8話 市街地防衛戦会議(ボランティア)
前回のあらすじ
・門がもうすぐ現れる
・パートナーの退却が始まった……?
翌日、メールの着信音で目を覚ました卯月は、寝ぼけ眼で携帯電話を見る。どうやら、学校からの一斉メールで、休校のお知らせらしい。
「……ん? なんでだ……?」
強い眠気に襲われながらも、卯月はふらふらとする頭で休校のメールを確認する。すると、そこにはこんな内容がかかれていた。
『件名:東都大学 臨時休校のお知らせ
東都大学学生係
昨日の発表で、大和町に門が現れるという発表がなされました。
そのため、下記の日程、東都大学を臨時休校とします。
本日10月14日(水)から10月18日(日)
部活動のための登校も禁止といたしますので、各教科課題については、学校ホームページに掲載されているものを行い、登校後初日に各教科の教授に提出すること。
忘れ物等があった場合には、16日(金)までに警備室に連絡し、取りに行くようにしてください。
また、大和町付近にお住まいの方は、自治体の指示に従い、身を守る行動をとってください』
飯田は稲日に住んでいるため、さほど問題はないだろう。だがしかし、問題は卯月自身である。
眠い目をこすりながら、卯月はスマホを使い、大和町のホームページを確認する。すると、そこには詳細な避難日程と避難場所がしるされていた。
「……うっわ……」
卯月は、小さくうなり声を上げると、避難場所を見る。
卯月の住む地域の人間は、近隣の小学校に避難することになっている。避難に必要なものは、マイナンバーと保険証である。つまり、身元をしっかりと把握できるもの二種と、二日分の食料などである。
避難する日は18日のみ。それはそうか。門が開くのはこの日なのだから、それ以前に避難したところで意味はない。
大きなあくびをしながら、卯月は現在自分のベットとなっているソファから体を起こし、毛布をたたむと、スマホを見ながら朝の支度を始める。
とりあえず、朝ご飯を食べてから考えよう。それからでも遅くはないはずである。
浅井に連絡のメールを送りつつ、卯月はゆっくりと身支度を整え、冷蔵庫を確認する。昨日は結局、炊飯器をセットしていなかったため、今から米を炊くとなると時間がかかりそうだ。
「とりあえず、パンでいいか……」
主食を決めたところで、メインにするものを選んでいく。
今日の登校がなくなったことで、卯月は妙にやる気をなくしていた。
朝食を終えた卯月は、浅井に連絡を取るため、棚から魔石のかけらの入った袋と文字の描かれた紙を取り出す。
浅井の身バレが起きるより以前からの方法で、直電は執事まで、最近ではそれもやめ、もっぱら魔道具での連絡がメインとなっている。
時間を確認すれば、午前10時を超えている。このくらいなら、こっちから連絡しても失礼には当たらないだろう。タンスから魔石のかけらを取り出し、手の中で砕く。浅井特製の、使い捨て魔道具の一種である。
すると、卯月の携帯が震えた。携帯はワンコールで呼び出しが切れ、一応着信履歴を確認してみれば、非通知だった。
卯月は、着信履歴から電話をかけなおし、浅井が電話に出るのを待つ。
数秒足らずで、電話は相手につながった。
「もしもし」
『おはようございます、卯月さん。そちらに変わりはないですか?』
電話に出た浅井は、少しばかり疲れたような声で返答する。どうしたのかと不安になった卯月だが、すぐに返事を返す
「学校、日曜まで休校になった。大和町住まいなので、多分そのうち避難指示出されそうだ」
『なるほど……門が開くまであと四日ですからね。ついに行政も動きましたか』
「結構今更感がなくもないけどな。安住区役所の時点でやっていなかったことに首をかしげたい」
『まあ、あの時は自衛隊の召喚士部隊がありませんでしたからね……』
軽くため息をつきながら言う浅井。
何かと自衛隊と連絡を取り、最近では合同演習の約束までとりつけたが、どうやら門の騒動で有耶無耶にされてしまったらしい。実現すれば、浅井たちは独立の組織として認めてもらえたことになっていたはずであったため、落胆の度合いは大きかった。
頬杖を突きながらも、浅井は口を開く。
『一応、ここからしばらくは自衛隊に連絡を入れることはないわ。今回の最優先は、門の破壊でいいかしら?』
「構わん。願いも娘のものでよいぞ」
「創剣!」
卯月は驚いてスマホを落しかける。確か、創剣は図書館に行ったはずでは……?
