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ロードテール  作者: ooi
三章 登竜門
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24話 終戦と条約となんとやら

前回のあらすじ

・やっと二人が結ばれた!

・ただがたカップル一人作るのに、六十話以上をかけているんだな、これが

 互いの思いを告白した二人は、幾分か心が軽くなり、そして、二人は互いの作業を始めた。


「とりあえず、俺は相模が描いた壁よりも手前に現れた廃棄物を倒す。何か、手ごろな武器は無いか?」


 そう聞いた卯月に、相模は少し考えてから、筆を動かした。

 最初に描いたのは、包帯と水の入ったペットボトル。そして、それを卯月に手渡した。


 絵画の世界であるからか、描かれた包帯もペットボトルも、きちんと触れることができる。いきなり手渡されたそれらに戸惑う卯月に、相模は言う。


「卯月さん、まずは怪我を治してください。手、すごく痛そうです」

「えっ、あ、ああ」


 眉を寄せ、心配そうに言う相模に、卯月は漸く気が付く。大理石で廃棄物を討伐した時の怪我は、まだ出血が止まりきって居ないのだ。


 水の入ったペットボトルのふたを開け、傷口を洗浄してから、包帯で患部をきつく巻く。野球部で培った応急手当の技術で、卯月は特に苦労もなく処置を終えた。

 最後に包帯の端をしまい込み、軽く手を動かして違和感がないことを確認する。傷口がかすかに痛んだが、誤差の範囲内である。


「ありがとう。というか、こんなこともできるのか……」


 描かれた包帯を見ながら、卯月は相模にお礼を言う。写術的に描かれた包帯は、特に違和感もなく体になじんだ。質感も機能も、きちんと現実世界の包帯そのものである。


 相模は、少しだけ照れ臭そうに頭を掻く。


「あまり描き込めませんでしたが……ちゃんと使えるようで、良かったです。ところで、武器は何を用意すれば……?」

「頑丈なバットを。やっぱり、扱いなれている武器が一番だ」

「バットって、武器じゃないですけどね」

「それは言わないでくれ」


 そっと目を逸らしそう言う卯月に、相模は苦笑いを返し、絵筆を動かす。描かれていくバットの様を見つめながら、卯月はそっと口を開く。


「やっぱり、絵、上手いね」

「ふふ、うれしいです。正直、バットってあまり描いたことがないので、正しく形をとらえられているか不安ですが、これで大丈夫ですかね?」


 さらりと描き上げた木製のバットを卯月に手渡し、少しだけ不安そうにそう質問する相模。卯月は、そっと形を確認し、相模に質問する。


「サンドペーパーって、ある?」

「あ、はい。あります」


 きょとんとした表情を浮かべる相模に、紙やすりを受け取った卯月は、木製のバットに軽くやすりをかけ、重さとバランスを調節し、最後に、グリップ部分に包帯の余りを巻き付け、滑らないように加工する。


 木屑を払い、バットを握った卯月は、相模から軽く距離をとり、バットを振る。違和感はない。


「ありがとう、相模さん。完璧だ」

「あ、あの、怪我したら、絶対に戻ってきてくださいね?! あまり、治療器具とか詳しくないですけれども、描けるものは描きますから!」


 卯月の右手を見ながら言う相模に、卯月はそっと目を逸らす。既に、腹に怪我があるとは言えない雰囲気である。


「とりあえず、できる限りは、善処します……」

「してくださいね?」

「……はい」


 優しげだが、確かな相模の圧に卯月は目を逸らして返事をする。

 まだ何か言いたげな様子ではあったが、卯月は早歩きで壁を建設する予定の場所へと歩いて行った。





 門から、まるで川の水のようにあふれ出る黒。それらは、絵画の世界の地にしみこみ、じわりじわりとあたりを黒色に染め上げていく。

 それらに抵抗しているのが、絵画の住人たちだった。


「画家! 早ク絵ヲ描キ上ゲテヨ!」

「無茶言うな! 俺は生前から遅筆だったんだよ! 量より質だ!」

「仕事をしてから言わんか、駄目画家め! だから貴様の部屋は荒れているんだ!」

「騎士、それ関係なくない?!」


 笛を吹く少年は、黒色に染まりかけた地面に色のついたペンキを流し込み、浸食を防いでいる。だが、結局はごく近距離まで近づくのは難しいらしく、なかなか効率的とは言えないような状況であった。


 そんなことをしているうちに、ずるりと黒色に染まった地面からナニカが出てくる。それは、まるで人型のようで、しかし、確実に『地球上に存在するモノ』でないと分かる、おぞましい物体。


