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ロードテール  作者: ooi
三章 登竜門
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16話 宣戦布告か? 宣戦布告だな?

前回のあらすじ

・卯月、黒色に染まった彫刻を撃破

・使用禁止「金属バット」

 黒に染まった彫刻を無力化した直後。

 卯月は、レストランから一番近いトイレへと向かった。


 そして、ためらうこともなく女子トイレの中へと足を踏み入れ、トイレの清潔に磨き上げられたタイルの上に落ちたバッグに気が付く。このバッグには、見覚えがあった。


「……相模さん……!」


 相模が、朝から持っていたバッグであった。

 反射的にバッグの対面にかけられていた絵を見上げると、『扉のある光景』という題の絵がかけられている。


 存在しているだけなら偶然で済ませられたが、その扉が一つを除いてすべて黒色に染まっていることに気が付き、卯月は息を飲んだ。


 残った扉は、オーク材の扉。絵画の中では一番手前側に描かれたその扉には、外から木材が打ち付けられ、開かないように細工されていた。


__どういうことだ?


 相模のバッグを片手に困惑する卯月。

 そんな相模の耳に、ふと子供の声が聞こえてきた。


『オ兄チャン、ココカラハ入レナイヨ?』

「……誰だ?」


 先のとがったペーパーウェイトを片手に、卯月は周囲を警戒する。

 声の元は、絵画の中。それも、木材が打ち付けられたオーク材の扉からだった。


 子供の声はけらけらと楽しそうに笑うと、卯月の質問に答える。


『ボク? ボクハ笛ヲ吹クノガ大好キナ男ノ子サ!』

「……?」


 首をかしげる卯月に、子供の声は不思議そうに言う。


『コノ扉、女子トイレ二飾ッテアッタハズダケド、オ兄チャンドウシタノ?』

「……友人が、トイレに行ったっきり、帰ってこなかった。だから探しに来た」

『フーン? 大変ソウダネ』


 興味なさそうな子供の声。

 だが、次の子供の弾むような声に、卯月は歯噛みした。


『ボクハ新シイ友達ガデキタヨ! 三ツ編ミノ女ノ子デ、絵ガスッゴク上手ナンダ!』

「……。」


 笛が得意なボクと、おそろいだよね! と無邪気に喜ぶその声。


 トイレに残されたバッグ。子供の声。

 点と点がつながり、卯月の心を静かな怒りが支配した。


 握り締めた三角錐の金属が、手のひらに刺さる。自然と手に力が入っていたことに気が付いた卯月は、ポケットの中にペーパーウェイトをしまい、そして、


「……ここからは入れないってことは、別にそっちに行く方法がある、ってことだよな?」

『ソウダケド? モシカシテ、君モボクタチノ仲間ニナリタイノ?』


 無邪気に質問する子供の声に、卯月は殺意を飲み下して口を開く。


「俺の友人を返してもらう。それだけだ」

『……フーン?』


 怒りのにじんだその瞳。握り締めた拳を見つめ、ただ己の判断不足と力不足に殺意を覚える。

 子供の声は、ただ卯月に対し何の興味も無いように声を漏らし、そして、そこから何を答えることもなかった。


 走ることすらできない己に怒りを覚えつつ、卯月は早足でトイレの外に出る。目指すところは一つ。第二展示場だ。




 卯月から分かれた創剣は、片手にルマエルをわしづかみ、美術館を移動する。


『あの、創剣様……?』


 がっちりと頭(そもそも体に当たる部分がないが)をつかまれたルマエルは、逃げ出すこともできず困惑したように創剣を見上げる。だが、創剣はルマエルの言葉を無視し、携帯電話で浅井と話を続ける。


『破壊できない門……行使することができるなら、創剣様のエクスカリバーはどうでしょう?』

「ふむ……試してみないこともないが、俺様のエクスカリバーはこの世界の摂理ではうまく働かなくてな。今なら可能性は無きにしも非ずだが、力の四割を引き出せれば良いほうだ」

『なるほど……』


 考え込む浅井に、創剣は虚空の倉庫を開こうとして、何かに弾かれるような感覚を覚える。法律違反なら体に多少の支障を覚えるだけであるため、破ろうと思えば破ることはできる。

