今日も僕らはだんじょんに潜る(短編)
「ナナぁ〜もうそろそろ暗くなってきたし帰ろうよ〜」
「やーだ! 今日こそこの森の最深部まで行くの!」
「えっ! だめだよ!! 僕たちのレベルじゃ即死だって! それに、掟破ることになっちゃう」
「推奨15Lvって言われてるけどそんなの腕の悪いオトナが勝手に決めただけでしょ! それに、ソロで挑んだ時にって話なんだから二人なら余裕だよ!掟も、私たちが討伐・・しちゃえば許されるって!」
「でも僕たちまだ5Lvだし流石に二人でも無理だって。どうしてそんなに行きたがってるの?」
「……もうっ!なんでも良いでしょ! ユウのバカ!!」
ナナは突然怒りだし、バシッ!と木剣で頭を叩いてきた。
今日はいつにも増して強気だ。
「痛い痛い! なんで急に叩くのさっ! でもほんと今日はもう引き返そ? 灯り持って来てないし……それにまたお母さん達にも怒られちゃうよ」
「うっ、怒られるのはやだ……。
……仕方ない、今日は帰りましょう」
さっきまでの威勢はどこにいったのか、途端に大人しくなった。
「うん。もう多分日が沈むまで1時間くらいしかないから、急いで戻ろ!」
「えっ! なんで!? ユウもっと時間管理しっかりしてよ!」
「ちょ、ナナ!そんな叩かないでって!」
今日は一段とごねてくれたから遅くなったんだよ。と言いたかったがもっと叩かれそうなので我慢した。
とりあえず無茶なわがままを言いまくるナナを説得することはできた。
ナナは自分に自信がついてくるとすぐに難易度を上げたがる人だ。チャレンジ精神が大きいというのか、それはいいと思うけど限度を考えていない部分があって、無鉄砲なところがあるのは良くないと思うな。
「それにしても結構暗くなってきてるなほんと……。凶暴な魔物が出てくるかもしれないから警戒解かないようにね」
灯りも持って来てないので、完全に日が沈んでしまったら帰ることすら困難になる。
ここから走って戻ったとして、30分くらいだろうか。それでも森の中だと光が遮られるので、もし魔物と遭遇したら危険だ。
ということも不満気な表情を浮かべているナナに一応注意しといた。
ちなみにこの森は推奨3〜6Lvくらいの魔物しか出てこないため、僕たち子供でも申請・・が通る実力があれば入ることができる。
が、夜は別だ。掟によっていかなる子供は森に入ることが禁止されている。
理由は簡単、難易度が格段にあがるからだ。暗い上に魔物も凶暴、その辺の大人がパーティを組んで挑んでも無事に帰ってくるかはわからない。
「ねぇユウ、アレ・・なんだろ……?」
村までの道を走って戻っていると、突然ナナが立ち止まって木々の中を指差した。
「アレって、どれ?」
「アレだよアレ! なんかもさもさ動いてない?」
「ナナほど目よくないからわかんないよ……ん? 見えたかも。なんだろうアレ。」
暗くてよくわからないが、たしかにな・に・か・が動いてるのは確かだ。
「ちょっと!どこ触ってんの!」
ナナが差しているところを頑張って見てただけなのに、
いきなりボコッ!と顔面を殴られ僕は吹き飛んだ。
「ま、待って流石にそれはひどい。何もしてないんだけど」
「嘘だ! 今お尻触った!」
また暗くてよくわからないが激怒しているのは間違いないだろう。
しかし僕は何もしてない。無実で潔白だと言いきれる。
「なんでナナのなんか触らな……ん?」
そのナナの後ろに
さっき木裏に見えたもさもさ動くな・に・か・と同じようなのがいる。
目を凝らしてみていると、ナナの腰くらいだった
もさもさが背丈と同じくらいにまで高くなり、覆いかぶさろうとしていた。
