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ロードテール  作者: ooi
二章 鬼門
32/157

12話 とりあえず、俺は創剣を一発ぶん殴ったところで文句は言われないはずである

前回のあらすじ

・剣聖の願いは、創剣を殺すことであった

 創剣は自己中心的なうえ、高圧的で傲慢で、四六時中ワインを飲んでは家でごろごろして、家事の手伝いの一つもしないクズである。……一瞬救いどころはどこだろうと悩んでしまった卯月だが、そっと思考をやめて顎に手を当てる。


 ヤツ(創剣)がどんな屑であれ、だがしかし、創剣は外道ではない。

 召喚した当初、卯月を殺そうとしたのだって、正当防衛の範囲と言えば範疇である。正直なところ、異世界から突然呼び出し、戦えと命令しているのだ。殺されたところで文句など言えたものではない。まあ、死んだら口が開けないとか、そう言う話ではないが。


 だからこそ、卯月には理解ができなかった。


「神に逆らいしあの男を、私は殺さなくてはいけない。いえ、私はアレを殺すために生まれ落ちたのです!」

「違う! 剣聖は、剣聖自身の幸せを得るために……!」


 言い争う二人の平行線を見守りながら、卯月は下唇を軽く噛んだ。


 剣聖は、創剣を殺そうとしている。それが生まれた意味だと発言するほどに。理解できないほどの使命感と、ひしひしと感じる殺意に、卯月は戸惑うことしかできない。


 そんなに悪いことをしていたのか?

 王だと言っていたが、よほど外道な支配でもしていたのか?

 それとも、もっと非道なことを?


 ブラックドラゴンをたやすく狩り殺して見せた、あの創剣のことだ。力の方向を悪に振り切れば、存外地球を征服することさえできてしまいそうである。

 だが、今現在、創剣はそんなことはしていない。というよりかは、卯月と仮契約を交わしている現在、そんなことはできはしないし、創剣自身、大和町を気に入っているらしい以上しないだろう。


 人畜無害とは言い切れないが、少なからず剣聖の言うように確実に殺さなければいけない絶対悪ではない。それが創剣である。


 だがしかし。

 必死な表情を浮かべた剣聖は、病室の床に跪き、ベッドのシーツの上で寝転がっている木原の手を握り、言葉を続ける。人を殺したいと願う剣聖に、木原は言葉を濁し困惑を露わにすることしかできない。

 木原にとって創剣は、まだ名前だけを知っている人という印象に過ぎないのだ。門の壊し方を教えてくれた人、という印象も持ち合わせていたが。


 剣聖は、真剣な様子で木原を見上げ、言う。


「ともかく、木原様はもっと自身を大切にしてください。お話は、それからです」

「わかったよ、剣聖。卯月も、こんなところを見せてごめん」

「……あ、うん、まあ。気を付けてもらえれば、それでいい」


 二人の会話の半分も頭に入っていなかった卯月は、適当に相槌を打って体を伸ばす。病室の大きな窓から外を見てみれば、もうすでに日は傾き、オレンジ色の太陽が柔く室内を照らしていた。


「そろそろ、帰る。治ったら大学に来いよ?」

「わかった、わかったから!」


 念を押す卯月に、木原は激しく頷き、軽く手を振る。


「また、学校で」

「……ああ。勉強で分からないところがあったら教えてやるから」

「ありがとう」


 はにかんだような木原の笑顔と、剣聖の礼儀正しい一礼に見送られ、卯月は病院を後にした。


 そして、ふと思い出したようにオレンジに染まった空を見上げ、つぶやく。


「晩飯、どうするかな……」




 結局シチューを作ることにした卯月は、途中でスーパーに立ち寄り、鶏肉と野菜を購入し、家に帰った。


「ただいま……ん?」


 玄関を通り抜けた卯月は、ふと、部屋に人の気配がないことに気が付く。リビングをのぞき込めば、サイドテーブルに山積みの本はそのままに、創剣の姿だけなかった。

 どうせなら創剣に今日のことを聞きたかった卯月は、少しだけ拍子抜けをする。


__でもまあ、晩飯までには帰って来るか?


 そう思った卯月は、手洗いうがいをしてから夕飯の用意を始めた。


 だがしかし。

 その日、創剣が卯月の家に帰ってくることはなかった。




 翌朝。

 もはや自室と言うよりかは創剣の部屋と言ったほうが正しい部屋をのぞき込み、反撃も罵声も飛んでこなかったことで創剣がいないことを把握する。


 帰ってこなかった創剣に、卯月は少しだけ心配になりつつも、昨日作ったシチューとパンで朝食を済ませ、荷物を整えてから外に出る。今日は、門が現れるらしい場所の下見に行くつもりだった。


