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ロードテール  作者: ooi
三章 登竜門
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12話 絵画と彫刻とその他もろもろ

前回のあらすじ

・ナーバス卯月

・美術館デート開始

 美術館の敷地内は、スプリンクラーやミストが効いていていて、屋外であるというのにある程度の涼しさを保っていた。


 二人がまず目指したのは、入り口から一番近いところにある第一展示場。この暑さだと、とてもではないが屋外展示を見に行く気にはなれなかった。

 相模の作品が展示される予定だったのは、中庭に位置する第三展示場。第一展示場は各展示場につながる中央に位置する展示場であり、案内所や土産店、レストランなどが存在する。


 ただし、展示場という名前が入っている通り、美術品の展示も行われている。


 自動ドアが二人を迎え、エアコンの風がじっとりと汗に濡れた肌を冷やす。涼しいというよりかはかすかな寒気さえ感じたが、それよりも卯月は、美術館の広々としたエントランスに息を飲んだ。


 木目のタイルに、大理石の壁。石材で組み立てられたベンチには複数の家族が休憩をしているらしく、疲れた様子の両親と、まだまだ元気いっぱいそうな子供たちが飲み物を飲んでいた。


 涼やかな建物の中で、卯月は軽く息を吐く。

 卯月に続いて第一展示場の中に足を踏み入れた相模は、嬉しそうに声を出す。


「卯月さん、あれ! あの彫刻作品、触っていいやつですよ!」


 相模の指さす方を見た卯月。そこには、さまざまな彫刻が一列に並べてあり、それぞれに題名が付いているらしい。人気な作品の一つ(?)なのか、子供たちがその彫刻の周りで楽しそうに笑っては彫刻を撫でたり触ったりしていた。


 気になった卯月が近づくと、作品のタグがようやく見えてきた。


 一番中央にあった作品は、『つるつる』という題名。その通り、柱状のその彫刻は美術館の照明を反射させるほど磨き上げられていた。

 相模は子供たちの群れにひるむことなく、一番人が少ないらしい彫刻の前に立つと、そっとそれを触った。のぞき込めば、題名は『ぶよぶよ』。


「すごいです、卯月さん! これ、凄いぶよぶよですよ!」

「ああ、そうだな」


 つられるようにして触った卯月は、その触り心地に首をかしげるしかない。『ぷるぷる』というほど柔らかくはなく、確かにしっかりした弾力感は感じられる。『ふにゃふにゃ』と言えるほど力は抜けていないが、固すぎるわけでもない。なるほど、『ぶよぶよ』だ。


 何の素材でできているかはわからないそれからそっと手を離し、卯月は手元のパンフレットを見る。入り口で配られたパンフレットによると、形容詞シリーズは館内のいたるところにあるらしい。


 しばらく楽しそうに他の作品もさわりに行く相模を眺め、卯月はそっと周囲を確認する。平和そのものの美術館には、廃棄物の気配も影も見当たらない。


__警戒する必要なんてないだろ、ここは美術館だぞ?


 無意識のうちに右手を握り締めていた卯月は、深くため息をついて、たくさんの子供に混ざって『ふわふわ』のオブジェをさわりに行っている相模に声をかける。


「そろそろほかの作品も見に行かないか?」

「あっ! そうですね、ここだけでもたくさんありますからね! あと、ワークショップも寄っていきましょう!」


 無邪気な笑顔を浮かべる相模に、卯月はそっと笑顔を返す。

 相模に勧められるまま次々作品を見ていく。


 女性を象った彫刻。よくわからない神話の英雄像。空の絵の描かれた床に、地面が描かれた天井。

 卯月の理解の及ばない域の芸術作品たちに目を輝かせ、見つめたりそっと手を伸ばしたり楽しそうな相模。くるくる変わる相模の表情に、卯月の心は少しずつ穏やかになり、そして、同時に罪悪感が重くのしかかって来る。


