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ロードテール  作者: ooi
二章 鬼門
21/157

1話 王様→ニート→?

前回までのあらすじ

・門の破壊に成功してから一か月

・卯月と創剣がまあまあ仲良くなった

 桜の花びらも散り切り、葉桜となった今日この頃。

 お母さん、お父さん、妹。元気にしていますか?


「__い、__き!」


 俺はそれなりに元気です。部活はしていませんが、最近は新しい友人と一緒に絵を描いたり、絵のモデルになったり、料理の練習をしていたりします。


 新しい友人、相模さんは、この春から一人暮らしを始めるらしく、家事がからっきしだと嘆いていました。俺も、協力できるところは協力して、とりあえずはご飯を一人で炊ける程度までは勉強してもらおうと思います。


「__ま! 不敬で__ぞ!」


 外野がうるさい。だが、気にすることなく、卯月は筆を進めていく。


 相模さん曰く、食事は基本コンビニかレトルトで済ませているとのことでした。栄養が偏りがちな食生活になってしまうため、定期的に食事を作りに行く程度の仲になりました。栄養学を学んでいてよかったと思うことは、野球をやめた今となってはこれくらいでしょうか。


 あと、彼女は絵を描いている間は本当に人間をやめているようで、たまに時間の概念を忘れます。昨日など、深夜に死にそうな声で電話がかかってきて、何事かと思い駆け付けたら、絵を描いていて気が付いたら三徹していた、とのことでした。彼女、ちゃんと学校に通えているのでしょうか……?


「相模さん、生きているかな……トマトソース作っておいたけど、ちゃんと食べているのか……?」

「いい加減にせんか、ド阿呆!」

「うるせえよ、手紙くらい静かに書かせてくれ、創剣!」


 いい加減に我慢がきかなくなった卯月は、朝っぱらからソファでダラダラグダグダとワインを飲んでいる創剣に向かって怒鳴る。せっかくの休日だというのに、まったくもって時間を無駄にしている。


 さんざん無視され、苛ついたらしい創剣は、不機嫌そうにサイドテーブルにワイングラスを置くと、ソファ越しに卯月に向かって怒鳴る。


「俺様が暇だと言っているのだ、何か余興でもせよ」

「するか馬鹿! ってか、図書館から本借りているんだろ? それでも読んでおけよ!」

「読み終わったに決まっておるわ、阿呆め」


 サイドテーブルに山積みになった小説。卯月の法律に縛られた創剣は、ちゃんとルールを守って十冊までしか借りていない。だが、昨日は卯月の貸し出し分まで使ったため、倍のニ十冊借りていたはずだ。

 創剣は、軽く舌打ちをすると、行儀悪くソファに寝転がった。


「暇だ!」

「じゃあ、廃棄物狩りでもして来いよ。最近、スライムが増えて環境問題になっているじゃないか」

「阿呆、俺様にスライムごとき小物の相手をさせるつもりか!」

「誰かがしなくちゃいけないのだったら、お前がやればいいだろ」

「俺様はやりたくないと言っているのだ!」


 面倒くさいわがままを言うのは、流れる白銀の髪に磨き上げた氷のような青の瞳の、絶世の美丈夫、【創剣】のルシファー。

 本人曰く、もともと住んでいた世界では一国の王だったという、召喚術式という名前のガチャで出てきたよくわからない人だ。卯月は、正直なところ、人間かどうかすらも怪しいと思っていた。


 卯月は、ため息をついて手に持っていたボールペンを食事兼勉強に使っているテーブルに置くと、創剣の方を見て言う。


「そんなに暇だったら、家事の一つでも手伝えよ」

「阿呆、王たる俺様がなぜそんなことをせねばならん」

「じゃあ、暇だって騒ぐな。俺はこの後アルバイトがあって忙しいんだ」

「その程度のこと、貴様の勝手ではないか!」

「理不尽な……」


 空になったグラスに新しい赤ワインを注ぎ、まるで水でも飲むかのようにアルコールをかっくらう創剣。卯月はそのワインのラベルをのぞき込むが、まったく解読不可能な文字列が並んでいるだけだった。


