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ロードテール  作者: ooi
三章 登竜門
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7話 児童保護法、ちゃんと守られてる?

前回のあらすじ

・卯月と相模ちゃんが青春していた

・創剣「帰っていい?」

 部屋でしばらく嬉しそうにスマホを眺めていた卯月は、そろそろ夕食の準備をしなくては、と名残惜しそうにそれをテーブルの上に置く。


 バットをリビングの棚の上においておき、卯月はキッチンに移動する。家を出る前に米は炊いておいた。なら、今日は安かった鶏肉で唐揚げでも作るか。

 そう考えた卯月は、鶏肉を調理用のビニール袋に入れ、そしてそれの中に麺つゆとチューブのニンニク、塩コショウをいれ、適当にもみほぐしてから冷蔵庫に入れる。


 肉に味をしみこませている間に、今度は揚げ物を作るための用意を始める。そろそろ給料日であるため、多少贅沢をしてもいいだろう。揚げ物用の鍋に油をたっぷりと注ぎ、コンロの火をつける。油が温まるまでに、油取り用のキッチンペーパーをバットにしき、ボウルに卵と小麦粉、水を混ぜて衣を作る。


 どうせなら弁当分も作っておこうと、多めに衣を作り、そして、温まってきた油を前に、卯月は冷蔵庫に入れておいた鶏肉を取り出す。


 そして、次の瞬間。

 背後に現れた気配に、反射的に手元にバットを呼び戻し、構える。

 警戒した卯月が振り返ったそこには、グラディウスを握った創剣が苦々しい表情を浮かべ立っていた。


「……貴様、無礼だぞ」

「あ、創剣か。悪い悪い」

「不敬!」


 卯月の軽い謝罪に、創剣は不満そうに舌打ちをすると、玄関に向かう。グラディウスを使うと、靴を履いたまま室内に転移することになるためだ。

 バットを棚に戻し、卯月は料理を再開する。


「今日は唐揚げだ。手洗っておいてくれ」

「あい分かった」


 廊下の向こうから、創剣の返事が聞こえてくる。

 卯月はそんな返事を聞き流して、鶏肉に衣をつけていく。


 油の温度を温度計で測れば、丁度180度を超えようとしているところだった。火加減を調節し、衣をつけた鶏肉を煮えた油の中に入れる。

 シュワシュワと肉が油で焼けていく音が響く。同時に、腹に響くいい匂いがふわりと沸き立ってきた。


 しばらくしっかり揚げ、きつね色になった唐揚げをキッチンペーパーの上に置く。一つだけつまみ上げ、息を吹きかけて冷ましてから口に含めば、ジワリと広がる肉汁。なかなかうまくできたのではないのだろうか。


