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ロードテール  作者: ooi
二章 鬼門
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2話 ボーイミーツ幼女

前回のあらすじ

・家計に協力はするものの、基本的に働かない創剣

・相模ちゃんとちょっとずつ仲良くなれてきた卯月

・アルバイト入ってくる

 いつもと変わらず、夕暮れ前までに荷物配達の仕事を終えた卯月は、タイムカードを切り、さっさと私服に着替える。


__さて、喫茶店のじいさんが、ゴミ捨て場がスライムに荒らされて困ってるって言っていたな……


 私物の入ったリュックサックを持ち、凝っていた体を軽く伸ばしてから、リュックサックの中に押し込んでいた袋に手を伸ばす。無地のこの袋は、もともと部活動をしていた時に使っていたものであり、それなりに丈夫な生地でできているため、多用している。


 袋の中に入っているのは、折りたたんだ野球ユニフォームと、ヘルメット、薄影のお守り、シューズ、それに、空っぽのバットケース。


 金属バットは、いつも持っていると警察に職務質問されかねないため、家に置いてきている。呼び出せばどこにあったとしても手元にやって来るため、さほど支障はない。ただ、残念なことに、勝手に家に戻ってくれる機能はないため、持ち帰るときだけはバットケースにしまいこむ、というわけだ。


「っと、そういや、今日はスーパーでひき肉の特売だっけ。ハンバーグでもつくるか……?」

「毎度毎度思うけど、卯月君、まめに料理作るわね。うちの夫にも見習ってほしいわー」


 卯月の独り言に、パートのおばさんがパソコンとにらめっこをしながら深くため息をつく。卯月は、苦笑いをしてから言う。


「いや、俺、一人暮らししてますからね。料理しないと、困るのは俺自身ですから。お先、失礼します」

「あ、そうだ、思い出した! 卯月君、ちょっと待ちなさい!」


 スタッフルームをあとにしようとした卯月に、パートのおばさんが声をかける。驚いて振り向いた卯月に、おばさんは透明な包装紙に包まれたメモ帳を放り投げる。

 メモ帳を受け取った卯月は、首をかしげて質問する。


「これは?」

「新聞屋さんがウチに置いて行ったやつでね。一箱にいっぱい詰まっていたから、みんなに配ってんの」

「ああ、なるほど……」


 メモ帳をよくよく見てみれば、黒一色の表表紙の端っこに、新聞社の名前が書かれていた。ぱりぱりとプラスチックの包装紙を破けば、中には罫線が引かれているのみ。使いやすそうだ。


「せっかくなので、買い物のメモにでも使わせてもらいますね」

「あはは、あたしもそうすりゃ買い忘れが減るかしらねぇ?」


 パートのおばさんは豪快に笑うと、卯月に手を振り、パソコンに向き直る。まだまだ仕事が終わっていないらしい。

 卯月はぺこりと一礼すると、スタッフルームを後にした。



 バイトが終わった卯月は、途中の公園の公衆便所で野球服に着替えると、袋の奥底にしまっていた薄影のお守りをポケットにうつす。


 しばらく薄影のお守りを使い続けて、これの効果が少しずつ解明してきた。


 まず、このお守りは、声を出すと効果が切れるらしい。一番わかりやすいのは創剣だろう。召喚された翌日の探索の時、喫茶店で声を出すまではあんな奇抜な恰好をした創剣が、他者に騒がれることはなかった。


 次に、このお守りは、機械に対してほぼ完全に映らないということ。というよりかは、機械に無視されている、と言ったほうが正しいだろう。カメラ越しに薄影のお守りを見つけることはほぼ不可能であり、写真にもはっきりとは写らない。


 そして、一番の特徴は、このお守りを持ったまま人に触れると、触れた対象にだけこの効果がとけることだろう。一週間前の門との戦いで判明した新事実である。


__あの時は本当にヤバかったな……


 卯月は苦々しい表情を浮かべ、手元に金属バットを呼び出す。

 薄影のお守りを身につけていたせいで、創剣に見失われ、あの剣の一斉射撃に巻き込まれそうになったのだ。そのとき、直前で創剣の鎧の一部に触れられなければ、卯月はそのままひき肉になっていたはずだ。


 いずれの効果も、見た者が意識をしなかったり、見失ったりすればなくなるものだということも判明しており、卯月はできるだけ創剣の視界に入るような立ち回りをするようにしている。死因が仲間によるものだというのは、さすがにシャレにならないのだ。


 思い出すだけでゾッとする。卯月は深く息を吐き、二度とあんな事故が起きないことを祈り、公衆トイレを出た。


 声を出しさえしなければ、実質透明人間の卯月は、公園に誰もいないのを確認してから、バットを軽く振る。空気を切る音が鈍く響き、心地よい夕風が卯月の頬に触れた。


 赤く染まった空。日暮れのこの時間は、もうすでに子供たちは家に帰ってしまっている。ゴミ捨て場に近づく人間も、おそらくはいないだろう。


 そう考えた卯月は、軽く準備運動を済ませてから、夕暮れの町に足を踏み出した。




 細い路地裏を通り抜け、卯月は喫茶店にほど近いゴミ捨て場に近づく。

 すると、喫茶店のマスターに言われた通り、小さなスライムがゴミにたかり、中身を溶かしてはその体に取り込んでいた。


「あー、クソ、ゴミをばらまいちゃってるか……」


 卯月はそう呟くと、そっとため息をつく。

 これだけ小さなスライムなら、バットを使うよりも踏み潰してしまったほうが早い。


 無事なゴミ袋をどかし、慌ててこちらに向かって酸を飛ばしてこようとするスライムを踏み潰す。少しだけ罪悪感を抱かないわけでもないが、放置しておけば住宅街の子供が襲われる。だったら小さいうちに処理してしまったほうが楽である。