 ワインに興味を持った卯月に、創剣は鼻で笑って言う。


「このワインは、貴様が死ぬまで働きようやく一口飲めるほど価値のある最高級ワインだ。やらんぞ」

「いらんよ。というか、俺は未成年だ」


 ばっさりと言い捨てた卯月。創剣は退屈そうに舌打ちすると、軽くワイングラスを揺らし、当てつけの如く香りを楽しむ。


 再度手紙を書きだした卯月に、創剣は惰性で声をかける。


「貴様、本当に何か趣味でもないのか? せめてチェスなりカードゲームなり、将棋なり、頭を使うゲームはできんのか?」

「悪いが創剣、うちにはチェスボードもトランプも将棋盤もない。あるのは受験対策用の小説と参考書、タンスの奥にしまい込んだ野球道具だけだ。__あー、最近、色鉛筆とスケッチブックも買ったな」


 絵を描く道具を持っていないという卯月のために、相模と二人きりで画材を買いに行った。これは実質、デートと言って差し支えないのではないのだろうか。そっと微笑みながらそう考えた卯月に、創剣は「けっ」とつまらなそうに吐き捨てると、口を開く。


「その趣味は貴様の友人とやらのものであろうが。サガミはともかく、貴様の絵には何一つ面白みがない。却下だ」

「……お前が何か描いておけばいいじゃあないか」

「俺様は見たものは全て覚えられる故、絵描きは趣味でない」

「そういうものなのか……?」


 手紙を書く手を少し止めつつ、卯月は律義に創剣の言葉に反応を返す。

 卯月はしばらく悩んだ挙句、創剣のことを一切書かずに手紙を書き上げ、シンプルな茶封筒にしまい込む。こんなダメな大人代表みたいな人間(?)のことを書いたところで、両親に無駄な心配を覚えさせるだけだろう。


「貴様が今何を考えているかはさておき__」

「心を読むのはプライバシー侵害に当たると思うぜ?」

「黙れ阿呆。いい加減俺様も本を読み続ける生活に飽きた。何か面白みのある事柄はないか?」


 一瞬ビクッとした卯月を生ごみでの見たかのような目で見た創剣は、退屈そうにそう言う。卯月は、しばらく考えてから、口を開いた。


「正直、今は何もないな。門の方も、一週間前に俺と創剣で山に現れたやつ壊したばっかりだし……」


 神のミスによって地球に現れるようになった、『門』。

 その門は、放っておくと、大量の廃棄物が現れる。廃棄物は非常に好戦的であり、廃棄物を放置しておくことは、人類ひいてはすべての生命体の絶滅につながりかねないのである。


 地球で一番最初の門での戦いに参加した卯月たちは、それなりに戦闘を好む創剣とともに、日本各地での門の戦いに参加するようになっていた。


 創剣は思い出したようにつまみのチーズを口に放り込むと、言う。


「そう言えば貴様、あまりにも名乗らん故に勝手な名前を付けられておったぞ? 確か、『トップバッター』だったか?」

「止めろ、言うな言うな。ちょっと恥ずかしいんだ、あれ」


 少しだけ苦々しい表情を浮かべ、そう言う卯月に、創剣は高笑いを返す。


 卯月は、あらかじめルマエルからどこに門が現れるのか聞いているため、たいていの場合はどの召喚士よりも先に現場につくことができる。

 闘いの時は毎度毎度『薄影のお守り』を使っている卯月は、顔などが記録媒体に残ることはないものの、服装まではカバーしきれないのか『野球ユニフォームを着ている誰かが、一番最初に戦いを始めている』という情報が残り、結果として、『トップバッター』というあだ名がつくことなったのだ。


 卯月は正直なところ、そのあだ名が嫌で仕方がなく、ルマエルにはほかの召喚士にも同じ情報をよこすように言っているが、なぜかそれが同意されることはない。


 なお、創剣は初戦の時に高らかと名乗りを上げていたため、『創剣』もしくは『ルシファー』と呼ばれている。テレビ局に「様をつけて呼べ」とまでオーダーしているあたり、図太いと言えばいいのか、逆に感心していいのかわからない。


 卯月は、小さく首を振ると、手紙を持ってテーブルから立った。


「ちょっと早いが、そろそろバイトに行ってくる。ついでにスライム掃除も」

「さっさと行ってこい。ついでに、この国のつまみも買ってこい」

「金持ってんだから、自分で買えよ」


 ソファーにあおむけに寝転がり、何の恥じらいもなく言う創剣に、卯月は思わず突っ込む。




 思い返すのは、最初の門との戦いから二日。

 ようやく卯月の前に現れたルマエルは、一言。


『廃棄物に、共有器官があるのって知ってる?』

「現れて早々、何言ってんだお前」


 アルバイト終わりの疲れ切った卯月は、思わずそう言った。ルマエルは面倒くさそうにため息をついた後、言葉を続けた。


『とりあえず、知らないんだね。えっとね、廃棄物どもには、地球の摂理は破壊しても、自分たちの摂理は破壊されない。それの原因を探っていた時に見つけた器官なんだけど……』