 残りの鶏肉もどんどんあげていき、最後まで終えたところで廃油用の溶剤を鍋に流し込み、火を止める。

 そして、キッチンペーパーで油をきっている唐揚げを皿に盛りつけ、テーブルに持っていく。


「創剣、できたぞ」

「む、揚げ物か」


 ちらりと食卓を見て言う創剣に、卯月は思わず顔を上げて聞く。


「何だ、嫌だったのか?」

「別に構わん。だが、旅先で何かと食べて来たのでな」


 そう言いつつも、創剣は席に着くと手を合わせた。箸の使い方はどうやらマスターしたらしく、上品な手つきで唐揚げをつまむと、米の上に乗せ、そしてそのまま口に運んだ。


「あー、何か、悪いな。揚げ物続くと胃がもたれるよな。リクエストあったら言ってくれ。できるならやっとく」

「構わん。よほど貴様の飯に飽きたなら、浅井の娘のところに行けばいい。強制的にデリバリーとなるが、まあよかろう」

「マジか、あいつら毎食デリバリー? 栄養偏るだろ……」


 唐揚げを口に放り込みながら言う創剣に、卯月は頭を抱える。重要な成長期の子供に栄養不足は今後の成長のためにも、まったくもってよろしくない。

 「最低限サラダと牛乳は食しているらしいぞ」と付け加える創剣だが、結局のところその程度ではあふれる脂質と糖質、塩分からは逃れられない。


 後で作り置きのおかずでも作っておくか? と考える卯月は、ともかく自分の食事に手を伸ばした。


「そう言えば創剣。今日、商店街近くで自衛隊側の召喚士と会った」

「ふむ? __あ、大蒜がきいていて中々に美味いな。話を続けよ」

「子供、だった。子供が、ワーウルフの肥大化個体と戦っていた」

「……む?」


 卯月の言葉を聞き、創剣は箸を止めた。

 左手を強く握りしめた卯月は、白米を睨みつけ、言葉を続ける。


「多分、あの子にも事情はあるのだろうとは思う。でも、ぶっちゃけ腹が立った。何を考えて子供に命がけの戦いをさせているんだって」

「……確かに、それは胸糞悪いな」


 小さく舌打ちをする創剣に、卯月は目を丸くした。


「えっ、マジか。創剣と意見が合致するってレアケースなんじゃ」

「貴様俺様を何だと思っている!!」


 額に青筋を浮かべ怒鳴る創剣に、卯月は慌てて謝罪する。表情筋を怒りにひきつらせた創剣は、卯月をじろりと睨みつけ、口を開く。


「良いか、俺様は王だぞ?! 民、ことに未来を担うことになる子供を大切にするのは当たり前であろうが!」

「そ、創剣がまともなことを言っている……?!」

「いっそすがすがしいほどに不敬!」


 もはや二人は食事さえも忘れ、一触即発の雰囲気に陥る。

 だがしかし、先に矛を収めたのは意外にも創剣の方であった。

 椅子に座りなおした創剣は、軽く舌打ちをすると、唐揚げを一つかみ砕き、飲み下す。そして、深くため息をつくと、卯月にじっとりと胡乱げな視線を向ける。


「契約が切れた瞬間が貴様の最後であるからな。今は心の奥底にとどめておくだけにしておこう。ともかく、貴様。その小童の特徴を言え」

「おい待て、凄くおっかないことを言わなかったか?!」


 うろたえる卯月に、創剣はにたりと不敵に笑うと、続きを待つ。卯月は、眉間に手をあて、深くため息をついてから口を開いた。


「ノア・ワーグナーって名乗っていた少年だ。日本語は割としっかり話せるらしいが、読み書きは微妙らしい。特徴は金髪碧眼、7歳から8歳くらいに見えた。仲間(パートナー)はオオカミと鳩を一回り小さくしたくらいの鳥。使用武器は弓矢ってところか? 実力はそこそこっぽいが、でもやっぱり子供だなって感じだ」

「ふむ、及第点としておくか。実力の下りをもう少し詳しく言っていればプラスの評価を与えられたのだが」


 鼻で卯月を嗤い、創剣は言う。

 さほど気にすることもなく、卯月は箸に手を伸ばす。唐揚げは冷める前に食べてしまうに限る。あふれる肉汁としみ込んだ下味を飲み下し、白米に手を付ける。


「自衛隊所属って言っていたから、ちゃんと環境を与えられているって思っていたけれども、単独行動はな……俺が言っていいものかはわからないけれども」

「貴様は単独行動でよいだろうが。何なら怪我をしようが死のうが問題は無かろう?」

「ひどいな?!」


 唐揚げにレモンの汁をかけながら、あっさりと言う創剣に、卯月は思わず突っ込む。油でうっすらと艶がかった唇を舐め、創剣は口を開く。


「どちらにせよ、俺様は自衛隊に与することはない。その子供の召喚士とやらが助けを求めれば助けてやらんこともないが、基本は不干渉でよかろう」

「そうなるか……ああ、一応浅井には報告しておいた。あっちにはあっちで考えがあるっぽいな」

「ふむ? まあ、俺様の娘の考えることだ。悪い方向には動かんだろう」


 どや顔でそう言う創剣に、卯月は思わず口を挟んだ。


「俺様の娘って言うと、絶対浅井怒るだろうけどな」

「やかましい」


 事実、書類上は浅井の父となった創剣だが、娘扱いされるのが気に食わないのか、何かと浅井は創剣を避けている。だからこそほぼ別居扱い、というよりかは創剣自身宿無し半分で旅をしているのが現状なのだ。


