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ロードテール  作者: ooi
二章 鬼門
23/157

3話 イカれ執事(レベマスキルマ限界突破覚醒済み)

前回のあらすじ

・アルバイト終わりの卯月

・ぼーいみーつようじょ

・ぅゎょぅι゛ょっょぃ

 トレントとの戦いから撤退した卯月と少女。だがしかし、依然として油断できる状況ではなかった。


__こっちにもいるな……


 できる応急手当をし終えた少女を抱えたまま移動する卯月は、路地の角から大通りへ続く路地をちらりとのぞき込み、深くため息をつく。

 卯月の視線の先には、きっちりとした黒背広を着た男たちが、拳銃を構えて路地を探っていた。ここが日本であるのか確認したくなるような光景である。


 卯月に抱えられていた少女は、もぞもぞと動くと、卯月の脇腹を軽くつついた。何か言いたそうに口を開こうとする少女。


 だがしかし、卯月は声を出すわけにはいかない。そっと少女の口を手で覆い、口元に人差し指を当てる。


__声出したら、薄影のお守りの効果が切れる。


 卯月は、ちらりと空を見上げる。

 そこにあるのは、近所迷惑なほど大きなプロペラ音を出すヘリコプター。どう見てもカメラで何かを探しているようにしか見えない。


 声を出してしまえば、卯月たちはカメラに映ってしまう。だからこそ、卯月は無言で、少女にも声を出させず、どうにか大通りに抜ける道を探していた。


 しばらく悩んだ卯月は、ふとあることを思い出して、少女を抱えたまま背負ったリュックサックからメモ帳を取り出す。ともかく、意思疎通だけはしておいた方がいいだろう。


 路地の壁に背中を預け、卯月はメモ帳に『足は大丈夫?』と書き、少女に見せる。


 それを見た少女は、一瞬驚くと、小さく頷いた。


__よかった、これで意思疎通ができる。


 ホっと息をつく卯月に、少女は卯月のメモ帳とボールペンを借りると、さらさらと文字を書き始める。


『貴方はトップバッター?』


 まるで明朝体のようなきれいな字に、自分の走り書きを少し恥ずかしく思いながら、卯月は少女に返答を書く。


『トップバッターって呼んでほしくないけど、そう呼ばれている。字、上手だね』

『ありがとう』


 少女は、メモ帳にそう書くと、一瞬筆を止め、しかし一息にその文字を書き上げた。


『なぜ私を助けた? どうしてあそこにいた?』

『困っていそうだったから。スライムを倒していて、たまたまあそこにいた』

『嘘はついていないように見える。貴方はしゃべれない?』

『しゃべれる。だけれども、声を出すと、ハクエイのお守りの効果が切れる。君もしゃべらないで』


 薄影の漢字が読めないだろうと判断した卯月は、カタカナで書きメモ帳を見せる。すると、少女は少しだけ首を傾げ、紙に文字を書いていく。


『薄影のお守り?』

『ああ。これのおかげで、他者には見えない。カメラにも映っていない』

『人にも見えないなら、そのまま大通りに出れば?』

『触れると効果が切れる。この細道だ、通り過ぎる前にぶつかる』


 卯月がそう書くと、少女は顎に手を当て、何かを考え始めた。


 このまま待機している限りは見つかることはないため、卯月は深く息を吐いて地面に座り込む。そろそろ左足に痛みが走り出していた。


__そういや、妹、今どうしているかな……


 膝の上で何やら考え込んでいる少女に、卯月はふと自身の妹のことを思い出す。四歳下の妹は、元気にしているだろうか。

 数分と立たずに顔を上げた少女は、卯月からメモ帳を奪うと、さらさらと何か記号を書き始める。


__最悪、創剣をどうにかして呼び出すか……? っていっても、家にいるかわからないしな……


 リュックサックに手を伸ばし、卯月は考えこむ。どうせ中にはろくなものが入っていない。目を閉じて考え込んでいた卯月に、少女は脇腹をつついた。


『これの通りに歩いて』

『?』

『いいから』


 卯月の膝から降り、手を引く少女に、卯月は驚きの表情を浮かべながらもついていく。


 野良猫一匹通るのが一日の最高通行量であろうこの細道を、卯月と少女は手をつないで歩いていく。声を出していない今、二人を見ることができる者はいないが、野球のユニフォームを纏い、手に金属バットを持った青年と、黒いワンピースを着た拳銃を持った幼女。なかなかに殺意の高い二人と言えなくもない。


