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ロードテール  作者: ooi
三章 登竜門
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22話 絵画戦争というよりも実質物理戦(2)

前回のあらすじ

・第二展示場探索

・とりあえず、目指すのは『笛を吹く少年』の絵

 死んだ目で美術館を歩く二人。

 当然、手はつないでいない。


 ふと、創剣は卯月のメモ帳を手元から奪い取ると、文字を書いて卯月に突き出す。


『短足』

『身長差だ。俺は決して短足じゃない』

『歩きにくくてかなわぬわ!』

『おてて握って歩けと?』

『嫌に決まっておるだろう、阿呆!』


 逆ギレする創剣に、卯月は深くため息をついて、ポケットの中にメモ帳をねじ込んだ。


 歩く二人の足音は、奇妙にそろっている。

 理由は、簡単である。


 創剣の倉庫からは、武器以外なら出すことができる。それを利用して、丈夫な縄を取り出し、二人三脚の要領で歩いているのだ。

 足を互いに結んでいる以上、それで必ず体は触れ合う。そして、両手は空く。


 一見ひとかけらの問題も見えないような状況だが、同時に欠点も出てきた。

 歩くことなら問題ないが、卯月の足の都合上、走れないのだ。


 念のため、創剣が防音の魔道具を使っているが、声は出していない。どうやら、この美術館の性質として、声が妙に反響するらしく、その微妙な衝撃が黒の像たちに刺激を与えるらしい。かなり危ないところまで近づかれた二人は、結局筆談を行っていた。


 戦闘を避けながら、美術館内を探索する二人は、額縁まで黒く染まった絵を何度か見る。像なら動けるとしても、絵が廃棄物になったところで、何かあるのだろうか?


 首をかしげる卯月は、ふと、パンフレットに目を落す。

 このパンフレットによると、『笛を吹く少年』の絵は、通路の最後の方にあるらしい。目玉の絵であることを考えれば、それも十分理解できる。


 黒色に染まり切ってしまった絵を横目に、卯月は絵の中を確認していく。

 時々、タイトルに書かれた通りの絵ではない物が交じっている。


 例えば、肖像画であるにも拘らず椅子しかなかったり、画家の工房という絵であるにも関わらず、棚が空っぽになっていたり、部屋が荒れていたりもする。……いや、相模のことを考えると、画家の工房の絵が荒れているのは、案外普通なのかもしれないのだが。

 それらは何とか黒色になるのを免れているらしいが、基準がよくわからない。門からの距離によって黒色になった絵が増えているのなら、十分理解できるうえ、かなりやりやすいのだが、残念ながら黒色に染まった絵と染まっていない絵はランダムにも見える。


__いない……


 見つからない相模に、少しの焦りを覚えながら、卯月は前からやって来た黒色に染まった銅像を避ける。触れさえしなければ、声さえ出さなければ、襲われることはないのだ。


 堂々と立ちまわることになれているらしい創剣は、少しだけ嫌な顔をしつつも、器用にも鎧を着たまま無音で足を進める。


 順調に進んでいた二人だが、ふと、創剣が手を横に伸ばし、卯月を静止させる。理解ができず、無言のうちに創剣を見る卯月。


 創剣は、すっと指を伸ばし、ソレを示した。


「……!!」


 卯月は、出しそうになった声をこらえ、その場を見た。

 絵の並んだ廊下の、中間地点。少し広場になったその場所。休憩所も兼ねているのか、いくつかのソファとトイレへとつながる通路がある。また、空調を整えるためか、かなり大きなエアコンと、今は切れてしまっているらしい換気扇が付いている。

 近くにある火災報知機とスプリンクラーが、イレギュラーな異常事態に、本来の役目も果たせず、ただただ天井にへばりついているのがいっそ滑稽だった。

 避難した人が慌てたのか、パンフレットやら何やらが入っていたラックが倒れ、床には大量の紙が散らばっている。うっかり踏めば、普通に滑って転びそうなのが恐ろしいところではあるが、今の現状、それ以上に異質で、恐ろしいものがあった。


