表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

黒い人

 


「ありゃー、死んじゃったのか」



 あはは、と乾いた笑いが溢れる。

 当たり前に続いて行くと思っていた未来が突然絶たれてしまった。そのことが死の自覚とともに重くのしかかってきた。

 不安もあったが期待もあった。嫌なことも沢山あったけれどその分楽しいことも嬉しいこともあったのに……。


 あたしはそんな考えを振り払うように何度か首を振る。



「最近の流行りだとこの辺でカミサマが出てきて転生させて差し上げますとか言ってくるんだけど、ね」


 流石にそこまでテンプレではないらしい。第一どう考えてもここは神様がいそうな場所ではない。何しろ足元には夜景が広がっているのだ。空中に立っている、……いや浮かんでる!あの世とか天界とかではない、絶対。まあいいよ、綺麗だからね!

 幽霊って夜の方が出やすいってのは本当だったんだねー、ちょっと現実逃避を試みてますー。



 ええい、こうなったら、


「はっはっはー、この素晴らしき夜景を独り占めさっ」


 仁王立ち(気分だけ)して下界を睥睨する。ふっ、人がゴミのようだ。

 まず人は小さすぎて見えないけどっ。言ってみたかったっ。


 いやあ分かるでしょ、あたし一人なんだよ?そおいうバカみたいなことをやりたくなるでしょ?



 うん。



「おい!」

「うわあ!!」



 いきなり耳元で怒鳴られた。マジビビッた。心臓止まるかと思った。いや、死んでるけど。


 恐る恐る振り返ると、黒い人がいた。黒いスーツに黒い帽子をかぶった黒髪黒瞳の男性。間違いなく黒い人だ。



「えっと、どなたです?いきなり話しかけないで頂けませんか」

「かなり前から声をかけていたのだが気づかなかったのはそちらだ。それを人のせいにするな。それと私は回収者という」

「はあ、それはすみません。——かいしゅうしゃ?……ああ、あの要らないものは何でも回収いたしますっていう?」

「それは回収車。まず、私は廃品など回収していない」

「じゃあ、何を集めているんですか」

「魂」

「へえ、……ってどういうことですか?」

「輪廻に戻れなくなった魂を集めて連れて行く。それが役目だ」

「はあ」



 それから説明されたのは、この世の裏側の話だった。


「この世の全ての生物には魂が宿っている。生物が死ぬとその魂は解放され一定期間を置いて転生する。転生先は基本ランダムだが、それぞれの魂の持つ力によって転生できる種が決まってくる。生きるだけでも魂は消耗していくからな。まあ、実際のところただ存在するだけではあまり魂の力は必要とされない。魂の力が特に必要となるのは感情の発露だ。その次が知性。そうだな、例えば人間は知性があり感情がある。しかも比較的長寿な生物なのでこの地球上では一番消耗の激しい生物の一つと言える。長い間生きるとその分考えたり感情を動かす回数や時間が多くなるからな。そのこともあり、人間の転生先は魂の力をほとんど使わない虫などが多かったりもする。何しろ人間の魂の中には消耗し過ぎて輪廻の輪に戻ることすら出来ないものもあるからな。回収者はそのような魂を回収する役目を持つのだ。まあ人間になっていたことで魂の本能も薄れて迷うものもいるのだが。分かったか?」


 ふうむ、分かるような分からんような。とりあえず怒涛のような説明だったな。この人、間違いなく教師に向いてない。多分今の説明を聞いて理解できるのは十人に一人くらいだ。

 わかったのは、この人?は生きてた頃どっかで聞いたような魂を捕まえて転生させる仕事をしてるってことだな。人間の転生先に多い生物とか聞いてないったら聞いてない。よし。


 うーん、まず浮かんだ疑問は、と。


「へえ。魂って掴めたりするんですか」

「分かっていないな。……まあ、いい。私はこの状態では魂と似たような存在となっているため触れるし、当然捕まえられる」

「はあ。……あ、そうだ。あたしって、その、つまりですね、迷ってしまった魂ってことですか?」

「いや、違う。お前は所謂心残りがあって止まっているというものだ。回収者の役目にはそのようなものの心残りをできる範囲で解消させることも含まれる。下手にそのまま輪廻の輪に加えると他の魂に影響が出る恐れがあるからな」


「心、残り」



 なんだろう。あたしの心残り。


 心の中に疑問が滲んだ。



「物にもよるが私は一つだけ望みを叶えさせることができる。もちろん対価は必要だし、当然望みの種類によっては叶えられないこともある」



 わからない。あたしの望み。あたしの心残り。やりたかったこと?やりのこしたこと?心当たりが多すぎてわからない。



 でも……



「あの。望みって生きている人に会ったりとかもできますか」

「ああ。一人だけならば」

「一人だけ……。——えと、あと対価って……」

「簡単だ。私の手伝いをすることだ。集められた魂の力の総量に応じて望みを叶えられる」

「手伝いってあたしにも出来ることですか?」


 なんとなく難しそうだと勝手に思う。想像出来ないせいもあるけど。


「ああ。虫取りをしたことがあれば」



 ???



「へ?」



 自分で言うのもなんだけどとっても間抜けな声が出てしまった。


 え?何、魂捕獲作戦の話じゃなかったの?いつの間に虫取り作戦に変わった?






 そういえば転生先って言い方就職先みたいだよねー。魂の就職先、的な?



 あたしって訳わからないことに遭遇すると昔っからどうでもいい関係ないこと考えだすんだよね〜。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