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ロードテール  作者: ooi
三章 登竜門
43/157

2話 いやもう、本当に絶許ですね

前回のあらすじ

・アザエル絶許

・願いが叶わなかった

「召喚はしないって俺何回も言っているだろ」

『だから、そのことで話があるの』


 あきれたように言うルマエルに、卯月は首をかしげるしかない。


「何だ? ついに魔道具のみのガチャがありになったのか?」

『いや、さすがにそれはない。ただ、星3以上確定の召喚が一度だけできるようになったから連絡しに来た。あと、ガチャじゃない。召喚術式だ』

「よりしたくないっての」


 疲れ切った目で茫然と虚空を見る浅井のそばに寄りながら、卯月はため息をつく。創剣は少しだけ興味を抱いたのか、ルマエルに聞く。


「そう言えば、俺様には何か報酬はないのか?」

『仮契約とはいえ、創剣様は召喚士(うづき)君の仲間(パートナー)ですからね。換金で召喚術式を行使することはできますが、それ以外は特にございません。あと、今回の創剣様の貢献度は2位です、おめでとうございます』

「ふむ、なるほどな……おい、貴様。追加の仲間(パートナー)を召喚しろ」


 あっさりと言ってのけた創剣に、卯月はポカンとした表情を浮かべ、はっとして怒鳴る。


「はぁ?! 無理に決まってんだろ! 生活費とか、食費とか、あと、住む場所とかどうするんだよ!」

「阿呆、魔石で生活費は何とかなるであろうが。食費はそもそもドラゴンの肉が散々余っておる。住む場所は貴様の家でよかろう」


 あっさりと言い切る創剣は、軽くため息を吐くと、力なく座り込んでいた少女を抱えると、椅子に座らせる。

 困惑している卯月に、創剣は言う。


「貴様はこの魔術師を助けるのだろう? なら、少なからず仲間がいるはずだ。もう一度門と戦わなければけないのなら、なおさらな」

「……!」


 創剣の言葉に、卯月ははっとして浅井を見る。疲れ切った様子の浅井は、ぐっと奥歯を噛みしめと、創剣に言う。


「お言葉ですが、創剣様。もう時間切れなんです。これ以上は家出を続けられない。カメラの前に出てしまった時点でもう終わりなんです」


 門での戦いの前ですら、下見やら準備やら魔術の練習やらで危ない橋を渡ってきた。浅井家の追跡を時には文字通り身を削ってでも逃れてきたが、もう限界である。

 そして、もう追いかけてくるのは浅井家だけではない。家出の実態を知った警察も、門の破壊作戦に介入したため自衛隊も浅井を追うだろう。


 力なくそう言う浅井に、創剣は鼻で笑うという。


「幼き魔術師。貴様、誰が味方になっていると心得るか。俺様は創剣のルシファーだぞ? 俺様に不可能はない!」


 胸を張ってそう言う創剣に、卯月は思わず口をつく。


「不可能はないのに、不本意は起きるのか」

「黙れ阿呆。俺様の不本意の8割は貴様が原因だ」


 怒りを込められた低い声が卯月に突き刺さる。卯月は聞かなかったことにした。話がそれたと創剣は軽く咳き込むと、再度口を開く。


「とかく、俺様はこの魔力が希薄な世界で、あそこまで素晴らしい魔術を見せられたのだ。ならば、貴様に手を貸すこともやぶさかではない」

「……つまり、再度門が現れたとき、お嬢様にご助力いただけると?」

「それ以前もだな。つまり、生活面だ」


 執事の質問に、創剣はニッといたずらっぽく笑うと、言う。


「さて、俺様は願いによって日本国籍を持っておる。一応税も収めていることとなっている国籍だ。仕事は自営業でどうやら大規模株主をしているらしい。一応、実際に魔石で稼いだ金で株の類を始めたが、親類に関する届け出はまだだ」

「……! いいのですか?!」


 何かを理解したらしい少女は、顔を上げて言う。その表情には、驚きとともに、不安と困惑が混ざっていた。創剣は、浅井の問いかけに直接返事をせずに、笑顔を浮かべてそれを問いの返答とした。