 少女は、周囲を警戒しながらも、迷うことなく足を進める。

 己も歩いたことがない路地に、卯月はかなり不安な気分になっていた。


 妙にカラフルな洋服の干されたベランダに、見たこともない観葉植物の飾られた窓。嫌に生活臭のある空き家に、よくわからない柄のカーテン。まるで異世界のような路地裏を、少女は通り慣れたように歩く。


 数分間歩くと、大通りが見えてきた。


__監視がいない……?


 驚く卯月に、少女はメモ帳に文字を書き、見せる。


『多分、叔父がいる。絶対に見つからないようにして。捕まったら、貴方も殺される』

「?!」


 物騒な文字に、卯月は驚いて少女をのぞき込む。少女は手を横に開き、ため息をついて首を振る。


『気にしないで。死にたくないなら、声を出さずに、指示した場所まで移動して』

『君は大丈夫なのか?』

『大丈夫。住処はバレてない。()()もいる』


 少しだけ嫌そうな表情を浮かべ『執事』の文字を書いた少女。卯月は、首をかしげながらも、そのまま少女についていく。


 大通りに出ると、そこには確かに、妙に高級そうな黒い自動車が停められていた。


__AVで何度見たことあるんだろう、ああいう高級車……


 友人の安須のせいで妙な知識の増えた卯月は、一瞬そんなことを思ってから目を逸らす。余計なことを考えると、笑い声をあげてしまいそうだ。


 卯月は笑いをこらえながら、口を閉じて少女に手を引かれるまま足を進める。そのとき。


 がちゃ


 背後で、車のドアが、開く音が響く。


 ビクッと体を震わせながらも、卯月は足音を立てないように少女を抱え上げ、後ろをちらりと確認する。


 高級車から出てきたのは、高級そうなスーツを着た、白髪交じりの男だった。

 眉間に深いしわを刻んだ男は、革靴でアスファルトの道路をたたきながら、苛ついた様子で左手に持った電話に怒鳴る。


「おい、どうなってやがる! 来ないじゃないか!」


 電話口の向こうは焦ったような返答を返し、それがさらに男のいら立ちを誘うのか、男は貧乏ゆすりをし始め、舌打ちをする。


「いいか、あのガキだけだ。あのガキさえ殺せば、財閥は俺のものだ! それをてめえごときのしくじりで無に帰すつもりか?! ああ?!」

「……!」


 卯月の抱え上げた少女が、びくりと体を小さく振るわせ、男を睨む。歯ぎしりをして睨む少女の目から、悔し涙がこぼれた。

 卯月は、少しだけ申し訳ない気持ちがしながらも、少女を少しだけ抱きしめ、そっと背中を撫で、足音を立てないように大通りを通り過ぎようとし……


「お嬢様の匂いがしますねぇ?」

「?!」


 唐突に表れた執事姿の男に、卯月は体をびくりと震わせ、一歩下がる。


 黒い傘を持った黒髪の男。上質な白色のシャツにはしわ一つなく、黒のジャケットはきっちりと手入れされているのか、絹特有のつややかな布地には一切の曇りがなかった。


 それだけなら、まだ人間であった。


 執事のこめかみには、まるで雄羊のような曲がりくねった角が生えており、その顔には口端が裂けているようにも見える、あまりにも信用ならない笑顔が張り付けられていた。


 少女は、その執事のセリフに、深くため息をつき頭を抱えた。

