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茨なんて剥ぎ取って  作者: 水瀬はるか
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オルメカという男

花はいつか枯れる。これは世の摂理であり、本来ならば覆すことのできないもの。しかし、それを例外にする能力を持った男がいた。

その男の名はオルメカ。彼は彼に恋した女性の心から永遠に枯れぬ花を取り出すことができた。その花は人によって様々であり、その種類は取り出してみないとわからず、彼はその花を売ることを生業としていた。

自分に恋した女性の心を売る。一見最悪な男に思えるが、それも女性との合意の上であったし、花を取り出されたからといって女性に何も害はなかったため、彼と一度でいいから恋仲になりたいという者も多かった。



「本当にいいんだね?」


オルメカはそう確認するが、断られるとは微塵も思っていない。そしてまた女も然り。彼をうっとりと見つめ、


「ええ、もちろんよ、オルメカ。」


と吐息混じりに答える。彼は目を閉じて女の手をそっと握り、何やら呪文のようなものをその絹のようにすべらかな声でささやいた。

彼が目を開けると、女の手には瑞々しい紫のスミレが握られていた。


「きれい……。」


女が息を呑み、目を輝かせてそれを見た。彼はそれを女の手から受け取ると、その花に口づける。


「君みたいにね。」


歯の浮くようなセリフでも、オルメカのような男が言えば何も違和感はなかった。


「もう……。」


女が顔を赤らめる。彼はそれを満足そうに見てから、脱いでいたコートを羽織り、帽子を手に持つと一礼した。


「また来るよ。」


一度花を取り出した女の元には訪れない。それは暗黙の了解であり、女もそれをわかっていて悲しそうな顔を彼に向けた。


「ええ、待ってるわ。」


その言葉に彼は微笑むと、女の頬に接吻をする。


「では、また。」

「さよなら、オルメカ。」


彼は扉を開けその家を後にする。残された女がただただ顔を覆って泣いていたことを彼は知るよしもなかった。



オルメカは手に持っていた帽子をかぶると、コートを翻して次の目的地へと歩き始める。そんな彼を道行く人達は振り返って見た。それもそのはず、彼の美貌は完璧と言ってもいいほど整っている。高くて筋の通った鼻、形のよい唇、陶器のように白く透き通った肌、すらりと伸びた手足。挙げ出したらきりがないが、なかでも一際目を引くのはその美しい藍色の瞳だ。そんな彼の魅力を彼自身もよくわかっていた。


「お嬢さん、道をお尋ねしたいのですが。」


彼は彼を見ていた少女たちの中の一人に話しかけた。

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