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ロードテール  作者: ooi
二章 鬼門
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15話 決戦と言うべきか乱戦と言うべきか泥沼と言うべきか

前回のあらすじ

・浅井ちゃんのトラウマ

・協力することを決める

 翌日。

 大学への連絡を終えた卯月は、試合前と同じ内容の朝食、おにぎりと月見うどん、野菜ジュースで食事を済ませ、あらかじめ体を動かし、万全の調子になるように調整する。


 朝っぱらから妙に活動する卯月に、創剣は呆れたような目線を送る。だが、卯月は知っていた。創剣は昨夜、アルコールを摂取していなかった。おそらく、本人なりに準備はしていたのだろう。


 準備運動を始めている卯月に、テレビをつけたままソファに寝転がった創剣は、右手をひらひらと振りながら言う。


「そう言えば貴様、俺様の友人の弟子が此度の戦に加わるらしい。見た感じ、願いに興味はなさそうだったが、短いとはいえ友人に鍛えられた人間だ。それなりに強くはあるはずだぞ」

「おい待て! また敵が増えるのか?!」


 浅井に連絡しないと! と焦る卯月に、創剣は軽く舌打ちをすると、ソファから体を起こし、バカにするように言う。


「俺様は、そやつと協力しろと言っておるのだ阿呆め!」


 どうせなら美味そうなドラゴンが来るといいのだが、と心底楽しそうに言う創剣を、卯月は理解できないという表情で見返した。こいつ、まさか廃棄物を食べるつもりなのか?


「俺、もしかして、料理下手だったりするのか……?」


 まったく自覚なくありえない味の紅茶を出した執事を思い出し、卯月は少しだけ表情を曇らせる。そんな卯月を鼻で笑い、創剣は言う。


「阿呆、下手であったら俺様が口をつけるはずがなかろう。貴様のは家庭料理としては評価にたるレベルだ」

「お前に慰められると、今日の天気が不安になるからやめてくれ。今日も布団を干して外行く予定なんだよ」

「不敬!」


 額に青筋を浮かべた創剣が、卯月に向かって怒鳴る。体を伸ばしていた卯月は、思わず笑ってしまい、大きくバランスを崩した。ソファに思いっきり右足の小指をぶつけた卯月は、うずくまって悶絶した。


 創剣は大爆笑しつつ、ソファから降りると、虚空から取り出した鎧を装備する。


「さて、()くぞ。狩りの時間だ」

「狩り……一般人の人命優先だからな! あと、作戦の都合上、俺はほとんどしゃべれないのだから、誤射だけは止めろよ?!」

「ははは! 何だかんだ言って貴様そこそこ悪運は強いであろうが! 耐えきって見せろ!」


 機嫌よさそうにそう言った創剣は、虚空の倉庫からこれまで何度も見たことのある、豪華な装飾のなされた輝かしい一振りの剣を取り出す。そして、一瞬嫌な顔をした後、軽く舌打ちをして、創剣は卯月の野球ユニフォームの襟首を籠手でつまみ上げた。


 あまりの不格好に、卯月は文句を言う。


「おい、待て! 何だよ!」

「やかましい。貴様ごときが俺様の創ったものの中でも複雑な部類の魔道具など使えたものではないだろうが。俺様の転移に同行させてやる。喜びむせび泣くがいい!」

「うわぁ、うれしいなー」


 あまりの棒読みっぷりに、一瞬ツボに入り、大笑いする創剣だったが、笑顔を浮かべたまま額に青筋を浮かべ、怒気をはらんだ声で言う。


「……貴様だけ海の上に転移させてやろうか?」

「いや、法律で殺人行為に当たるから無理だろ」

「そうであったな。まあ、直接殺すことができないだけで、どうにでもできそうな気はしないでもないが」


 強まる圧と、悲鳴を上げる布地に、卯月は素直に創剣に謝罪した。創剣は軽く舌打ちをすると、きまり悪そうに剣の名を呼ぶ。


「グラディウス!」


 低い声が、響く。


 次の瞬間、二人は、安住区の区役所()()に移動していた。


「……?!」


 突然の浮遊感に、卯月は胃がひっくり返るような浮遊感を覚え、必死になって悲鳴を噛み殺す。無様な卯月の様子を、創剣は口元だけをニヤつかせ、あざ笑っていた。


 グラディウスを虚空の倉庫に戻した創剣は、卯月の首根っこをつかんだまま無名の剣を取り出し、空を切り払う。つむじ風とともに空中へと舞い上がれば、卯月はようやく周囲の状況を見ることができた。