「話が長い。要するに、そこが弱点だって言いたいのか?」

『いや、違う。その器官を壊しても、即死はしない。でも、どの廃棄物にも場所や大きさの差異はあれど、必ず()()。』


 そう言い切るルマエルは、『興味深いよね』とつぶやく。疲れ切った卯月は、ソファに座り込み、ルマエルに聞く。


「で、何が言いたいんだ? その興味深い話とやらをしに来ただけか?」

『いや、違うよ召喚士君。我が神様が、新しい仕組みを作った。その器官、仮名『魔石』と日本銀行券が交換できるようになった』

「……は?」


 きょとんとした反応を返す卯月に、ルマエルは見覚えのある布を虚空からとりだす。いつぞやの召喚術式の固定された黒布だ。


『はーい、一度しかやらないからちゃんと見ていてねー。まず、これが魔石でーす』


 ルマエルがそう言って虚空から取り出したのは、球状の紫色の水晶。卯月にも、見覚えがあった。


「あ、それ、もしかしてスライムの……?」

『ああ、当然、スライムも廃棄物の一種だからね。当然あるよ』


 確か、ここにあったはず、とタンスを漁る卯月。タンスの中には、引っ越し会社のロゴのハンカチに包まれた、小さな魔石が残っていた。見比べてみると、ルマエルが持っている魔石の方が二回りほど大きい。


『これは、コボルトの魔石だよ。で、この魔石を、布の中央に置きまーす』

「お、おう」


 妙なテンションのルマエルに軽く引きつつ、卯月は説明を聞く。どうやって持っているのか、まるで人形のような丸っこい手で器用に魔石をつかむルマエルは、魔石を布の中央に置き、そして説明を再開する。


『布の中央に置いたら、こういうふうに契約書が出てきまーす』


 その言葉とほぼ同時に、金の粒子とともに羊皮紙が現れる。そこには、『魔石と日本銀行券1000円分を交換いたします』という一文と、署名欄のみが書かれていた。


「えっ、なにこれ」

『契約用紙だよ、君、見たことあるだろ?』

「いや、そりゃあるけどさ……交換できるのって、もしかしなくとも現金だけか?」

『今のところはね。ちょっとしたらもう少しバリエーションが増えるはずだ。で、この署名欄に自分の名前を書きまーす』


 また奇妙なテンションで説明を再開するルマエル。虚空から現れた羽ペンで名前を書いたルマエルは、燃え上がる契約用紙を放置し、そして黒布を指差す(指らしいものはないが)。


 すると、銀色のつむじ風が起き、魔石の代わりに千円札が一枚、黒布の上に現れていた。

 驚く卯月に、ルマエルは言う。


『はい、これが魔石交換の方法です。召喚術式であれば、君が持っているこれ以外でもできるから安心してね』

「お、おう……」


 ひきつった表情を浮かべる卯月に、ルマエルはけげんな表情で聞く。


『なに? わからないことでもあった?』

「いや、これ、この金って、どこから持ってきて……?」

『考えないほうが幸せってやつさ。ニセ札じゃあなく、ちゃんと本物だから安心していいよ』

「より安心できねえわ馬鹿!」




 あの日からしばらく。

 結局、どこから来ているのかわからないお金に手を付けることができない卯月とはよそに、正当な報酬だとして遠慮なく日本銀行券と魔石を交換している創剣は、そこそこなお金持ちとなっていた。それこそ、飲み代と食費を気前よく支払ってくれるくらいには。


 卯月の返事に、創剣は阿呆め、と言わんばかりの表情を浮かべ、言う。


「買いに行くのが面倒だ。あと、どのつまみがいいかわからん」

「喫茶店のじいさんに選んでもらってこい。ってか、言えば作ってくれるだろ」


 最近よく喫茶店に出入りしているらしい創剣に、卯月は靴を履きながら言う。創剣は卯月を鼻で笑って言う。


「あのな、たまには安っぽい珍味も食べてみたいと思うであろう?」

「自分で買え!」


 卯月は、そう言うと立て付けの悪い玄関の扉をしめた。

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