 何が何だかわからず、卯月はきょとんとした表情で創剣を見る。執事は、凍り付いた表情で創剣に聞く。


「ちなみに、創剣様は何をお考えで?」

「ハッ、貴様には絶対にできぬ子供の守り方よ!」


 創剣は執事を鼻で笑う。妙に自信満々な創剣の様子に、卯月は悪い予感しか抱けない。

 けげんな表情を浮かべる執事を無視し、創剣は浅井に向かって高らかに宣言する。


「浅井冬美。誇りに思え、貴様を俺様の娘にしてやる」

「よろしくお願いします、創剣様」

「フハハハハ! 義父様(おとうさま)と呼ぶがいい!」

「ややこしいことになりそうなので遠慮させてもらいますね。というか、父は父さんだけです」

「……は?!」


 あっさりと頭を下げた浅井に、高笑いする創剣。卯月は思わず間抜けな声をあげ、執事は深くため息をつき、頭を抱えた。ただ、会話の流れについていけないルマエルのみが、茫然と眉間にしわを寄せている。


「毛玉! というわけだ、俺様は交通遺児を引き取った!」

『何がというわけですか、創剣様!』

「頼んだぞ、天の使い」

『何を?!』


 放り投げられたルマエルは、表情をひきつらせ、おもちゃのような赤い瞳で創剣を見る。創剣はあっけらかんと言う。


「家族の欄の話だ。俺様、親になるからよろしく」

「ツッコミどころしかないが、ちょっと待ってくれ」


 頭を抱えた卯月は、ルマエルに変わって口を開いた。


「マジで言ってる? お前が、親?」

「そうだが? そうすれば簡単に浅井家も手が出せまい」


 肩をすくめ、当然だろと言わんばかりの表情で言う創剣に、卯月はしばらく考え込んでしまった。

 創剣は、もはや性格創剣と言ったほうが正しいくらい、破天荒かつ気まぐれな性格をしている。それが、親になる? 信じられない、というよりかは考えられないと言ったほうが正しい。


 けげんな表情を浮かべる卯月に、創剣は舌打ちをすると言う。


「そも、俺様が御年いくつだと思っている。元の世界には子供の……何人だったは忘れたが、いるわ阿呆め」


 俺様は酸いも甘いも結婚も離婚も死別もしたことがあるわ、と言い切る創剣は、妙な貫禄がある。が、それに物申したのは執事だった。

 執事は、己の角を撫でながら、口を開く。


「まず、離婚歴を自慢しないでいただきたい。そして、創剣様。貴方基準の子育ては正直信用できない」


 訝し気な表情を浮かべた執事が、浅井の手を握ったまま言う。

 執事は、少女とともにあることを望んでいるが、結局のところ少女が戦いに身を浸している現在をいいとは思っていない。

 故に、メフィストフェレスは常に戦火の中央に立とうとするこの男(創剣)を信用したいとは思っておらず、信用できない者に少女を養子に出すことなど考えられなかった。


__卯月様ならまだしも、彼は、彼だけはダメだ。


 胡散臭い笑顔を張り付け、不敬にも己を睨んでくる執事に、創剣は首をかしげる。


「ふむ、何がだ? 俺様、高収入、高身長、高身分であるぞ? 正直、優良物件ではないか」

「三高って高学歴じゃないのか?」

「俺様、知はあるが、学歴はない故」

「なるほど」

「なるほどではないですよ、卯月様! だいたいその身分、この世界(ちきゅう)だと意味がないじゃないですか!」


 気の抜けた会話をする二人に、執事は思わず突っ込む。

 少しずつ焦りを覚えた執事は、ギッと奥歯を噛みしめると、言う。


「ワタクシが言うのもどうかと控えておりましたが、創剣様は地球の常識に疎いではないですか!」

「なぜ俺様が周囲に合わせねばならん。周囲が俺様に合わせればよかろう」

「そういうところです!」


 堂々と言い放つ創剣に、執事は噛みつく。

 だがしかし、それに待ったをかけたのは、先ほどまで黙り込んでいた浅井であった。そっと顔を上げた浅井は、その瞳に確かな決意をもって口をひらく。


「メフィストフェレス、大丈夫。これが、最良だから」


 ゆっくりと椅子から立ち上がり、浅井は体を伸ばす。


「私の決意は変わらない。お父さんと姉さんを生き返らせる。その目的を叶えるためにも、浅井家の息のかかっていない保護者は必須条件」

「お嬢様! ワタクシは、貴女様のためを思って……!」


 床に膝をつき、少女の小さな肩をつかんだ執事は、言い聞かせるように口を開く。が、浅井の意志は変わらなかった。


「わかっているわ。だとしたら、貴方もわかっているでしょう? このまま叔父が私の保護者であり続けるわけにはいかないの。でも、私には保護者が必須。なら、創剣様に頼むのが一番」


