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ロードテール  作者: ooi
三章 登竜門
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19話 はた迷惑な天使

前回のあらすじ

・飯田、大谷コンビ

・ルマエル、外に出る

 飯田は、困惑しながら目の前の光景を見る。

 当然の如く黒色の彫刻を破壊した友人。彼は、腰が抜けて動けない飯田をよそに、何事もなかったかのように彫刻と触れ合っている。


「いや、うん、楽しそうでなによりだけれども、何か怖いとか思わないのか?」

「……? あの黒いのはともかく、こっちは攻撃してこないし」

「えっ、俺がおかしいのか……?」


 きょとんとした反応を返す大谷に、飯田は頭を抱える。

 今もなお、頭を失った黒色の彫刻はうごめき、近くにいる人間を探している。

明らかに見当違いな方向を探しているため、脅威という点ではさほどないかもしれないが、しかし、怖い。命がないものが、ひとりでに動いているのだ。吐き気を催すような違和感が恐怖につながっている。


 眉間にしわを寄せて頭を抱える飯田に、大谷は言う。


「慣れだよ、慣れ。ああいうものがあるって知っていたら、脅威は理解しても恐怖は覚えない」

「ええ……? 慣れてんの?」

「んー、まあ。スライムとか、コボルトとか、ワーウルフとかと似たようなものだよ」

「最近、テレビで見るけどさ……マジで現実のことだったんだな……」


 茫然とつぶやく飯田。

 廃棄物の存在が公に知れ渡っているとはいえ、しかし、一般人がいつでも廃棄物に関わるかと言えば、そうではない。

 何せ、絶対数が少ない。スライムやコボルトは自己繁殖し、その数を増やしているらしいが、ワイバーン、ワーウルフは繁殖数が少なく、自衛隊所属の召喚士たちの手によって討伐されているため、個体数は減少傾向にあるのだ。


 国外ではワイバーンの繁殖の報告もあるが、文字通り『対岸の火事』である。いくら翼をもつワイバーンでも、日本海を飛びきるだけの体力はない以上、国外の廃棄物たちが日本国土に影響を与えることはほとんどないのだ。


 だからこそ、あまりにも異常な状態に遭遇した飯田は、パニックを起こしかけたし、そう言う点では、あまりに落ち着き払った行動をできた大谷は、ある種異常と言える。


 戻ってきたガラス製の小鳥をそっと撫で、飯田は命を得たように動く芸術作品たちを眺める。木漏れ日の隙間を縫うように飛ぶ、ガラスの小鳥。まだ動いている黒色の彫刻に恐れを抱きつつも、ゆっくりと体を起こし始めたハープを持った彫刻。

 落ち着いて眺めれば、違和感よりも幻想感の方が強くなり始めた。


 眠たそうに大あくびをした大谷は、飯田に言う。


「そろそろ立てる? 暑いし、屋内に行こう」

「……あ、ああ。うん。悪かった」


 茫然としながらも、飯田はゆっくりとその場から立ち上がる。相変わらず、膝は笑っているが、体は動いた。

 立ち上がった飯田を見守りつつ、大谷は体を伸ばす。

 そして、次の瞬間、大谷は目を見開いて、言う。


「飯田! 耳塞いで顔を下に!」

「……えっ?! いや、何でそんな海外の強盗みたいな」


 驚いた様子の飯田は、反射的に周囲を見回し、そして、宙に浮いていたそれを見つけ、悲鳴を上げた。


 空に浮いていたのは、薄ピンクの毛玉。短い手足に、まるでおもちゃのようなルビーの瞳。大谷は、盛大に舌打ちをすると、言う。


「……創剣様のところの、契約天使」

『……うん、まあ、その、悪かったって。あの彫刻、まだついてきてると思ってなくてさ』

「え、え、え? てんし? アレが?」


 怒涛の展開についていけず、目を丸くする飯田。そんな飯田に、唇を尖らせて(口はそもそもないが)ルマエルは言う。


『アレって言わないでくれるか、人間。僕は天使ルマエル。技術部門所属の正式な天の使いだよ』

「……?」


 首をかしげる飯田。

 そんな飯田に、大谷は言う。


「気にしなくてもいい。思い出さなくてもいい。ただ、この()()だけは言っておく。






俺は、()()()だ」

「……っぁ?!」


 反射的に後頭部を抑える飯田。

 そんな飯田に、少しだけ表情を歪め、大谷はそっと目を逸らす。


 大谷の脳裏によぎるのは、新たな友達に浮かれ、一緒に遊びに行った日のこと。あの日、二人は、交通事故に遭った。


 こめかみを抑え、うめき声を上げる飯田。

 飯田は、ようやく()()()()


「……なあ、大谷……っ! 俺、もしかして、()()()()()()()?」

「……うん」


 頷いた大谷。飯田は、完全に思い出す。

 合コンの後。卯月や大谷と連絡を取り合い、友達になった。アルバイトで忙しいらしい卯月よりも、飯田と大谷は時々ともに遊びに行く程度には仲が良くなっていた。


 もともと、顔に大きな傷のある大谷は、他人から遠巻きにされがちだった。だからこそ、できた友人にかすかな喜びを感じていた.


