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意見の合わない呼び名

 

 あたしたちはその後二人分の魂を捕まえた。後に捕まえた魂は触れても過去を読み取ることはできなかった。最初のはたまたまだったのかもしれないとも思った。しかし回収者曰く後の二人の方が魂の力が残っていなくあと少しで消えてしまったかもしれないとのことで、その為という可能性もあり結局分からず仕舞いだった。


 仕事の時間は夜が明けると終了した。何でも日が出ていると魂は非活性化して非常に効率が落ちるらしい。……うん、幽霊だ。

 それからは、家?に連れて行かれた。疑問符がつくことからも分かるようにあたしはここが本当に家の形をなしているのかさえ知らない。なにしろ仕事の終わりを告げられてどうするのかと思ったらあたしたちの前に扉が出現したのだ。とってもファンタジーな扉だった。んで、それをくぐるとこの部屋だったってこと。外見とかは違うけどリアルどこでもドアだよ。

 本当に外見がどうなっているのか気になれば外に出ればいいんだけど、出るな、って言われてるんです。


 まあ、試しましたよ。人間やるなと言われるとやりたくなる生き物だし。家の中探索しがてら全てのドアを開けてみましたとも。外につながりそうな台所横の勝手口とか玄関のドアとか。鍵を外したのにびくともしませんでした。窓の外は見えるんだけどなあ——庭と塀の向こうの森が。


 出るな、って言った意味は⁉︎



 分からないなら、その連れてきた張本人に訊けばいいって?


 それが今その人ここにいないんだわ。今日?の収穫を納めに行きました。あたしはまだ無理だからっておいて行かれたんです。ちょっと気になってたんだけどなあ、輪廻とやら。


 あ、でも訊きたいことがあるなら帰ってきたら聞くと言っていたので、ついでにそのことも訊こうかな、とかも思ってる。



 ううーん。暇だ。探検も終わったし、遊ぶものもないし。……寝るか。



 おやすみなさい。ぐぅ。



 ***



「…………きろ」


 何か声が聞こえる。うるさいなあ、人が寝てるって言うのに。


「………起きろ」

「ううん」


 もうちょっと寝てたいよ。


「……太るぞ」

「はう!?」

「漸く起きたか」


 一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。


「あ?ああ、そうか」

「なにを寝ぼけているのだか」


 ものすごく呆れたというか面倒くさそうな顔をされた。何か酷い。自分がほっといたくせにー。


「うふふ、お帰りなさいませー」


 誤魔化すように笑って言うと、顔をしかめて気持ち悪いことをするなと言い返された。


「まあまあ。そういえばどうでしたか」

「何がだ」

「魂納め」

「問題ない」

「……そうすか」


 だめだこの人自分が必要だと思ったことしか言わない。


「そうだ!ずっと気になっていたんですけど、あたし貴方のことなんて呼べばいいんですか」

「分かるように呼べばいい」


 えええ、そうじゃないよ。


「考えてみてくださいよ、ほんとに何か危急のことがあったとき貴方とかそんなこと言えないですよ。大体普通夫婦でもないのに貴方とか日常的に呼べないし」

「そうか、ならお前が適当に考えてくれ。どうせ私には名前はない」

「え、そうだったんですか……」

「別にそう気にすることではないのだが」


 本当に気にしているようではなかったから、もしかしたらその辺の感覚も人とは違うのかもしれない。


「うーむ。どうしよう。…………じゃあ、クロさんで。見た目黒いし」

「とても短絡的だな」


 性格をよく表している、と残念なものを見るような目をされた。

 せっかくわかりやすい呼び名考えたのに。


「駄目ですか」

「別に」

「なら、これからクロさんって呼びます。あと」

「今度は何だ」

「虫取り網じゃないのに『虫』がつくとか変なんで改名したいです。例えば魂捕獲網、とか?」

「絶望的にセンスがないな。第一その名前に変える必要があるのか」

「だって『虫』よりましじゃないですか」

「そう思うのはお前だけだ」

「ぐぬぬ。そういえばクロさんはいつまであたしのことお前って呼ぶんですか」


 絶対いやというわけではなかったのだが、ちょっとむかついたついでに文句をつけることにした。


「なら、梨花と呼べばいいのか?」

「え?なんであたしの名前を……」

「回収者だから」


 どういうことだろうか。何か回収者特有の情報源があるのか。それともあたしが経験したみたいに過去を読み取ることが出来るのか。

 どうしようかと思ったときには口から声が出ていた。


「あの、あたしの過去でも視たんですか」


 そう言うと、クロさんは鋭い目をしてあたしを見た。正直怖い。あたしの口の馬鹿~。


「あ、あの?」

「視えるのか?」

「へ」

「過去を、魂の過去を視ることが出来るのか」


 とても真剣な目をしていて、逃げられないと思った。

 やはり、あの現象はとても重要なようだ。こんなに形相を変えて詰め寄るほど。


「それは、ええと」


 あたしがどもるとクロさんは張り詰めいてた空気を緩めた。


「いや、何でもない」

「え?ええ?逆に気になるんですが」


 つい突っ込むと冷ややかな目であたしを見て、


「来世をも失いたくなかったら迂闊な口をきくな。お前は思ったことを口にしすぎる。ここならともかく、外では誰がとのように聞いているかなど分からないんだ。気をつけることに越したことはない」


 うぐ、と詰まる。今まさに思ったことをそのまま口に出そうとしていた。

 迂闊って、酷いよ。それに上から目線でちょっとむかつくー。

 ふむ、それにしてもはっきりとは言わなかったけど過去を視ることはあまり口外しない方がいいみたい。それに、なんかわからんがクロさんが警戒してる。敵対勢力でもいるのかしらん。


「分かりましたよーだ。——あ、結局あたしの呼び方うやむやじゃないですか。とりあえず呼び捨ては却下で」

「お前は私のことを好きなように呼ぶのだからこちらもそうする」


 はあ?そっちが勝手に呼べって言ったんじゃん。それを棚に上げるなよぉ!


「同じ呼び捨てなら『望月』の方にしてくれませんか」

「梨花の方が短くていい」


 ぬぬぬ。ああ言えばこう言う。

 まああたしも本気で嫌だった訳ではないから、それ以上どうこうは言わなかったけれど。


 その後も虫取り網とか鳥籠の名前について話し合ったが平行線をたどった。



 結論。クロさんとあたしは相性が悪い。




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