 五階建ての区役所上空を浮かぶ二人の眼下には、真昼間だというにも関わらず、百鬼夜行もかくやと言った様相をしていた。

 出現が予想された区役所前の広場を封鎖する自衛隊。だが、その自衛隊を押しつぶさんとしているのは、自衛隊に所属していない一般の召喚士たち。三角の足に鉄棒が横に並ぶ、所謂A型バリケードと鉄柵、それに有刺鉄線によって厳重に封鎖されたそこへ侵入せんと、己の仲間(パートナー)を突撃させていく。


 創剣はその様を見て鼻で笑い、卯月の持つ『薄影のお守り』の効果が続いていることを確認したうえで区役所の屋上へと移動する。

 屋上の鉄柵を超えれば、当然のように自衛隊やらカメラマンやらがスタンバイし、これから起こるであろう惨事に備えている。


 創剣は、卯月の首根っこをつかんだまま屋上に着地すると、無名の剣を虚空に消し、見覚えのある炎の意匠の剣を取り出す。

 声を出すわけにはいかない卯月は、ポケットの中にねじ込んだままだったメモ帳を取り出すと、さらさらと文字を書いて創剣に見せる。


『それ、布団乾燥機の剣か?』


 その不敬極まりない文字列を見た創剣は、額に青筋を浮かべ、もの言いたげに口を引きつかせると、剣を腰帯につけ、卯月からメモ帳とボールペンを奪い、文字を書きなぐる。


『俺様の剣を布団乾燥機呼ばわりするな、たわけ!』


 悲鳴を上げるペンと軋む首元の布地に、卯月はあわてて無言で謝罪する。創剣は不満そうに深くため息をつくと、再度メモ帳に文字を書く。


『この阿呆。俺様が直々に貴様に問おうとしたことがあったというのに、いちいち言葉の端をへし折りおって』


 さらに罵倒文句が続きそうだと判断した卯月は、まだ文字を書こうとしている創剣からメモ帳をとると、短く書く。


『何が言いたい?』

『貴様、目の前の光景を見ろ』


 その文字とともに、創剣は顎をしゃくる。指示のまま、顔を上げれば、金網のフェンス越しに野良の召喚士の醜い争いが見て取れた。己が貢献度一位をとるために、自衛隊を出し抜くよりも仲間を蹴落とそうとし始めたらしい。