 そんな少女と対になるように、男は情けない悲鳴を上げ、車内に向かって怒鳴る。


「おい、護衛ども! 来たぞ、あの()()()()()だ!」

「イカれ執事とは失礼な。ワタクシはどこからどう見ても()()()執事でしょう?」


 執事はそう言うと、カラカラと甲高い笑い声をあげる。その様は、正常というよりかは狂気と分別したほうが正しく感じられた。

 悲鳴をあげる男。高級車から現れた護衛二人は、その表情を引きつらせながらも果敢に拳銃の安全装置を外す。


 そんな物々しい護衛たちに、執事はわずかに眉を下げて言う。


「ここから新鮮(フルーティー)なお嬢様の匂いがするのです。あまり危険な行為は避けていただけるとよろしいのですが?」


 始まりそうな戦いの予感に、卯月は少女を抱えたまま道の端に避難し、そしてメモ帳に文字を書いて少女に見せる。


『端的に変態だな、あいつ』

『やめて。悲しくなる』


 少女は複雑な表情を浮かべ、メモ帳に文字を書く。


『申し訳ないけれども、アレが味方』

『さすがに冗談ですよね?』

『敬語にならないで。嫌なのはわかる。私も嫌』


 メモ帳に文字を書きなぐる少女。そんなに嫌か。いや、自分の匂いを熟知した執事なんて嫌だな。


 卯月は少しだけ同情的な表情をしながらも、始まった戦闘……いや、一方的な蹂躙に、そっと少女の目を覆う。


 最初に動いたのは、護衛の男だった。


 躊躇も容赦もなく引かれた引き金。甲高い発砲音が連続して響く。

 だが、鉛玉が執事を貫くことはなかった。


「おやおやおやおや、()()に向かってそんな玩具を使ってはいけませんと、お母さんに習いませんでしたぁ?」


 手に持っていた蝙蝠傘を開き、銃弾を防いだ執事。彼は、ニタァッという擬音が付属しそうな笑みを浮かべ、二人の護衛を見つめる。

 その視線は、敵に向けるものではない。それは、獲物を目の前にしたネコが浮かべる、残虐な笑みであった。


「ヒッ!」


 恐怖に駆られた男は、慌てて高級車の中に逃げ込む。それを見た捕食者(しつじ)は、優雅に蝙蝠傘を閉じると、まずはすぐそばに迫っていた一人目の護衛の喉を傘の先で突く。


「がっ?!」


 護衛は、絞められた鶏のような哀れな悲鳴を上げ、路傍に吹っ飛んだ。


__死んでないだろうな?


 卯月は少しだけ心配な気分になるも、吹っ飛ばされた護衛は、口の端から泡を吹いて伸びている。血は出ていないように見えるため、これ以上見たところで生死などわかりはしなかった。


 執事は涼しい顔をして、歌うように言う。


「ああ、お嬢様。いらっしゃるならお返事を。ワタクシ、貴女様の声が聴きたくて仕方がないのです」

『絶対出すもんか』


 そうメモに書きなぐる少女に、卯月は少しだけ同情する。


 そんな二人をよそに、執事は二人目の護衛に牙をむく。


 閉じた傘に、護衛は再び執事をに銃撃を試みる。

 上がる発砲音、あたりに漂う硝煙。転がる薬莢。


 だがしかし、執事にはかすりもしない。

 閉じた傘で鉛玉の進路をずらし、じらし、避け、あくまでもゆっくりと、ゆっくりと哀れな獲物(ごえい)()()()()


