10話 単純かつ明確な不敬
前回のあらすじ
・外国がやばい
・木原が怪我をしていた
家に帰ってきた卯月は、深くため息をつくと、リビングの椅子に座って壁にもたれかかった。ソファは創剣が占領していたため、座ることはできなかったのだ。
あからさまに機嫌の悪そうな卯月に、創剣は眉を顰めると、舌打ちをする。
「何だ貴様、ずいぶん剣呑な顔をして。似合っておらんぞ」
「うるさいな……木原が、怪我をしていたのに、俺には教えてくれなかっただけだ」
「む……」
あっさりと理由を言った卯月に、創剣は驚いたような目を向ける。そして、眉を寄せて不快そうな表情を浮かべると、口を開く。
「貴様が神妙な態度をとっていると、気味が悪い。湿っぽいことを言うだけならその口を閉じぬか」
「普通にひでぇ!」
壁に寄りかけていた頭を跳ね上げ、卯月は創剣に言う。
困惑の交じった目で創剣をみれば、彼は退屈そうにワイングラスを傾けながら言葉を続ける。
「よいか、貴様。俺様はそもそも、貴様のくだらない悩みなど聞く気はない。そして、貴様が何に悩んでいようが俺様には関係がない」
唯我独尊、我田引水、傲慢不遜、尊大。そんな言葉が似あうような、堂々たる発言をした創剣に、卯月はきまり悪そうに口を開く。
「……悪かったよ、急に湿っぽいこと言って」
「阿呆、謝罪を望んでいるわけではないわ。気分を明るくしろと言っているまでだ」
言い切る創剣に、卯月は少しだけうつむく。正直、すぐに気持ちを切り替えろと言われたところで、そんなことができるわけがなかった。
そんな様子の卯月に、創剣は舌打ちをすると、ワイングラスをサイドテーブルに置き、氷のような目で彼を射抜く。ずいぶんと機嫌が悪くなったらしい彼は、低い声で卯月に吐き捨てるように言う。
「そも、怪我をした友人が心配だというなら、見舞いに行けばよかろう。そんなこともせずに不貞腐れるなど、貴様はどんな愚か者だ」
「あ……」
驚きの感情のまま目を丸くした卯月に、創剣はあきれたようにため息をついた。
「よもや、思いついてすらいなかったのか?」
「……正直、そうだ」
「貴様は面倒な女か!」
怒鳴る創剣に、卯月は茫然とするしかなかった。そして、フッと苦笑いを浮かべると、創剣に言う。
「ごめん、ありがとう。明日休みだし、見舞いに行ってくる」
「礼を言うな、気持ちが悪い!」
「ありがとう、Thanks、谢谢、Gracias、Danke、Grazie……あとは思いつかないな」
「貴様、俺様に喧嘩を売っているな?! 財に余りはある故、その喧嘩、倍の値で買うぞ阿呆! あと、ボキャブラリーが貧弱すぎるわ貴様ァ! 俺様に礼を言うならばもう少しは言葉を練ってから言わぬか!」
「怒るとこ、そこか?」
虚空から剣を取り出し、威嚇をする創剣に、卯月は苦笑いで言う。普通に怒気や殺意は恐ろしいが、卯月は気にならなくなっていた。
暮れた窓の外からは、柔らかな月明かりが差し込む。すでに、卯月の気持ちは晴れやかになっていた。
その時。
『……登場の時に毎回気まずくなるのはどうにかしてほしいな。召喚士君、門が開く場所が確定したよ』
虚空から現れたルマエルが、至極気まずそうに宙を漂い、言葉を発した。
ルマエルの言葉を聞いた創剣は、嬉しそうに剣を虚空の倉庫に戻すと、ソファから体を起こす。
「いつ、どこだ? 暇を持て余している故、俺様も手を貸してやらんこともない!」
『ご協力、誠にありがとうございます、創剣様。三日後、場所は東京都安住区の区役所前。正午丁度に開くことが予想され、民間人への被害が甚大になることが予想されています』
「おい、待て。がっつり平日じゃないか。てか、遠いな?!」
