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ロードテール  作者: ooi
三章 登竜門
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18話 中庭の攻防

前回のあらすじ

・過去をうつす鏡から脱出

 執事メフィストフェレスの協力により、稲日市立美術館の前まで来た浅井。だがしかし、二人は美術館の中に入りかねていた。

 理由は、美術館の入り口に設置されたハシビロコウの彫刻である。


 異変に気が付き集まった自衛隊の召喚士を、単騎で追い払える程度の力を持つハシビロコウ。しかも、追い払われた自衛隊員もその仲間(パートナー)もきちんと生存しているあたり、手加減をしていることがわかる。


 浅井は困惑したように眉を顰め、隣に控える執事に言う。


「貴方なら、アレをどうにかできるかしら?」

「フム、そうですねェ……隠れて侵入することを諦めるなら、破壊することも可能かと」


 黒傘に手をかけ、言い切る執事。

 そんな彼らの前で、ハシビロコウの破壊を目的としたパートナーによる攻撃が行われる。


 すさまじい爆裂音の直後、土煙に視界が一瞬覆われる。


「破壊成功! 侵入準備を!」


 叫ぶ自衛隊員。そして、別動隊が入り口から侵入しようと隊列を組み……その隊列は、軽々と吹き飛ばされた。

 浅井は、顎に手を当てて額に汗を浮かべる。


「見ていたかしら、執事。私の目には、あの彫刻が再生したように見えたのだけれども?」

「見ておりましたとも、お嬢様。確かに、あの奇妙な鳥の彫刻は、爆破によって粉微塵にされておりましたとも。よかったですねお嬢様。破壊はできるらしいですよ」


 執事は、首を横に振るとやれやれと言ったように答える。浅井は眉間を抑えて深くため息をついて、執事に言う。


「再生したら意味ないわよ……創剣様とも通話できなくなったし、ともかく、どうすべきかしら?」


 いっそ滑稽にすらも見えるハシビロコウ無双に、浅井は頭痛を覚えた。

 訓練されているはずの自衛隊員が、まるでおもちゃの兵隊かのように軽々と吹き飛ぶ。押さえつけようとしても、それらをかわし、いなし、魔法には魔法をぶつけて相殺すらしている。