 それは、その広場の中央。

 卯月は、本能的に避けていた、広くとられた壁にある、その大きな絵に視線を移す。


 ギリギリ読めるその題名は、皮肉にも『未来』という名前の、B0サイズの大判の絵画。元は、油絵とペンキの混合であったのか、黒に染まった今もなお、その紙面上の盛り上がりがうっすらと見えている。


 その絵の中央。遠近法を用いられ、パンフレットによると本来太陽があったはずの場所に、禍々しい黒色の門が描かれていた。


__あれか……


 現在、黒色の門は半分ほど閉じており、門の隙間からあふれる黒は、見た限り濁流のような勢いではない。だが、継続的に、一定量出てくる黒は、じわじわと絵に描かれた道をたどり、額縁を濡らし、ぱたり、ぱたりと美術館のタイルの床に触れては、気化して黒い靄に変わっていく。


 卯月は、ポケットからメモ帳を再度取り出し、創剣に質問する。


『あの靄、ヤバそうに見えるが、大丈夫か?』

『俺様は多少死にそうになっても問題はないが、貴様は無事では済まぬだろうな』

『知ってた』

『なら聞くな』


 仏頂面でメモ帳を投げ返され、卯月は軽く考え込む。

 絵の周囲に漂う黒色の靄。一目見ただけで、アレが地球に存在してはいないはずの物質、つまるところ、廃棄物であることは理解できる。だがしかし、それをどうすることもできない。


 物理的な形状をとっていない以上、戦って倒すことはできない。創剣は魔法を使えるらしいが、使う気がないらしいことは見てわかる。というよりは、魔法を付与した剣が出せない以上、あの靄を倒すだけの火力を出せないのだろう。


『おい、貴様。存外、阿呆なことを考えてはおらぬか?』


 ふと、創剣が紙にそう書き、卯月に見える。

 卯月は、少し首を傾げた後、紙に返事を書いた。


『だってお前、剣は使えないのだろ?』

『貴様に言われると腹が立つが、まあ、事実だ。だがしかし、対処不可能というわけではないぞ。この忌まわしい足の縄を切り離せばな話だがな』

「……。」


 少し悩んだ卯月は、紙に文字をさらさらと書き上げ、創剣に見せる。


『五分。五分時間を稼ぐ。この靄を耐えられるなら、そこの壁にある換気扇を回してきてくれ』

『貴様が五分? 五秒の間違いではないか?』

『よく考えれば、俺、武器がゼロなわけじゃあなかった』


 卯月はそう文字を書いて、ポケットの中から三角錐のペーパーウェイトを取り出す。

 どちらにせよ、黒い靄をどうにかできなければ、この先には進めない。そして、換気扇のスイッチはこの部屋の奥にしかない。走ればすぐの距離ではあるが、今日は足の調子がだいぶ悪いらしく、卯月は今走れない。

 なら、靄に耐久出来る自信があるらしい創剣に、走って換気扇を回してもらいに行く方がマシである。


 それを十分に理解しているらしい創剣は、ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべ、メモを返す。メモ帳の一番上の紙には、短く書いてあった。