 張り付いた笑みは、もうすでにとらえた獲物をどう玩ぼうかと思案するネコのようにしか見えなかった。



『うわなにあれ、おっかない』

『読めないわよ。見えないし』


 卯月はうっかり、少女の目元を隠しているのを忘れてメモ帳に文字を書く。はっとした卯月は、そっと少女の目元から手を外した。


__というか、紙をみなくてもこんなにうまく字が書けるのか……


 メモ帳に目を落とし、卯月はふとそんなことを思う。そして、己の走り書きをみて、そっと目を逸らす。



 傘を伸ばせば十分触れられるような距離にまで()()()()()執事は、にっこりと笑みを浮かべると、その距離で足を止めた。


「ひぃっ?!」


 護衛は、情けない悲鳴を上げ、銃を乱射する。

 だが、執事は、傘を開くことなく閉じた状態の傘で弾を叩き落としていく。


 執事の心臓を狙った弾丸は空へ打ち上げられ、脳髄を狙った弾丸は逸らされ後方へ、腹を狙った弾丸は地面に叩き落される。

 最後のあがきに喉を狙った弾丸を、()()受け止められ、護衛の銃の弾は品切れとなった。


 腰が抜けた護衛は、そのまま道路上にへたり込み、役立たずとなった拳銃を地面に取り落とした。

 そんな護衛を、執事は傘の柄の部分で頭を殴打し、道路に転がす。


「はやく、早く車を出せ、この役立たず!」


 怒鳴る男に指示され、運転手は車の前に立っていた執事を見ながらも、アクセルを踏み込んだ。


「ふむぅ……?」


 執事は、少しだけ首をかしげると、傘を持ち換る。

 柄を強く握ると、そのまま前に突き出す。


 ばぎゃっ


 鈍い音が響き、同時に破裂音にも聞こえるソレが人通りのない道に響く。

 執事の蝙蝠傘は、高級車の前方右タイヤを貫き、巻き込まれ、車の動きを止めた。


 必死にアクセルを踏み込む運転手。しかし、車のタイヤは完全に空回りしており、動く雰囲気はない。


 執事は鼻歌交じりに蝙蝠傘を手放すと、車のドアに手をかける。


 助手席に座っていた男は、絶叫を上げ、震えあがる。


 当然のように、ドアにはロックがかかっている。が、執事には何ら関係はなかった。力を籠め、ドアを引くと、ばきゃり、と言う鈍い破壊音が響き、役立たずとなったドアは開いた。


「うわぁぁぁぁぁあああああ!!」

「やかましいですねぇ。お嬢様に聞かせるのにはやや下品が過ぎる声です。その口、縫って差し上げましょうか?」


 恐怖と緊張が限界に達し、男は恥も外聞も捨てて、凄まじい絶叫を上げる。そんな男の首をつかむと、執事は面倒くさそうに車外へと引きずり出した。


 執事は、楽しそうに言う。


「お嬢様、近くにいるのでしょう? 口を縫う縫い方を指定していただきたいのですが。縫いやすいのはやはりかがり縫いですが、まつり縫いの方が縫い目が美しいはずです」


 ケタケタと笑いながらそう言う執事に、男は震えあがる。もはや悲鳴を上げる気力すら残っていなかった。


 少女は頭を抱え、しばらく悩んだ末に、卯月にメモ帳を見せる。


『放して』

『いいのか?』

『あの駄目執事を止めないと。あいつ、私が現れるまで叔父を拷問する』


 路上で失禁している叔父を、ゴミを見るような目で見つめ、少女は卯月の手から降りる。


「いい加減にしなさい、クソ執事(メフィストフェレス)


 頭を抱え、短く命令した少女に、名を呼ばれた執事は動きを止める。


「! これはこれはお嬢様。貴女の仇、今目の前におりますが?」


 ニタリと笑い、言う執事に、少女はばっさりと言い捨てた。


「今殺しても意味はないわ。そんなことをしている暇があったら、私の恩人をもてなす方を優先しなさい__叔父様、失礼いたしました。あと、当然ながら養子縁組のご相談はなかったことに。私、病死(突然死)したくないので」

「ひぃっ!」


 震えあがる叔父を放置し、少女は後ろを振り返り、そして一瞬だけ驚きで目を丸くする。

 いたはずのトップバッターは、すでに見えなくなっていた。


 少しだけ考え迷うと、虚空に向かって言う。


「トップバッター様。まだいらっしゃるようでしたら、よろしければおもてなしをさせて下さいませ」


 投げかけられた言葉は、誰に受け取られるでもなく消えていった。

「なにあれおっかねえ」

「どうした?」


 珍しく野球服で家に帰ってきた卯月に、ソファに寝っ転がった創剣は、体を起こして質問する。


「お家騒動に巻き込まれかけた。銃って、あんな簡単にぶっ放して良いもんだっけ?」

「おそらく、召喚術式の召喚項目に入っていたのだろう。貴様の友人だという男も持っておったろう?」

「そういや、そうだったな」


 卯月はそう言うと、ふと思い出して言う。


「やべ、買い物忘れてた」

「阿呆!」

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