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ロードテール  作者: ooi
二章 鬼門
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プロローグ 人の望み

二章に入りました。

これからは主人公が大学入学直後の時系列となります。

「くそ、くそ、くそ!!」


 男は、額に青筋を浮かべながら、高級マンションの壁を殴りつける。拳から血が滲み、空虚に響く男自身の絶叫さえも、いら立ちを誘う要因でしかなかった。


 部屋の隅で、びくびくと小さな少女が震える。緑色の髪の毛の少女は、腕や足がごつごつとした木。つまるところ、この世の生物ではなかった。

 彼女は、男に召喚された仲間(パートナー)の、トレントと呼ばれる木の精霊である。名前はない。男につけられることはなかったからだ。


 トレントは、ツユクサにも似た葉脈を持つ緑色の髪の毛をそっと抑えながら、男の様子をうかがう。

 ここ一週間、ずっとこんな様子だ。


 この男は、召喚士になる見返りとして、『本物のお金がコピーできるコピー機』を要求したのだ。その結果、大金持ちとなった男は、マンションを購入し、そこに住み働きもせず暮らしていた。


 だがしかし。半月前、異変が起きた。


『君、召喚士としての仕事をしていないね?』


 そう言って現れた天使に、男のコピー機は没収された。曰く、一定以上の仕事をしなければ、永久に没収するとのことだ。

 天使が言っていたのは、門の破壊に関する事柄である。東京都内在住のこの男は、行こうと思えば駆けつけることができた。しかし、男はしなかった。


 恐ろしかったのだ。廃棄物との戦いが。


 だからこそ、召喚で手に入れた拳銃も、仲間(パートナー)であるトレントも持て余し、ただ手に入れた金で豪遊し続けた。

 収入もなく、浪費を続ければ……たどり着くのは、目に見えていた。


 コピーした金の尽きた男は、荒れに荒れた。

 廃棄物との戦いを一度もしなかったわけではない。ただ、スライムにすらも敗北をきしただけだった。


「くそッ、俺が何をしたんだって言うんだ……!」


 男はうわごとを叫びながら、マンションの中を破壊して回る。己が傷つこうが、争いを好まないトレントが震えていようが、気にすることはなかった。


 男は鏡を殴り、そして怒鳴る。


「あいつが……いや、()()()()が、目立つようなことをしたからだ……!」


 男の脳裏に浮かぶのは、テレビで見たワイバーンと人類の戦い。

 絶世の美女とともに、ワイバーンを討伐し、門を破壊した青年。その名は、ネット上に転がっていた。


「木原ァァァァアアあああああああ!!」


 狂ったような叫び声に、小さなトレントはただその身を震わせ、部屋の隅に縮こまることしかできなかった。






「__お父さん、姉さん……」


 少女は、誰もいない書斎をのぞき込み、小さくつぶやく。

 元々は、綺麗に片付けられ、たくさんの資料や、落ち着きのあるタペストリーの飾られていたはずのこの書斎。


 だが、今はそんな影は一切見当たらない。

 薄く埃の積もった床。空っぽになった本棚。壁からは無理やり外されたのか、壁には折れたくぎがそのまま残っている。


 がめつい遺族(ハイエナ)たちによって荒らされ、そして放置されたこの屋敷。

 荒れ果てたこの屋敷に戻ってきた少女は、無表情なまま、空っぽになってしまった本棚を指で撫でる。

 蜘蛛の巣が指に絡まり、少女は軽く手を払う。


 もうすでに、ここには父と姉がいたころの温かみは残ってはいなかった。

 うつむき、小さな手を握り締める少女。

 そんな少女に、声をかける者がいた。


「お嬢様」


 整った容姿の、燕尾服を着た執事が恭しく一礼し、少女に声をかける。


「ここはまだ掃除が終わっておりません故、リビングへどうぞ」

「……わかっているわ、メフィストフェレス。」


 従順なさまを見せる執事に、少女はそう言うと、そっと振り返る。そして、渋い表情を浮かべて言う。


「余計なことはしないこと。いい、私の執事」

「当たり前です。悪魔メフィストフェレス、誠心誠意貴女にお仕えいたしますよ、お嬢様」


 ニタリと笑みを浮かべる執事服を着た悪魔(パートナー)に、召喚士の少女はため息をつく。


__裏切ることがないだけ、叔父の家にいるよりもマシね。


 少女は、埃の被ったこの屋敷の廊下に、そっと出ていく。

 そして、黒髪をたなびかせ、決意を口にする。


「私が、お父さんと姉さんを生き返らせて、浅井財閥を再興する」

__そして、家族に手を出した叔父たちを、許しはしない……!


 ()()の少女の決意に、悪魔の執事は恍惚の笑みを浮かべた。


「お嬢様、貴女は本当にいい表情を浮かべる。ああ、その魂はどんな輝きを見せるのでしょう……!」

「……もう少しちゃんと執事の皮をかぶってもらえないかしら。気持ち悪いわ」

「お嬢様、辛辣ゥ!」

「わかったわ、直近の目標はまともな執事が雇えるくらいまでの収入手段確保ね。貴方はさっさとクビにするわ」

「わたくし、悪魔ですので、生首になっても生きていられますよ、お嬢様」

「案外、貴方を執事にしたのが私の大きなミスかもね……」


 少女は、頭を抱えて深くため息をついた。

メフィストフェレス

 16世紀ドイツのファウスト伝説やそれに材を取った文学作品に登場する悪魔。「メフィスト(Mephisto)」とも略称される。 (引用: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)


 原典では、ファウスト博士に呼び出された悪魔であり、ファウストの魂を奪ったり、逆にファウスト博士に手玉に取られたりしているが、今回は関係ないらしい。

 名前がある分、普通の雑悪魔よりも力があるらしく、現在はとある少女の執事をしている。

 ロリコンと言ってはいけない。

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