必要最低限よりはいい暮らしを!
ある意味どうでもいい事を一方的に捲し立てて全てにケチが付いた後——すべてあたしの好きなようにした——、
「で、ですけど」
「なんだまだあるのか」
「なんだ、ってまだ話は全然終わっていませんよ」
って、そんなに面倒そうな顔しなくても。
「まず、あたしみたいな人って結構いるのかな、と思いまして」
まず、のところでげんなりされた。なんか表情筋変な方向に発達してない?
それでもクロさんはため息を一つついて、答えてくれた。
「そんなにいたら私ももう一人ぐらい連れていると思わないのか。——先ほど説明したと思うが、魂には力がある。死後そのまま生前の姿形をとどめた上で残るのは、かなりの力がいる。あと、自分が死ぬことをある程度予見していた者は大概そのまま——迷子だったりよっぽど消耗していたりする場合は除いて——輪廻に向かう」
「予見、って?」
「突発的な事故とか、そういう死を本当に直前しか感じることが出来ない場合を除いたもの」
「病気とか?」
「そう。だが、突然死んだ場合、大抵の者が寿命を残しているため十分に力が余っていて、なおかつ心残りがある。だから、そのままの姿で彷徨うことができてしまう」
「へー。あ、じゃあ地震とかテロとかで一度に大量の人が死んじゃったときとかは?」
「地獄だな」
な、何か顔がすごいことになってる。そんなに大変なんだ。そりゃそうか、『直前』がいつまでを指すのかは知らないけど条件に当てはまるもんね。というか昨夜言ってた条件ってこれのことか。
にしてもあのとき小声でもそんなことを言ったってことは、少しは人のこと思いやってるのかな。実はクロさんって思ったより優しい?
「全員の面倒を見なければならないからな。しかもお前みたいに煩い奴もいるしな」
と言ってクロさんは皮肉げに笑った。
うう~、やっぱり優しくなんかない!期待したあたしが馬鹿だった!
あたしはクロさんを睨み付けるが上から馬鹿にするように鼻で笑われて終わりだった。
身長高いのずるいよ。断じてあたしが低いのではない。相手が高すぎるだけ。無駄に格好いい身体つきしやがって。
「もう一つ。あたしの生活のサイクルってどうなるんですか」
「ああ、それか」
今更それに思い当たったのか、とどこか呆れられる。
「まず、魂の活動時間帯である夜の間は回収の仕事をしてもらう。問題は昼間だが……。まあ、出歩かない限りは好きなようにしていい」
「いつ寝るんですか?」
「……休息を必要とする肉体がないのに寝る必要があるのか?」
大切だよ。いまからずっと寝ずに過ごすってなんかストレス溜まりそうだよ。
「寝たいなら、昼間に寝ればいいだろう」
部屋は暗くできるはず。そう、勝手にしろとばかりに投げられる。
「外に出たいときは?」
先ほど探検して家の外に出られなかったので訊いてみると、クロさんは何を言われたのか分からなかったのか少し首を傾げて訝しそうにする。
「だから、家のドアが開かないので外に出られないんです。まさかの閉じ込めですか」
「ああ、そうか。——分かった、庭までは出られるようにしておく。それでいいか」
「あと、娯楽が欲しいです。ここ何にもないんで」
本当に何もなかった。本だってなかった。もちろんテレビもパソコンもゲーム機もない。生活感がないというのか、必要最低限生活する上でどうしてもいる物しか置いていない。
「必要か?」
「必要です」
クロさんはあたしをじっと見てから諦めたようにため息をついて、
「何があればいい」
「んーと、漫画でもパソコンでもいいんですけど、漫画だと読み終わった後がなあ。インターネットの使えるパソコンかスマホがいい」
「また、面倒な物を……」
「ええー」
いいじゃないかあ、暇なんだよう。寝ることはできそうだけどずっと寝てるとなんて言うか太りそう?というか寝ることにも飽きそうで怖い。
「ムリですか?」
「無理ではない。が、存在しないところに回線をつなげるのだから、その辺の調整が少し疲れるだけだ」
「でも、お願いします。退屈で死んでしまう」
「心配するな。退屈で死んだ人間はいない」
「そうじゃなくって~。お願いします、後生ですから~」
「お前はもう死んでいるだろう。——煩い。分かったから離れろ」
思わずすがりついたら、渋々ではあったけれど用意すると約束してくれた。思いっきり睨まれたけど。まあ、背に腹は代えられない。
「これでしばらくは退屈しない、はず!」
嬉しくってじっとしていられずに部屋の中をうろうろとしていると、
「目障りだ。庭までなら出られるから外に出てから思う存分走り回っていろ」
絶対零度の眼差しと共に叱られた。
これから少し忙しくなってしまうので、更新の速度が遅くなります。
すみませんm(_ _)m