花を待つ人(2)
それは、遡ること1ヶ月前。ラーニャはいつものように町へと働きに出ていた。身体の弱ってきていた母親はベッドの上でラーニャの帰りを待つ。
しかし、その日は違った。ラーニャが帰宅すると、ベッドの上に母親の姿はなかった。おかしいと思い彼女を探していると、床に倒れているのが目に入った。
「母さん!!!」
呼びかけても返答はなく代わりにうう、と苦しそうに呻いた。すぐに医者を呼びに行き診察してもらうと、医者は険しい顔をしてラーニャを部屋の外に連れ出した。
「残念だが、彼女は不治の病におかされている。余命は持って数ヶ月だろう。」
ラーニャは頭が真っ白になり、その場に崩れ落ちた。
(なぜ、母さんがこんな目に会うのだろう。もし、私がもっと早く私が気づいていれば。)
しかし、どんなに悩んだところで時間は巻き戻ることはない。ラーニャはせめてもの罪滅ぼしにと母の好きなチューリップの花を摘んでは持ち帰り、枕元にいけた。
そんなある日母親はラーニャに花を摘むのを止めてほしいと言った。
「どうして?」
ラーニャが尋ねると、母親はにっこり笑いながら、
「母さん切り花はあまり好きじゃないの。枯れちゃってかわいそうだから……。それに病気が治れば外に出ていくらでも見られるからね。」
と答えた。
「そうだね。」
ラーニャは相づちをうつと、部屋の外に出た。病が治ると信じている母親の姿が無性に悲しく、涙が幾筋も頬を伝う。
(こんな顔を見られたら母さんが不治の病だと気付かれてしまう。)
そう思い町に出て頭を冷やそうとしていたところ、ラーニャはオルメカに声を掛けられた。
「……そのとき永遠に枯れない花なら母さんも喜ぶんじゃないかって思い付いたんです。……花を取り出しては頂けないでしょうか?」
ラーニャは今にも泣きそうな顔でオルメカを見る。彼は一瞬難しそうな顔をしたあと、
「いいですよ。」
と答えた。