プロローグ【『必ず君を守る』】
――浅い微睡みの中にいると、決まってあの子の夢を見る。薄桃色の花が咲き乱れる丘の上で、俺は大事な約束をした。
『どうして泣いてるの?』
『…………』
「……おなか空いてる?」
『……魔王が、よくないものがいつかわたしをさらいにくるって……予言者さまが……』
俺の生まれ育った国では予言者の未来視は絶対だ。彼女もそれを知っているから、必ず訪れるであろう恐ろしい未来に怯えて泣いていた。
鮮やかで青い色の大きな瞳が涙に潤んで煌めいて、ひどく胸が痛む。この子を笑顔にしたい。救ってあげたい。そう強く思った。
『魔王が、どんなによくないものが君をさらいにきたってそんなのちっとも怖くないよ。大丈夫』
『どうして? あなたは予言者さまでもないのに、なんでそう言いきれるの?』
『……俺、実は勇者なんだ』
『え?』
『勇者なんだ。俺。君を攫いにくる魔王を倒すために、予言者さまに選ばれたんだよ』
『ほんとうに?』
『勇者は嘘なんてつかない。俺が必ず君を守る』
『……勇者、さま』
『――だから、もう泣かないで』
もう随分と遠い記憶だけれど、あの時あの子は確かに笑ってくれた。花が咲き綻ぶように眩しくて、文句のつけようもない、百点満点の笑顔だった。