 それが、一瞬のうちに失われた苦しみを、大谷は耐えきることができなかった。

 カラオケからの帰り道、車道側を歩いていた飯田を数十メートル引きずって逃げた、黒の高級車。後頭部を引きずられ、絶命した飯田。

 現状が理解できず、ただただ人通りの少ないその道で、飯田の死体を茫然と見つめることしかできなかった大谷。


 力なく血を流し、息も鼓動もせず道路に倒れた飯田に、近くのゴミ捨て場からスライムが這い寄る。ただ、友達を守りたいという本心で、大谷はそのスライムを踏み殺した。


 その時、天使を名乗るものに、召喚士としての道を指し示された。


「それで、俺は願い事を使った。願い事を使ったから、自衛隊には所属していない。できない」


 目を逸らして言う大谷に、飯田は茫然と己の後頭部を撫でる。

 自動車に引きずられた後頭部は、完全に頭蓋が割れ、脳を損傷していた。だからこそ、即死していたはずだった。だがしかし、現に飯田は生きており、さらに後頭部にはきちんと髪の毛も生えている。


「……何で……?」


 茫然と疑問を口にする飯田に、大谷はそっと唇を噛んで言う。


「……嫌だったなら、ごめん。ここに天使が来ているってことは、既に異常事態だから、安全なところまで連れていく」

「違う、そうじゃない! 何で、俺なんかを……?!」


 困惑したように問う飯田に、大谷は首をかしげる。


「友達、だから?」

「いや、何で俺に聞くんだ?」

「何でだろう……?」


 困惑する大谷に、飯田は頭を抱えた。

 なんでも願いを叶えられる権利だ。もっと、自分のために使うだとかあっただろう。飯田自身、彼女が欲しいという願いを叶えてもらっていたかもしれない。


 思いのほか、俗っぽい願い事しか考えられなかった飯田は、少しだけ自己嫌悪しつつも、大谷に頭を下げる。


「とにかく、俺を助けてくれて、ありがとう。それだけは、言わせてくれ」

「ああ、うん。友達だから、当たり前だ」


 飯田に礼を言われ、少しだけ恥ずかしそうに頭を掻く大谷。そんな二人に、ルマエルは言う。


『えっと、話はそれで終わりでいい? とにかく、僕には用事があって』

「わかっている。門の話だろう?」


 そう言い切った大谷に、ルマエルは首を横に振る。


『違う。あざ__』

『他人の個人情報を簡単に言うのは、どうかと思いますが?』


 名前を言いかけたルマエルに、浅井は口を挟む。召喚士でない一般人がいることは、スマホのカメラ越しに理解していた。

 突然の幼い少女の声に、飯田は首をかしげ、大谷は少し考え込む。

 そして、思い当たった大谷は、手を打つと口を開く。


「ああ、思い出した。執事さんのところの女の子だね?」

『……忘れていましたか、匠拳の弟子の大谷様』

「俺はあのショタジジイの弟子になったつもりはない!」


 眉をしかめ、言い返す大谷に、浅井は何の感情もなく『それは申し訳ありませんでした』と言うと、さらに言葉を続ける。


『現在、稲日市立美術館に異変が起きています。原因は、『門』です。それによって、館内では美術館のルールが適応されています』


 浅井の言葉に、大谷は少し考えた後、口を開く。


「……走っちゃいけないとか?」

「いやいや、お前、がっつり走っていたろ。あれだよ、火気厳禁とか、絵の写真を撮るなとか、そう言うことじゃないのか?」


 思わずと言った様子でツッコミを入れる飯田に、浅井は同意の言葉を返す。


『現在確認されている禁止事項は、『武器の持ち込み、使用』、『ライター及びマッチの持ち込み』、『チケットなしでの入館』、『美術品の破壊行為』です。また、黒色に染まった美術品は、美術館の美術品から外れるようです』

「カメラは大丈夫なのか?」

『この美術館では、原則カメラの使用が許可されています。ただ、第二展示場に移動した場合は不明です』


 浅井は手短に言う。

 ルマエルは微妙な表情を浮かべ、近くの植木に腰かける。


「で、俺は何をすればいいの?」


 首をかしげてそう聞く大谷に、浅井は答える。


『出入り口の窓口業務、チケットの販売業務の出来る職員を探してください。現在、入り口のチケット売り場に誰もいないため、私たちも美術館に入れていません』

「……ん? チケットがあればいいのか?」


 首をかしげる飯田。

 突然会話に参加してきた飯田に、浅井は少しだけ困惑しつつも、答える。


『はい。二枚、最低一枚あれば、支援可能です』

「俺、二枚なら持ってるぞ?」

『……え?』


 あっさりと言い切った飯田に、浅井は思わず間抜けな声を上げる。

 もともと女子をナンパする予定だった飯田は、合計四枚のチケットを持っていた。そのうち二枚を入館に使ったため、残りはそのまま財布の中に入っていた。

 ポケットの中の財布から、二枚のチケットを取り出し、スマホのカメラに見せる。


 浅井は思わず目を丸くした。


「えっと、どうやって渡せばいい?」

『あー、それなら、僕が渡しに行くよ。飛べるし、いい加減帰りたいし』


 名乗り出たルマエルに、浅井は短く『お願い』というと、飯田に向かって言う。


『ご協力、本当にありがとうございます。チケット代及びお礼は、後日必ず』

「いや、大丈夫だ。その、未だによくわからないけれども、頑張ってくれ」


 カメラに向かって笑顔で手を振りつつ、飯田はルマエルに二枚のチケットを手渡す。

 状況は、少しずつ転換していった。

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