そう思っていた卯月に、創剣は仏頂面を浮かべて口を開く。
「門の影響だとかで閉じておったわ。これしきの事で閉館なぞ……もちろん、読んだ本は返してきたぞ?」
「そうか……買い物、今のうちにしといたほうがいいかな?」
小さくうなる卯月に、創剣は目を輝かせると言う。
「何、買い物か? ねるねるねるねとやらを要求する!」
「ガキか!」
『あのー、話を元に戻して良いかしら?』
浅井そっちのけで話を始めようとした卯月たちに、彼女は気まずそうに声をかける。卯月は慌てて謝罪すると、スマホに向き直った。
浅井は小さく咳ばらいをしてから、口を開く。
『今回は門の場所の都合上、駅や町の閉鎖可能な自衛隊有利と考えるべきね。ただ、野良の召喚士たちは住人たちが避難している間に何をするかわかった者じゃあないから、そこも一応は留意しておくべきです』
「む……あの商店街は、なかなか面白い店があるからな。よかろう、俺様も手を貸してやる」
ソファを占領し、気前よくそう言う創剣。そんな創剣に続くように、卯月も口を開く。
「うーん……もしかしたら、俺も野良の召喚士鎮圧の方がメインになるかもしれない。手が空いたら参戦でいいか?」
『構いません、というよりも、ありがたいです。大谷さんが今回はメインで私の補助をしてくださるらしくて。本来は独力でやるべきことなのですが……』
画面の奥でそっと目を伏せ、だんだんと小さな声になる浅井。独力で貢献度一位を目指すのは、現在、無謀に近しい。少なからず、自衛隊の召喚士たちと、自由派を名乗る野良の召喚士たちがいるのだから。
少し落ち込んだ様子の浅井に、創剣は軽く手を横に振って言う。
「阿呆、神に願いを叶えてもらうなぞ、一人でできるものではないわ。仲間とともに協力するのは当たり前だ。俺様だってそうだったのだからな!」
『……そう、ですか。そう言ってもらえると、少し気が楽になります』
少しだけ気落ちしているらしい浅井だったが、呼吸を整え、話を変える。
『ともかく、今回は自衛隊側も自由派を取り締まるために大規模な作戦を展開するはずです。私たちは、その作戦を食い破るか、裏を突くかの選択肢をとらなければなりません。ですが、どちらの選択肢をとるにも、自由派の存在が邪魔になってきます』
浅井はそう言うと、スマホに大和町の駅前の写真を送る。何度も通ったことのある道であり、買い物でも移動でも使う場所だ。
中央にある大きな噴水を囲むように設置された花壇に、駅前の車の流れをよくするためにロータリーになった道路は見通しが良く、魔法を使わなければ隠れるのは難しいだろう。
ロータリーからほぼ直通に駅前商店街は存在するため、駅が封鎖された場合、商店街側からのみしか駅前広場に移動することはできない。もちろん、空を飛べる場合や瞬間移動ができる場合を除いてだが。
「……俺たちは自由派の連中に町をめちゃくちゃにされたくはない。商店街をメインに、警備に近い立ち回りをしておく」
「俺様は不敬者どもを一掃した後、娘の手助けをしてやろう。五分は持つよな?」
「その話はもうやめてくれるか?」
いたずらっぽく笑って浅井に言う創剣に、美術館の中で死にかけたことを思い出した卯月は、頭を抱えて言う。あの時は本当に慢心していた。
事情を知らない浅井は、電話の向こうで首をかしげる。
長丁場になりそうだと判断した卯月は、冷蔵庫から牛乳を取り出し、適当なグラスに注いでテーブルの椅子に座る。冷たい牛乳を飲みながら、卯月は言う。
「そっちはどうする? 大和町にも隠れ家はあるらしいが、別に駅のすぐ近くってわけでもないだろ?」
『テレポートを使えば、距離は関係ないので。むしろ、早く座標の習得と確認をしておかないとですね』
封鎖されてしまうかもしれませんし、とつぶやく浅井。聞けば、今は小沢にいるらしい。県外ではないか。
創剣は退屈そうにソファに寝転がると、テレビリモコンを操作し、電源を入れる。すぐについたのは、臨時のニュース番組であった。