__もしかして、娘扱いしたら嫌われたって理由の傷心旅行だった?


 はっとした表情を浮かべた卯月に、創剣は眉を顰めると、言う。


「貴様が何を考えているかは知らんが、下らんことを考えていることぐらいは理解できる。余計なことしか考えられぬ頭なら俺様が直々に切り落としてくれるぞ?」

「遠慮させてくれ。ただ単にアンタの娘の反抗期ってヤバいことになりそうだって思っただけだ」

「フハハ、本当に下らぬことを考えているな、貴様ァ!」


 ツボに入ったらしい創剣は、腹を抱えて高笑いする。楽しそうで何よりだ。ふと、あることを思った卯月は、そっと左手を顎に当て、思案する。


「よくよく考えれば、浅井の反抗期って結構ヤバいんじゃないのか?」

「……む?」


 首をかしげる創剣に、そっと顔を青ざめさせた卯月は言葉を続ける。


「いやほら、日本各地どころか現在進行形で世界各地に拠点を持つ浅井だぞ? 家出も世界規模になるだろ。しかも資金はさらに増えているっぽいし、何よりも最強の護衛が……」

「阿呆、あの小娘は事実家出中だろうが」


 あきれた顔でツッコミを入れる創剣に、卯月はそれもそうかと頷いた。そして、ついでと言わんばかりに言葉を続ける。


「たまには浅井と顔を合わせに行けよ。書類上だとは言えお前、親だろ?」

「はっ、貴様に言われるまでもないわ! ただ、あやつから避けられているのみよ!」

「堂々と言っていいことじゃねえ……!」


 くだらない日常を重ね、その日は平和に終わった。











 足の包帯をそっと撫で、少年は思考する。


__大和町の廃棄物出没数が妙に少ないのは、トップバッターの拠点だからか……?


 足元にすり寄ってきたクーの頭を撫で、少年は報告書に文字を埋めていく。かきこむのは討伐数、討伐時の時間、人数など。いちいち書かなくてはいけないのは面倒ではあるものの、この報告をもとに給与と成績が変わってくるのだ。手を抜く間抜けはいない。


 ボールペンを手の中で回し、少年は軽く目を閉じる。


__何もないところから現れ、消える……それ以外に、人並み外れた力らしい力は見せなかった。


 少年の脳裏に映されるのは、安住区役所前のトップバッターの様子。どうしてか剣聖の召喚士である木原の連絡先を知っており、スマホなどの近代機器を使いこなすことができているらしい。

 戦闘能力も高く、同戦いでワイバーン一体を独力で屠り、屋上部隊の指揮能力を大いに上げた。


 基本的に声を上げることはないことから、そもそも声を出せないのでは、という考察もあるが、しかし、ワイバーンとの戦いではトップバッターのものらしき声が録音されていた。周囲の音がかなり混ざっていたため、個を断定できるほどのものではないが、現地にいた隊員からの情報を鑑みても、トップバッターには発声機能がゼロではない可能性が高い。

 まあ、会話ができる程度の発声機能があるかどうかはわかりもしないのだが。


 召喚主は創剣の発言や彼自身の言(?)動から、『ユキ』という正体不明の召喚士で間違いがないだろう。


__なぜ『ユキ』が自衛隊に所属しようとしないのか……?


 少し考えそうになった少年だが、あることを思い出して首を横に振った。


「創剣並みの強力なパートナーがいれば、わざわざ組織に所属しようとは思わないよな……」


 それか、すでに何かしらの願い事を使ってしまったか。


 少年は、そっと目を開け、そしてペンをしっかりと握る。

 書類はあとは自分のサインを書けばそれで終わりである。


__どちらにせよ、門の貢献度一位を狙われるなら、僕の敵であることには変わりない。


 左手の聖銀が、無機質なLEDの光を跳ね返し、鈍く輝く。自衛隊に所属している証であるその腕輪。

 深く息を吐き、紙にサインを書き上げる。


「『浅井 ノア』と……お待たせ、クー、ブラウ。早く晩御飯食べに行こう」


 最低限の荷物のみしかないその部屋で、少年は己が使うにはやや大きすぎる椅子から降り、退屈そうにあくびをしていたオオカミに声をかける。


 養父にはろくに会っていない。だがしかし、別にそんな者がいなくとも、ノアはそれなりに幸せであった。


「君たち()()がいれば、僕はそれでいい。大丈夫。いつか、二人にも僕の両親と、故郷を見せるから」


 薄く微笑みそう言う少年の瞳には、確かな決意が宿っていた。

唐揚げ

 味をしみこませる時間は最低一時間以上であることが望ましい。

 ちなみに、卯月のレシピで唐揚げを創れないこともないが、本当に作る場合にはきちんと調べてから作ったほうが安心である。生焼けには本当に気を付けなければならない。


「ちなみに、俺の唐揚げはどうだった?」

「……家庭料理とプロの料理を比べるのは酷だろう?」

「だよな、知ってた」

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