__どうせなら、創剣も下見をした方がよかっただろうけど、いないなら仕方ないよな……


 あっさりとあきらめた卯月は、さっさと身支度を整えると、家を出て玄関に鍵をかける。

 一瞬、創剣が家に帰れなくなるのでは? と思った卯月だったが、よくよく考えれば創剣はグラディウスを使って移動をしている。鍵などあってもなくても意味はないだろう。


 リュックサックを背負い、薄影のお守りをポケットにねじ込んだ卯月は、休日の町に繰り出した。




 電車に揺られること二時間と少し。

 多少の電車賃と引き換えに、卯月は安住区の区役所前にたどり着く。


 区役所は、駅前のすぐのところに存在していた。

 特に何も考えず歩いていた卯月は、ふと、すれ違う人間が多いことに気が付く。


__休日だからか?


 気楽にもそう考えた卯月だったが、明らかに物々しい装備をした人間が区役所へと向かったことで、異変に気が付く。


 周囲を確認すれば、街路樹の並ぶ平和な区役所前のとおりであるにもかかわらず、何やら妙にガタイのいい男性が数人、無線機に向かって何やら話しかけながら、立地を確認している。

 対岸には、犬の散歩をした女性。__いや、正確に言うなれば、どこからどう見てもオオカミにしか見えないそれに、犬の首輪とリードをつけて、区役所の様子を遠巻きに確認している女性だ。


 うっすらと額に汗をかきながら、卯月はそっと薄影のお守りの入ったポケットを上から抑える。おそらく、彼等は同業者(召喚士)だろう。


__ルマエルのやつ、ちゃんとほかの天使に伝えたのか……


 一瞬そう感心した卯月だったが、どうにも彼らの様子がおかしい。

 と言うのも、妙にぎらついた目でほかの召喚士らしい人たちを睨みつけているのだ。


 ふと、犬……いや、オオカミを散歩させていた女性が、隣で大きなギターケースらしい何かを担いだ男性に声をかける。


「アンタ、こんなところで何やってんのよ。とっとと帰ってくれる?」

「あ? 何だよ、っていうか、あんた誰だよババア」

「誰がババアですって……?!」


 一触即発なその雰囲気に、卯月はあることに思い至り、背筋を凍えさせた。


__まさか、全員追加の願いを叶えるために……?!


 周囲のうかがうような、値踏みするような視線が、言い争いを始めた二人に集まる。ガタイのいい男性たちは、規律の取れた動きをしているものの、言い争いに過ぎない今現在は介入する気がないらしく、警戒をしつつも下見を続けている。


 どうやら、安住区役所の前には、大まかに分けて二種類の人間がいるらしい。一つは、己の願いを叶えるために集まった召喚士。もう一つが、妙に連携のある集団。


__多分、木原のところのだよな……?


 彼ら(自衛隊)が主導して門を破壊するのであれば、おおよそ問題はないだろう。木原経由で門の破壊の仕方は知っているだろうし、何よりも連携がきちんととれているため、打ち漏らしも出すことはないはずだ。


 だがしかし__


 卯月は、ちらりと言い争いをしている二人の召喚士を見る。


 もしも、彼等に門との戦いの主導権が渡ってしまったら。おおよそのことは予想できる。


__貢献度一位を獲得するための足の引っ張り合いが発生する……


 彼らが自爆するだけなら、別に卯月にとって特に問題はない。だが、この区に被害が出るのであれば、話は別だ。

 召喚士同士がただ殴り合うのであれば、別に一般人同士の喧嘩とたいして変わりはない。問題は、そこに仲間(パートナー)や魔道具が関わったりすると、被害が格段に大きくなってしまうことだ。特に、拳銃が出てしまえば、容易に人が死ぬ。