 酸性の粘液をゴミ捨て場のコンクリートに広げつつ、卯月はさっさとスライムを処理していく。表皮を踏み切れば、スライムは簡単に崩壊した。


 残党がいないのかをしっかり確認してから、卯月は魔石を拾う。それなりに数がいたらしく、ハンカチの中には十個の紫水晶が転がっていた。


__この大きさじゃ、全部換金しても千円にならないな……


 卯月は軽くため息をつくと、音を立てずにゴミ捨て場から出る。しっかり処理したため、しばらくは大丈夫だろう。

 時間はそこまでたっていないため、まだ未練がましいオレンジ色が、空に輝いていた。


 卯月は軽く体を伸ばしてから、路地に入り込み……


「そこだ、殺せ、トレントォォォ!!」

「?!」


 男の怒号とともに、凄まじい破壊音が、少し遠くの路地から響いた。


 卯月は慌ててそちらへ駆け寄る。

 たどり着いたのは、路地の中でも建物と建物の間で奇妙に広い土地となってしまったらしい場所であった。


 そこにいたのは、黒いパーカーを着た男と、下半身が木、上半身が少女のような見た目の怪物、そして、足から真っ赤な体液を流している小学生にも見える少女だった。


 卯月は、口を押えてあげそうになった声をこらえる。


 足を怪我した、黒色のワンピースを着た少女は、その手に拳銃を握り締め、必死になって抵抗している。だが、あくまでもトレントの後ろに陣取り、ふんぞり返っている男には効果がない。


 トレントの木の枝が、鞭のようにしなり、少女を襲う。

 少女は、アスファルトの上を転がるようにしてその攻撃を避けた。


 逃げながらも手に持った拳銃で必死に応戦する少女だったが、どう見ても不利そうである。


__まずい、何かしないと……!


 卯月は、覚悟を決めて、バットを男に向かって投げる。


 金属バットは放物線を描き、男の後頭部にすっ飛んでいく。

 完全な不意打ちとなったこの投擲を男は避けることができなかった。


「がぁっ?!」


 がつん、という鈍い音が響き、男はそのまま地面にうつむく。

 後頭部を抑え、驚きうめき声をあげる男。男の悲鳴で驚いて攻撃の手を止めたトレント。


 少女は、驚きつつもその隙を見逃さなかった。


 軽く引かれた引き金。響く二発の銃声音。


 一つは、少女の足をつかもうとしていたトレントの枝を撃ち抜く。

 もう一つは、路地の壁に這う水道管を、あやまたず撃ち抜いた。


「__っ!」


 破裂した水道管から、大量の水が降り注ぐ。

 ずるずると根を引きずるようにして移動していたトレントは、その水によって視界を阻害され、伸ばしていたツタが空を切った。


 足を引きずりながら、逃げようとする少女。


 だがしかし。


「トレント、日令を行使する! そのガキを捕縛しろ!」


 先に、男が復活してしまった。


__日令……? 何だそれ?


 きょとんとした卯月。

 だが、対する少女と、トレントは表情を凍り付かせた。


 次の瞬間。


『ァァァァァァァァァァァァァァア!!』


 トレントの絶叫。

 少女のような上半身が、苦しみで涙を流す。まるで嫌だというように身をよじり、頭を抱え、身もだえる。

 それに対して、黒いパーカーを着た男は苛ついたように怒鳴る。


「良いからとっとと捕まえろ、このウスノロがっ! クソが、何でバットなんて飛んで来たんだ……?」


 トレントは、苦しそうに発狂しながら、少女の発砲を気にせず突撃する。


 銃弾に幹がえぐられ。枝を折られる。路地のコンクリートに葉を擦り付け、中途半端なところでむしれようとも、止まることなくトレントは、少女に迫っていく。


__何が何だかわからないが、とりあえず、まずい……!


 卯月は、手元に金属バットを呼び戻し、少女の死角から延びてきたツタを叩き落とす。


『__アアァァア?!』


 トレントは、痛みからか甲高い悲鳴を上げ、突然の乱入者である卯月を睨む。

 いきなり虚空を睨んだトレントに、少女は驚きつつも、手元の拳銃で今度こそ守り手のいなくなった男を狙う。


 パァン


 軽い炸裂音。

 鉛玉はトレントを罵倒し続けていた男の右太ももを貫き、硝煙を上げた。


「ぎゃぁぁぁあああ?! 足が、俺の足が!!!」


 一瞬遅れて耳障りな絶叫を上げる男に、トレントは一瞬気をひかれる。

 その直後、卯月は拳銃を持った少女を抱え上げ、その場から逃げ出した。


 路地の中央には、混乱した様子のトレントが、茫然といなくなった二人を探し、視線をさまよわせていた。

トレント

 エントとも呼ばれる、樹木の精霊。

 ガチャでは星3のパートナーで、雌雄どちらも召喚できる。もちろん、見た目も幼女だけでなく、若い男、老人、老婆、珍しいところだとオネエのトレントもガチャに混じっているらしい。

 体の樹木を操り、敵を捕縛したり攻撃したりできる。また、上位種になると、魔法を使うこともある。

 弱点は、幹。本体は木の部分であり、上はあくまでも妖精としての飾りに近い。


 また、絆を結ぶことで、歌を歌ってくれることもあるが、このトレントはもうすでに人間に対するトラウマができてしまったため、二度と歌ってくれない模様。

 トレントの歌う歌は、呪歌とも呼ばれ、聞いたものに様々な効果を与える。

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