 本人も許してくれているし、と付け加える浅井。だがしかし。しかしである。

 卯月は、気が付けば口を開いていた。


「なあ、創剣。ここまで黙って聞いていたが、そう簡単に養父になれるものなのか?」

『その点は、僕が何とかする。というか、願いがそこまでの範囲だからどうにかしないといけない。えー……養父? 実父じゃなくて?』


 めんどくさそうに呻くルマエルに、浅井は創剣が二の句を継ぐ前に口調を強めて言う。


「実父として登録されるなら、私は家出少女として門との戦いを続けます」

「不敬!」


 すねた様子で浅井を見る創剣に、執事は頭を抱える。もはや、話の流れを変えることはできない。結局のところ、仲間(パートナー)でしかない執事は、浅井の守護者にはなれど、保護者にはなれないのだ。

 眉間にしわを刻んだルマエルは、深くため息をつくと、創剣に向かって言う。


『わかりましたよ、創剣様。あと、書類に書かれていないのは年齢欄だけですね』

「年は見た目相応でいい」

『26歳にしておきます。あと、浅井冬美を養子としているという事実を追加し、これをもって創剣様の願いを成就したこととします』

「よい、許す」


 堂々たる態度で不遜にもそう返事する創剣。彼は機嫌よさそうに解体したてのドラゴンの牙に手をかけると、一本見繕い、ルマエルに放った。

 困惑するルマエルに、創剣は言う。


「下賜してくれよう。正直、これだけあると持て余すからな」

『いや、もらっても本当に困る……いえ、ありがたく頂きます』


 一瞬冷たくなった創剣の視線に、ルマエルは慌てて子供らしい声を張り上げ、礼を言う。ドラゴンの牙を受け取ったルマエルは、まるで上司からどこに置けばいいのかもわからない置物をもらったような表情を浮かべ、牙を虚空に消した。卯月は、少しだけルマエルに対し申し訳ないという気持ちが沸いた。


 同情的な卯月の視線に、ルマエルはきまり悪そうに一つ咳き込むと、視線の主に向かって言う。


『じゃ、召喚しようか』

「ああ、うん、まあ」

『乗り気じゃないな、とりあえず、星3以上確定召喚しとくね』


 ルマエルはそう言うと、召喚術式の固定された布を虚空から取り出し、召喚の準備を始める。

 紡がれた詠唱に、浮かび上がる金の光。


『異界の旅人よ、顕著せよ__をしめせ、【召喚術式】』


 最後の詠唱を終えたルマエルは、少しの輝きの後に現れたソレを卯月に()()()

 創剣は眉間に手を押し当て深くため息をつき、浅井は驚きを隠せなかった。


 卯月は無言で目を逸らすルマエルに問う。


「なあ、星3以上って、生き物じゃあないのか?」

『……まごうことなき生き物だよ。ただ__』


 気まずそうに言葉を紡いだルマエルは、そっと卯月に手渡したそれに目を向ける。


『うん、まあ、あれだね。召喚士君、おめでとう。星3の仲間、ドラゴンエッグだよ』


 卯月の手に渡ったのは、つるりとした表面の、バスケットボール程度の大きさの卵。ちょうど背後に解体しきったドラゴンがあるため、ひどく居心地が悪い思いをしつつ、卯月はルマエルにツッコミを入れた。


「卵じゃねえか!」

『大丈夫! あっためればそのうち孵化するから!』

「なあ、人工でのドラゴンの卵孵化の成功率は3割程度と聞いているが?」

『そ、創剣様……ま、まあ、多分何とかなります! 頑張って、召喚士君!』


 ルマエルは早口でそこまで言うと、そのまま光の粒子に変わった。風に流され、消える粒子。


__逃げたな。


 卯月は軽くため息をつきながら、両手の中に納まったドラゴンの卵を見る。


「生き物育てるの、なんだかんだ言ってやったことないんだよな……」


 不安な思いを抱きながら、そっとドラゴンの卵を撫でる卯月に、執事は言う。


「生き物どころか、卵じゃないですか。もう面倒なので、ドラゴンの肉と合わせて親子丼にでもします?」

「鬼か何かか?!」

「悪魔です」


 容赦のない執事のセリフ。卯月は、この執事にだけはドラゴンの卵を渡さないようにしようと決意した。





 それから、大体2か月。

 そろそろ夏休みも始まるというこのころ、ようやく時たま卵の中から卵の殻をひっかくような音が聞こえるようになっていた。


 門に関する情報が来ていない以上、おそらく、今日の招集もそれについてだろう。

 卯月は、そんなことを考えながら、大和町の商店街の路地を抜ける。道路に面していないさびれたアパートの階段を上り、その部屋の前に立つ。


 そして、部屋の扉を開けた。

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