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ロードテール  作者: ooi
二章 鬼門
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16話 竜舞う空って言うとラノベっぽいけど、実質悪夢(1)

前回のあらすじ

・創剣&卯月のスタンバイ完了

・仲間? の情報を入手

・門が、出現した

 広場の中央に設置された時計を覆い隠すようにして出現した、黒の門。それは、少しずつ開き、吐き気を催すような違和感__黒色を吐き出す。


 金属バットを握る卯月の手に、自然と力がこもる。

 山の時よりも、最初の時よりも、はるかに量が多い。最初だというのに、門の開きも大きい。


 吐き出された黒は、やがて形を作り出していく。

 伸びた黒が鋭い牙の並んだ口に変わり、ずるりと広がったそれが翼に変わる。


__ワイバーン……複数か……!


 青ざめた表情を浮かべた卯月は、必死に舌打ちをしそうになるのをこらえる。

 黒色からは、スライム、コボルト、ワーウルフも発生しているようだが、圧倒的にワイバーンが多い。


 黒からずるずると這い出てきたそれらは、目の前の餌の群れに気が付く。


 ギャァァァアアアア!


 金属と金属をこすり合わせたような、耳障りな狂喜の咆哮が、ワイバーンの群れから上がる。そして、それらはいっせいにその翼を広げる。


__まずい、空を飛ばれたら何もできない……!


 しかし、次の瞬間。



 パァン



 混乱を切り裂く一発の銃弾が、今にも飛び立とうとしていたワイバーンの皮膜に、大きく穴をあける。翼を損傷させられたそのワイバーンは、哀れにも地面にたたきつけられ、そのはかない命を終えることとなった。


 さざめく屋上。

 前を覆う門の影響で広間は見えにくかったが、射手の姿は見えていた。


 黒のワンピースに、手袋。胸元には星の意匠のペンダントが輝き、長い黒髪は銀に輝く髪留めによってまとめられていた。

 魔道具による完全装備に包まれ、堂々たる出で立ちで空を見上げ、銃を構える彼女の隣には、背後と周囲を守るために、口元に不敵な笑みを浮かべた執事が傘を地面について待機していた。


 浅井と、メフィストフェレスだ。


 事前に相談していた通り、浅井はメフィストフェレスと交渉し、姿を消してあらかじめ自衛隊の包囲を超えたらしい。最初の波の雑魚を突っ切り、卯月は屋上からくるはずの妨害排除をし、二人で門を破壊する、と言うのが最初の予定ではあったのだが……


 卯月は、浅井につられるようにして空を見上げる。晴れた空に舞う、竜、竜、竜。地にはスライムやらコボルトやらが這いずり回り、混乱した戦線に襲い掛からんと門から駆け出す。


 それらに対し、必死に対応する自衛隊だが、シールドがスライムに溶かされ始めたことによって状況は悪化していく。


「どうします、お嬢様?」

「お嬢様と呼ばないでちょうだい。スライムだけは片手間で倒すわよ。メインはワイバーン、遠くに行かれる前に、撃ち落とす……!」


 浅井は、そう言うと、小さな手で拳銃を包み込むように握り、力を籠める。


 魔道具の拳銃に、銃弾の概念は存在しない。しかし、実際に弾は射出される。その理由は、銃弾が()()()()()()()()されているためだ。


 空を睨む浅井に、コボルトがその牙を見せ、肉薄する。

 が、次の瞬間、その大口に先のとがったこうもり傘が貫通する。執事は、余裕しゃくしゃくと言った態度で傘を軽く振るい、コボルトとその血糊を払いのけた。


「契約者様に触れるのなら、せめて全身脱毛してから近づいていただきましょう。服を着ていただく必要もございますが」

「……つるっぱげのコボルトなんて見たくもないのだけれども?」

「トリマーを呼んだ方がよいでしょうね」


 なかなかに気の抜ける会話をする二人だったが、浅井は空高く舞い上がろうとするワイバーンの一匹に目をつける。


「……お嬢様。お気を付けください。その魔道具、()()()として優秀ではありますが、所詮人の手によってつくられた物でございますゆえ」

「わかっているわ、メフィストフェレス。魔力調節と、出力維持、あとは詠唱を正確に、よね?」

「もちろんでございます。さぁ、悪魔直伝の魔法を、お披露目いたしましょう……!」


 ケタケタと狂ったように笑う執事は、少女のそばに寄る不埒な敵を傘で薙ぎ払い、傘を広げ、後方からの流れ弾を防ぐ。

 周囲を確認し、少女は目を閉じて深く息を吐く。そして、息を吸う。


「捧ぐは魔力 己が力を対価として、敵を打ち払う力を()()()()()()!」



 すさまじい迫力を屋上から感じた卯月は、こんなしょっぱなから切り札を使うのかと、一瞬ゾッとする。相談の時点で実際見せてもらったことがあるが、正直あれは恐ろしい。そして、それに比例するだけの代償がいる。