「ナナ! 危ない!」
考えるよりも先に僕はナナを引っ張り寄せた。
「え、なになになになにっ?!」
最初は動揺してなにが起こっているかわかっていないようだったが、さっきまで自分がいたところでブンッ!!と鋭い風切り音が鳴ったことで緊急事態だということは理解できたらしい。
「ユウ、これって……」
「ああ……こいつは……」
『魔獣——』
「なんでこんなところに……。多分さっきのやつもこいつと一緒の系統の魔獣だよ…僕たちが敵う相手じゃない。早く逃げよう……!!」
「わ、わかっ、わかってるよそんなこと…! でも、さっきの、背中かすっただけなのに、ちょっと足がすくんじゃってて……」
多分魔獣の中でもそこそこの強さを持っている熊科だ。
この大陸には生息が確認されていないはずなのにどうしてこんな低レベル帯の森なんかに出てくるんだよ……。
「大丈夫。落ち着いて。ナナなら不意を突かれなきゃあんな大振りな攻撃当たんないよ。怖がる必要ないから……」
僕はナナの頭を撫でながら落ち着かせようとした。
だが、さっきので完全に心をやられてしまっている。
無理もない。音だけでも恐怖を感じたのに、ナナは攻撃も食らっている。
「かすっただけ」と言っていたが、引き寄せた際に背中に手を置いた時に血がたくさんついたのを感じた。
もっと早く魔獣に気づいていれば……。
「ナナ、俺があいつ引きつけておくからそのうちに状況しっかり整理して、冷静になって」
「だめ……一人で戦うなんて危険だよ……」
僕はナナの制止を聞かずに
魔獣に向かって木剣を抜いた——
---
「おりゃあぁあああ!」
勢いよく地面を踏み込み、魔獣の首めがけて剣を振り下ろす。
3年前に師匠から教えてもらった
基本技『ダッシュ斬り』だ。
ドンッ!と鈍い音を響かせよろついた魔獣に対し、追撃をかけまいと振り切った剣を今度は下から上に切り上げる 『燕返し』 に繋げた。
これも教えてもらった基本技の1つで
『ダッシュ斬り』の後に繋げやすくて隙もあまり作らないから擬似2連撃になるよ。と言っていたのを思い出す。
「グワァァア!!!」
と、2つとも決まったところで魔獣は雄叫びをあげ、腕を振り回してきた。
「ちょ、危なっ!」
直撃は即死だ——と思い、身体を捻り一撃目を躱し、二撃目に後ろに飛んで距離をあけた。
「……やばいな」
距離をあけて気づいたが、さっきよりも辺りがだいぶ暗くなってきた。
やっぱり交戦せずに、ナナを庇いながら帰った方がまだ生き延びれる確率高かったのかな……。
もっと早く切り上げて帰ればよかったんだ……。
いやそれよりもこんな奥まで来たのがそもそもの間違いなんだ。
グアァアアア!!!! とまた雄叫びをあげる魔獣を見ながら、僕はどこで間違えたのか考え出していた。
「いや、でも、ここまできたらできるだけ早く倒すしかないか」
そう小声で呟き、僕はさっきよりも強く地面を蹴った。
「ユウ!! 危ない!!!」
「え……?」
跳んだ直後、後ろにいるナナが突然声を出した。
---
「う……あぁ……」
気づいた時には僕は倒れていた。
まるでなにが起こったかわからないくらい一瞬だった。
「ユウ——ッ!!」
すぐにナナが駆け寄ってきた。
「ナ……ナ……ぁ」
打ち所が悪かったのかなんなのか身体全身、力がほとんど入らない。
「ユ——しっか——て!」
もうなんて言ってるのかすら聞き取れない。
「ナ…ナ……ご……めん……ね……」
ナナを守ることができなかったことがどうしても悔しい。自分の無力さをこんな形でわからされたくなかった。
死ぬならもっとかっこよく死にたかったな——
続編、あります
連載予定です!