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ロードテール  作者: ooi
二章 鬼門
27/157

7話 想定の範疇内かつ不可避

前回のあらすじ

・オフトゥン

 浅井と電話をした翌日。

 今日も平日であるため、卯月は普通に学校に行かねばならない。創剣とともに朝食を終え、さっさと大学へ向かった卯月を見送り、創剣は退屈そうにソファに寝転がっていた。


 図書館は10時開館であるため、卯月が家を出る8時にはいく当てがないのだ。


__この世界の小説は、それなりに面白い。魔法がなくとも生活できるのは、知恵と記録があるからなのか?


 サイドテーブルに山積みになった小説の背表紙に長い指を這わせ、創剣は長いまつげの彩る瞼を閉じる。そうすれば、読んでいた小説の一幕が脳裏に映りこんだ。

 吟遊詩人が高らかに歌う冒険譚。酒の席の愚痴のような救いのない話。甘酸っぱい恋愛譚に、ほろ苦い失恋譚。植物図鑑には、創剣の世界にはなかった植物がしるされ、動物図鑑には見たこともない生き物たちの生態が並べられている。


 そして、創剣が興味を持ったのは、この世界……もとい、日本と言う国の文化。

 華美を好む創剣は、和の心と言うべき、無駄をそぎ落とした詫び錆びの文化を理解しきることはできなかった。ゆえにこそ、退屈しなかった。


「この書物に記された、ドラゴンステーキとやら……新しい門が現れねば出来ぬな……」


 喫茶店のじいさんに頼めば、おそらく召喚士(あの阿呆)よりかはうまく料理してくれるだろう、と考えながら、創剣はふっと笑みを浮かべる。


 この世界の食事には、魔力のこもった食材が少ない。と言うよりかは、ほぼない。魔物を食らうことのない肉類ならばまだ仕方がないと思えたが、どうやら植物もそうであることに気が付いたのは、最近のことであった。


 創剣の世界において、魔力は体に必須な栄養素の一種であった。魔力がなければ血の流れが滞り、やがて壊死する。それゆえに、人は魔力の多い食材を食べ、健康や身体を守っていた。

 だからこそ、この世界の食物に魔力がほぼないと気が付いたとき、創剣はかなり驚いた。そして、魔力がないにもかかわらず、食事が美味であることにも驚いた。


 生物は、栄養素のない食材、命の危険にさらされかねない食材は、不味く感じるのが一般的である。そうしなければ、生き延びることはできないからだ。

 だからこそ、『魔力のない食材』もとい、『食事』は不味く感じられるはずだった。


 創剣は、顎に手を当て思案する。

 だがしかし、現に創剣は卯月の作る食事に不満を抱いてはいなかった。念のため、倉庫の中にしまっていたワインで魔力補給をしているものの、別段必要はなさそうに感じられている。


__原理は理解できんが……そも、召喚の時点で長期間の滞在に耐えられるように調整されていると考えるのが楽か。


 そこまで思案した創剣は、軽くあくびをして、ソファに再度寝転がる。

 食事や空気、水から魔力を得られないとなれば、必然的に魔力以外の働きで体を動かし、そして、生をつないでいるのだろう。


__俺様の創った剣を使ってなおあんな無様を晒したあやつ、もしやこの世界では普通なのか?


 そう考えた創剣は、軽く舌打ちをした。


__あやつが普通の魔道具を使っておったら、代謝魔力も根こそぎ持っていかれ、事故で殺せておったのに……

「なるほど、ならば惜しいことをした……」


 創剣は一人つぶやきながら、瞼を持ち上げ、氷のような瞳を空気にさらす。そして、本に触れていた指を放し、ちらりと窓の奥を見る。


 いつもと大差ない、朝の町。小学生が元気に道路を渡り、老人が散歩をする。すでに散り切った花に変わり、若葉が彩る街路樹。平和なこの町。


 だがしかし、創剣は感じ取っていた。この町に、卯月では勝てない程度の廃棄物が現れたと。

 口元に薄く笑みを浮かべた創剣は、虚空から白金と金の装飾が施された剣、グラディウスを取り出す。


「さて、暇つぶし相手が来たな。今日はせめて、骨のある廃棄物だといいのだが」


 創剣は楽しそうにそう言うと、家から消えうせた。

 ……部屋着のまま、素足で。





「クソが……!」


 運悪く、敵が巨大に変異したスライムだったということもあり、ぬかるんだ地面に素足で立つことになった創剣は、腹立たし気に舌打ちをすると、無駄な抵抗をする(襲い掛かってきた)スライムに適当な剣を突き立て瞬殺する。

