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ロードテール  作者: ooi
二章 鬼門
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14話 裏切りだけはやめてくれる? いやほんと駄目だから

前回のあらすじ

・ほかの召喚士たち信用できない。

・めっちゃ豪華な『隠れ家』

・しでかした

「どういうこと、メフィストフェレス……?」

「……」


 恨みがましく卯月を睨みつける執事。だがしかし、浅井の視線に、執事は耐えきれず深くため息をついた。

 透明なグラスに入った水を片手に、羊の角を持ち合わせた執事は軽く首を横に振ると、そっと口を開く。


「お嬢様。先に言っておきますが、何事も無償で何かをしてくれる人間(モノ)など存在しません。ワタクシもただ、欲ある者であったというだけでございます」

「……だとしても、貴方に関することは、取引を持ってすべて質問したはずよ。貴方が私と契約する理由は、貴方が私の魂を欲しいからじゃあないの?」


 キッと執事を睨みつけ、少女は怒りを含ませた声で、しかし、けして怒鳴ることなく言う。代償を見た執事は、肩をすくめ、口を開く。


「ええ。ワタクシの取引違反でございます。ワタクシ、あと二千年は優に生きられるだけの寿命はございますゆえ、いくらお嬢様のように類まれなるような輝きの魂だとしても、必要か不要かで言えば不要でございます」

「……!」


 浅井は目を丸くして執事を見つめ、そして目を伏せる。少女は軽く息を吐きだし、しわの寄った眉間に指を押し当て、しばらくの間黙り込んでいた。

 その間、執事は何も言わず、ただただ笑顔の仮面を張り付けたまま部屋の隅に佇んでいる。


 卯月は、何を言うべきか、何をすべきかわからず、ただただ余計なことを言ってしまったと後悔していた。


 透明なグラスに注がれた水が、少しだけ揺れる。ガラスのテーブルに乗ったままだったカップを手に取った浅井は、残った紅茶を一度に喉奥へと流し込み、そして口を開く。


「……もう、良いわ。結局、貴方が何を望んでいたとしても、貴方は私の仲間(パートナー)でしかないのだから。私の願いを邪魔しないのなら、関係ない。ただ__」


 うっすらと湿った唇を手の甲で拭いながら、少女は顔を上げると、空になったカップをガラスのテーブルに静かに置き、執事を睨みつけ、言う。


「二度と、私をお嬢様と呼ばないで。執事はクビよ、メフィストフェレス」


 単語を区切るように、執事を拒絶するように紡がれた、その言葉。


 ただ、しずしずとその言葉を聞いていたメフィストフェレスは、恭しく一礼すると、そっと笑みを崩し、口を開く。


「……かしこまりました、契約者様」


 そう言って顔を上げたときには、いつも通りの張り付けられた仮面の笑顔のみが浮かべられていた。その言葉を聞いた少女は、そっと表情を消すと、ぺこりと卯月に頭を下げて謝罪する。


「申し訳ありません、卯月()()。お見苦しいところをお見せしてしまいました」


 本当に申し訳のない気持ちになっていた卯月は、慌てて頭をさげ、言う。


「いや、あの、俺もすまなかった。親友と仲間(パートナー)は願いについて知っていたらしかったから、他もそうだと思っていた」

「いえ。卯月さんに非はありません。むしろ、メフィストフェレスの腹中を見破れなかった私に非があります。未熟な私に変わり、仲間(パートナー)に関する正しい知識をご教授いただき、誠にありがとうございました」


 浅井はそう言うと、ミネラルウォーターで満たされたベットボトルをガラスのテーブルに置き、空のグラスを卯月の前に出す。

 そして、気配を消して部屋の隅に控えていた執事に、冷たい視線を投げかけた少女は、口を開く。


「弁明があるのならば、今言ってもらえるかしら、メフィストフェレス」

「いえ。ワタクシに弁明などございませんとも、契約者様。貴女にとってこれが()()()だと思えたとしても」


 口元を三日月に捻じ曲げ、悪魔は笑う。

 『裏切り』の言葉を聞いた浅井は、奥歯を噛みしめ、そっとうつむく。だが、感情を荒らげることなく、少女は平淡な声で執事に向かって命令した。


「わかったわ。メフィストフェレス、席を外しなさい」


 少女の冷酷とも取れる命令に、執事は深々と頭を下げる。


「……かしこまりました、契約者様。もし、御用があれば、お呼びください」


 執事の言葉に、少女は返事すら返さず、ただ目線で早くメインルームから出ていくように訴える。張り付けた笑みを顔の表面に浮かべた執事は、そのまま音もたてずにその場から消えうせた。