 狂乱と混乱、己の欲望のために蹴落とし合いに発展しているさまは、いっそ滑稽と言ったほうが救いがあるのかもしれない。


 統率の取れた自衛隊は、催涙ガスを放ち、召喚士たちの捕縛も行っている。だが、何せ数が多く、またその武器も厄介であった。


 眉を顰める卯月に、創剣は文字の書かれたメモ帳を投げ渡す。


『あれらに、はたして救う価値はあるのか?』


 その文字を見た卯月は、今度こそただ純粋に首を傾げた。


 卯月は、迷うことなく文字を書き上げ、メモ帳を創剣に見せる。


『何を言っている? 俺は大切なものを守るために戦っているのであって、人を救うために戦っているわけじゃない』

「……!」


 メモ帳を見た創剣は、凶悪とも取れる笑みを浮かべると、腹を抱えて笑い声を殺しながら笑い転げた。

 その様に単純に腹が立った卯月は、音を立てない程度に、鎧姿の創剣のアキレス腱を蹴った。鎧の構造上、アキレス腱のあたりを金属が完全に覆ってはいなかったのだ。

 それなりに衝撃を感じた創剣は、一瞬不愉快そうに卯月の方を見て、あふれかけた笑い声に慌てて顔を逸らす。


 肩を震わせながら、創剣はメモ帳を卯月から奪い取ると、文字を書く。


『貴様らしい持論だ。それが貴様の英雄たる素質でありながら、平凡である所以なのだろうな』

『何が言いたい?』

『気にするな。貴様はそのままであるがいい。飾りも施しもないあるがままの英雄譚を俺様に献上せよ』


 機嫌よさそうにそう書いた創剣は、メモ帳を卯月に放る。理解できないという表情を浮かべる卯月をよそに、ついに、その時は訪れた。


 安住区役所の中央、そこにそびえたっていた時計の針が、重なり合い、頂点へと達した。


 その瞬間。

 唐突に、黒い風が巻き上がる。


 恐怖が、背筋を撫で上げ、脊髄を凍えさせる。吐き気を覚えるような違和と絶望に、階下で争っていた召喚士たちは、その動きを止めた。


 黒は竜巻に変わり、人々の恐怖をあおる。

 それは、屋上にいた人々にも等しく恐怖を与えた。


 混乱し、恐怖し、悲鳴を上げ、絶望する人々。

 そんな中、創剣は鼻歌でも歌いだしそうなほどの上機嫌で、卯月の首根っこを離した。


 薄影を手放した創剣は、堂々とも不遜とも取れるような態度で、悠々とフェンスの前に立つ。


「こんな薄く柔い壁、あろうがなかろうが変わるものではないと思っていたが……存外、視界の邪魔だな」


 創剣はつぶやくように言う。そして、虚空から何の特徴もない長剣を取り出し、小さく銘を口にした。


「ロングソード、魔術付与(エンチャント)【復活】」


 ほんのりと黄金に染まったその刃。創剣は、それを横一線にふるった。


 音は、なかった。何せ、黒の嵐の音が、かき消してしまっているのだ。

 だがしかし、剣先は、ただ一閃、金の後筋を残した。


 切られた金網のフェンス。

 開け切った視界に、絶望の光景が焼き付く。


 この時になって、周囲はようやく創剣の存在に気が付きだすが、恐怖から、絶望から、観衆になり下がった彼らは、何もすることはできなかった。


 視線を背に浴び、創剣はロングソードを虚空の倉庫に戻し、フェンスの残骸を踏み越えたところで、背後に振り向き、そして口を開く。


「何を見ている。貴様らは貴様らの仕事に戻らんか」


 怒鳴っているわけではない。訴えかけているわけでもない。だがしかし、その言葉は風の音にかき消されることなく、観客の耳に届いた。


 その瞬間、観客はつきものが落ちたように行動を始める。


 恐怖で動けなくなっていた射手(スナイパー)は震える手で銃身を握り締め、黒の竜巻の元へと向ける。混乱していた指揮官は無線へと手を伸ばし、各方面に檄を飛ばす。絶望からうつむいていた写術師(カメラマン)は、奥歯を噛みしめ、顔を上げてカメラを支えた。


 動き出した彼らに、卯月はただ背筋を伸ばして手元に呼び戻した金属バットを握るのみだった。


 深く息を吸い、そして吐く。


__することは、きまっている。


 卯月は、目の前の光景(絶望)を睨みつける。


 逃げ出したくないわけではなかった。怖くないわけではなかった。絶望しないわけではなかった。

 ただ、単純に、守りたいものを、救いたい少女を、防ぎたい身勝手な願いを、己の望みをかなえるために、引く気が起きなかっただけだった。


__民間人の犠牲は最低限に、野良の召喚士たちは……まあ、勝手に逃げるだろ。


 顎を引き、目標を確認する。

 薄れだした黒の竜巻の中央。そこに、それは現れていた。


 黒一色の、門。


 すでに地上は混乱に満ちており、自衛隊ですらその前線を崩していた。

 だがしかし、卯月の心はただひたすらに凪いでいた。


__計画通りに行こう。

鬼門

1 陰陽道で、邪悪な鬼が出入りするとして万事に忌み嫌われた(うしとら)(北東)の方角。また、その方角にあたる場所。

2 行くと悪いことに出あう場所。また、苦手な人物や事柄。

(goo辞書から一部引用)

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