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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

長編集

自殺屋2

作者: 桜川藍己

昔書いたやつの続き。まあ、そんな関係ない。

 目を覚ますと見慣れない、落ち着いたモダンな雰囲気の天井が目に入る。少し考えて円俊之つぶらやとしゆきは自分が置かれている状況を思い出いだした。

 俊之は中学から陸上を始めた。負けず嫌いな性格もあったのだろう。メキメキと成長しいつからか東北大会で入賞常連、全国大会にも出場できるほどになっていた。

 そんな彼を高校の強豪校と呼ばれる学校が放っておく訳もなく、卒業までまだ一年以上あるのにも関わらず強い勧誘が始まったのだった。

 その数多くある候補校の中から今在籍している「郁榮高校」を選んだのは、単純に早い段階から熱い勧誘をされたということに加え、「週一で休みと治療日がある」というアピールに引かれたからである。

 入ってからは地獄だった。毎日朝六時二十分集合と言いつつ五時には集合場所に行き、何かしらのことをしていなければ「準備が足りない」と怒られた。何か監督の気に食わないことがあればすぐに怒鳴られ、体罰を加われた。休みは一切なかった。その事に誰も疑問に思っていないという現実に俊之は絶望した。辞めたいと思った。監督は親にいい事ばかり言って期待させた。「やめたい」と親に伝えても無駄だった。「もう少し頑張れば報われる」という言葉が心を抉る。死ぬしかないと思った。でも死ねなかった。夜な夜な「自殺」で調べて満足する毎日だった。そんな中みつけたのが「自殺屋」である。

 毎週金曜日の夜九時頃に、とあるカラオケボックスの店員に向かって「444号室に待ち合わせている人がいるのですが」と伝えると先着で一人中に入れさせてもらえる。444号室には「自殺屋」を名乗る若い男が存在し、死にたい理由等の質問に答えると望んだ死に方をさせてくれる。

 これだ。俊之はそう思った。「とあるカラオケボックス」はすぐにみつかった。SMSでそれについての呟きがあり、呟いた人に聞くと簡単に教えてくれた。問題は時間だった。寮暮しを強要されている俊之は九時には寮内にいなければならない。それは一発で成功しなければならないという事を指していた。

 怖かった。恐怖しかなかった。失敗すれば、死よりも恐ろしい事が起こるということは想像に難しくない。僕はここに閉じ込められている。と俊之は思った。実際閉じ込められていたし、そう思うように仕向けられていた。

 七時。普段なら練習が終わり、練習場所から食堂まで移動している時間。俊之はいつもとは違う道を歩いていた。

 古ぼけたカラオケボックス。それはまるで、昔見た映画に出てくる秘密基地の屋敷をそのまま現実世界に移し替えたかのような外観だった。

 ──ああ、なんという映画だっただろうか。思い出すことが出来ない。とても有名な映画だった。俊之が生まれる頃に第一作が公開され、その一年後には二作目も発表された。その人気は凄まじく、社会問題にまで発展したのだった。魔法が題材の映画だった。主人公が特別な存在で……俊之はわくわくしながらその映画を見ていた事を覚えている。あの頃は幸せだった。もう、そんな時代は戻ってこない。俊之は知っている。

 中に入ると案外小綺麗な内装をしていて驚いた。まるで魔法にでもかけられたかのように。ああ。


「444号室に待ち合わせてる人が先に入っているのですが……」


俊之は小綺麗な内装には似合わないやる気のない店員に伝えると「ああ、はいはい。どうぞ」と中に通された。

 444号室は四階の一番端に存在していた。そこだけ電気がついてなく不気味な雰囲気を醸し出している。俊之はそんな部屋の取手を回し扉を開けた。

 そこに大人がいた。いや、外見は自分よりも五歳ほど歳下の男なのだ。だが大人だと俊之は思った。それは少なくとも自分よりは(・・・・・・・・・・・)大人だった。「座れ」俊之は座った。「理由は?」俊之は全てを話した。部活のこと、監督のこと、親のこと、監督を陥れる様な死に方をしたいと言うこと。全て話した。自殺屋は「ふーん」と呟き「保険証」と言った。俊之は一瞬何を言ってるんだと考えてから保険証を出せと言ってるんだと理解した。俊之は何も言わずに保険証を取り出し自殺屋に渡した。


「いくよ」


 自殺屋は不意にそういい立ち上がった。十時はとうに過ぎ去っていた。関係ない。と俊之は思った。心拍数が上がり、息が苦しくなったが、それも、俊之にとっては関係ない事だった。





 ノックの音が聞こえる。扉を開けると自殺屋が無表情で俊之を見下ろしていた。


「いくよ」


タクシーが止まった先は俊之がいつも朝練習をしている河川敷の目の前だった。自殺屋は「これ」と見慣れない固形物を渡してきた。俊之は「なに?」と聞いた。自殺屋は「飲んで」とだけいい、俊之を見つめた。


──これは毒だ。


 俊之は察した。これを飲んで監督の元へ行く。そうだ。昨日自分は寮に帰らなかった。監督の元へ行けば怒られる。殴られもするだろう。そんな中、急に倒れる。そうするとどうだ。体罰のせいで死んだと皆には見えるのではないか。そして、もし、あとから違うと分かったとしても体罰はあった。という事実は確実に世間へ広がるのではないか。俊之は自殺屋に向かって一つ頷きカラフルな色合いで、少なくとも口に入れていいものではないだろうという事が一目で分かる固形物を一気に口へ放り込み外へ出た。

 自殺屋はそんな彼をなんとも言えぬ表情で送り出すと「彼が見える場所へ」とこれまで一切見せなかった笑顔で運転手に伝えた。

 その笑顔はとても美しく純粋で穢れたものを一切知らない、無垢な笑顔だった。

昔に似せたけどやっぱり違う文章になりますね。感想良ければ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「1」と合わせて拝読しました。重い内容であるにもかかわらず、淡々としていて、読みやすい文章でした。昔の作品である「1」と比べて、構成、心情描写に成長を感じました。(上から目線な言い方で申し…
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