 人体(いや、悪魔なのだが)が目の前で消失することさえも慣れてしまった卯月は、驚きを忘れた己に少しだけため息をつく。


 その時、目の前の少女の両方の瞳から、ポロリと雫が零れ落ちた。

 うつむいた姿勢から零れ落ちた雫は、ガラスのテーブルの上にいびつな形の半球を植え付けていく。


 驚く卯月。

 だが、驚いていたのは、浅井も同じであった。


「なん……で?」

「と、とりあえず、落ち着いてくれ! 水、水飲むか?」


 うわごとのようにつぶやく浅井の瞳からは、こらえきることのできない涙がどんどんと零れ落ちていき、ガラスの上の半球は小さな水たまりに変わっていく。

 卯月は慌ててソファから降りると、浅井のそばにより、そっと背中を撫でる。かけるべき声も見当たらず、卯月はただただパニックになりそうな己を律することしかできなかった。


「裏切らないって、言ったのに……! だから、だから、嫌だけど執事にしたのに……!」


 涙とともにこぼれだしてくる少女の本音に、卯月は目を丸くする。


__この子は、何を抱え込んでいるんだ……?


 そう思ったときには、卯月は口を開いていた。


「あのさ。俺でよければ、話を聞く。執事にも、他のやつにも話さない」

「……」


 年相応に涙を流す少女は、力なく顔を上げ、そして言葉を紡ぎ始めた。




 少女は、物心ついたころには、父と年の離れた姉とともに暮らしていた。財閥のトップである父は、いつも忙しそうに仕事をしていたが、家族の時間はずっと大事にしてくれていた上、姉は少女にやさしかった。


 母は、いなかった。

 少女を生んですぐに亡くなったという。


 父は、たびたび言っていた。姉は、母が死んだことを信じられず、あの時は本当に自分が悲しんでいる暇もないほどだった、と。

 ただ、どこにでもある父子家庭であった。あの事故が起きる前までは。


 運転好きな父は、時々執事も護衛もつけず、家族水入らずでドライブをすることが趣味であった。

 その日、安全運転で海までのドライブの帰り道。後方の玉突き事故に巻き込まれ、運転席に座っていた父と姉は即死した。後部座席に座っていた少女のみ、生き残ってしまったのだ。


 財閥トップの急逝。そして、死亡した次期トップの姉。

 たった五歳の少女に、己の平穏を守るすべなど、なかった。


 荒らされた遺産に、放置された家。雇っていた家政婦などにはおそらく不当な扱いを受けた者もいたはずだ。

 やがて、遺産の大部分を受け継ぐことになっていた少女を、疎ましく思うものが現れた。


 その代表が、叔父だった。

 妙な準備の良さで浅井財閥のトップに躍り出た叔父は、父の元執事の男とともに、少女を養子とし、その後殺害する計画を立てた。

 それに気が付いた少女は、保護、もとい、軟禁先から逃げ出し、その時、天使に声をかけられた。



「……わかってるの、かあさん、が、死んじゃった時」


 少女は、しゃくりあげながら言葉を続ける。


「姉さんじゃない。()()()()()()()()()()()()()なの。私だけが、生き残って、()()()()

