るためよ。貴様のために我が斧を媒体として魔法を使ったその瞬間から、未来は変わった」
「……人が、死ななくて済むのですか?」
「いや? 少なからず死人がゼロになるわけではないな。門との戦いだぞ? 死なぬ方がおかしいわ」
ズバリ言い切る造斧。その言葉に、ノアは眉を下げる。
そして、造斧は言葉を続ける。
「あの二人にはかなり適当に言っておったが、そも、我の見る未来は不安定でな。最近では廃棄物に干渉されておかしな結末を見ることもある」
「……だから、『七武器』という大雑把な言い方を……?」
「そうなるな。正直、我が七武器のうち一柱と戦うかどうかも怪しい」
既に七武器は我以外に二人は召喚されているわけだからな、と言葉を続ける造斧。そして、彼は妙なことを言い出した。
「さて、完全無欠の選択肢のため、我が貴様と仮契約してやろう」
「……へ?」
造斧の言葉に、ノアは間抜けな声を上げることしかできなかった。
【造斧】のベルゼブブ
年齢:1000歳以下(ほぼ創剣と同い年) 性別:男
身体特徴:黒い瞳に、金色の髪。巨大な斧をいつでも持っている
特技:???、未来予知
趣味:???
備考:七武器の一柱。【未来】に守られている
この世界にいる人には話していない秘密:実は妻が二ケタ後半程度の人数いる




