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ロードテール  作者: ooi
三章 登竜門
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4話 金髪ショタとであったけれども何をすべき?

前回のあらすじ

・創剣のSNSは定期的に炎上するらしい

・召喚されたドラゴンの卵は健在

 執事から逃げた卯月は、とりあえずいつもの野球ユニフォームに着替え、廃棄物を退治することにした。

 薄影のお守りを持っている今、さほど周りを気にする必要もないが、やはりこの格好で外を歩くというのはどうしても緊張する。バットケースに金属バットを戻し、卯月は商店街の方へと向かう。商店街でワーウルフが現れたという情報があったのだ。


 人とぶつからないように気を付けながら商店街の大通りを抜け、小道に入り込む。海外の廃棄物たちとは異なり、日本の廃棄物たちは人間と対することを極力しないようにしているきらいがある。その分、己の縄張りに踏み込んだ人間には容赦をしてこない。

 探さなくてはいけないのは面倒であるものの、平和なのはいいことである。


__獣型の廃棄物は、倒した後の処理に困っていたけれども、浅井たちがいいものを作ってくれたからな……


 卯月はそう思いながら、ポケットの中に手を伸ばす。中に入っているのは、ビー玉サイズの魔石である。

 創剣に教えてもらったのだという魔道具作成のコツを応用して、とある魔術を付与したこの魔石は、使い捨てではあるものの、魔法適正のかけらもない卯月でも十分に使える出来となっていた。


 しばらく歩き続け、卯月はふと、あることに気が付く。

 鼻につくすえた臭い。鉄臭さと夏場に放置した生ごみのような吐き気を催す嫌な臭い。

 しばらく悩んだ卯月は、周囲に人がいないことを確認してから近くの民家の壁を軽くノックする。これで音を発生させ、しかし、商店街大通りの監視カメラには聞こえない範囲で薄影のお守りの効果を打ち消すことができる。


 突然出現した侵入者に、通路の奥から威嚇するようなうなり声。


「……。」


 卯月は、薄暗い路地の奥を睨む。

 暗闇の奥からずるりと現れたのは、大型犬よりも少しばかり大きくなったその獣。吐き気を催すような違和感と醜悪の塊のようなソレ。対峙しなれた卯月にとってみれば、すでに脅威と感じられないその存在。


 手元にバットを呼び戻し、卯月は短く息を吐き、そして路地に足を踏み入れた。ざりっというはがれたアスファルトの破片を踏む音が、路地に小さく響く。


 次の瞬間、凄まじい殺気を感じ、卯月はバットを前に突き出していた。


「グルルルルルルル!!」


 突き出された金属バットにその牙を突き立てたワーウルフは、低いうなり声を縄張りの侵入者に向ける。あくまで威嚇行為でしかないそれに、卯月は軽くため息を吐いた。


 本物の獣というやつは、威嚇はしない。卯月は、それをよく知っている。


 金属バットをくわえたままだったワーウルフの横っ面に、卯月は容赦なく蹴りをする。無防備にも顔側面に固いシューズの先を食らったワーウルフは、「キャイン」と情けない悲鳴を上げ、卯月から離れた。