 屋上では銃声が響く。飛び上がったワイバーンに乱射しているらしいが、どうも利きが悪い。固いうろこにはじかれているらしく、きちんと攻撃が通っているようにはとても見えなかった。

 銃で狙うなら、正確無比に皮膜を狙わなくてはいけないらしい。


__バットで攻撃が通るかって言ったら……ぶっちゃけ無理だよな……


 卯月はそう思いながら、ちらりと先ほどまで切断され消えうせていた金網のフェンスを見る。完全に復活したそれは、創剣に切断される前よりも新しいものになっているように見える。


__あいつ、法律でモノが壊せないはずだと思っていたけれども……確実に直すことで破壊できるのか?


 そんなバカな、とあきれつつ、卯月は上空を見上げた。


 ギャァァァア!


 耳をつんざく咆哮を上げ、ワイバーンが屋上へと突撃してくる。何度か金網のフェンスに絡まり、そのまま憎々し気に吠えるワイバーン。


「撃てぇぇぇぇえええ!!」


 司令官の絶叫と、鼓膜が割れそうなほどの銃声。だがしかし、旋回しながら屋上へと降り立ったワイバーンに、さほど有効打は与えられなかった。


 悠々と屋上へ降り立ったワイバーンは、手始めにそばにいたカメラマンを食い殺さんと大きな口を開け……


 ばきっ

 ギャァァアァ?!


 不可視のナニカに殴りつけられ、悲鳴を上げて空へと舞い戻る。


 ワイバーンと接触した卯月は、淡々とそばで倒れていたカメラマンを助け起こす。突然現れた野球ユニフォームの男に、驚くカメラマンだが、周囲にはまだ卯月の存在は見えてはいない。いや、殴打の音を聞いた見えている者とそれどころでなくて見えていない者が半々、と言ったところだろうか。


「トップ……バッター?」

「……」


 まだ仕事のある卯月は、声を上げるわけにはいかない。黙って声をかけてきたカメラマンの男を見下ろし、そして、そのままワイバーンに向き直る。


 卯月を敵だと判断したワイバーンは、憎々し気に下方の怨敵を睨みつける。悲鳴が後ろから聞こえてくる。どうやら、あのカメラマンが上げているらしい。だが、卯月はまったくもって動じることはなかった。


 恐怖はない。恐れもない。心が、凪いでいる。


__何だ、こんなものか。


 存外響かない感覚に、卯月は拍子抜ける。ワイバーンを殴打して少しばかり凹んだバットは、すでに新品同様にまで復活していた。

 きっちりとバットを握り、そして、滑空してきたワイバーンに、再度打撃を加える。


「___ぁっ!」


 固い鱗に弾かれ、卯月は屋上を転がってワイバーンの追撃をかわす。トンを軽く超しそうな体重から繰り出された爪での一撃は、屋上のコンクリートは大きくえぐれた。


 周囲は、混乱するしかなかった。

 ワイバーンがいきなり何もないところを攻撃しだしたと思えば、突然野球ユニフォームを着た何者かが現れていたのだ。


 己に集まった視線に、卯月は一瞬びっくりするも、それどころではない。

 噛みつきを何とか避ければ、鋭い牙が卯月の頭数センチ上をすり抜けた。がちん、という固いもののぶつかる音が響き、生暖かい吐息が卯月の耳をくすぐった。全身がぞわりと粟立つが、声を上げている暇すらない。


 一歩下がれば再度頭をかじられるが、その場に留まれば爪の付いた翼に殴打されることだろう。卯月は、一歩前に踏み出し、そして下がった頭を金属バットで殴る。


 やはり、頭は頭蓋骨がそれなりに分厚いのか、ただバットを振り回した手が痛いだけで、さほど効果はないらしい。

 だがしかし、卯月は見ていた。頭を横から殴打した時、反射的にその目を閉じていたことに。


__狙うなら目、部位破壊は翼優先……!


 そう判断した卯月は。翼による殴打をバットで受け流し、ワイバーンの懐に潜り込む。距離があっても危険なだけだからだ。そして、己の体の下をちょろちょろと動き回る敵に嫌気がさしたらしいワイバーンは、不用意に翼を開く。