「卯月さん! あれです、過去を見れる鏡! 映像技術と芸術の融合らしいですよ!」

「うぉっ?!」


 鏡に映りこんだ相模の服が唐突に変わる。中世風の衣装に身を包んだ鏡の中の相模に、卯月は思わず驚いて声を上げる。どうやら、この鏡はセンサーとカメラによって動作しており、鏡に映った人間に衣装などの映像を重ねるらしい。


「あー、何か、写真でも撮っておくか?」

「そうしますか」


 相模は、ニコッと花が咲くような笑顔を浮かべる。卯月は思わず苦笑いをして、近くにいた美術館の職員に声をかける。


 鏡の前に立った卯月は、何故か上下黒色の服を着て、深くフードを被っている。隣のお姫様と隣り合わせになると、まるで暗殺者のようにも見えた。

 卯月の変わった姿を鏡越しに見た相模は、楽しそうに笑って言う。


「うわぁ、凄い格好ですね! ちょっとカッコいいです!」

「そうか? 何か、死神の鎌でも持ってそうな格好だよな」

「はーい、こっちみてくださーい」


 目線を誘導する職員。

 卯月は、相模のカメラに向かってぎこちなく笑顔を浮かべる。それに対し、相模は右手で控えめにピースサインをする。


「はい、チーズ! 撮れましたよ」


 数枚の写真を撮り、職員さんはいい笑顔で相模にスマホを返す。写真を確認した相模は、笑顔でお礼を言うと、取れた写真を卯月に送る。

 卯月も職員に会釈し、次の展示品を見つけていつの間にか歩き出していた相模を追いかけた。


 時間は、ひどく優しく、甘く、そして無情にも過ぎようとしていた。




「むぅ……見ていて面白いは面白いが、つまらんな……」

『つまらないのでしたら、さっさと飽きていただいても?』

「辛辣だぞ、小娘」


 スマホを片手に、防音の剣と薄影のお守りを手にした創剣は、卯月と相模から少し離れたところで、ビデオ通話をしていた。相手は、現在仕事中の浅井である。


 ノートパソコンを使用しながら、浅井は頭を抱えて創剣に言う。


『あの、創剣様』

「義父様と呼べ」

『創剣様。私、卯月さんの恋愛模様の野次馬などしたくはないのですが』


 呼び変えず、そのまま言葉を続ける浅井に、創剣は少しだけ残念そうな顔をしつつ、言う。


「だって、俺様だって一人で美術館とか楽しめないわけではないが、つまらんだろう」


 あっけらかんと言い放つ創剣。浅井は、深くため息をつくと、カメラ越しに創剣を睨み、言う。


『……通信切ってもいいですか?』

「切るでないわ阿呆。最初に言ったであろう。最後まで見ていれば、貴様が望む効果を付与した剣をくれてやると」

『……わかりました。ただ、仕事の中断だけはしませんからね』


 効果付与された剣は欲しいのか、あきらめたようにそう言う浅井。かちゃかちゃというキーボードをはじく音が言葉の合間にも連続的に聞こえるあたり、本当に忙しい合間に創剣の電話に応答しているであろうことが容易に想像できた。


 そんなことはお構いなしに、創剣は第一展示場を回る二人を盗撮、もとい、盗み見し、鼻で笑ってコメントをする。


「見ろ、小娘、あの阿呆の間抜け面を! 思い人の手一つ握るタイミングを見失っておるぞ!」

『イキイキと言わないでいただけますか? というか、美術館でカメラって使っていいのですか?』


 浅井のその質問に、創剣はふと小首をかしげて手元のパンフレットを確認する。パンフレットの地図によると、第二展示場ではカメラ及び展示場内での飲食が禁止である旨が描かれていた。それ以外の場所では、カメラを使用しても文句は言われないらしい。