 尻尾を後ろ足の後ろにしまいこみ、恐怖混じりの視線で卯月を見上げるワーウルフ。だがしかし、この廃棄物は判断を間違えた。せめて、逃げ出すべきだったのだ。


 路地の隅でうなり声を上げるワーウルフに、卯月は金属バットを振り上げ、そして、振り下ろす。


 ごきっという、嫌な音が一瞬だけ響く。

 卯月の手には、獣の頭蓋を砕く嫌な感触が伝わるが、数秒立たずでそんなことは気にならなくなった。


 血に濡れたバットを軽く振るい、卯月はポケットの中の魔石を取り出す。


__浅井曰く、魔法行使型の魔道具なら魔石を使い捨てにしなくて済むらしいが……俺じゃ、使えなくなるからな。


 魔石を素手で撫で、爪で意図的に強めにはじく。

 すると、薄紫色のそれは、パッと火花を散らした。


 熱を持ち始めたそれを、卯月はワーウルフの死体に放る。次の瞬間、魔術を込められた魔石は、その効果を表した。


 プロパンガスのように青色の炎が、ワーウルフの死体を囲む。そして、その死体を燃え上がらせた。

 高音の炎はワーウルフの骨すら残さず燃え焦がしていく。周囲に燃え移らないことを確認しながら見守る卯月をよそに、それは数分足らずで小さな灰の山に変わった。


 廃棄物は死んだとしてもその体が消えるわけではない。そのため、どうしても死体を処分する方法が必要になる。それに、この使い捨て魔道具は画期的なまでに有効だった。


 完全に火が消えたことを確認した卯月は、灰の山を足で探る。さらさらとした灰の山の中に、硬度を持ったそれがつま先に当たる。卯月は、それだけをアスファルトに蹴りだし、残りの灰は持ってきていたビニール袋に詰めておく。


__浅井には本当に感謝だよな……


 うっすらと残る灰はそのままに、卯月は廃棄物を燃やした地面を見る。有機物のみを燃やすというその炎がアスファルトやコンクリート塀を焦がすことはなかった。


 証拠を消し去りアスファルトに蹴りだしていたワーウルフの魔石を拾い、ポケットにねじ込んだ卯月は、油断なく周囲を確認する。ワーウルフが複数いる可能性はゼロではない。


 だが、うなり声も逃げ出す音も聞こえないことに気が付いた卯月は、軽くため息をついて緊張を解いた。生き物を殺す緊張感は、どれだけ修羅場を潜り抜けたとしても拭い去れない。事後にこみ上げる吐き気もまた、なかなか慣れることはない。いや、慣れてはいけないのだろう。


 軽く口元に手を当てた卯月は、静かに路地の奥へ踏み込む。とりあえず、これで今日のノルマは達成された。まだ日は暮れ切っていない以上、もう少しだけこの路地を探索して、廃棄物を見つけ次第駆除して帰ろう。そう判断した卯月は、バットをケースに戻し、前に向き直った。


 しばらくオレンジに染まった空の下を歩き続ける卯月。細い路地を曲がったところで、ふと、卯月は足をとめた。


__何かがいる……?


 耳に触れた音と、第六感にも近い感覚。


 次の瞬間。


「クー! Lass uns weglaufen!」

「……?」


 突然の言語に、卯月はきょとんとした表情を浮かべる。日本語ではない。聞いた感じ、英語でもなさそうだ。


 とにかく、子供の声だった。それだけはわかった。


 卯月は急いで路地を抜け、声の元へ駆け寄る。すると、そこには、弓矢を引き絞り、ソレを警戒する金髪の少年がいた。少年は、大きなオオカミのような生物を背に、目の前の敵に対し威嚇をしていた。


 鼻を衝く血の匂いに、卯月は慌ててあたりを見回す。

 存在している生命体は、弓矢を構えた金髪の小学生くらいの少年、金糸混じりのオオカミ、そして、まるで熊のような大きさのワーウルフ。


__なるほど、目撃されていたのは、こっちか……!


 ワーウルフは捕食目前の獲物を前に、卯月の方を気にはしていない。少年もまた、ワーウルフに集中していて第三者には気が付かなかった。ただ、上空を飛ぶ鳥が高く鳴くのみだった。