 文字通り()のない敵に、創剣の機嫌は極端に下がった。


 剣は刃こぼれすることもなく虚空に消え、スライムがいたその場所には、薄青色の酸性の体液と、比較的大きな魔石が転がる。

 勝利の余韻に浸るような相手でもなかったうえに、しかも足を汚す羽目になった創剣の気分は、だだ下がりであった。


 盛大に舌打ちをした創剣は、周囲を見渡す。

 魔力で座標を指定したため、植樹に囲まれた、見たこともない場所にたどり着いていた。少し遠くを眺めれば、何やら白壁の建物も見えている。ここはいったいどこなのだろうか。


 ふと、人の気配を感じた創剣は、虚空から適当な剣を一振り取り出し、そちらを見る。


「誰だ」


 剣を向けようとしたところ、法の支配によってか、体がまるで金縛りにあったように動かなくなった。自分の思うままに動けない創剣は、軽く舌打ちをすると、剣をしまう。よくよく考えれば、この世界の人間程度、素手で何とかなる。


 創剣に質問された人の気配は、首を傾げみつあみを揺らし、口を開いた。


「えっと、どちら様でしょうか?」

「……む」


 創剣にそう尋ねたのは、スケッチブックと色鉛筆の入ったケースを抱えた女性、相模だった。


 白銀の髪に、日本人のものとはかけ離れた、彫刻のように整った顔。相模は、彼がこの東都美術大学に迷い込んだ外国人であると判断した。

 参考までに、相模は絵を描くのが好きなあまり、気が付けばニ徹三徹する人間である。当然、テレビやインターネットはあまり使ってはいない。故に、自分が暮らす街で大きな事件があったことは知っていたが、創剣の顔までは知らなかった。


 そんなことは知らない創剣は、相手が卯月の友人だと気が付き、態度を少しだけ軟化させる。


「俺様が名前を尋ねたのだが……まあ、いい。俺様は【創剣】のルシファーだ」

「あ、どうも。私は、相模 実と言います。えっと、ルシファーさん?」

「創剣と呼べ」

「あ、はい。ソーケンさんは、なぜ大学の敷地内に?」


 きょとんと首をかしげる相模に、創剣は短く答える。


「廃棄物処理のためだ」

「不法投棄はダメですよ?」

「そうではないわ、阿呆め」


 呆れたように罵倒する創剣に、相模は首をかしげるしかない。この罵倒も、日本語が上手だなぁ、程度にしか受け取っていない相模に、創剣は話がかみ合っていないと理解し、あきらめて質問をする。


「して、貴様は何故ここに?」

「きさま……えっと、ここ、美術大学なので。授業でスケッチをしているのです」

「ふむ、なるほど。ならば励むがいい」


 そう言って立ち去ろうとする創剣に、相模は声をかけて引き留める。そこまで機嫌のよくない創剣は、眉間にしわを刻みながらも、相模の方を見る。

 相模は、仕上げの水彩画用に持ってきていた布を創剣に手渡し、言う。


「足をふくのに、どうぞ。あんまりきれいな布じゃないですけど」


 一瞬、ポカンとした表情を浮かべ、差し出された布と相模を交互に見る創剣。そして、創剣は高笑いをした。


「……フハハハハハハハハ! 奇妙な気遣いをするな、小娘! よかろう、受け取ってやる!」

「あ、はい」


 元気な外国人さんだな、と思いつつも、相模は受け取られた布の行方から目を逸らす。

 上機嫌になった創剣は、相模から受け取った布でさっさと足の泥を払うと、虚空の倉庫から靴を取り出し、履く。ついでに部屋着から着替えようかとも思ったが、さすがにうら若き乙女の目の前で着替えるのは不味かろうと自重した。


