はじまり【一同、両手を合わせて。】
ジャポニーヨの姫君は朝に弱い。侍女のムニンが部屋に起こしに来るまでは、ベッドに腰掛けたまま意識をふわふわさせてしまう。
「失礼致します、姫様。おはようございますです」
「ムニン……?」
「はいです。ムニンですよ」
「おはようございます」
「朝食のお時間です。御支度を」
「ムニン……」
「いかがなさいましたですか、姫様」
「おはようございます」
「……姫様は相変わらずのねぼすけさんですね」
肩を竦めたムニンは未だ微睡みの最中にある主人の手を引いて椅子に座らせ、就寝時のヘアスタイルである三つ編みを優しく解いてブラシでサクラの長く柔らかな髪を梳く。その後も顔を洗わせたり甲斐甲斐しく着替えの手伝いをしたりなどして、ピンクを基調とした可憐なドレスを身に纏う頃に漸くサクラの目は覚めるのだ。
「――今朝もいつの間にかお着替えが終わっていました。ムニンは魔法使いさまですわね」
「ムニンは姫様の侍女ですよ。本日の朝食はパンケーキです」
「まあ素敵!」
食堂へ向かう道すがらじゅんわりとバターを染み込ませ、蜜をたっぷりとかけたふわふわのパンケーキに期待がふくらむ。それに食堂には、きっと。
「勇者さまっ!」
きっと、あの人がいる。その予感は見事的中。サクラが胸を弾ませて駆け寄ると既に食卓に着いていたナナトは少しばつが悪そうに頬を掻きながら、気の抜けた笑みを向けて告げる。
「おはよう、サクラ」
「おはようございます、勇者さま!」
サクラも満面の笑みを返して挨拶を交わす。これこそが二人の、一日の始まりの為の儀式であった。
「ふぎゃ~……」
「メイさんも、おはようございます」
「おはようメイさん」
「むぎゃ~……」
「メイさん、朝はいつも声に覇気がないよな……」
「うふふ。お寝坊さんですわね」
絨毯の上に転がりふにゃふにゃごろごろと脱力しまくるメイさんに微笑みかけるサクラの着席を見届けて、ムニンが食卓にテキパキと皿やカップを並べていく。本日の少し遅い(※当屋敷比)朝食、ムニンお手製ほかほかでふかふかのふわふわパンケーキは魅力的な焼き色と甘い香りでこれでもかと二人の食欲をそそる。
「どうぞ、お召し上がりくださいです」
「勇者さま、勇者さま」
「はいはい。せーの、」
一同、両手を合わせて。
「「いただきます!」」