086話.プロローグ
果たして、それこそが神の御姿でした。
十かそこらの子供の身体。
陶磁のごとき白い肌、髪は雨後の蜘蛛の巣に似て、編まれた緒が腰に/肩にかかる。肉の薄い手足を長衣で覆い/無邪気に晒し、腰帯には無骨なツルハシが/金と貴石で飾られた槌が吊るされています。
目を伏したまま/両目を革帯で覆い、聖性すら漂う無垢な面差しを伏見へ/三ツ江へと向けました。
「まつろわぬ君よ。この争いを――止めては、くれぬだろうか」
まるであべこべ。
願われるべき神々は、祈るように指を組み、乞うたのです。
違う時、違う場所、違う相手に、けれど声色だけは同じまま。
開かれた唇から唾液に濡れた真っ黒の口腔が覗き、無機的な肌の白さのせいか、よく目を引きました。
かつて、二柱の神さまは一つのものだったのです。分かたれたのはそう昔のことではありません。
お顔も体付きもそっくりそのまま。纏う衣が違わなければ、互いの姿は鏡写しのように見えたことでしょう。
願いを受け、伏見は/三ツ江は考えあぐねたように首を捻り、やがて口を開きます。
「いやぁ、ウチはただのヤクザなんで、そういうのはちょっと」
無理だなァ/無理っスねぇ。