「……?」


 少女の言葉に、卯月はきょとんとしながらも、そっと背中を優しく撫で続ける。


「かなえられる願いは、一つだけ。生き返らせられる人は、一人だけ。だったら、人をまとめて殺すには……殺せたとして、私だけが生き残った理由は……」

「落ち着いて……!」


 過呼吸になりかける少女に、卯月は慌てて水をゆっくりと飲ませ、落ち着かせる。

 少女は、ぽつりと言葉をつぶやく。


「私、全部わかっているつもりでいた。でも、全然わかってなかった。だから、全部に裏切られた。だから、姉さんみたいにはなれなかった」


 すっかりぬれてしまった黒のワンピース。より重たい黒色に変色したその布をぎゅっと握り締め、少女は言う。


「召喚士になって、願い事を何でもかなえられるって言われて、私は、家族を、父さんと姉さんを生き返らせたいと思ったの。それが、それだけが、私にできることだから」


 黙って聞いていた卯月は、しばらく口を閉じ、そっと背中から手を放し、そして少女の顔を覗き込むようにして、口を開いた。


「……俺はさ、この話を聞いても、君が大変だったってことくらいしかわからない、ほぼ他人だ」


 ガラスの上に小さく浮かんだ水たまりが、うっすらと波打つ。広がる波紋に、卯月は少しだけ辺りを見回して、それを見つける。

 ガラスのテーブルの上に置かれていたティッシュボックスを少女に手渡し、卯月はそっと言葉を続ける。


「でも、願いも夢もなかった俺なんかよりも、ずっとしっかりしていると思うよ、君は」


 少女の濡れた黒真珠のような瞳が、少しだけ見開かれる。

 卯月は、そっと優しい笑顔を浮かべ、言う。


「さすがに命までは懸けられないけれども、俺も手助けする。君が、家族で平和に暮らせるようになるまで」


 大学あるし、バイトもあるからあまり力になれないかもしれないが、と付け加えた卯月に、少女は涙で腫れてしまった目元をそのままに、思わず笑顔になった。


 晴れやかな表情に変わった少女は、ティシュペーパーを一枚とり、軽く目元をぬぐうと、卯月に言う。


「ありがとうございます。……私も、メフィストフェレスに謝らないといけませんね。裏切られたとはいえ、強く言いすぎました。__まあ、執事はクビにしますけど」


 少女は、そう言うと、すっと姿勢を正し、無表情に戻る。

 そして、ガラステーブルに浅井のものらしきスマホを置き、口を開いた。


「では、明日の戦いに向けて、話し合いをしましょう」

「ああ、よろしく頼む」


 卯月は、再びソファに戻り、計画の内容を頭に叩き込み始めた。




 現時点での敵

・【剣聖】のルシファー

 自衛隊側の召喚士、木原修平のパートナー。創剣に個人的な使命があるらしく、おそらく敵対することとなる。ワイバーンを瞬殺する程度の力を持ち合わせている。

 話せば通じる可能性がゼロではない。


・トレント

 具体的には、トレントとその召喚士。注意すべきなのは、単体の制圧力。初手の波を単体で制圧されてしまった場合、門を破壊できたとしても、貢献度一位を持っていかれてしまう可能性がある。

 召喚士は警戒対象ではないが、重火器を持っていた場合には、別途対応が必要になる。


・一般の召喚士

 練度及び武器、規模が不明。もし星5のパートナーが一人でもいれば、貢献度一位をとることは不可能となる。


・自衛隊

 練度不明であるものの、一般人よりかははるかに訓練されていることが予想される。今回の作戦において一番の壁となる可能性の高い存在。


・浅井財閥

 新たな願いを叶えるために、戦いに介入する可能性がある。金に物を言わせた工作が可能であるため、脅威と言えば脅威。




 ある程度情報をまとめ上げ、共有し、議論を行ったところで、浅井がすっとスマホの電源を落とし、口を開く。


「……卯月さんに任せる部分がどうしても大きくなってしまいますが、よろしくお願いします」

「ああ、もちろんだ。こっちも、できるだけ創剣に説得してみる」


 そう言ってソファから立ち上がった卯月に、浅井はそっと右手を伸ばす。少しだけ困惑した卯月だったが、はっとしてしゃがむと、その右手を握り返す。

 小さいが、しっかりと力のこもった少女の手。まっすぐな浅井の目に見つめられ、卯月は自然とやる気がわいてくるのを感じていた。

『浅井財閥』

 日本でも有数の財閥。

 主に海運、貿易などを行い、国家予算を軽く超えるような収益を出している。


 現在、浅井(アザイ) 宏伸(ヒロノブ)が代表を務めており、不慮の事故によって亡くなった浅井家長男一家の娘を引き取っているというが……?

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