 あまりの戦いように、全力で戦って破壊できるか不安になってきた執事は、そっと首を横に振って浅井に進言する。


「正面の門以外から侵入するのはいかがですか?」

「そんなの、そっちの自衛隊が試してない訳ないでしょ。できるなら正面門に居座っていないわよ」

「それもそうですねェ」


 執事と浅井は、そう会話しつつも油断なく周囲を警戒する。自分たちを不可視にする魔法こそかけているものの、油断すれば命を落としかねない現状だ。

 しばらく考え込んだ浅井は、ふと、思いついて口を開く。


「ねえ執事。お財布は持っているかしら?」

「財布、ですか? まあ、持っていますが……?」


 困惑したように首をかしげる執事に、浅井は軽く礼を言うと、言葉を続ける。


「チケット、買うわよ」

「チケット、ですか?」


 執事から財布を受け取った浅井は、さっさと入り口近くのチケット売り場に身より、そして眉をしかめる。

 浅井の視界に映るのは、誰もいないチケット売り場。美術館内の異変のせいでチケットの売り子は逃げ出していたのだ。


「美術館のルールにのっとっているなら、入館チケットさえあれば入れると思うのだけれども……」

「あァ、なるほど、そういうことですか。なら、ワタクシが()って……いえ、止めておきましょう。こちらが見えていないはずなのに、ハシビロコウと目が合いました」


 わざとらしく怖がって見せる執事に、浅井はこめかみを指で押しながら思考を続ける。どうにかして美術館に侵入する方法はないだろうか。

 しばらく考え込んだ浅井に、ふと、執事があることに気が付いた。


「お嬢様。通話、まだ続いているのですか?」

「あら……そうみたい。というか、凄い画面揺れているわね……」


 思わずといった様子でそう呟いた浅井の言葉に反応し、電話奥から子供の叫び声が聞こえてくる。


『冷静な感想はいいから、とにかくどうにか助けてくれる?!』

「……?!」


 驚く浅井。声を聴いて不愉快そうに表情を歪める執事。

 浅井は、画面を食い入るようにのぞき込み、そして、ギリギリ画面に映りこんだ美術品と脳内に描かれている地図を確認する。


 そして、スマホに向かって言う。


「前に曲道はある?」

『っ?! いや、あるけど?!』

「そこを曲がって、しばらく進むと外広場に出ることができるわ」

『広場に出てどうしろと……?!』


 文句の後に、少しの悲鳴と画面が大きく反転する。直後、破壊音がスマホのマイクに入り込んだ。まだ回り続けるカメラに、声の主の生存が確認できる。

 浅井は、少しだけ考え込み、そして、口を開く。


「もしかして、追いかけている彫刻って、楽器を持っているかしら?」

『え?! 真っ黒でよくわからないけど、多分楽器っぽいのを僕に叩きつけて来たけど?!』

「あー……それは、『ギターを弾く男』という題名の彫刻ね」

『題名が分かったところで何があるんだよ!!』


 叫びながら、次々に振り下ろされるギターをよけ続ける声の主。いい加減いら立ってきたのか、執事が舌打ちをして浅井のスマホに向かって言う。


「いい加減にしてくださいませんかァ? ワタクシとしては天使の一人や二人が消滅したところで何も思いませんよ?」

『ひ、人でなしー!』

「悪魔ですから。というか、人でなしは貴方もでしょう、()()()()


 機嫌悪そうに眉間にしわを作った執事は、吐き捨てるようにそう言うと、浅井に言う。

 あまりの迫力に、ルマエルは小さく悲鳴を上げつつ、全力で通路を右に曲がる。酷い音を立てて壁がえぐれるが、ピントがずれていて、さほど鮮明に現状を見ることはできない。


「電話を切ってしまってもよろしいのでは? ワタクシ、天使はあまり好きではないのですが」

『天使好きの悪魔なんていたら、それこそ嫌だね!』


 外に出たらしいルマエルは、慌てて空中に舞い上がり、彫刻の攻撃の範囲外に出る。ようやく一息付けたルマエルは、軽くため息をつくと、携帯に向かって言う。


『で? 今どこにいるの? 僕、もう帰りたいのだけど?』


 創剣と約束した以上、ルマエルは浅井がたどり着くまでは美術館に待機していなくてはならない。毛玉に近い体には少々大きいスマホを人形のような両手でぶら下げながら、ルマエルは浅井に聞く。

 浅井は、あっさりと答えた。


「まだ美術館に入れてないわ」

『嘘でしょ?!』


 思わず叫び声をあげたルマエル。

 そんなルマエルに、浅井は短く言う。


「チケットがないと美術館に入れない」

『なっ……いったい僕は、どれだけ待たなきゃいけないんだよ?!』

「……案外、創剣様に美術館から出るなと命令されたのではないのでしょうかァ?」

『止めろ、悪魔! こんな美術館、今すぐにでも出ていきたいよ!』


 茶化す執事に、噛みつく天使。その声色には、なかなかに切実なものが含まれていた。

 さすがに不憫に感じ始めた浅井だが、それ以前に美術館に入る方法がない。


__せめて、私が小学生以下なら、無料を言い張って入ることができたけれども……


 現在、浅井の年齢は七歳。料金表を見ても、小学生は大人の半額であるらしいことが書かれている。つまり、大人(?)の執事の分と合わせ、二枚のチケットは必須である。


 考えながらスマホに目を落した浅井は、ふと、見覚えのある人物の後姿を見つける。


「……ルマエルさん。広場にいる人に、近づいてくれませんか?」

『……え?』






「うわぁ、最近の芸術って、よくわからないな……」


 人懐っこく動く、形容詞彫刻群の一つ、『ざらざら』に触りながら、大谷は間の抜けた感想を言う。

 大谷とともに美術館を巡っていた飯田は、この異常事態に気が付き、警戒__というよりも、少々恐れのような物を感じてはいたが、あまりに気の抜ける感想を言う大谷に、思わずため息をついた。