 だがしかし、現状はそれではない。


「弾かれる……というよりは、剣を取り出せない……?」


 そう考えた創剣は、ルマエルの頭をつかんでいた左手を離し、手を軽く横に広げ、鎧を意識して取り出す。

 いつも通りに虚空の倉庫から展開された鎧は、何の支障もなく体にまとうこともできた。


 輝かしい鎧姿に変わった創剣をカメラ越しに覗き見ながら、浅井は口を開く。


『創剣様。武器の類ではない、火を扱えるものは取り出せますか?』

「……む?」


 きょとんとした表情で虚空の倉庫からオイルライターを取り出そうとした創剣は、再度弾かれるような感覚を覚える。


「取り出せぬな」

『……創剣様、おそらく、美術館のルールにのっとっているのではないのでしょうか』


 浅井はそう言いつつ、自分のパソコンを確認する。卯月らが稲日美術館に行くと決まってから、何らかの危険が起きないためにも調査は軽くしておいてあるのだ。

 机の引き出しからUSBを取り出し、ノートパソコンにとりつける。記憶できることと記録できることは話が別であるため、浅井はUSBなどの記録媒体はよく用いていた。


 画面を操作しPDFを開く。それは、美術館のパンフレットである。


『創剣様。この美術館では、通常の美術館とは異なり、携帯電話の使用及び写真撮影が原則解禁されています。ですが、第二展示場においてはそのルールが適用されていません』

「つまり、第二展示場に行けば、このすまほとやらは使用できなくなる、と?」

『そう予想できます。また、第三展示場でも、特設展示場内では飲食が禁止です』


 創剣の質問に答えながら、浅井はさらに規則を確認していく。

 美術館の基本方針として、写真撮影及び動画撮影、また、スケッチなどはほかの来客者の邪魔にならない限り原則解禁としている。また、飲食も一部区画……つまり、特設展示場と第二展示場を除き、自由である。

 基本的な禁止行為は、来客者に迷惑をかける行為、美術品や展示品の破壊及びいたずら、危険物やマッチ、ライターなどの火を扱う道具の持ち込みや使用である。当然、花火の類も禁止である。


 美術品の破壊に関しては、黒に染まってしまった美術品なら破壊したところでルールには引っ掛からないらしい。卯月がその例であるが、創剣は知らぬところである。


『ちなみに、創剣様。どちらへ向かうつもりですか?』

「ともかく、門の描かれた絵を見つけぬことには話が進まぬからな。第一展示場でも絵画の展示されているスペースへ向かっておる」


 創剣はそう言いながら、突っ込んできた黒色に染まった彫刻に対し、無造作に拳を振り抜く。

 一瞬のインパクトの後、砕ける彫刻に、館内に響く崩壊音。


 あまりにも簡単に粉々に砕けたコンクリート製の彫刻を見下し、創剣は殴った勢いで砕けた血まみれの拳を見る。


__やはり、剣がないと体はもろいな……


 折れた数本の拳の骨に、抉れた肉。痛覚が皆無なわけではないが、他の七武器のように直接己の体に強化魔法を常時展開しているわけではない以上、この手の痛覚には慣れがあった。


 少しの間痛みに耐えれば、体内に存在する小剣が、勝手にその怪我を治す。

 逆再生のように抉れた皮膚が埋まり、骨がつながる様から目を逸らし、創剣は左手に握り替えたスマホに目を落す。ついでに、治りかけの右手で逃げ出そうとするルマエルを捕まえ、口を開く。