『よかろう。五分後に戻ってやる』

『換気扇だけは頼むぞ?』


 卯月は、そう書いたメモを見せ、しゃがみこんできつく結んだ縄に、先のとがった三角錐のペーパーウェイトを突き刺す。

 ゆっくりと切り離された縄。卯月は、創剣に薄影のお守りを投げ渡す。


 そして、立ち上がると同時に、足の縄を引きちぎり、卯月は口を開いた。


「頼むぞ、創剣!」


 返事はない。

 そして、敵に集中した卯月は、既に創剣から視線を外したため、もう目に映ることもない。


 だがしかし、確かに信頼はできていた。


 突然現れた存在に、目の前の黒い靄はゆらりとうごめき、地面に散らばっていたパンフレットに黒が集中していく。

 何をするのか理解できず、警戒しながら見守る卯月を前に、黒がとりついたパンフレットから、どろりと何かが這い出てきた。


「……?」


 眉を顰める卯月。

 黒に染まった……というよりかは、元より黒から生み出されたそれは、卯月も見たことのある存在であった。


「……形容詞彫刻群の、『ぶよぶよ』か?」


 卯月のつぶやきをまるで無視し、黒から生み出された『ぶよぶよ』は小さくうごめいて、卯月へと迫る。


 近づいてきた黒のぶよぶよに、卯月は何の容赦も手加減もなく三角錐のペーパーウェイトを突き立て、そして、そのまま切り裂く。一瞬の押し返しの感触こそあったものの、ぶよぶよは、それだけで簡単に崩れた。


__弱い……?


 まるで灰のような粉上の物質と、ビー玉よりも少し大きいくらいの魔石を残して崩れたぶよぶよに、首を傾げそうになる卯月。

 だがしかし、背後から迫って来る足音に、卯月は背筋を凍らせた。


 反射的にタイルの固い床を転がり、後ろからの攻撃を避ける。

 次の瞬間、卯月の立っていた、薄い色のタイルが砕ける。

 まるでクッキーか何かのように簡単に砕けるタイルに、卯月は、そっと冷や汗をかく。


 凶撃を放った刺客は、先ほども見た、蛇腹のホースのような何か。長い体をたたきつけ、それだけの威力を出したらしい。

 足りないリーチに歯噛みをしながらも、卯月は右足を軸足に体を起こし、ビニールでできているであろうそのホースに三角錐を突き立てる。


 しかし、うまく刺さらず、尖った三角錐の先端は、黒色の表面を滑るのみだった。


__どういうことだ……?


 形状の違い? 材質の違い?

 どちらにせよ、明らかに異なっていた。


 まるで蛇のようにずるりとタイルを這った黒色の彫刻に、卯月は反射的に距離をとり、そして、門から生み出された彫刻たちに囲まれたことに気が付く。

 そして、現状を正しく理解した。


 門からあふれる黒い靄から作られる、質の悪い廃棄物と、本来の美術品から生まれた、強い廃棄物。

 後者の方が量は少ないが、前者はパンフレットから生み出されているため、実質無限湧きに近い。


 卯月の背筋を、冷や汗が伝う。

 現状、卯月は、まともな武器を有してはいない。さらに、薄影のお守りも持っていないため、逃げて隠れるということもできない。正面から、戦わなくてはならないのだ。


「……どっちにしろ、やらなきゃ死ぬだけだ。」


 逃げ出したい本能を噛み殺し、卯月は深く息を吐く。高ぶる感情の根底には、相模がいた。

 彼女を助けるまでは、死ぬわけにはいかない。死にたくもない。


 ずるり、ずるりと近づいてくる廃棄物たちに、卯月は立ち向かう。

 まだ、創剣と別れてから一分も過ぎてはいなかった。




 二分経過。

 元美術品の攻撃を弱いパンフレットから生み出された廃棄物たちに擦り付けながら避け、舞い上がる灰に視界を塞がれながらも、卯月はできるだけ最小限の動きを意識して立ち回る。


 五分が短いようで長いのは、十分に理解していた。だからこそ、体力の温存を考え、立ち回りを意識した。


 結局、卯月が攻撃をするまでもなく、パンフレット生まれの廃棄物たちは、元美術品たちの攻撃に巻き込まれ、灰に変わってしまう。


 最初、余裕があった内は、灰を吸い込まないように意識してはいたが、もはやそんなことを気にしている暇はない。


「……っ!」


 無駄な思考を挟んだせいで、一瞬、地面に散らばった灰で足を滑らせる。即座に右足を強く踏み込んで体勢を立て直すも、やや死に体になった背後に、パンフレットから出てきた廃棄物が一撃を加えようとその拳を振り上げる。