「……うん、大谷がそう思うなら、それでいいと思う。だけどさ、ちょっとは違和感覚えないか?」

「違和感って言うと、結局男子二人で美術館に行くことになったこと?」

「時々すごく心臓に痛いこと言うよな、大谷って。違うからな? 展示品がひとりでに動いていることだからな?」


 そっと目頭を押さえて涙をこらえる飯田。そうだ。結局、ナンパは失敗したのだ。


「こうやっている間にも、卯月は女友達とデートだろ? あっ、ちょっと嫉妬心が……これが、妬み……?」

「どちらかというと、僻みじゃないかな」

「うぐぅ……! 純粋な言葉が心臓に刺さる……!」


 『ざらざら』を撫でながら言う大谷に、飯田はぐっと胸を抑えた。その行動に、わずかに目を見開いた大谷だったが、すぐに眠たそうな目に戻る。


 飯田は心配そうに周囲をきょろきょろと眺める。

 鳥の彫刻が空を飛び、ハープを持った女性の石像が美しい音楽を奏でる。幻想的と言えばそうなのだが、動くはずがないそれらがひとりでに動き出すその光景は、恐怖を覚える割合の方が高かった。


 それに対し、大谷は比較的環境に適応しているのか、人懐っこく肩に留まったガラスの小鳥をそっと指で撫で、緊張感もなく言葉を吐く。


「暑いし、室内に戻らない?」

「……ああ、うん。なんか、あまり深く考えないほうがいい気がしてきた。あと、その小鳥、ちょっと触っていい?」


 少々頭痛を覚えた飯田は、現実逃避することにした。ガラスの小鳥は、飯田の頭に留まると、そのまま歌うように鳴き声を上げる。心地よい鳥のさえずりではあるが、慰めにはならない。


 だが、次の瞬間、ガラスの小鳥は短く警戒の鳴き声を上げた直後、空へと舞い上がる。先ほどまで涼し気な音楽を弾き流していた女性の石像も、音楽を奏でるのをやめ、体を小さく縮める。


 何事か理解できず、困惑する飯田。

 立ち上がり、周囲を警戒する大谷。


 次の瞬間、観葉植物の鉢をなぎ倒し、黒色に染まった彫刻が二人に躍りかかってきた。


「うわぁぁぁああ?!」

「……。」


 悲鳴を上げる飯田を庇うように立ちまわる大谷。その目には、確かな落ち着きが満ちていた。


 肩幅程度に足を開いた大谷は、ギターのネックをつかみ、振りかぶる彫刻の姿を冷静に観察する。


 そして、両腕の隙間に体を滑り込ませると、彫刻の顎を狙って掌底打ちを繰り出す。正確に喉仏を滑り上げるように撃ち抜かれた一撃は、見事に黒色に染まった彫刻の顎裏を撃ち抜いた。


 無駄一つないその一連の攻撃で、黒に染まった彫刻の頭部が吹き飛ぶ。


「うっお?! え、何?! さっきの何、大谷?!」


 しりもちをついたまま、半ばパニックになる飯田。

 自重に従って叩きつけられたギターは、地面を舗装している石畳を砕く。頭のなくなった彫刻に、驚きを隠せない飯田。


 が、次の瞬間、大谷は大きくその場から飛びのいた。

 頭が吹き飛んだはずの彫刻が、大谷につかみかからんと右手を横なぎにふるったのだ。


 空しくも虚空をつかむことになった黒の彫刻は、ややバランスを崩しながらも、二足歩行を維持してぺたぺたとあたりを歩き回る。


「……これ、まだ動く」

「……えっ?」


 もはやどこから困惑すればいいのかわからなくなってきた飯田。

 本当に状況が理解できない。

 美術館には何が起きた? いきなり美術品が動き出したけど、何がどうなった? 黒い何かに襲われたけど、アレは何? 大谷が黒い何かの頭を吹っ飛ばしたけれども、何がどうなっている? 頭が吹き飛んだのに、何故アレは動いている?


 頭を疑問符が支配し、飯田はただ茫然と目の前の光景を見守ることしかできない。


 黒色の彫刻から距離をとった大谷は、顎に手を当てた後、うごうごとあたりに手を伸ばしては周囲を探る石像に脅威を感じられず、そっと口を開いた。


「……頭がなくなって、こっちが見えていないみたいだし、これでいいか」

「いや、何一つよくねぇよ?!」


 困惑した飯田の絶叫が、夏空に響き渡った。

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