「貴様はついてこい」

『いやいやいやいや、何でですか?! 僕、召喚術式以外は何もできませんよ?!』


 逃げるのに失敗したルマエルは、体を細かく震わせ叫ぶ。創剣はそんなルマエルを鼻で笑うと、言う。


「いや何、俺様はこの世界の住人ではない故、門に触れたところで破壊できるわけではないからな」

『いや、僕も門を触れば壊せますけど、そもそも今回触れない門じゃないですか!』

「壊せるならばそれでよし。触れる方法は現地についてから考えればよかろう。喜べ毛玉。門を壊すまでは俺様が貴様を守ってやる」

『か、感謝しますけど、喜べない……!』

『あの、創剣様。向こう見ずは流石にやめてほしいのですが……』


 通話口越しに控えめに言う浅井に、創剣は高笑いを返す。文字通りノープランである。だがしかし、動かねば状況は悪化するまで。

 すっかり治り切った拳に、きっちりと籠手を着けなおし、創剣は堂々と言う。


「いやなに、手段は特に考えてはいないが、問題はない。そも、ここはライターやマッチの類は使えないが、火魔法は使えるあたり、節約(しばり)が緩い」


 盾の友と戦うときには、特殊結界のおかげで本当に何もできなくなるからな、昔懐かしむように言う創剣は、購入した剣のキーホルダーを取り出し、魔術付与を行う。


魔術付与(エンチャント)【形質変化】、【魔力強化】、【魔術補助】」


 適当に呪文を唱え、剣のキーホルダーに魔力を込める創剣。

 紡がれた言葉に乗って光がキーホルダーへと移り、そして、眉をひそめた創剣はキーホルダーを見る。

 安っぽいプラスチックのそれは、創剣の手のひらの中で粉々に砕け散っていた。魔術付与の失敗だ。


「むぅ……さすがに人口非金属(プラスチック)に即時三重付与はきついか……」


 妙に発光するプラスチック片に変わったキーホルダーをゴミ箱に捨て、創剣は軽く舌打ちをする。その辺にポイ捨てしようかと思ったが、卯月の法律がそれを許さなかったのだ。


「ともかく、急を要する二重付与のみにしておくとして……いや、ストラップだから別に複数所持しても構わんのか……ふむ、存外楽しいな」

『メフィストフェレス、転移魔術展開を手伝って__作業中断終わりました。私も現場に急行します』


 ガタガタと何かが動く音が四角い電子板の向こうから聞こえてくる。が、創剣は軽く笑うと言う。


「無理はせんでいいぞ浅井。ここにはあのド阿呆がいる。戦う意志のあるあの阿呆を出し抜いて貢献度一位を狙うのは少々きついはずだ」


 軽く手を振り、キーホルダーを甚平のポケットにねじ込む。虚空にしまい込むと、魔術付与の効果が発揮しなくなるためだ。


 創剣の言葉に、浅井は一瞬言葉を詰まらせる。特に前持った会議もなく、卯月が現地で戦っているのだとすれば、召喚士として先輩にあたる卯月を超える貢献を行うことはほぼ不可能である。

 願いの権利の手に入らない、実質無意味な戦い。これに参戦したところで、己の情報が漏れだし、浅井家にも足取りをつかまれてしまう可能性もある。

 だがしかし、浅井の答えは決まっていた。


『……今回は、貢献度一位を狙うのではありません。ただ、日常を守るために戦うだけです。父さんとお姉さんが生き返った時に、日本がありませんでしたでは話になりませんから』

「ふははっ、勝手にすると良い」


 創剣は機嫌よさそうに笑うと、ふと、近くにある鏡の存在に気が付く。

 随分奇妙な額の中に押し込められたその鏡の題名は、『過去を映す鏡』。


「……む?」


 鏡を覗き込んだ創剣は、ふとあることに気が付く。

 身にまとっているのは、金属鎧である。しかし、鏡の奥に映る己の姿は、かつて国を支配していた王だったころの、いわば王としての礼装、赤いマントを羽織り、王冠を頭につけたその姿であった。


 創剣は、ぴくりと眉を動かし、その鏡をじろりと睨む。


 この世界に来る前の己の顔は、相変わらず整ってはいるものの、目の下の隈が隠しきれていない。諦めと退屈に濁った瞳はうつむきがちで、王としての覇気はあるが、万年社畜の弓の友が本心から心配するのが理解できる程度には疲れ切っていた。