 反射的に左足を軸にし、その彫刻に三角錐のペーパーウェイトを突き立てる。


 それが、間違いだった。


 ぱきっ

「……クソッ!」


 想定以上の硬度を持ったその彫刻に、いくら金属とはいえ、結局はペーパーウェイトでしかないそれは、あまりにも簡単に折れてしまった。いや、今の今まで無事に武器として使えていたことを感謝すべきだとは分かるが、結局、このペーパーウェイトは、一度たりとも本来の用途に用いられることなく、その寿命を終えてしまった。


 痛む左足首に意識を寄せないように、半死半生と言った様子の折れた三角錐の先端の突き刺さった彫刻に拳をたたきこんできっちりとどめを刺し、卯月は集中を高める。

 当たれば、どこを怪我したとしても、動きが鈍る。それは、一瞬一瞬の判断が数秒先の生死につながる現状、そのまま死につながってしまう。


 当たってはいけない。死ぬわけにはいかない。


 息を短く吸い込み、深く吐く。

 大きく上へと持ち上がった黒色のホースが、こちらを狙うようにその長い体をたたきつける。その叩きつけを避け、逆に、地面に半分めり込むような格好になった廃棄物を踏み台に、折れた三角錐を握りこんだ拳をたたきこむ。


「いっ……!」


 殴られた蛇のような彫刻も、衝撃でその体を揺らめかせるが、拳を振るうのに慣れていない卯月は、拳の皮がめくれるような痛みに小さく悲鳴を上げた。


 固い。これは、さすがに壊せない。

 即座に判断した卯月は、強引に後ろを振り向くと、迫ってきていた雑魚の群れに蛇のようなホースの相手を押し付ける。

 踏みつけられた頭が離された黒色の彫刻は、めちゃくちゃに頭を振るい、そのまま前に、つまり、パンフレットから生み出された廃棄物たちの方へと突撃していく。


 さすがにめちゃくちゃな動きをしたせいで、左足に軋むような感覚が響くが、やはり、気にしている暇などない。


__あとどれくらいだ……?!


 パニックになりかける卯月。

 一秒一秒が、あまりに重い。あまりに濃い。

 感覚では既に二時間は戦い続けているような気分ではあるが、理性はまだ、五分も戦い続けていないと訴える。


 連続する命の危機に、溶け落ち焼き切れそうな理性。

 ただの獣と化し戦えば、おそらく恐怖は感じないだろう。だが、それは敗北と同義である。理性なくして、混戦を生き抜くことはできない。

 首の前数センチをすり抜けていった死に吐き気を覚えるような恐怖を感じ、卯月は必死に理性と生にしがみつく。


 そうして、四分が過ぎた。




 もはや、卯月の精神は、崩れ去りそうになっていた。


 逃げられない戦いが、隠れられない戦いが、ここまでキツイとは思ってもいなかった。

 一度目の門の波を、単騎で乗り越えたせいで妙な慢心をしていたのかもしれない。


 質の差が、そのまま自身の命の危機に直結する。一瞬の判断の差が、数秒後の未来を決定する。

 そして、卯月は、一つの判断ミスをした。


 増えたパンフレットから生み出された廃棄物たち。そちらの対処もしなければならないと、ほんの一瞬、気をとられた。

 それが、致命的な判断ミスに変換された。


『___!』

「……?! がふっ!」


 大きくうねった黒色のホース。それが、下っ腹を容赦なく跳ね上げた。回避をし損ねた卯月は、したたかに腹部を打ち据えられる。

 外側から胃を押され、どうしようもない吐き気が卯月を襲う。実際、少しの血が混じった胃液が口から漏れた。


 冗談抜きで体が軽く吹き飛び、背中から廊下の対面に突っ込む形に変わる。腹部のお次は、背中のむち打ちだ。本能的に後頭部だけは打たないように、受け身の体勢をとれたのが奇跡だった。


