8話 合コンと言う名前の闇鍋
前回のあらすじ
・創剣さんの一日
数日間大した事件が起こるでもなく、定期的に廃棄物狩りを行ったり、しっかり授業を聞いたりと、卯月にとって平和に時が過ぎた。
そして、食事会の日。
最後の講義が終わるとほぼ同時に、卯月たち大学生は会場となっているファミレスに移動した。
洋食がメインのそのファミレスの一角を予約していたらしい幹事は、集まったメンバーにくじのアプリを使わせる。どうやら、席を決めるらしい。
男女比はやや女子多めの六対四くらい。男性陣を見渡してみれば、安須も参加しているようだった。
ノリノリでくじを引いていた安須に、卯月はそっと質問する。
「よう、木原は?」
「ああ、木原は召喚士関連のことで警察に呼ばれて、無理だってさ」
「そうか、大変そうだな」
「ホントだよ。木原に会いたかったって言う女子をなだめんのがどれだけ大変だったことか!」
大げさに手を広げる安須に、卯月は苦笑いをして「お疲れ様」とねぎらう。そして、卯月自身もくじに参加する。席は、安須とは少し離れた八人掛けのボックス席だった。
男女比のせいか、くじによって決まったのか、この席は卯月を含めた3人の男性と、5人の女性が座ることとなっている。
春先ということもあり、明るい色の服を着ている女性たち。周りを見渡してみれば、存外男子も気合いの入った格好をしている。
ここで、ようやく卯月は気が付いた。
__これ、合コンだ……!
卯月は、別に高校での合コンに参加したことがなかったわけではない。ただ、あの時は単純に女子人気を木原と安須、それに野球部の先輩方がかっさらって行ってしまったため、男子たちとさみしく会話をしながら食事をつまんでいただけだった。
なるほど、それならくじで席を決めるというのは効率がいいのかもしれない。全員がほぼ初対面であり、そして会話することとなるなら出会いの機械としてはおそらくかなりいいだろう。
だが__
卯月の脳裏によぎったのは、相模だった。
目の前の彼女たちのように、女性らしい可愛い服装など見たことがない。何なら基本的にすっぴんであり、己を飾り立てるということを知らない彼女だが、食事を食べたときの笑顔や絵を描く時の真剣な表情は、ひどく焦がれるような眩しさをはらんでいた。
__何か、申し訳ないな……
そう思いながら、卯月はそっとため息を吐く。
とりあえず、目的の友達作りだけして、さっさと帰ろう。そう判断した卯月は、ちらりと前の女性陣を見る。どうやら、あまり卯月には興味がないらしく、他二人のクラブ活動の話を楽しそうに聞いていた。
卯月はしばらく注文した商品であるペペロンチーノをつつきながら、話を聞く。
「__でさ、俺の家、自然公園の近くにあるんだ。だからさ、あんときはすごい振動で!」
「へぇー、じゃあ、『そーけん』って名乗ってた人も見えたの?」
「いや、そこまでは見えなかったな」
楽しそうにしゃべる二人に、一人の女性が声をかける。
「あれ、ミユキ、創剣派なんだ~。わたし、やっぱり木原君の方がカッコいいと思うな~」
ふわふわの髪の毛の女性が、山吹色のカーディガンを羽織った女性にそう言う。ミユキと呼ばれた女性は、大きく頷く。
「そりゃもう! だって、凄くなかった、あれ! しかもめちゃくちゃイケメンだったし!」
「だって~、どう考えても手が届かないじゃん」
「バッカね、アユミ! そこがいいんじゃない!」
楽しそうに女子トークを始めた女性陣。会話の流れが完全に持っていかれた男子二人は、残念そうに顔を見合わせ合う。
しかして、卯月には全く理解できなかった。
__いや、アレのどこがいいんだ?
家事を一切手伝わず、時たま無理やり図書館に同行させられて、自分が借りたい本を借りさせる。高飛車だし、高圧的だし、傍若無人だし、口も悪い。未成年の卯月の前ではばかることもなく飲酒をし、何なら酌を要求すらしてくる(断固として断っているが)。
卯月にとっての創剣は、同居人に対する気づかいという言葉を知らない、おおよそ社会生活不適合者でしかない。救いがあるとすれば、食費生活費だけは入れてくれることだろうか?
