初日
「ざけんな。マジで。」
職員室の机に突っ伏しながら呟く。
4月9日。
入学式終了後のホームルーム終了後。
野球部のこの現状が腹立たしかった。
何で俺が…。
放任主義にも程がある。
虫酸が収まらない。
それが今ぼやいた理由の一つ。
そして、もう一つ。
それは今日という日が訪れてしまったことと俺が教師をやっているのが悪い。
まず、一つ言わせていただく。
俺は入学式や卒業式といった式典が大嫌いだ。
今日の入学式は本当にダルかった。
学生の時からそうだった。
卒業式は特に嫌いだ。
「教え子が卒業するのを見て感動しないのか?」
「お前、最低な教師だな‼」
「教師止めろ‼」
………勿論、そんな声を浴びせられるのは容易に想像出来る。
だが、しかし。
どうしてもその場特有の雰囲気より効率を求めてしまう。
卒業証書ならテキトーに教室で配る、来賓の言葉は手紙かなんかで掲示、校歌歌いたけりゃカラオケにでも行く………。
もう良いだろ。
俺が教師として、人間として、どう考えてもクソ過ぎる。
なんで教師やってるんだ。
俺が聞きたい。
そして、はっきり言おう。
教師辞めてぇ。マジで。
たかが公立高校が監督なんて雇う訳がないから仕方ないが…。
それにしても、この学校のトイレはどうにかなら…。
「真島先生。」
なんか殺気を感じる。
この世にテレパシーがあるとは思えない。
なら、別の理由でお怒りなのだろう。
とりあえず、ゆっくり体をお越し、振りかえる。
こういうときの一言目は重要だ。
だが、やっぱり俺はクソだった。
「あーもう。なんや?」
何故か知らないけどなまった。
最悪。
だが、悪夢は終わらない。
「なんや?って誰に言ってるんだ?オイ」
あー。よりによってお前か。
小田。
俺が現役バリバリのDKだった時にこいつとモメた。
内容は確か………いじめの事を認めるかどうかだったか?
しかし、俺もガキじゃない。
「ああ。すいません。考え事を。」
「まったく。君は目上の人に対する態度というものを知らないのか。ね?まったく。最近の若者は。ね?私の若い時は…。」
出たよ。始まったよ。これ。
どうせこの後に…。
「人という漢字は人と人が支えあって…。」
言うと思いました。
ていうか、人の字の原型は腕を垂らして立っている。
人はひとりで立っている。
人は一人で戦って生きていく。
頼ることを前提に生きるのは間違っている。
さて、話を戻そう。
「んで、どうしたんですか?」
「ああ。そうだな。君にそこの若造が呼んでるぞ。」
小田の右側から職員室を覗きこむ。
真面目そうな生徒が立っている。
身長は165cmないか。多分、新入生だろう。
とりあえず、その生徒にすぐ近くの社会科準備室に呼ぶ。
「どうしたー?」
やっぱ、俺って少し軽すぎる気がする。
「えーと、先生って野球部の顧問ですか?」
これは100%あれだろ。
「そうだけど?」
これ以外に選択肢があるだろうか。
「あの、僕、入部希望しているんですけど…。」
キタわ。これ。
心の中でガッツポーズ…いや、そんなものでは足りない。
この気持ちはなんだろうか。
いや、とっくにそれは分かってる。
答えはこうだ!
イヤァオ!
たぎるわー。
………さて、そろそろ落ち着こう。
最近、プロレス観れていなかったからか、たぎりすぎた。
冷静になる。
そういえば、最後に「けど」が付いてたな。
なんだろうか。
ここまで妄想するのにかかった時間わずか0.3秒。
そして、その生徒が言葉を続ける。
「この学校のパンフレットに野球部だけ名前以外何も載っていなかったので…確認しようと思いまして。」
ああ。そういうことか。
高校、大学、就職先等によくあるパンフレットの部活動紹介の時に野球部の欄だけコメントや活動内容が載っていなかったのだろう。
それは確かに不安になる。
もし、進学理由が野球だとしたら…こいつ、相当大胆なやつだな。
若干、引いた。
「あ、僕、1年1組15番の御子柴進です。
中学の時から野球を始めました。宜しくお願いします。」
御子柴と名乗ったその生徒は深々と頭を下げた。
…なんかどっかで聞いたことのある名前な気がする…。確か…マンガで。しかも野球の。
それはさておき、自己紹介をされたのに「あ、そう。わーった。わーった。ハイ。帰れやオラァ‼」といったようなことはさすがにしない。
こちらも軽い自己紹介をする。ついでに質問も。
「真島剛志。野球部の顧問。27歳。そういえば、やりたいポジションある?」
「セカンドでお願いします‼」
即答だった。
「そうか。考えとくわ。あとさ…さりげなくでいいから他に野球部入ろうか少しでも考えている奴を探しておいて欲しいんだわ。今…部員0だし。初心者でも良いから。秋の大会までに少しはまともに出来るようになれば良いから。」
何言っているんだ。オイ。
他の方々は別にそうは思わないかもしれないが、私欲丸出し過ぎる。
それ以前に御子柴が100%入るとは限らない。
というか部員にもなっていないのに俺は何をでしゃばって…。
「分かりました‼了解です。それではこの辺で。失礼しました。」
「お、おう…。」
何だか嬉しそうだったな…。
でもまずは一人。
俺も11年前はあんな感じだったのかな…。
少し、部屋に差し込んできた光がぼやけて見えた。
最後まで読んで頂き有難うございました。
次回は出来る限り早く更新しますm(__)m