 情けない己の姿に、創剣は奥歯を噛みしめる。腹立たしい。王として情けない、不甲斐ない姿。


「……。」


 無言で拳を鏡に叩きつけようと拳を振りかぶるも、法とルールが己の体を縛る。黒に染まっていないこの鏡は、まだ美術品であるらしい。

 あまりにも憎らしいその美術品に舌打ちをしつつ、創剣は機嫌悪そうにその場を後にしようと視線を逸らす。


 が、次の瞬間、聞こえてきた足音に、創剣はハッとして後ろを振り返る。


「……? 創剣……?」


 足音の主は、早足で第二展示場に移動しようとしていた卯月であった。

 卯月は、鏡に映ったかつての創剣の姿を目にとめ、ふとつぶやく。


 創剣は盛大にため息をつくと、キーホルダーの防音効果を消し去り、卯月に向かって言う。


「その下らん鏡をあまり見るな、阿呆。これに映るはただの虚像よ」

「いや、そうだろうけど……げっ」


 発声によって薄影のお守りの効果が切れ、姿が見えるようになった創剣に歩み寄った卯月は、鏡に映りこんだ己の姿を見て、小さくうなる。


 鏡に映った卯月は、高校の野球ユニフォームを纏い、その手に木製のバットを持っていた。

 表情は創剣と対になるように生き生きとしており、その肉体も現在の廃棄物との戦いのための引き締まった体ではなく、スポーツに適した体つきである。髪も今より短く、運動に打ち込んでいる青年をありありと映し出した鏡に、卯月は思わずため息をつく。


「創剣、あんま見るなよ」


 今ですら未練がないとは言い切れないその姿に、卯月は気まずそうに言う。最初に見たときよりも随分と悪趣味な過去を映し出したその鏡に、卯月は眉をしかめるしかない。


 だが、そんな卯月の言葉を無視し、創剣は卯月の姿を確認して鼻で笑う。


「はっ、道化服の差分か?」

「まあ、デザインは似てるには似てるけど……てか、そんなことを言ったら、お前、王冠なんて被っているじゃないか」

「俺様は王だからな。当然だろう」


 胸を張って卯月に言い返す創剣に、卯月は苦笑いを返す。

 そして、己の目的を思い出した卯月は、軽く創剣に手を振ると、第二展示場に移動しようとして……次の瞬間、体が動かなくなる。


「……?!」

「……む?」


 足を前に踏み出した状態で体が固定された卯月は、かろうじて動く目玉で周囲を確認する。どうやら、創剣も同様であるらしく、不愉快そうに表情を歪め、鏡を睨む。


 創剣の視線に誘われるように、卯月は鏡に視線を移し、そして、驚きで目を見開いた。


 鏡に映った、高校生の卯月と、王の姿の創剣が、動いている。

 そして、やがて二人は鏡のそばへと歩み寄り、コチラに軽く手を振ると、ずるりと手を鏡から突き出した。


「……!」


 野球ユニフォーム姿の卯月の手が、卯月の手を取る。創剣も、鏡の己に手を取られているらしく、表情を歪め、怒りの交じった視線で鏡の向こうの己を睨みつける。


 卯月の手をつかんだ鏡の己は、卯月自身を鏡の中に引きずり込もうと力を籠める。そこで、金縛りは解けた。


 空いた手で鏡の己の手を引きはがし、そして、創剣の腕をつかんだ鏡の奥の男の手を蹴り上げる。


 しかし、それは判断ミスだった。


「阿呆! いくら虚像とて、()()()()()()!」

「うわっ?!」


 鏡から突き出された創剣の腕は、不愉快そうにわななき、そして、仕返しとばかりに蹴り上げた卯月の足を逆につかみ上げ、そのまま鏡に引きずり込む。

 反射的に創剣は卯月に向かって手を伸ばすが、しかし、その手は虚空をつかみ取っただけである。


 創剣は、舌打ちをして鏡を睨む。


 鏡に引きずり込まれた卯月。消えた王の姿の己。そして、不敵な表情で創剣に向かって手を伸ばす野球ユニフォーム姿の卯月。

 創剣は、困惑するルマエルに向かってスマホを投げ渡し、言う。


「浅井が来るまで待機していろ。いいな、毛玉」

『えっ、帰っちゃだめですか?』

「貴様も鏡の中に入りたいなら先に言え」

『待ってます! 待機してます! いってらっしゃいませ、創剣様!』


 敬礼せんばかりの勢いで言うルマエルに、創剣は思わず高笑いを上げると、不敬にも王に伸ばされたその腕をつかみ取った。

 召喚士によって召喚されえる生物は、総じて神に叶えてほしい願いを持つ。

 というよりかは、願いを叶えてほしいがために、召喚に応じているといったほうが正しいだろう。


 とあるものは、己にない感情を望んだ。

 とあるものは、力を望んだ。

 とあるものは、食糧を、住処を、生きる環境を。


 創剣も、例外ではない。

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