 とにかく、少年を助けなければならない。

 卯月は再度手元にバットを呼び戻すと、そのバットを肥大化ワーウルフに投げた。


「ガゥア?!」


 突然の衝撃に、肥大化ワーウルフは悲鳴を上げて衝撃の方向を見る。が、しかし、そこには何も見えない。


 それに対し、少年の行動は速かった。

 己から意識を逸らした肥大化ワーウルフの隙を逃さず、引き絞った弓矢を放つ。


 ひゅん、と風を切る音が響く。


 肥大化ワーウルフの濁った瞳を、あやまたず射抜いたその矢。

 そして、次の瞬間、肥大化ワーウルフの断末魔が路地裏に響いた。


 崩れ落ちる肥大化ワーウルフ。だがしかし、少年は油断することなく周囲を警戒し、そして、そっと地面に落ちていた金属バットに目を向ける。


「……金属バット、奇襲……クー、警戒しろ……!」

「ガゥ!」


 弱弱しく吠えるオオカミ。どうやら、オオカミは足を怪我しているらしい。そして、少年自身も足を引きずっている。


 卯月は、少しだけ悩んだ後、ポケットに手を突っ込む。ポケットには、先ほど手に入れた魔石のほかに、一本の星1ポーションが入っているのみだった。


__せめて二本入っていればよかったが……


 卯月は、ポーションの小瓶を少年に投げる。優しく地面を転がったその瓶は、少年の足にぶつかり、そして少年はその存在に気が付く。


「……これは?」

「……」


 小瓶を拾い、疑わし気に周囲を睨む少年。卯月は、少しだけ迷った後、メモ帳とペンを取り出した。文字を書きこみ、少年に近づく。

 空を飛ぶ鳥が、高く悲鳴をあげる。


 低くうなるオオカミは、どこに敵がいるのかわからず、ひたすらに周囲を睨む。

 卯月は、手元にバットを呼び戻し、バットの先で少年の靴を軽く刺激した。


「……?!」


 驚く少年に、卯月はメモを手渡す。

 少年は、しばらく困惑した後、メモを見て言う。


「……ごめんなさい、僕、漢字読めないんです……」

「……」


 卯月は、少しだけ頭を抱えた後、文字を書きなおした。

 

『ぽーしょん けが なおす のむくすり』

「えっと、飲み薬ですか?」

『はい』

「クー、僕の仲間(パートナー)も使えますか?」

『たぶん どうぶつ には つかったことがない』


 何度か文字を漢字で書きかけ、そのたびに卯月は訂正してひらがなで文字を書いていく。卯月の丁寧な対応に、しばらく警戒していたらしい少年は、小瓶の中から一滴だけ液体を取り出し、指の上に乗せる。

 そして、覚悟を決めて舐める。


 体に異変が起きないのを確認してから、少年はそばに控えていたオオカミにポーションをすべて飲ませた。

 オオカミは一瞬顔をしかめたが、足の怪我が完全に治りきったことで機嫌を直したらしい。嬉しそうに少年にすり寄ると、鼻をふすふすと鳴らす。しばらく空を飛んでいた鳥が、少年の肩に留まった。


 高く鳴き声を上げた小鳥は、少年に頭を撫でられて嬉しそうに金の髪をついばんだ。


「すいません、ありがとうございました。トップバッターさん、ですか?」


 その問いに、卯月はしばらく悩んだ後、先ほど『はい』と書いた紙を指さす。何かとその名前が定着してしまっているうえ、本名を公開するつもりはないため、不本意ではあるが便利ではあるのだ。