『昨日夜、自衛隊より、新たな門の出現場所が発表されました』
ニュースキャスターは手元の資料を見ながら、淡々と情報を報道していく。卯月たちも知っている内容の後に、日曜日には絶対に大和町に訪れないでほしいことを念押しし、ニュースは別のものに変わる。
「……買い物、早く行ったほうがよさそうだな……」
『そうですね……宅配を頼むという手もありますが』
「配達料金分、歩いて買いに行ったほうがリーズナブルなんだよ」
卯月は、そう言った後に、目を細めて口を開く。
「当日以外に召喚士の絡む事件が起きるとすれば、下見と蹴落とし合いのための闇討ちか? 後は、召喚士を取り締まる自衛隊との衝突とかか?」
『あとは、地元住人との衝突でしょうか……』
卯月の言葉を補うように言う浅井。
少し考えた後、卯月は口を開く。
「……本格的に、しばらくバイトを休んでパトロールを強化するか?」
『いえ、卯月さんの生活に影響が及ぶなら、無理をしないでください』
「ああ、だが、学校がなくなった分は課題をしつつも見回りを強化する。どんな馬鹿が下見に来るかわからないからな」
そう言った卯月は、スマホで学校のホームページを確認する。課題自体は、休みの期間が四日程度と言ったこともあって、たくさんというわけではない。だがしかし、確実に毎日少しずつやらないと後がキツイと思える程度の課題量ではある。
レポート用紙を取り出した卯月は、さっそく課題にとりかかる。
参考書のページに付箋を貼りながら、卯月は浅井の言葉を聞く。
『とにかく、今回は……というよりも、今回も、卯月さんの本拠地での門です。地の利は卯月さんにあると思われますが、とにかく、気を付けてください。あと、時々【自由派】の動画サイトが更新されていたりするので、確認できた戦力だけ報告させてもらいます』
「ありがとう、ちなみに、あっちの最高戦力は何なんだ?」
卯月の質問に、浅井は短く答える。
『言い方はかなり異なっていましたが、どうやら、星5らしいです』
「……は?!」
素っ頓狂な声を上げる卯月に、浅井は困ったように眉を寄せながら言う。
『正直、かなり不明瞭な言い方でしたが、星5が最低一人はいるとのことです。剣聖などの【七聖】か創剣様のように【七武器】かはわかりませんが、今回の戦いには絶対に参加してくるはずです』
「もしくは、エンシェントドラゴンや高位の精霊などと言った可能性もあるな。まあ、俺様の敵ではないが」
今一つ、星の数と強さの関係が理解できていない卯月に、創剣はさりげなく口を挟む。確か、浅井のメフィストフェレスは、星4のパートナーだったはずである。
ふと、創剣が口を開く。
「俺様が手伝ったほうがいいか?」
『いえ、創剣様には、造斧様の方を見ていただきたいです。不確定要素も気にはなりますが、それ以前に確定した理不尽の足止めをしなければ、話になりませんので』
「む、そう言えば、造斧のやつは自衛隊召喚士の所属か」
思い出したようにつぶやく創剣だが、ついで首をかしげて口を開く。
「匠拳のやつはどうした?」
『匠拳様は大谷さんにすべてを任せるとのことです。大谷が死にそうだったら回収するとも言っていたので、基本的に戦闘に参加する意思はないかと』
「むぅ……あやつも大概自由よな」
「創剣にだけは言われたくもないだろうけどな」
あきれたように言う卯月に、創剣は肩をすくめて返事とした。
浅井は、軽く息を吐くと、口を開く。
『とにかく、できれば今回の戦いで最後にできるよう__いえ、最後にするために、確実な勝利を目指しましょう』
「ああ、分っている。__浅井、君も無理はしないでくれ」
大和町駅
大和町に存在する駅。ホーム数は5つ、私鉄が2つとJRの計3つの電車が走る。
さほど大きな駅ではないが、一応駅内販売や近くに小さなお土産屋さんなどは存在している。
駅舎回りは街の花であるコスモスが植えられており、秋になると色とりどりのコスモスが咲き誇る。