そんなことを思いながら、卯月はパスタの中に紛れ込んでいたトウガラシの破片をかみ砕き、口に広がる辛みに一瞬身をすくませる。
ニンニクとコショウのきいた、それなりにおいしいパスタである。
__そういや、最近、スパゲッティは作っていなかったな。
明後日あたり、ミートソーススパゲティにでもするか、と思いつつ、甘ったるい炭酸飲料で口の中をリセットする。
一人でそんなことをしていた卯月に、アユミと呼ばれていた女性が声をかけてくる。
「あの~、卯月さんは、創剣と木原君だと、どっちの方がカッコいいと思うんですか~?」
「ん? 木原かな。かっこいいっていうか、応援したいって感じだけど」
「そう言えば、卯月お前、木原と同じ高校だろ?! 何か、ないのか?!」
やや大きい声でそう聞いてきた同テーブルの男子の声に、周囲の視線が一斉に卯月の方へと集まる。
いきなり注目された卯月は、一瞬だけ表情を引きつらせつつも、口を開く。
「いやまあ、安須もだけど」
そう言ったとたん、少し奥のテーブルから安須が文句を言ってきた。
「ちょ、卯月! キラーパスすんなよ!」
「ほら、優良物件があっちに」
「本当のことを言うなよ」
「悪い、事故物件だったか」
「ひでぇ!」
そんなやり取りをした安須と卯月。
すると、卯月のいた八人掛けの席から二人の女性が移動し、安須に話を聞きに行く。そして、残りの三人が、卯月に向かって聞く。
「安須君の連絡先、知っているの?」
「教えてほし~」
完全にあきらめモードになった二人の男子に対するように、卯月は深くため息をついて三人の言外の要求を丁重にお断りした。流石に友人のプライバシーを売ってでも、女子と話をしたいとは思えなかったのだ。
本人に聞くことをおススメし、ついでに安須の好きそうな話題を教えれば、三人はあっさりとボックス席から出ていった。
卯月は、がっかりした表情の二人と顔を合わせ、そして肩をすくめていう。
「女子って、怖いな」
「……とりあえず、お前戦犯だろ」
「もうちょっと引き留めても良かったのに……」
合コンの残酷さを垣間見た卯月は、軽く苦笑いをして、ペペロンチーノを口に押し込んだ。まあまあうまいが、やはり、洋食は喫茶店のじいさんに作ってもらった物の方がおいしい。
紙ナプキンで軽く口を拭った卯月は、幹事が次の席順くじをするというまで、しばらく食事を続けていた。
やはり、安須は運動部に入っているということもあり、なかなかに女子人気が高いらしい。座席くじを引いたというのに、あっさりと席を立って行った女子たちに、ボックス席に残された男子三人は、パスタをすするかドリンクバーで飲み物をヤケ飲みすることしかできなかった。
「なあ、卯月……だっけ? お前、女子いいの?」
ふと、ドリンクバーのジュースを適当にミックスしたらしいどす黒い色のジュースをストローですすりながら、ボックス席に残された男子の一人が、卯月に声をかける。
「あ、飯田だっけ? 俺、今は別にいいかな。別の学校の友達に料理教えてて、正直あまり興味ない」
「何で合コンに参加したんだよ……」
ぐったりとテーブルに突っ伏す飯田に、卯月は短く答える。
「幼馴染に友達作れって説教されたから」
「えっ? 安須と友達じゃあないのか?」
「いや、大学での新しい友達って意味。ちょっとバイトで忙しくて、最近ずっと講義終わったらすぐ家帰っていたから」
「あー、なるほど。でもやっぱ、女の子とおしゃべりしたかった……」
そう呻いた飯田は、恨みがましく卯月の隣でうつらうつらとし始めていた男に言う。
「どう考えても、いかつい顔のお前さんがいるから女子が逃げたんだろ」
眠そうにしていた男は、軽くあくびをすると、顔を上げる。すると、額半ばから左ほおのあたりまでの大きな傷があらわになった。
顔に傷のある男は、眠たそうに言う。
「んあ……?」
思わず、卯月は顔に傷のある彼に聞く。
「ずいぶん眠そうだが、大丈夫か?」
「いや、だいじょうぶ、だいじょう……ぶ」
「大丈夫そうに聞こえねえ?!」
卯月は時計をちらりと見る。時刻は、9時少しすぎといったところだ。昨日、徹夜でもしたのだろうか?
船をこぐ男に、卯月はさすがに心配になってきた。
「なあ、名前聞いといていいか? そんなに眠かったら無理する必要ないと思うぜ?」
卯月と同様、心配そうに言う飯田に、顔に傷のある彼は、大きくあくびをしてから言う。
「健司。大谷 健司だ」
「そうか、大谷。一応、同じ席になったのも何かの縁だし、三人で連絡交換だけでもしておこうぜ」
飯田はそう言うと、ポケットからスマホを取り出す。交換するのが野郎だけというのはややさみしい気がしないでもないが、卯月も苦笑いするとスマホをファミレスのテーブルの上に置く。
「あ、大谷。俺は卯月 幸。よかったら、よろしくな」
「俺は飯田 尚人。俺だってバスケ部なのに、安須に女子人気を持っていかれたぜ!」
「かっこつけて言うことじゃないな、それ」
「言うなよバーカ!」
目元を両手で覆い、がっかりしたように言う飯田に、卯月たち三人はそれぞれ連絡先を交換し合い、そして、船をこいでいる大谷を二人がかりで立たせ、合コンを後にした。