 少年は、左手首の腕輪をみせ、口を開く。


「僕は、自衛隊所属のノア・ワーグナーです。本当にありがとうございました!」

『もしかして よーろっぱ から?』


 卯月の書いたその文字列を見て、少年、ノアは少しだけ顔色を曇らせ、口を開く。


「はい。ドイツから来ました。母が日本人()()()ので、日本語はしゃべれます」

『そうか けが みせて』

「……?」


 きょとんとした表情を浮かべるノアに、卯月は彼自身の足を指さす。流石に専門的な治療器具などは用意していないが、テーピングや小さなシップ、包帯程度なら常備してある。


 ノアを地面に座らせ、足を確認する。

 靴は足のサイズこそあっているものの、子供が履くには重そうな防護仕様の靴である。地面をかむためのスパイクも常備しており、街中で歩き回るにはやや疲れそうな靴である。

 そんな靴を脱がせ、足首を確認する。

 赤くはれているが、出血はしていない。患部に手を当ててもいたがりはするが、足自体は動かせていることから、骨折まではしていない。


__足をひねったのか……?


 そう判断した卯月は、ノアにメモ帳を見せる。


『くすり あれるぎー ある?』

「いえ、特には……」


 薬品アレルギーがないことを確認した卯月は、小さなシップを患部に張り付け、シップがずれないように上からテーピングをまいておく。

 野球部で怪我とは何かと縁はあったため、この手の処置は卯月にとってなれたものだった。手早く処置を終えた卯月は、再度メモ帳に文字を書いて見せる。


『きつくはない? いたいところ ほかにない?』

「えっと、どっちも大丈夫です」

__なら、大丈夫か。


 問題はなさそうだと判断した卯月は、そっと立ち上がり、メモを見せる。


『びょういん あとで みてもらって』

「は、はい!」


 ノアは靴を履きなおしながら、その場から離れようとする卯月に質問する。


「あの、何で……?」

『なにが?』

「野良の召喚士にとって、自衛隊所属の召喚士は敵じゃあないのですか?」


 その質問に、卯月は少しだけ考え込む。

 自衛隊所属の召喚士は、敵と言えば敵である。なにせ、願いの権利を欲しているため、門では貢献度一位をとるためにも、自衛隊を出し抜かなければならないからだ。

 だがしかし、明確に対立しているかと言えば、他の野良の召喚士と比べればしていないと言えるだろう。


 書きかけた漢字を消し、書き上げた文字を卯月はノアに見せる。


『おれには かんけいない』

「……そうですか。それは、貴方の主の方針ですか?」

「……?」


 何か、おかしい。

 主? どういうことだろう。浅井のことか? でも、彼は自分と浅井の関係を知らないはず。

 困惑した卯月は、少し考えた後に、文字を書いて見せた。


『どちらも』


 浅井も卯月も、積極的に自衛隊所属の召喚士と対立する気はないと示すため、卯月はメモにそう書いてノアに見せる。ノアはそのメモをしばらく見て考えた後、「そうですか」と短く言い、さらに質問を続ける。


「トップバッターと創剣のルシファーの関係を知りたいのですが」


 その質問に、卯月はようやく彼の意図を理解する。

 なるほど、これは尋問か。別に知られてはいけない質問でもない。卯月は、非常に端的かつ正確に答えた。


『そうけんは いそうろうの たびびと。かじの てつだいもせず、ふらふらしている』

「……ん?」


 その答えに、少年は首をかしげる。


『りょこうが まいぶーむらしくて かくちを ふらふらしている』

「……えっと、目的もなく、ですか?」

『はい』

「んんん?」


 頭を抱えたノアに、卯月は少しだけ申し訳ない思いを抱いた。

 もしかしたら、活動と見た目だけはヒーローっぽい創剣に、あこがれていた子かもしれない。それだったら、夢を壊すようなことをしてしまった。

 すごく愚痴が言いたい気分になってきたが、さすがに子供に口を言うほど落ちぶれてはいない。苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた卯月は、そっとメモ帳を新しいページにして、文字を書く。


『けが きをつけて』

「あ、はい。えっと、トップバッターは自衛隊に所属しないのですか?」


 その質問に、卯月はすぐに答えを書いて少年の手を取る。

 そろそろ日も暮れる。子供は帰るべき時間だ。


 いきなり手を握られたノアは、困惑したように卯月を見上げるが、卯月は気にすることもなく細い路地を抜けて大通りに出る。

 そろそろ夜になるということもあり、シャッターの閉まり始めた商店街。少しだけ不気味な雰囲気の漂うそこで、卯月は答えを書いた紙を少年に手渡す。


 そして、そのまま路地に入り、ノアとその仲間(パートナー)たちから見えない位置に移動する。これで、薄影のお守りが効果を表すはずである。


 ノアは、しばらく茫然と消えていったトップバッターの背を見つめ、そして、ちぎられたメモを見て、眉をひそめた。


 メモ帳に書かれていたのは、たったの一言『しない』。それだけだった。

 地球における魔法の定義


 地球には、魔法や魔術、それに類するものは本来存在していない。

 そのため、召喚術式によってそれらの定義を地球にも適応することで、パートナーたちが地球上で何を気にすることもなく魔法を使えるようにしているのが現状である。


 つまり、過去の地球では魔法は確かに使えなかったが、現在であれば才あるものなら使うことができるのだ。その例が、浅井である。

 魔法を行使するには、「魔法の発動体」、「一定以上の魔力」、「詠唱(もしくは、魔法に関する深い知識)」が必要である。どれか一部でも足りなければ、魔法を行使することはできない。



 できない



 できない、はずである。




 しかし、現状では七武器たちは___に干渉することで魔法、魔術に似たナニカを行使することができている。事実、【創剣】の所持するエクスカリバーなどは地球の摂理に反する存在であるが、使用は可能である。つまり、すでに七武器によって地球の摂理が侵食されている可能性が非常に高い。

 地球摂理保持のためにも、より一層の対策が必要となる。

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