安住区は、東京都内でも都市部であり、ギリギリ東京都内である大和町からだと電車で片道1時間はかかる。参加意思を表明している創剣ならばグラディウスで一瞬かもしれないが。
__とりあえず、学校は休むとして……下見もしないと場所がわからないな。
考え込む卯月に、ルマエルは、面倒くさそうに言う。
『そう言えばだけど、本当に11連召喚、しなくていいの? こういう時に便利だと思うのだけど?』
「だとしても、嫌だ。ポーションだけとか、魔道具だけとかなら喜んでするが、生き物は責任が取れない」
『仲間はペットとかそう言うのじゃあないのだけど? でもさぁ、日本の召喚士たち、仕事をしているやつとしていないやつで二極化しているんだよね。本当に何もやっていないやつは願いの剥奪もしているけどさ、仕事をしている割に願い事がしょぼいと、上司から文句言われるんだよ』
「そんなの知るか。無いものはないのだから、しょうがないだろ……あ」
そこまで言ったところで、卯月はふと、あることを思い出して、口を開く。
「なあルマエル。願い事の権利の譲渡とかって、できるのか?」
『ん? 譲渡ぉ? 譲渡するのに願い事を使うことになるから、二回分の願い事の権利があれば、無理ってわけじゃないね』
「あー、なるほど……」
考え込む卯月に、興味を示した創剣が口を挟む。
「む? 貴様、願いを叶えさせてやりたいものがいるのか?」
「ああ。知っている女の子で、家族を生き返らせたいって子がいて……」
「貴様がそれを願えばいいのでは?」
そう質問してきた創剣に、卯月はこめかみを指で押さえながら言う。
「……でもさ、それって何か違うだろ。あの子は、決意をもって自分の家族を生き返らせようとしている。それに結果だけ渡すのは……なんかこう、言い表せないけどさ……」
「語彙力を母君の腹の中に置き忘れたのか、貴様は」
あきれたように言う創剣に、卯月はうなる。反論することはできなかった。
思い出すのは、木原が卯月の左足を治そうとしたときのこと。正直なところ、卯月は足が治ってほしくないわけではない。だが、木原に直されそうになったというその事実に、怒りを覚えた。拒絶をした。
__純粋な親切心だとしても……いや、親切心だからこそ、他者に願い事を使われるのは、腹が立つ。だったら自分の欲望のままに使ってもらったほうが楽だと思うくらいには。
「自分の願いに、他人が同情して勝手に叶えてくれるって言うのは、何か違うだろ? 与えられた願いだとしても、自分が願ってその結果叶ったほうが、気持ち的には楽だ」
「む……」
卯月の言葉を聞いた創剣は、小さくうなると、わずかに眉を顰め、そしてその整った唇を薄く開く。
「貴様の言わんとしていることは、なんとなくわからんでもない」
『えっ、分るんですか? 結果は変わらないのに……?』
理解できないという表情を浮かべるルマエルに対し、卯月に共感できたらしい創剣は、足を組んでソファにもたれかかると、サイトテーブルに置きっぱなしだったワインに手を伸ばし、昔を懐かしむように言う。
「俺様とて、知り合い程度のものに王の身分を唐突に与えられたとて、おそらく怒りしか覚えんかっただろう。ああいうのは、己の力で手に入れてこそだ」
尊大な態度で言う創剣。流石に卯月は同意しかねたが、言わんとしていることがほぼ同じであるため、閉口するほかなかった。
ルマエルは、卯月と創剣を見比べ、赤い瞳に困惑を混ぜ込む。
感情を理解しきれていないルマエルを置いて、卯月は口を開く。
「そう言えばルマエル。お前以外の天使って、何で門の開く場所だとか日時だとかを教えていないんだ?」