 痛覚が脳を揺さぶる。

 消し飛びそうになる意識に食らいつき、そのまま倒れるのだけはこらえる。


 腹が痛い。背中もいたい。

 思考が飛び、理性がガリガリと削られていく。


「……は」


 止まりかけた息を大きく吐きだし、次に繰り出された振り下ろしを、本能でかわす。もはや、理性で動いているのか、脊髄反射で動いているのか、理解することもできない。


 降りかかる大理石の破片が、薄く頬を切り裂く。

 鼻についた鉄の錆びたにおいに、嫌でも本能がくすぐられる。


 だが、溶けかけても、切れかけても、削れてもはや原型がなくなっていても、卯月は、理性を放り出さなかった。


 近づいてきたパンフレット生まれの廃棄物に、右足を軸足にした回し蹴りを食らわせる。当然痛いが、拳を傷つけつつも殴るよりかははるかにマシである。


 口角から零れ落ちた胃液を手の甲で拭い、卯月は奥歯を噛みしめる。


「死んで、たまるか!」


 砕けた大理石の破片を拾い上げ、再度振り下ろしを試みる蛇のような彫刻に、すれ違いざまに破片を突き立てる。


『____!!!?!』


 固い。だが、通った。


 当然、数分前に壊れてしまった三角錐のペーパーウェイトのように、きちんと処理がなされているわけではない。そのため、破片を強く握った右腕からは、裂傷にも近い傷ができ、赤色の雫が少し、零れ落ちている。


 だが、元がパイプでできていた黒の彫刻には、その攻撃が致命傷に変わった。


 耳につんざくような、声なき悲鳴を上げた黒の彫刻。体半ばまで裂かれたその彫刻は、ついに小さく痙攣して、その行動を停止した。


__次……!


 大理石の破片を握り締め、彫刻たちに向き直る卯月。

 そんな卯月に、()()から声を掛けられる。


「さて、五分経ったな。生き残っているとは思っておらんかったぞ?」

「……そう、けん……か?」


 存外吐き気が戻ってきて声の出しにくい卯月は、とぎれとぎれに声を出す。

 不敵な笑みを浮かべた創剣は、卯月に言う。


「ああ、俺様だとも。朗報がある故、疾く敵を散らすぞ」

「……たの、んだ」


 咳混じりに言う卯月を鼻で笑い、創剣は、キーホルダーの一つを指で回す。そして、一人、語るように言葉を紡ぎ始めた。


「そもそも、俺様は魔法が使えないわけではない。だが、魔力から『モノ』を創造するのが極端に苦手である故、さほど大きな魔法は使えない」

「……?」


 首をかしげる卯月。

 そんな卯月を横目に、創剣はキーホルダーを軽く指で撫で、詠唱する。


魔術付与(エンチャント)、【風魔法】【方向指定】」


 小さな金の輝きが、キーホルダーに宿る。

 出来を見て満足そうな笑みを浮かべた創剣は、キーホルダーを正面にかざし、言葉を続ける。


「無から有を作るのは苦手であるが、有を利用するなら問題はない。よって、俺様の魔法を見せてやる」

「おれに、とっては、エンチャントも十分魔法……」

「黙れ阿呆。__【ストーンブラスト】!」


 キーとなる言葉を吐いた創剣に答えるように、キーホルダーは己に付与された魔法を展開する。


 風が、地面に転がった石礫や、タイル片、砕けた大理石の欠片などを持ち上げる。巻き上がる風に、汗をかいて重たくなった卯月の体が少しだけ冷えていくのを感じた。


 そして、次の瞬間。

 ある一定の方向に、巻き上げられた石片が、吹き付けられていく。


 圧倒的な勢いで飛ぶ石礫は、道中にいた廃棄物たちを、生まれの差異に関わらず、平等に切り刻み、撃ち抜き、砕いていく。

 数秒間続いた弾幕に、轟音。それは、ふとした瞬間に、収束した。


 風がやむ。

 卯月と創剣の目の前には、砕けた廃棄物の破片と黒色の灰、そして、無傷の『門』の描かれた絵画が残っていた。

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