現状
県立陽炎高校。
県立のくせに特進コースと普通コースの2つのコースが存在する。
特進コースに関しては偏差値70を越え、更に近年、弓道部とバスケ部が全国制覇をするなど、文武両道でその名を轟かしていた。
ちなみに普通コースの偏差値は57と普通でスポーツ推薦等は断じてない。
まとめると全国レベルで部活、学業共に有名な学校である。
…が、一つだけ例外があった。
一つだけ廃部寸前の部があった。
野球部である。
8年連続公式戦未出場。
過去の栄光にすがって今現在廃部になっていないだけでも奇跡。
そんな部活だった。
そんなレベルだった。
そんなものなのに…何故、俺は…。
この野球部の顧問になったのだろうか。
たった3年。されど3年。
それは運命なのか奇跡なのか。
誰にもわからない。
でも永遠に忘れないだろう。
永遠に。
4月。
桜が満開の時期になった。
温かい風が春を………って考えるのは俺らしくないと思う。
某県にある陽炎高校で今年から教師をやることになった俺。
その俺はこの前校長から言い渡された一つの言葉に苛立ちを感じていた。
それは…
「野球部の顧問をやってくれ。」
である。
今年で27になる俺が野球部の顧問…。
まさか顔で決めた訳じゃないよな…。
部活には今日初めて顔を出す。
憂鬱だ。
野球なんて良い思い出が一つも無いのに。
野球部の顧問…。
そう、考えていたら集合場所である部室に着いた。
黒で統一されたコンクリートの部室は正直、うちのアパートの隣の築5年の家より綺麗だと思う。
うちの学校に部活動連絡黒板なるものが存在する。
前の顧問が1ヶ月前から今日集まることを書いていたらしい。
多分、来るだろう。
そんな事を思いながらドアノブを捻り、扉を開く。
そこで出た言葉は意外なものだった。
「は?」
第一声は挨拶………にはどうしたらこれを見た上でなるのだろう。
空だった。
空。
………はっきり言って何を言ってるのかわからないだろう。
綺麗さっぱり何もなかった。
ロッカーどころか椅子も紙も何もない。
窓と床と壁だけだった。
無論、人もいない。
急ぎ職員室に行き確認をする。
即座に全生徒の所属部活一覧に手を伸ばす。
「真島君、何をしているのかね?」
後ろから声がした。
振り替えてみると斎藤和雄教頭がたっていた。
昔から世話になっているお方だ。
頭の良い俺はある質問を思いつき、それを教頭にぶつけた。
「あ、教頭。野球部の事ですが部員は…」
「いないよ。」
即答。
正直、教頭の胸ぐらを掴んでやろうかと思った。
そう。俺は"冗談"を言ってると思っていた。
けれども、俺が若干焦ってるのを分かって真顔で冗談を言う人ではない。
「マジか………。」
部員集めから始めないと…。
9年前と真逆の状況に怒り、悲しみ、絶望を覚える。
だが、それよりも蟻の様に這い上がってくる感情があった。
俺は何をすれば良いのだろうか。
その日は寝れなかった。