『……ん? 教えてないのアイツら? 正直言うと、営業の連中の考えていることはわかんないんだ。技術職だからって下に見てくるし』
不満そうにそう言うルマエルに、卯月は首を傾げいう。
「仲が良いわけじゃあないんだ?」
『そもそも、人間と僕ら天使じゃ、構造が違うんだ。友人だとか、仲だとか、そんな不要な関係はない。僕らは、あくまで神に仕えているだけだ』
はっきりとそう言い切るルマエルに、少しだけさみしさを覚えつつも、卯月は「そうか」とだけ答え、首肯する。
「とりあえず、他の召喚士たちにも、門の情報は逐次伝えておいてくれ。ぶっちゃけ、初回みたいなことがあると、俺の命がいくつあっても足りない」
「む、山での戦いは、むしろ人がいなくてやりやすかったのだが……」
いけしゃあしゃあとそう言う創剣に、卯月は額に青筋を浮かべて怒鳴る。
「アレはほぼ創剣一人で何とかしてたからだろ。てか、あれ本当に死にかけたんだからな?! 周り見てエストック使えよ!」
「やかましい! ああしたほうが手っ取り早かっただろうが!」
「だとしても、門を壊せる俺が死んでたら、意味なかったからな?!」
「ド阿呆! 俺様に創れぬ剣はないと言っておろうが! 門の一つや二つ切り捨てる剣など、いくらでも創れるわ、たわけぃ!」
『喧嘩するのは止めてくれる? 話を続けたいのだけど?』
卯月と創剣の不毛な言い争いに、いい加減仕事に戻りたいと思ったルマエルが呆れたように口を挟む。
まだ何か言いたげな創剣よりも先に、卯月が矛先を収め、ムッとした表情をしつつも空中を漂うルマエルに目を向ける。
『ともかく。次の門が開く時間と場所は教えたからね。後は召喚士、君たちが頑張ってくれ』
「ああ、あと、ガチャ以外でポーションを手に入れる方法が……!」
『わかったわかった、交渉しておくよ。後は?』
そう質問したルマエルに、創剣が機嫌よさそうに右手をひらひらと振ると、ワインで潤った口を開く。
「もっと頻繁に門を出現させよ。暇で仕方がない」
『創剣様の願いは聞き届けられませんね』
「なんだと?」
「当たり前だろバカ」
思わず突っ込んだ卯月に、創剣は「不敬!」と言いつつも、残念そうにため息をついて空になったワイングラスをサイドテーブルに置く。そんな創剣に、ルマエルは軽くため息をつくと、口を開いた。
『創剣様。あなた以外にも、星5の方は召喚されております。知り合いがこの世界にいるかと』
「毛玉。剣聖は知り合いではあるが、あやつは違う。話しかけようとすれば切りかかられるだけだ」
「創剣、お前剣聖さんに何したんだ……?」
「俺様は何もしてない……おい貴様、なぜそんな胡散臭そうな目でこちらを見る。事実だ事実!」
じっとりとした胡乱げな卯月の視線に、創剣は舌打ちをしつつ、ルマエルを睨む。ルマエルは軽く首(当然、そのように見える部位はない)を横に振ると、歌うように言う。
『いえいえ、創剣様。すでに、七武器の一柱が日本に召喚された模様です』
「……む? ならなぜわざわざ気配を消して……」
そこまで言いかけたところで、創剣は唐突に高笑いをする。
随分と機嫌よさそうな創剣に、卯月は少しだけ眉を顰め、椅子に座りなおす。
創剣は、腹を抱えてしばらく機嫌よさそうに高笑いをした後、ニッと凶悪な笑みを浮かべ、ソファに寝転ぶ。
「なるほど、なるほど……わざわざ異世界に赴くまでの望みがあるものと言えば、『槍』か『拳』か……時点で『杖』と『斧』。『盾』のは来るはずがなく、『弓』のは己の仕事で手一杯なはずだ。おい毛玉。来たのは、拳か?」
『そこまではお答えできません。ですが、来た順番で言えば、創剣様が一番最初に召喚に応じた、とだけはお答えさせていただきます』