 それは、ずるり、ずるりと体を這わせながら、黒色の浸食から身を守ろうと奔走している住人たちに歩み寄る。


「……! 笛の少年! まずい、ゴーストどもが来たぞ!」


 気が付いたらしい豪華な服を着た男は、絵筆を放り投げようとしていた画家の首根っこをひっつかみながら少年に怒鳴る。

 絵の具の入ったバケツをつかみながら、少年は悲鳴を上げて聞く。


「『森の王』ハ……?!」

「彼は外に出て来客者(ゲスト)たちの護衛中だ!」

「ウウ……!」


 少年は、おろおろと視線をさまよわせ、そして、目に涙を浮かべる。

 このままでは、どうにもならない。あの黒い存在、『ゴースト』には、触れるだけで意識を奪われてしまうのだ。戦うすべなど、ない。


 笛を握り締め、少年はつぶやくように言う。


「ゴメンナサイ、『荒野に咲く花』……総員、テッタイ……」


 逃げ出す判断を口に出そうとした少年は、ふと前を見て、目を丸くした。


 歩いてゴーストに近づく、無謀な存在が目に留まったのだ。


 それは、ごくごく普通の服を着た、青年。しなやかな四肢には筋肉が付き、そして、その右腕には、何の変哲もない木製のバットが握られている。


「……?」


 その青年を見た笛を吹く少年は、首をかしげる。あんな姿をした人間の絵は、この美術館にはなかったはずである。


 青年は、何のためらいもなくゴーストに近づくと、そのバットを横なぎにふるう。


「……?!」


 目を丸くして、青年を見る笛を吹く少年。

 普通の絵画なら、バット越しでも触れさえしてしまえばそのまま黒に染まってしまうはずである。実際、ゴーストから皆を守るために黒に染まった作品はすでに数名出ている。


 黒に染まらず己を保つ青年は、無防備に攻撃を腹部に食らったゴーストに、再度正面からの振り下ろしを食らわせる。

 荒野の風に吹かれ、流れていく黒色の灰。

 消滅したゴーストに、こともなさげに次のゴーストを仮に行こうと足を進める青年。


 そこでようやく、笛を吹く少年はあることに思い当たる。


「モシカシテ、彼、人間……?」

「ん? ああ、サガミ嬢と同じ世界の住人ということか?」

「放している暇があったら絵筆を動かせ、駄目画家!」

「うわーん、騎士のせいでモチベーション下がった! 同じ絵描くの飽きたー!」


 涙声を上げ、筆を動かす画家に、さぼろうとする画家を働かせる騎士。

 そんな彼らをよそに、笛を吹く少年は思考する。


 人間なら、ゴーストを相手取っても、黒にならない?

 ゴーストさえ現れなければ、あの黒色の存在さえ押さえ込められれば、みんな__絵画の住人達を、愛しい来館者(ゲスト)たちを、守れる。迎えられる。


 彼に助けを求める?

 でも、彼も相模と同じように来館者(ゲスト)だ。ここの世界(絵画の中)に永住を希望するのでなければ、いずれ家に帰ってしまう。


__ドウスレバイイ? ドウシタラ、みんなヲ守レル?


 そうして、笛を吹く少年は、一つの解を見つけた。




 中途半端に人型の黒色の物体に、妙な嫌悪感と罪悪感を覚えつつ、卯月はそれらの廃棄物を容赦なく討伐していく。


 パンフレットから生み出された、美術館の作品を象った廃棄物と同様に、倒せば黒い灰に変わるだけなのが、心底救いに思えた。

 もし、これが中途半端であれども、人型を保って死体を残したのなら、ここまで容赦なく廃棄物を討伐できていたか、卯月にははっきりと言えない。


 慢心をしてしまうくらいには、廃棄物との戦いになれた。

 だが、それが命を奪うことになれたからなのかと考えると、首をかしげたくなる。考え込んでしまう。


 己の大切を傷つけるのなら、おそらく、卯月は人殺しをしてしまう可能性もゼロではない。安住区での戦いで浅井が瀕死の重体を負ったとき、浅井自身に止められなければ、卯月はあの男を殺してしまっていたかもしれないのだ。


 どこに振れるかわからない、卯月自身の感情。

 ただ、理性のないケダモノに成り下がらないためにも、この嫌悪感と罪悪感だけは持ち続けなければならない。

 卯月は、一人心の中でそれを誓い、目の前のゴーストを(たお)した。


 それとほぼ同時に、目の前に壁が現れる。


「あ……相模さんが、描き上げたのか……」


 全身を動かすために昇っていた血が、ゆっくりと引いていく。戦いで熱せられていた思考と全身が、少しずつ冷めていくのを感じた。

 バットを支えに、卯月は一瞬絵の具で描かれた荒野の固い地面に膝をつく。黒色の彫刻との戦いからの連戦に、ただただ、疲労していた。


__今日くらい家事をサボったって、何も言われないよな……?


 帰りにレトルト食品を購入する算段を立てだした卯月は、ふと、砂利混じりの地面を踏みしめる音が聞こえて来たのに気が付く。

 ゆっくりと振り返れば、そこには、パンフレットで見たことのある少年、『笛を吹く少年』が立っていた。


「……何の用だ?」


 疲れ切った様子でそう問う卯月に、少年は言う。


「ネエ、話シ合イ、シナイ?」

「……。」


 ぼうっとする頭で、卯月は思考する。


 彼__『笛を吹く少年』は、おそらく廃棄物である。だがしかし、完全に人の形であり、さらに言えば、会話という理性的な手段をとることができている。

 それを、問答無用で殴り殺すという非道な行為は、今の卯月にはできはしなかった。


「ああ、そうしよう。」


 額に浮かんだ汗をぬぐいながら、卯月は少年にそう返事をした。

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