 気分が良くなった創剣は、先ほど倒したスライムの魔石を拾い上げると、酸をぬぐい取り、相模に投げ渡す。


「布の礼だ、これは貴様にくれてやる」

「えっ、あ、はい。これ、何ですか?」


 見たこともない物体を手に乗せた相模は、ゆっくりと観察をしつつ、創剣に質問する。創剣は、「魔石だ」とだけ答えた。

 相模は、少しだけ手のひらの魔石を眺めた後、創剣に質問する。


「この後、暇だったりします?」

「む? まあ、暇ではあるが?」

「良かったらなんですけど……」




 数十分後、書き上げた下書きのあるスケッチブックを胸に、相模はいい笑顔を浮かべて創剣に礼を言う。


「すいません、本当にありがとうございました! 発表会の絵のモデルになってくださるなんて!」

「フハハハハ、構わん、構わん! 描きあがった暁には、俺様が直々に見てやる。誇りに思え、絵師の小娘よ! 代わりに、出来が悪かったら許さん!」

「全身全霊で頑張ります! ありがとうございました、ソーケンさん!」


 課題の風景画だけはすぐ描かなきゃいけないですけど! と、少しだけやつれた表情を浮かべた相模だったが、そんなことが気にならない程度には、創剣は上機嫌になっていた。


__あの阿呆の友人ということもあるな。精神に曲がったところが見えぬ。実にすがすがしい。


 ほくほくとした表情でスケッチブックを抱えて、植樹を写生し始めた相模を創剣は機嫌よさそうに流し見る。

 下書きなしで迷いなく動いていく色鉛筆は、木の幹を書き上げ、緑色の色鉛筆に変わったかと思えば、枯れ木だったそれに若々しい葉が生えていく。整っていた色鉛筆のケースは、少しずつばらばらになっていき、それに比例するようにスケッチブックの余白が消えていく。

 最後に、絵の描かれた紙をスケッチブックから破り取り、裏に自分の名前を書く。


 発表会用の下書きよりも早くかき終えたそれをファイルに挟み込み、相模は創剣に向き直り、言う。


「ありがとうございました、あの、校門まで案内しましょうか?」

「いやなに、問題ない。後は宿に帰るだけ故、貴様の手を借りるまでもない」


 創剣はそう言うと、虚空からグラディウスを取り出し、そのまま軽く掲げ、相模の前から消えて見せた。


 目の前で人が消えるという状況を目の当たりにした相模は、ただただ呆然とすることしかできない。

 手元に残った魔石のみが、創剣が今この場にいたことを証明していた。

【食事による魔力補給】

 他の世界から召喚された生物は、そもそもその世界線の『___』を持っている。ゆえに、正式な召喚をする過程で、廃棄物のもつ『___』による摂理破壊を防げる程度に適応させ、地球環境にも順応できるように定義を変更している。


 面倒なことを言っているが、要するに、召喚で出てきた拳銃は、弾を気にしなくてもいいということだ。何せ、召喚された世界が違う以上、弾の規格が違うため、地球上で販売されている一般的な銃の弾を使うことができないからである。弾のない銃など、金づちにも劣る武器でしかない。


 それと同様に、生命維持に必要な魔力も、よほど不健康な生活__それこそ、一か月一睡もせずに全力で戦っていたり、食事を一切取らなかったり__しない限りは、無限に生成される。

 ちなみに、魔法を使うときに消費される魔力も、銃の弾同様生成されるわけだが、その過程で己の限界を超えた魔法を使うことはできない。無限魔力による無限弾幕は残念ながら無理やで。


 なお、食事にも身体機能維持以外の意味があり、体内に地球の物体を取り込むことで、地球の摂理になじむことができる。逆もまたしかりではあるが、召喚術式によって保護されていない人体に、異物、魔力を取り込めば、無事で済むことはほぼないであろう。

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