「ハハハハハハハハハ! あやつらも召喚されておったか!」
創剣は、その氷のような瞳に愉悦を溶かし込み、口元を三日月にゆがめる。窓から差し込む月明かりが、そんな創剣を妖美に照らす。
胸騒ぎのした卯月は、「なあ」と前置きをしたうえで言葉を紡ぐ。
「言っておくが、その知り合いとやらと手を組んでくだらないことを考えたら、その結果で俺の大切な人たちを傷つけることとなったら、俺は絶対に許さない」
卯月の睨みつけに、創剣は少しだけポカンとした表情を浮かべた後、口元に笑みを浮かべ、卯月を鼻で笑う。
「……俺様の友人たちならどうなるかは分かったものではない。が、まあ、俺様とて少なからずこの町は気に入っておる。よほどのことがない限り、そんなことはさせぬわ」
『あと、できるなら、地球の摂理破壊につながる可能性があるので、七武器同士の殺し合いはしないでいただけると……』
「阿呆、不死者が争ったところで、さほど意味などないではないか」
「えっ、創剣って不死身なのか?!」
驚く卯月に、創剣は「どうしようもない阿呆だな」という表情を浮かべ、口を開く。
「俺様は何度もいっておるが、どんな剣でも創れる。ゆえに、不死身になる剣程度創れんでどうする。ああ、俺様の友人たちも、俺様とは異なる形で似ている力を持ち合わせている故、ほぼ不死身だ」
あっさりと言い放ったその言葉に、卯月はただ茫然とするほかない。頬を引きつらせ、卯月は創剣に質問する。
「ちなみに、創剣って、いまいくつなんだ?」
「いくつ……千年はさすがに生きてはいないはずだが……盾や杖、拳のは、俺様よりも先に存在しておったからな」
眉を寄せ、思い出そうとする創剣。
卯月は、ため息をついて改めて創剣を見る。どう見ても、20代に見えるその見た目。彼は、思わず口をつく。
「若作りがう……」
「それ以上言ってみろ、神の契約を無に帰す剣を創る方法を模索してやろう」
ピキッと額に青筋を浮かべ、呪詛を吐くように言う創剣。卯月は慌てて口を閉じた。創剣は、ふてくされたようにソファに体を預け言う。
「言っておくが、俺様の体は剣を用いていじってなどおらん。年が進んでおらんのは俺ですら何故だか理解できてはおらんのだぞ!」
「お、おう。と、とりあえずはわかった。で、不死身って、どこまでのラインで不死身なんだ?」
無遠慮にそう質問する卯月に、創剣はムッと眉を顰めると、軽く舌打ちをしつつも答えた。
「俺様の体の中に埋め込まれた小剣を砕けば、不死性は失われる。とはいえ、俺様もどこにその剣を埋めたか覚えておらんでな。一度、杖のと喧嘩をした時に、脳髄を砕かれたことがあったが、こうして生きている以上、脳には隠していなかったのだろう」
「いったい何をしたら頭を砕かれるような喧嘩になるんだ……」
あきれた卯月に、創剣はそっと肩をすくめて両手をひろげ、ごまかす。
次の目的が、向こうからやって来た。
夜は、少しずつ更けていった。
【創剣】ルシファー
NEW!年齢:千歳以下(20歳くらいに見える) 性別:男
身体特徴:銀髪、蒼目の超絶美形
特技:様々な効果を持った剣を創りだすこと
趣味:???、読書
備考:一人称『俺様』な、異世界のとある国の王
__による備考:???に干渉する力を持つ『七武器』の1柱。限りなく神に近しく、そして、限りなく人に近しい存在。【創剣】自身、己の能力を把握しきれているわけではない。
誰にも言う気がない秘密:カッコいい冒険小説が好きで、自宅の裏庭でこっそりドラゴンを育てているが、まるでなついてくれない。
NEW! 最近のお気に入り:大和町、地球の書物、???