 だがしかし、次の項目を見て、頬をひきつらせた。


「まずいぞ、小娘。この建物、危険物持ち込み禁止だ……!」

『……! 創剣様!』


 突然画面が下がった浅井は、驚いて声を上げる。

 仮契約の罰則によって、全身に酷い倦怠感を感じた創剣は、よろよろと通路わきのベンチに座りこむ。


 倦怠感の理由はたった一つ。防音のために魔術付与した小剣である。刃が付いているそれが、危険物であるとカウントされたのだろう。


『まさか、創剣様自身が危険物扱いを……!』

「小娘……あとで……説教だ」


 言葉を吐くのもおっくうだ、と言わんばかりの様子の創剣は、力なく浅井に言う。浅井は口を閉じ、そっと目を逸らした。


 少しばかりまずい。

 薄影のお守りは、声を出さなければ効果を発動させる。が、しかし、通話をしながらとなると、どうしても発声が必要となる。


 少し考え込んだ後、創剣は周囲を見渡す。そして、土産店が目に入る。詳しく言うなら、土産店のホルダーコーナーが目に入った。


「あれ……なら……!」

『……しばらく通話を切ります。音を出しても良くなったら合図してください』


 状況を把握した浅井は、そう言うなりスマホを操作し、通信画面を消す。察しのいい浅井に感謝しつつ、創剣は音隠しの小剣を虚空の倉庫に消した。

 その瞬間、倦怠感は消えうせる。


 創剣は、口を閉じたまま軽く体を伸ばすと、少しふらつく体を叱咤し、土産店に足をのばす。


 人形やらフィギュアやらが所狭しとショーケースに並べられたその土産店で、創剣はそれを確認する。


 種類は、3種類ほど。軽く手に持って確認するも、仮契約はそれを危険物とは判定しなかった。


__本来ならこのような剣の偽物を持つのは小癪だが……


 それらをまとめて十本ほどつかみ取った創剣は、さっさとレジに向かい、小声で店員に声をかける。


「貴様。これを買う」

「うぉっ?! い、いらっしゃいませ?!」


 突然現れた創剣に、素っ頓狂な返事をする店員。創剣は笑いをかみ殺してそれを店員に滑らす。


 売店の店員は、それをたくさん購入しようとする創剣に困惑しつつも、確認する。


「えっと、剣のキーホルダーが11点、以上でよろしいでしょうか?」

「かまわん。そして、釣りはいらん」


 店員の確認に、短くそう言った創剣は、万札をカウンターに置き、小袋に詰められた、竜の衣装の施されたプラスチック製のそれを受け取って売店から出る。


 店員は困惑しつつも、お釣りをすべて中身のさみしい募金箱の中にねじ込み、通常業務に戻った。


 安っぽく銀色に輝くキーホルダーを片手に、創剣は魔術付与を施す。

 おもちゃとはいえ、剣であることには変わりはないらしい。きちんと付与できた創剣は、残りの十本のキーホルダーを虚空に消し、再度浅井に電話をした。

 数回のコール音の後に、映りこむ浅井。


「さて、野次馬を続けるぞ」


 にやにやと笑いながら言う創剣に、相模は再度ため息をつく。


『野次馬って……で、お二人はどこですか?』

「……む?」


 気が付けば、創剣の視界から消えていた二人。土産物店でおもちゃを購入している間に、二人は先に進んでしまったらしい。


「むぅ……探すしかないか」

『……はぁ……。』


 創剣のやや楽しそうな雰囲気の交じった言葉に、浅井は頭を抱え、そばに置いていたコーヒーをすすった。

 形容詞作品群


 様々な二文字二回繰り返しの彫刻。

 一番人気は、『もふもふ』であり、まるで動物の毛皮のようなさわり心地のそれは、みんなの注目の的。ある人は、「猫のようなさわり心地」、ある人は、「犬のようなさわり心地」、ある人は「昔飼っていた兎のさわり心地」と、人によって感想は様々であるものの、共通して彫刻に温かみを感じたという。


 作者が存命であることから、作品は少しずつ増えている。最新作は『どろどろ』であり、中庭の水辺に存在するらしい。


 あまりにも頻繁に更新されるため、パンフレットにもすべての作品詳細は乗っておらず、都市伝説的に存在するとうわさされる作品もある。(特に、『きらきら』という作品に関する都市伝説は最も多い)




 なお、この彫刻はフィクションであり、実在しない可能性が高い。

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