 卯月は、その瞬間を見逃しはしなかった。


 即座にバットを逆手に持ち替え、伸びきった翼の付け根を激しく殴打する。


 鈍い音共に、ワイバーンの凄まじい絶叫が屋上に反響する。

 同時に、ワイバーンの踏みつけが卯月を襲う。


__まずい……!


 反射的にバットでその踏みつけを受け流した卯月。

 その時、バットに爪が引っ掛かり、ざっくりと二つに切れる。そして、ワイバーンの暴れように、逆手握りのバットがすっぽ抜けた。


 銃声やら怒号やら悲鳴やらで騒がしい屋上に、金属棒が転がる音が一つ、混じりこむ。素手になった卯月に、人々からは悲鳴が、ワイバーンからは狂喜の咆哮が響く。


 獲物を食らいつくさんと、飛竜はまるで果物ナイフが並んだような口を大きく開け、卯月に突撃する。


 その瞬間を、その慢心を、卯月は、見逃しはしなかった。

 手元にバットを呼び戻し、爪で裂かれ、尖ったその鉄棒を前に突き出す。


 ぐちゅり、と言う生暖かい感触が、卯月の手を襲う。

 生暖かい血が噴き出し、防汚の魔術付与のない卯月の顔やら手やらをドス赤く汚す。


 一瞬遅れて、凄まじい絶叫が空高く響く。

 しばらくビクンビクンと痙攣していたワイバーンだが、どうやらバットは脳まで届いたらしく、もうすでに息はない。

 手にこびりついた血がぬるついて、ひどく気分が悪い。卯月は、深くため息をつくと、ワイバーンからバットを引き抜き、水道でもないかとあたりを見回す。


 すると、次の瞬間。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」


 男たちの、沸き立つ大声が屋上を震わせた。

 理解できず、ただ茫然とする卯月をよそに、司令官は無線機に向かって怒鳴る。


「目だ! ワイバーンは目の奥を狙え! 俺たちにゃ、あの坊主や剣聖様みたく首を一刀両断だとか、頭フッとばすだとかできたもんじゃない!」


 司令官の言葉を聞き、卯月はようやく理解する。そう言えば、廃棄物との戦闘は、木原ばかりがやっていたのだった。なら、これだけパニックになってもおかしくはないのか。


 そう思って一人納得していると、ふと、空が唐突に陰りだした。

 驚いて見上げれば、そこには十数を軽く超えるワイバーン。どうやら、あのワイバーンの絶叫に誘われてきたらしい。


 ワイバーンの翼の動く風圧に、卯月は体を大きく煽られ、慌てて足を踏ん張りこらえる。


「構えろ、撃て撃て撃て! 人間でも、ワイバーンに勝てる!」

「上官んンン! トップバッターさん、パートナーだと思うのですけどぉぉぉぉ?!」


 司令官の言葉に、スナイパーが弱音を吐きながらも、必死になってライフルの引き金を引く。何匹かのワイバーンは、それによって撃墜されるも、しかし、数が多かった。


 卯月は、慌ててバットを確認する。じわじわと半ばから元の形に戻ろうとする金属バットだったが、さすがに切断されたとあって、まだ完全には復活していなかった。


__クソ、とにかく戦うしかないか……!


 卯月がそう思ったその時。



 銀の輝きが、地から天に打ち上げられた。



 流星のようなそれは、天で別れ、そして、その一発一発が空を飛ぶワイバーンのみを撃ち抜き始めた。


 天からの恵みとも、脅威とも取れる光景に、周囲は沸き立つ。


「トップバッターさん……!」

「!」


 下から、あの魔弾の射手、浅井の声が聞こえる。慌ててフェンスに駆け寄れば、そこにはメフィストフェレスによって抱えられた浅井の姿があった。

 卯月は、無言で右手を上げ、異常がないことを示すと、慌てて周囲を確認する。


 宙に浮いたままだった創剣は、卯月の健闘と浅井の切り札を見守っていたらしく、ニッと笑みを浮かべると、そばを飛んでいた飛竜の首を落して見せた。地面に自由落下していくワイバーンの体は、やがて街路樹の上に落ち、ひどい崩壊音が響いた。


 一体で十分に苦戦したワイバーンを、戯れに数体まとめて葬りだした創剣に、呆れた表情を浮かべた卯月は小さく首を振った。


__だめだ、格が違いすぎて話にならない。


 気にしたら負けだな、と判断した卯月は、再度屋上を見る。そして、ようやく掃除用の蛇口を見つけた。

 顔と腕だけさっさと水で洗った卯月は、深く息を吐いてこれからの戦いに備えた。


 太陽は、じりじりと人々と廃棄物を等しく照らしていた。

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