 ついでに、卯月はどうせなら浅井に貢献度一位をとってほしいと思っている。ならば、どちらの勢力も邪魔でしかない。


「……」


 少しだけ考え込んだ卯月は、ふと、あることに気が付いて顔を上げる。

 言い争いをしている二人が、点字ブロックを塞いでおり、道の奥から杖を持った老人が歩いてきていた。


 このままでは、二人にぶつかる。

 そう判断した卯月は、すでに動き出していた。


 まだ赤色の信号が付いたままの歩道橋を渡り、言い争いをしている男女の横を通り過ぎ、二人にぶつかりかけていた老人の肩をたたく。


「むっ?!」


 唐突に肩を叩かれた老人は、驚きの声を上げ、サングラスをかけた目であたりを見回す。声を上げられる前に老人から手を放していた卯月の姿は、まだ誰にも目視はされていなかった。


 すぐそばから発せられた老人の声に、二人は軽く舌打ちをする。そして、ギターケースを担いだ男の方が口を開いた。


「邪魔だ爺!」

「うおっ!」


 そう言って老人を突き飛ばした男に、卯月はもう我慢の限界であった。


 卯月は、男のギターケースのチャックを思いっきり引っ張り下ろす。すると、ギターケースの中からは、ライフル銃がごとりと金属音を立て、落ちてきた。


__げっ、本当にヤバい……!


 いきなりギターケースを引っ張られた男は、奇声をあげ、辺りを見回す。が、男が卯月を目視するよりも先に、二人を警戒していた自衛隊が動く方が先であった。


「銃刀法違反! 確保!」

「パートナーに警戒しろ! 日令及び月令を行使される前に口塞げ!」


 殺到する自衛隊に、男女は慌てて逃げ出そうとするも、時すでに遅し。あっという間に確保された二人は、即座に拘束される。


 男に突き飛ばされた老人は、困惑したまましりもちをついていたため、卯月は無言で老人を起こし、青になった信号を確認し、横断歩道を手をつないで渡る。


 無言で差し出された助けに、盲目の老人は驚きの声を出すことすらもできず、そのまま横断歩道を渡り切る。そして、老人の足元に点字ブロックがあるのを確認した卯月は、そっと手を離す。


 杖をついた老人は、しばらく茫然とした後、そのまま区役所に向かった。



 区役所から離れた卯月は、しばらく歩いたところにある公園で立ち止まり、ポケットの中からスマホを取り出す。

 浅井への直通の電話番号は知らないが、執事のメフィストフェレスへの電話番号なら控えてある。


 少しの間スマホをいじり、受話器マークのボタンをタップしてから、卯月はスマホを耳に当てた。


 数コールの後、すぐに執事は電話に出た。


『もしもし、いかがいたしましたか、トップバッター様』

「卯月だ。明日の門の出現について、浅井さんは知っているのか?」


 卯月の端的な質問に、執事はためらうこともなく浅井と電話を替わった。


『もしもし。執事と変わりました、卯月様。門の出現についてですね?』

「ああ。そっちの天使から連絡は?」

『つい昨日来ておりました。ちょうど、どう参戦するかで現在執事と会談しておりましたところです。何か特筆すべきことでも起きましたか?』

「自衛隊と一般の召喚士で足の引っ張り合いが起きそうだ」

『そうでしょうね』


 存外冷静な浅井の反応に、卯月は一瞬面食らう。だが、伝えるべきことがあることを思い出した卯月は、そのまま言葉を続ける。


「協力しないか? 正直、俺は一般の召喚士も、自衛隊も信用できない」

『……それは、一体、どういう……?』


 困惑した様子の浅井に、卯月は先ほどのことを思い出す。


 自衛隊の彼らは、老人が突き飛ばされたところを見ていた。だがしかし、召喚士二人を確保するために、老人を助けることはなかった。

 もし、あの二人が冷静に仲間(パートナー)を使役し、抵抗をしていたなら。真っ先に危険が降りかかったのは、あの盲目の老人であるはずだった。


 民間人の保護よりも召喚士の確保を優先した彼らを信用できるか。卯月は、そう考えたときにはもうすでに結論は出ていた。


 卯月は、浅井の質問に短く答える。


「信用できる自衛隊側の召喚士が、怪我で今回は参戦できない。だったら、何を願うかわかっている浅井さんを手助けする方がマシだ」


 俺は特に願いが無いからな、と続ける卯月に、浅井は一瞬息を飲む。


「もし、協力関係になってくれるというなら、俺のことは呼び捨てにしてくれ。年下に様付で呼ばれたがる趣味はない」

『……話し合いをしましょう、卯月様……いえ、卯月()()

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